ピアノマン 第三章 2 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

第三章




「気持ちいいくらいの食欲だね」
「美味かったぞ。お前、料理が得意なんだな」
 オスカーは、心底感心したようだった。苦学生だし、、自炊は基本だと、必要に迫られてやっているようなものなのだ。アルフォンスは改めて言われると、恥ずかしいけれど嬉しかった。
「そんなに得意というわけじゃないんだけど、自炊しないとお金かかちゃうし、苦学生としては必然かな。シチューはたまたま母直伝で習ったしね」
「へぇ。お前の母さんてどんな人?」
「自慢の母さんだよ」
 アルフォンスは席を立つと、棚の上にあった母親の写真を自慢げにオスカーに見せた。
「アルは母さん似なんだな」
「……そうかもしれない。小さい頃から目元が似てるとは言われたけど」
 大好きな母に似ていると言われて、悪い気はしなかったが、少し照れくささい。アルフォンスは、照れながらも、母の話をした。
「うちは母子家庭だから、生活は慎ましくて食事も豪華なものは食卓には並ばなかったけれど、シユーだけは特別。母も思い入れがあるみたいでね。よく作ってくれたから」
 アルフォンスは、母親が亡くなったもう一人の息子の事をシチューを作る度に「シチューはお兄ちゃんが大好きだったのよね」と言うのを思い出していた。
「いいな。母親だけでも家族がいるなら」
 ぽつりと言ったオスカーの表情は、どこか寂しげだった。
 そう言えばオスカーは、マーロウ教授の家に下宿していると言っていた。家族の話は聞いた事がなかったが、今の話しぶりだと、オスカーには家族が誰もいない事になる。尋ねてよいものかアルフォンスが考えあぐねていると、オスカーが先に口を開いた。
「オレ、孤児なんだ。小さい時に大きな事故に巻き込まれて両親は亡くなったらしい。物心ついた時には施設で生活していたから、家族の記憶ってモンがないんだよな……」
「そうなんだ」
 今までお互い家族の事は口にした事はなかった。
 一見、オスカーは勉強もピアノも優秀で、羨ましいとまで思っていたのに。彼は彼なりの悩みと事情があるのだ。
 それを考えると、自分には母親がいる。多少、経済的には苦しく、父親の記憶はほとんどないけれど、片親だけの記憶があるのはまだ幸せな事なのかもしれない。
 アルフォンスは、急にオスカーの事が心配になった。
 彼は生まれてからのほとんどを、一人で生きてきたのだ。確かに施設やマーロウ教授のように彼の面倒を見てくれる人はいたとしても、精神的な部分では、幼い頃から自立しなければならないところが多かっただろう。少なからず一人暮らしをしているアルフォンスには察しがつく。
 寂しかっただろうな。と考えると、少しでもいいから彼が幸せになれる手伝いをしたいと思った。年下の自分が言い出す事でもないけれど、精神的な部分でも支えになれればいい。そう思ったら、つい口に出ていた。
「家族が欲しい?」
「え?」
「オスカーには家族がいないんでしょ。ボクでよかったら家族になるよ」
「お前が……家族?」
「うん」
 アルフォンスの言葉を聞いたオスカーは、嬉しそうに微笑んだ。
「サンキュ」
 結局、その日は夜遅くまで、ピアノや音楽について語り合い、オスカーはアルフォンスの部屋に泊まって行った。

to be  continued……