超自己満足的自己表現 -467ページ目

私と書き物

いつも起承転結のない長ったらしい文章を書いておりますが、ほんとに自分が読んでもだらだらしてて最悪ですね^^;


でも毎日書いていて効果があります。


文章を書いたりしても脳のトレーニングになるのですよ。


小説もどきを書き始めて漢字が思い出せるようになったし、色々知識も頭に入りました。


頭で想像するって言うのも大事なことではありませんか?


誰に文について言われようが、自分の脳トレになっているのですから、いいとしましょう^^;

(結構打たれ弱い私・・・・。)

物語(っぽいもの)を考えるのも楽しいです。ただ単に家事をして子育てして過ごしていた私に刺激を与えてくれたのですから・・・。ですのでつまらない文章を斜め読みでもしていただいて、何だコリャと思われるかもしれませんね^^;まあ私自身小説家になろうとこれっぽっちも思っていないのですから。


思いつきを文章にしてこちらに書かせていただいているので、お許しください。


最近変なサイトのトラバやコメントが増えてきましたので拒否設定にさせていただいております。ご了承ください。m(_ _ )m

なんとなくきれいな天井だったので撮ってみました・・・。(お台場の某ホテルにて・・・・。)

第109章 延期

 帝が、東大寺の法要に出かける数日間、彩子は実家にお世話になる。法要に出席するため、帝は礼服に着替える。
「彩子、法要が終わる3日後まで、実家でゆっくりしておいで・・・。大和守がこちらに到着後に、大和守の車で実家に戻るがいい。」
彩子は礼服に着替えている帝を見つめながら、微笑む。着替えが終了すると、帝は彩子の前に座ると彩子を引き寄せ抱きしめるという。
「法要が終われば、中宮たちと合流し都に戻らなければならない。次はいつこちらに戻ってこられるかわからないから、存分に楽しんでくるといい。」
帝は彩子の頬にキスをし、立ち上がって微笑むと、部屋を出て行った。彩子は顔を赤らめながら帝を見送ると、実家に帰る準備をする。彩子のいる部屋の前まで車が運ばれると、彩子は車に乗り込み、実家に帰る。
 実家に戻ると1年前まで過ごしていた自分の部屋に入る。部屋に入ると、窮屈な唐衣を脱いで、袿姿に着替えると、すのこ縁に座って、懐かしい庭を眺める。すると近所の子供たちが、彩子が戻ってきているのを聞きつけて遊びに来る。
「彩子様~~~。」
子供たちは彩子の為に野に咲く花々を花束にして彩子に贈る。
「彩子様、お母さんから彩子様が結婚したと聞きました。」
「私彩子様のお相手を見たわ。とても姿の良い人ですね。」
彩子は微笑んで子供たちから花を受け取ると、女房に言って花を生けさせる。
「ありがとう・・・。とても嬉しいわ・・・。」
彩子は庭に下りると、子供たち一人一人の頭を撫でる。そして子供たちと和やかに手遊びなどをして遊ぶ。彩子の側についてきている小宰相は溜め息をつきながら、彩子を見つめる。
(なんて鄙びた女御様かしら・・・。本当に前代未聞だわね・・・。よくまあ帝はこのような姫をお好きになられたのでしょう・・・。そこが綾乃様と違うところかしらね・・・。)
彩子は小宰相の心配をよそに、楽しそうに日が陰るまで子供たちと遊んでいた。
「彩子、いつまで子供たちと遊んでいるんだい?」
と、東大寺から帰ってきた彩子の父君大和守が声をかける。彩子は子供たちの別れを告げると、部屋に戻り、父君と話し始める。
「お父様、皆が私のために花を摘んでくれたのです。久しぶりに楽しかった・・・。お父様、法要のほうはいかがでしたか?」
「ああ、何とか一日目は終わったよ。彩子、民たちと仲良くするのは悪いことではないが、お前はもうそのようなことをしてはいけない身分なのだよ。お前は帝の妃の一人・・・。本来であれば、このように庭に出たり、平気で表を歩いたりなど・・・。この事が都の噂になれば、帝のご迷惑となる。いいね。彩子。もうお前は当家の姫ではない。嫡流である右大臣家の姫であり、そして帝の女御なのだよ・・・。」
「わかっています。もういつ大和に帰ってこられるかわからないと思うと、我慢できず・・・。ごめんなさい。お父様・・・。」
「本当に・・・。帝はとてもお優しい方であるからお前を大目に見てくださっているがな・・・。さ、寝殿に来なさい。今日はお前が里帰りをしてきた祝いの膳を用意したのだよ。身内の者がみんな集まっているのでな・・・。」
彩子はうなずくと部屋に戻り、土で汚れた衣装を着替えると皆の待つ寝殿に向かう。彩子が寝殿に入ると懐かしい顔ぶれが並んでいた。彩子の両親、彩子の姉夫婦、弟、妹、そして祖父母である。皆彩子が里帰りをしてきたことに喜び、そして無事に夏結婚したことを祝う。彩子の祖父母は都に嫁いだ彩子を大変喜び、そして見違えるように美しくなったことを喜んだ。そして彩子に色々都のことについて聞く。彩子は都のこと、宮中のことを事細かに話していく。
「彩子、今日はあなたの好きなものばかり用意させたのにあまり口をつけないのね・・・。」
と、彩子の母君が言う。すると彩子は苦笑していう。
「疲れたか、風邪でもひいたのかしら・・・。ちょっと体が重いの・・・。最近ちょっと熱っぽいしね・・・。さっきからお腹も・・・。」
彩子の義理の兄和気智明は立ち上がって彩子の側によるという。
「彩子様、ちょっと診て差し上げます。」
医師でもある和気智明は彩子の脈を取ったり額を触ったりしていう。
「あの義父上、姉を呼んでください。はっきりしたことは女医である姉ではないと・・・。私の診断が正しければ・・・。彩子様、部屋に戻られてひとまず横に・・・。」
大和守は従者を呼んで女医である和気の姉を呼びに行かせ、彩子を部屋の戻し横にさせると、大和守は和気智明に聞く。
「彩子がどうかしたのか?」
「私の口からは・・・。姉上がはっきりとしたことを・・・。私には核心まで診る事は・・・。特に彩子様は女御であられることですし・・・。もし私の口から言って間違っていたら・・・。でも確かに脈からして・・・。いや・・・でも・・・。」
和気智明は困った顔をして姉の到着を待つ。和気の姉は五つ年上であり女医である。智明と同様に都できちんと修行し、女医博士の位まで授かった程の腕の持ち主である。今は郷に戻り、郷の民のために特に女性の病について国中を走り回っているのである。丁度今日は和気家の邸にいたので、何とかすぐに呼び寄せる事が出来た。和気の姉は彩子の部屋に入ると、智明から症状などを聞き、彩子の寝所に入っていった。そしてもう一度脈を取ったり、額に手を当てたり、そして智明が診る事が出来なかった腹部に手を当てたりして彩子を診察した。そして寝所から出てくると、大和守に言う。
「智明の診断どおり、彩子様は御懐妊の兆候がございます。しかしながら、流産の兆候も・・・。安静が必要でございます。流産の兆候が消えるまで、こちらにおられたほうが・・・。智明に処方箋を渡しておきますので、その通りになさいませ。」
そういうと、処方箋を書いて智明に渡す。
「本当か?懐妊は喜ばしいことではあるが・・・。流産と?」
「兆候があるという程度・・・。まだ出血等は見られていませんので流産するとは決まっておりません。ひとまず安静を・・・。決して動かさないように・・・。」
「お願いがある。明日香殿・・・。彩子の側についてくれないか・・・。彩子は帝の大事な妃である上、帝のお子を身籠っておいでだ。このまま流産となってしまえば・・・。それもこの帝の御幸中というのに・・・。とりあえず帝にはこのことを内密に・・・。彩子は風邪であると明日帝に伝える・・・。」
大和守は焦りに焦って、邸中を行ったり来たりする。彩子の母君は彩子の側に座って微笑む。
「お母様?私懐妊しているの?」
「ええ、もう無理はしないでね・・・。きっと三輪山の神様があなたを守ってくださるわ。そうだわ、誰かにご神水を汲んできてもらいましょう。飲み続けるときっとあなたの体に神が宿って健康でよい御子が生まれます。そうしましょう・・・。ですから、明日香が起きてもいいって言うまで横になっておくのですよ・・・。」
彩子はうなずくと疲れているのかすぐに眠りについた。
 次の日もその次の日も、大和守は帝に報告しようと思ってもなかなか言えずにいた。帝は彩子の様子を聞いてくるが、大和守は、彩子は元気ですと何故か嘘をついてしまう。そしてこの日は法要の最終日、法要の終わる昼過ぎには彩子を行宮に戻す約束であったが、和気医師の絶対安静の指示で、動かす事が出来ないにも関わらず、あやふやな返事を帝にしていた大和守はどうしようかと悩みつつ、結局そのまま帰ってきてしまった。
「あなた・・・。きちんと帝に彩子のことを申し上げたのですか?」
大和守は首を振って礼服から狩衣に着替える。彩子の懐妊はとても喜ばしいことなのではあるが、この御幸で無理をさせてしまったことによる切迫流産にとても罪悪感があったからである。
「あなた、きっと行宮では大騒ぎになっているのでしょう・・・。明日都に戻られるというのに・・・。どうするのですか?彩子は当分こちらにて安静をしないと・・・・無理をさせ、流産となると・・・我が家は崩壊です・・・。今すぐ帝にきちんとご報告を・・・。」
大和守は束帯に着替えると、行宮参内の準備をする。
 一方行宮は案の定、彩子が帰ってきていないことに帝は気付き、大騒ぎとなる。帝は礼服から山鳩色の直衣に着替えると、脇息にもたれかかって一息つく。
「遅い・・・昼までには戻ってくるはずなのに・・・。」
帝は立ち上がって、右大将を呼びつける。
「常隆!今すぐ馬を用意せよ!大和守邸へ参る。」
「しかし、もう少しお待ちになられては?」
「待っていられない。私が彩子を迎えに行く。」
「御意。」
すぐに馬が用意され、山鳩色の冠直衣のまま馬に乗り大和守邸に向かう。右大将も冠は巻纓、おいかけ、当色である黒色袍の武官束帯を身に着けたまま、帝の後を追う。町の民たちは何事かというように二人を見つめる。途中帝は往診に向かう和気智明とすれ違う。
「和気殿、彩子が戻らないのだけれど、何かあったのか?」
和気は頭を下げたままと帝に申し上げる。
「大和守にお聞きになられていないのでしょうか?」
「いや。どうかしたのか?」
「こちらでは・・・民が居りますので・・・。邸に行かれたほうが早いかと・・・。」
「引き止めてすまなかったね・・・。」
帝はやはり何かあったのだと悟って、馬を急がせる。大和守の邸につくと丁度大和守が行宮に向かうようで、帝の突然の訪問に驚く。
「大和守、どういうこと?彩子はどうかしたのか?」
大和守は頭を深々と下げ、申し上げる。
「申し訳ありません、彩子は今床に臥しております。詳しくは邸内にて・・・。」
帝は馬から下りると、右大将に馬を預けて邸に入る。邸の外では近所の者達が騒ぎで集まってきた。右大将は随身に馬を預けて、邸内に入る。帝は大和守に誘導されて彩子の部屋に入ると、小宰相が帝の前に現れる。そして帝の前に座り、頭を深々と下げる。
「小宰相、何かあったのですか?」
「申し訳ありません、私というものがついておりながら、女御様をこのような・・・。女御様の体の異変に気付かなかった私の不始末でございます。どうぞご処分を・・・。」
「彩子は?」
小宰相は彩子の寝所に案内すると、彩子の側には女医の和気がいる。
「和気明日香殿、こちらは彩子様の・・・今上帝でございます。」
女医は頭を下げると、帝に申し上げる。
「恐れながら申し上げます。彩子様は御懐妊中でございますが、流産の兆候が見られまして、絶対安静を指示させております。兆候がなくなるまで都のほうにはお戻りになれないとお考えを・・・。」
帝はうなずくと、寝所に入り、彩子に会う。彩子は意外と元気であるのに帝は驚く。
「彩子・・・。」
「帝、私とても元気よ・・・。本当に懐妊しているのか不思議なくらい・・・。でも明日香が起きてはだめって言うから・・・。」
「思ったよりも元気で安心したよ。でも・・・本当に懐妊しているのですね?」
帝は彩子の手をとると、帝の頬に彩子の手を当て、微笑む。
「彩子、あなたを置いてはいきたくはないけれど、しょうがないよね・・・。私が帝ではなければ、このまま側にいてやりたいが・・・。これ以上都を留守にするわけにはいかないから・・・・。ゆっくり静養して、流産の心配がなくなれば、かえっておいで・・・。それまで待っています。いい?じっとしているのが苦手な彩子だけど、我慢できる?」
彩子はうなずいて微笑む。すると表が騒がしくなり、右大臣が入ってくる。そして帝のいる寝所の前に座ると一礼をしていう。
「早く行宮にお戻りくださいませ、ただいま行宮では大騒ぎになっております。中宮様をはじめ、斎宮の姫宮様が春日大社参詣のご報告に参られているのですが・・・。」
「わかっている・・・。しかし・・・。」
「彩子様がどうかなさったのでしょうか?」
「彩子は懐妊中である。しかし流産の兆候があってね・・・。彩子が無事都に戻ってくるまで、この懐妊は内密にせよ・・・。彩子の都入りは延期にする。何とか理由をつけて・・・頼んだよ、右大臣。」
「御意・・・。」
帝は直衣を脱ぎ中に来ている衵(あこめ)を脱ぐと彩子に被せる。
「彩子、私は行宮に戻ります。これを私だと思って・・・。早く良くなってかわいらしい笑顔を見せておくれ・・・。」
帝は脱いだ直衣を再び着ると、彩子の寝所を出て大和守に挨拶をすると部屋を退出し、右大臣が用意した車に乗って行宮に戻って行った。彩子は帝に頂いた衵を抱きしめると、寂しさのあまり涙を流した。
 帰りの車の中で、帝は帝が乗ってきた馬に乗り側についている右大臣に言う。
「右大臣、誰か彩子の様子を報告できる者はいないか・・・。随時彩子の様子を知りたい・・・。もちろん殿上の許しを出せる者であり、それなりの位のある者に限るが・・・。」
「それでしたら、博雅をお使いください。まだ十二という若さでありますが、しっかりしております。今回の御幸にも同行させておりますし・・・。」
「そうだね・・・。身内の者に限る・・・。博雅を五日おき位にこちらに派遣して欲しい・・・。後で博雅を私の前に・・・。」
「御意・・・。」
本当に博雅は十二でありながらしっかりとしている。前右大臣の養子として元服し、前右大臣の孫と婚約までしている。もともと前右大臣には一人息子がいたのだが、十年前に不慮の事故で亡くしていたのだ。唯一血の繋がったこの十歳ほどの姫を大事にし、その相手として博雅を養子に迎えて婚約させたのである。博雅は東宮侍従であるが、今回は元服前の東宮の使者として来ている。十歳の頃から東宮侍従として童殿上していたためか、とてもしっかりし、今年元服した者とは思えない落ち着きと判断力を持っている。母は違うが、帝の弟宮である兵部卿宮とは六歳の歳が離れているにも関わらず、こうも違うものかと、帝はいつも二人を比べてみてしまうのである。
 行宮につくと帝は直衣を着替えなおすと、鈴華の待つ部屋に入る。
「鈴華、待たせて悪かったね・・・。篤子、さあ父のもとにおいで・・・。」
斎宮篤子は喜んで帝の膝の上に座る。
「お父様、どこにいらしていたの?」
「ああ、ちょっと大和の女御が体調を崩してね、お見舞いに行っていたのですよ。篤子は今日いかがでしたか?」
帝は篤子の頭を撫でると、篤子の話を聞いた。篤子は大和の旅の中で起きたことを楽しそうに話し出した。帝は微笑むと、篤子を下がらせて、鈴華と話をする。
「鈴華、色々とご苦労でしたね・・・。院の使者と斎宮の付き添いを・・・。」
「いえ、篤子のずっと一緒でしたので・・・。大和女御様は?」
「ずっと大和を案内してくれていたでしょう。疲れたのであろう、風邪を引いてしまったようだ・・・。」
「まあそれはそれは・・・。では明日は?」
「女御に関しては延期させました。体が十分回復するまでは大和に滞在するのだよ。女御と帰れないのは少し寂しいが、しょうがないからね・・・。今日はこちらに泊まるの?」
「いえ、興福寺のほうに・・・。さ、やっと明日都の戻れるのですね・・・。帝は結構大和をお気に召されたようですけれど・・・。」
「鈴華、都に戻ったら里帰りでもすればいい。疲れたのでしょう・・・。三の宮と四の宮に会ってきたら?じゃ、明日・・・。」
鈴華は立ち上がると、少し機嫌が悪そうに退出した。退出したのを確認すると、博雅を御前に呼ぶ。そして彩子のことについて説明をし、内密に報告するように命じる。突然の派遣命令に、博雅は驚いたが、兄ではあるが帝の命令であるので快く受け、下がっていった。帝は溜め息をつくと立ち上がって、東南院の庭を眺める。丁度綺麗な満月が庭の池に映り、なんとなく帝は苦笑すると思った。
(このような大和最後の夜を、彩子と一緒に迎えたかったな・・・。同じ月を彩子は見ているのであろうか・・・。明日はもう都に戻る・・・。また忙しい毎日が始まる。彩子が側にいてくれたら・・・。)
彩子もやはり同じ月を見ていた。少しぐらいならと、和気明日香の許しをもらい、そっと立ち上がって、脇息にもたれかかり、大和の月を見ている。昼間に帝から賜ったあこめを抱きしめ、物思いにふける。
(こちらに滞在するのは嬉しい・・・だけど・・・。)
つわりもなく、お腹の痛みも引いてしまって、懐妊しているなど彩子には実感がわかなかった。
「さ、彩子様もう横になられませ、今薬湯をお持ちいたします。」
彩子は横になると処方された薬湯を飲み、目を閉じる。
 次の日、帝は大和守に国境まで見送る。帝は大和守に彩子への文を託すと、大和守に今までのお礼を言って都への大和路を登っていった。大和守は御幸の行列が見えなくなるまでじっと立ち止まって帝を見送った。


大仏 奈良大仏

第109章 三輪明神参詣

 三輪明神のある三輪山は古都平城京から飛鳥に伸びる大和路の途中にある。山自体が御神体であり、別名大神神社といって、日本最古の神社に値する。もちろん皇族縁の官幣大社である。崇神天皇七年に天皇が伊香色雄に命じ、大田田根子を祭祀主として大物主神を祀らせたのが始まりとされ、祭神は大物主大神の他、配神として大己貴神(おおなむちのかみ)、少彦名神(すくなひこなのかみ)が祀られている。一説では大物主大神は大国主神(=大己貴神)の和魂(にぎみたま)ともされている。大物主神(または三輪明神)は蛇神であり水神または雷神としての性格を持ち、稲作豊穣、疫病除け、酒造り(醸造)などの神として篤い信仰を集めている。また国の守護神である一方で、祟りなす強力な神ともされている。大神(おおみわ)祭、鎮花(はなしずめ)祭、 三枝(さいくさ)祭が朝廷のお祭りとして絶えることなく斎行され、 臨時の奉幣も多かったほど、朝廷と深くかかわりのあるところである。丁度帝が訪れる日は秋の大神祭りにあたりいつもであれば、勅使によって奉幣を納めるのであるが、今回は帝が直接参って納めることになった。
 朝、帝は礼服を着ると、輿に乗って大和守の先導のもと東大寺の東南院を発つ。もちろん彩子は唐衣を着て車に乗り込んだ。大和路にはいるとすぐに帝は弟宮である兵部卿宮を呼ぶ。
馬に乗った兵部卿宮は帝の輿の側に馬を寄せる。
「兵部卿宮、どうしてあなたをこの御幸に同行させたかわかりますか?」
「いえ・・・。」
「そうだと思いました。大和路などの主要な路は兵部省管轄になります。何かあればこのような道を使って兵を動かすのですよ。よく見ておきなさい。現地に赴いて見聞するのもいいものです。」
「はい・・・。」
兵部卿宮は腹違いで十歳年の差がある弟宮である。三年前に元服し、御歳十八歳。兵部卿となって三年になる。本来であれば、御幸に同行させる必要のない宮を、こうして大和路を見せようと連れてきたのである。同腹である内大臣と違ってあまり利発ではなく、のんびりしていて、坊ちゃんタイプである。兄宮たちが優秀すぎるため、この宮はやや軽んじられている。今回の御幸同行も、院から頼まれた節もあった。帝はあまりにも頼りない弟宮を見て溜め息をつく。
(どなたに似たのであろう・・・。先が思いやられる・・・。)
昼ごろに三輪明神の車止めのつくと、帝はそこで輿を降りる。大和守をはじめついてきたものたちは頭を深々と下げ、女御である彩子が車から降りるのを待つ。三輪明神の宮司が出迎え、先導をする。帝のごく側近以外はこの車止め前で帝の参詣が終わるのを待つことになっている。参道を歩くと、深く生い茂った木々が不気味に感じられるところもあるが、こちらに入る前よりもやはり空気は違い、爽やかに感じる。帝は一歩一歩踏み込むに連れて、少しずつ身が軽くなっていくように思えた。彩子もこうしてこちらに来るのは久しぶりのことでとても緊張していたが、山の奥にある神殿に近づくにつれて緊張がほぐれていった。拝殿前のお手水で身を清めると、帝は拝殿に入り宮司と共に神事を行った。拝殿内は静まりかえり祝詞などの声が山中に響き渡る。拝殿にて神事が終わると、勅旨殿に通され、一休みをする。
「お父様、帝に例のものを・・・。」
と彩子がいうと、大和の守が、あるものを渡す。
「帝、これは華鎮社の薬井戸の御神水でございます。この霊泉は万病に効くと古くから伝えられております。ぜひ帝にこのご神水をと思いまして、先程供の者に汲ませて参りました。さあ、皆様も・・・。」
帝は彩子から御神水を受け取ると飲み干した。帝は微笑んで、彩子にお礼を言った。宮司と様々な話をしながら、楽しそうな顔をしている帝を見て、彩子は安心した表情で見つめた。
(早く帝の御子が授かればいいな・・・。)
と彩子はなんとなく帝の表情を見て思った。すると宮司が彩子に話しかける。
「彩子様、この度はご結婚おめでとうございました。大和の国から女御様が出られるとは・・・とても喜ばしいことでございます。今まで大和の民に精一杯のことをされたからでしょう。きっと神のご加護がございます。勝手なことかと存じましたが、子宝祈願もさせていただきました。きっと良い御子がお生まれになるよう願っております。本当にお転婆で大きくなられたときにどうなることかと心配しておりましたが、本当に帝にふさわしい姫君になられました・・・。また大和にお帰りの際は、こちらにお参りください。また、ご懐妊の際は私どもが祈願させていただきます。」
そういうと深々と頭を下げ、退出していった。
「さあ、麓に参りましょう・・・。」
と、帝は彩子に微笑んで言う。こちらまで帝とやってきた数人の側近は帝とともに立ち上がってゆっくりと参道を下り、車止めまで向かう。帝はふと参道真ん中あたりで立ち止まるという。
「彩子、とても気に入ったよ。本当にこちらに来てよかった・・・。また何かの折にこちらに来よう・・・。」
帝は微笑んで、彩子の顔を見る。とても爽やかな顔をしている帝を見て、右大臣をはじめ帝のごく側近たちは安堵の表情を見せた。帝はもうちょっとこの三輪の地に滞在したくなったが、やはり帝という地位のためか、断念した。帝は車止めまでやってくると、振り返ってもう一度三輪山に向かって一礼をする。その後、彩子の手を引くと彩子の車に乗せ、帝は自分の輿に乗ってきた路を大和守の先導で戻っていく。行きはとても緊張のため大和路の風景などゆっくり見る事が出来なかったが、帝は輿の御簾を半分上げさせて、一面に広がる田畑や点在する村、そして緑豊かな山林を眺める。丁度、米の収穫時期に重なってか、民たちは米の刈り入れをしている。帝ははじめて見た都以外の里の風景に感嘆して、思った。
(譲位した際にはこのような長閑な所で院をおいて彩子とともに余生を過ごしたいものだな・・・。)
帝は本当にこの御幸に来て良かったなと思うのでした。


《作者からの一言》

本当に三輪はのどかでいいところです。大神神社に入ると、なんだか過去にタイムスリップしたような感覚です。とても空気が張り詰めています^^

当時この宮は一般信者でも入ることの出来ないところでした。朝廷にかかわるもののみ入山出来たのです。

彩子は小さいときより大和守に連れられて、参詣をしたのです。


大神神社参道 大和国一の宮・大神神社《三輪大社・三輪明神》参道

第108章 お忍び~大和編

 次の日朝餉を食べると、早速帝は狩衣を着込んで、身軽な装束を着た彩子と共に行宮を抜け出す。右大将はやはり心配なのか、遠くから二人を警護することにした。
「さあ、彩子。まずどこに連れて行ってくれるの?」
「三笠山に行きましょう。そちらに登ればこの古都平城京を見通せます。東大寺からすぐですから・・・。」
彩子は帝の手を引き三笠山に登る。日ごろあまり運動できない帝は山頂に着くと息を切らして彩子が持ってきた水を飲み一服する。
「ほら、ここからの眺めが一番いいのですよ。」
帝は彩子が指をさす方向を見つめると確かに古都が一望できた。平安京さえこのような場所から見た事がなかった帝は驚いて山を登った疲れがいっぺんに吹っ飛んだ。
「都も寺が多いが、こちらもホントに多いね・・・。空気もいい。ここまで登ってきた甲斐があったよ。次はどこに行こうか・・・。」
「市のほうに行こうと思っているのですが・・・。結構距離がありますので・・・。」
すると帝は後からついて来ている右大将に気付いて言う。
「常隆、麓に降りたら馬を借りてきてくれないかな・・・。」
気付かれていたことに驚いた右大将は帝たちと共に山を降りると自分が都から乗ってきた馬を帝に渡した。
「ありがとう、常隆。ついて来たかったらついてきていいよ。ゆっくりいくつもりだから・・・。」
帝は彩子を馬に乗せると、自分も馬に乗る。右大将は部下から馬を借り後ろからついていくことにした。街中に入ると町人たちが彩子に声をかけてくる。ある親子の前で彩子は言う。
「宮様、止めて・・・。」
帝は馬を止めると、その親子は彩子に言う。
「彩子様、大和守様に伺いました。ご結婚されたそうで・・・おめでとうございます。もしかしてそちらが?」
「ええ、私の殿です。宮様、この親子は私の邸に出入りしている者たちなのです。昔から仲良くしているのです。」
帝はそのものたちに微笑んで言う。
「雅和と申します。よろしく・・・。」
帝は親子に一礼をすると、馬を歩かせる。町の者達は彩子が帝に入内したことを知らない。結婚して都にいることは知っていても、どこの誰と結婚したかまでは知らされていないのだ。人が集まるところに来るとさらに彩子を慕った町人たちが集まってきた。帝は町中の人たちに慕われている彩子を見て微笑んだ。
(このようにいろいろな人々から慕われている彩子って・・・。妃に迎えて本当に良かった・・・。)
と帝は思った。彩子は一通り挨拶を済ますと、大和守の邸に向かう。大和守の邸の周りは彩子の帰郷を聞きつけた町人でごった返していた。
「彩子様、お帰りなさいませ!」
「いつまで大和に滞在されるのですか?」
などと、町人たちは口々に彩子に声をかける。彩子も微笑んで馬を下りると、町人達の話をする。彩子は振り返って帝に言う。
「宮様、先に入っていてください。私は久しぶりにみんなと話がしたいので・・・。」
「うん、わかった。せっかくだからゆっくりしておいで。」
帝は大和守の随身に馬を引かれて右大将と共に邸の中に入る。右大将は彩子の人気ぶりに驚く。
「彩子様はなんとすごい数の町人に慕われているのでしょう・・・。驚きました。」
「そうだね・・・。私も見習わなければならないな・・・。国の頂点に立つものとして・・・。」
二人は苦笑しながらお互いを見る。寝殿の前で帝と右大将は馬を下りると、大和守の案内で上座に座る。
「よくおいでくださいました。このように殺風景な邸でございますが・・・。あれ、彩子は?」
「表にいるよ。町人たちと話をしている。本当にすばらしい姫だ。あのように町人たちに慕われるとは・・・。私も見習わなければ・・・。今日は本当にこちらにうかがってすまなかったね・・・。私はお忍びであるから、あまり気を遣わなくていい。」
「いえいえ・・・。このようなところに帝がお出ましになること自体一生ないこと・・・。当家の誇りに思います。今すぐ彩子を呼んでまいります。少々お待ちを・・・。」
大和守は従者に言って彩子を呼んでこさせる。彩子はとても嬉しそうな顔をして、戻ってくると、身なりを整えて下座に座る。
「彩子は私よりも位が高いのであるから、帝の横にお座りなさい。」
「お父様・・・私はここでいいのです。」
「大和守、彩子の好きにさせてあげなさい。せっかくの里帰りだから・・・。彩子、こちらではいつもの彩子らしくすればいいのですよ。明日からはまた堅苦しい生活が始まります。今日はゆっくりなさい。私は夕刻までに帰ればいいから・・・。」
帝は微笑んで、彩子に言った。大和守は帝に大和料理を振舞う。帝と右大将は歓談していると、少掾と彩子の姉君が入ってくる。
「帝、当家の婿少掾和気智明と娘の冴子でございます。」
二人は深々と頭を下げると、挨拶をする。
「お目にかかり、大変光栄にございます。私大和国少掾、和気智明と申します。」
「んん。顔を上げなさい。明日の三輪明神へ同行してくれるそうですね・・・。頼みましたよ。」
「御意にございます。」
「さあ、近くに・・・。一緒にいかがですか?義理の兄弟になるわけですから・・・。」
「いえいえ・・・とても恐れ多い・・・。帝のお側になど・・・。私はまだ仕事がございますので、これで失礼いたします。」
「気を遣わなくてもいい。私も非公式でこうして彩子の実家に遊びに来ているのですから。」
和気智明は恐縮してしまい、そのまま下がってしまった。
「申し訳ありません。根はまじめでいいものなのですが、少し恥ずかしがりなところがございまして・・・。」
「和気家といえば、丹波家と並ぶ医師の家柄では?」
「はい、あの者は大和国で少掾の傍ら、国医師もしております。町人も診るので、あの者は大変町人たちに慕われております。昨年の天災の際も、私と共に国中をまわってくれたのです。」
するとある男が走ってくる。
「彩子様!」
ある男は息を切らしながら、寝殿の表で息を整える。
「少目殿、客人が来ている。無礼ですよ!申し訳ありません、こちらは彩子の幼馴染で、先程の少掾の弟、和気泰明。少掾の下で医術の修行を・・・。」
「構いませんよ。私自身あまり堅苦しいことは好きではないので。」
大和守は帝にこっそり言う。
「この者に彩子の結婚話はしておりません。家族と和気智明以外は彩子が入内したことを知りません・・・。」
「そうみたいだね・・・。そのほうがいい。」
帝は微笑むと、その男を見つめる。するとその男は大和守に言う。
「大和守様、ちょっと彩子様をお借りしてよろしいでしょうか?」
「泰明、彩子は・・・。」
帝は大和守を止める。そして帝は彩子に言う。
「彩子、幼馴染であろう、行っておいで・・・次はいつ会えるかわからないからね・・・。」
彩子はうなずいて立ち上がると少目のもとに向かう。
「よろしいのですか?」
「いいのです。これからは堅苦しい後宮にすまないといけないのだから・・・。今日ぐらい今までどおりの生活をさせたらいい。」
大和守は溜め息をついて少目の後をついて行く彩子を見つめる。
 この和気兄弟は18年前、和気泰明が生まれてすぐに両親を病でなくした。もともと和気兄弟の父は医師として都に勤めていたが、大和守が大和に赴任した30年程前、大和守を慕って、大和守家の医師としてお仕えしていた。和気兄弟の両親が亡くなった後、大和守は兄弟を引き取り、自分の子供のように育てた。兄は元服すぐに見習い医師として都に上がり、きちんと医術を習得した上で、5年ほど前に戻ってきた。もちろん優秀な成績で、それなりの位を頂き内裏に勤める事が出来たのだが、断って大和に戻ってきたのであった。弟は三年前に元服し、兄の指導の下、修行をしている。彩子と同じ歳であった弟は彩子と共に育ち、そして弟、泰明は彩子に恋心を抱いた。もちろんこの気持ちは彩子にまだ伝えていない。
「泰明、何?」
和気泰明は彩子を邸の釣殿に連れて行くと話し出す。
「丁度今頃、彩子様は都に上られて高貴な家に養女になられ、この夏ご結婚されたと町のものに聞きました。なんて言ったらいいか・・・。僕は・・・。」
「うん、私この夏結婚したの。上座に同席されていたかたが私のご主人様よ。お父様よりもだいぶん高貴な方だけど、身分を鼻にかけたりなんかしないとても優しい方なの・・・。」
「そう・・・。正妻なの?それとも・・・。」
「もちろん側室。私は5番目なの・・・。でも心配しないで。とても大切にしていただけているから・・・。」
「そうか・・・。もし、彩子様が大和に帰りたいと思うことがあれば、この僕が、彩子様の面倒を見るよ。僕は一生懸命修行して兄上のような医師になる。去年、都を出る前に言えなかった・・・。それは・・・。」
「え?」
和気泰明は彩子の腕を引くと彩子を抱きしめた。
「彩子様の事が好きだった・・・。ちゃんと彩子様は兄上のことを慕っていたことも知っていた。もし、都で嫌な事があれば、帰ってきたらいいよ。そうしたらこの僕が彩子様の面倒を見る。彩子様のためなら、修行をがんばります。」
彩子は和気泰明を引き離す。
「私・・・。泰明・・・ごめんなさい・・・。」
そういうと、彩子は帝のいる寝殿に戻ってきた。彩子は帝の側に座ると、帝は微笑んで言う。
「話は終わりましたか?彩子。今大和守と彼のことを話していたのだけれども、ぜひ都で修行してはいかがなものかと思っているのです。和気智明殿の腕は確かと聞いたが、やはりこちらと都では違うからね・・・。」
「ええ・・・。」
彩子は下を向いて答える。
「では、大和守。少目和気泰明殿をこちらに・・・。」
「御意・・・。」
大和守は従者に命じ和気泰明を連れて来させる。
「和気泰明殿、近くに・・・。」
と、大和守が言い、和気泰明は帝の前に座る。
「和気殿、大和守と話していたのですが、都に出て本格的に医術を学んではいかがでしょう。もしその気があるのであれば、私が和気家当主侍医和気伴由に紹介状を書こう。侍医和気殿はとても信頼の置けるいい方です。今も御幸に同行しているので、一言言っておくこともできます。」
帝は和気泰明に微笑んで言う。
「泰明殿、こんないい話はない・・・。本来であれば、医博士殿について学ばなければならないものを、侍医殿の側で学べるのですよ。なかなかこのようなことはない・・・。」
という大和守の言葉に和気泰明は悩んだ顔をして下を向く。
「泰明、いい話よ。とっても・・・。」
「彩子様・・・。わかりました・・・。お願いします・・・。しかしあなたは・・・?」
帝は微笑んで言う。
「私ですか?ただの顔の広い宮です。今から紹介状を書きますので、準備が出来しだい半月後以降に上京しなさい。いいですね・・・。私からも和気殿に言っておくから。」
帝は懐から御料紙を取り出すと、紹介状をすらすらと書き出す。
『従五位下侍医和気伴由殿 この紹介状を持って現れた和気泰明という者をあなたの側で医術を直接学ばせるよう頼みます。同じ和気家の血が流れているものなので、きっと良い医師になることでしょう。よろしく頼みます。  今上帝 雅和』
紹介状を大和守に渡すと、大和守は和気泰明に渡す。
「泰明殿、これは恐れ多いものだから、見てはいけません。そして侍医殿に渡すまで大切に扱いなさい。必ずそのまま侍医殿にお渡しするのですよ。もう下がっていい。」
「はい・・。」
「あ、もし急ぐのであれば、大和守と一緒に行宮にこればいい。会えるようにするが・・・。」
「宮様、ではそういたしましょう。早いほうがいい。一緒に上京すればいい。荷物は後ほど送ればいいのだから。邸も私が用意しよう。」
と大和守は乗り気でいう。帝もうなずいた。
 行宮に戻った帝は早速侍医である和気伴由を呼び、和気泰明について話す。侍医は快く帝の申し出に承諾する。
「なんという縁でありましょうか・・・。この兄弟は私の腹違いの弟の息子たちでございます。二人とも大和にいるとは聞きましたが・・・。そういえば兄の和気智明はとても優秀な者で、私の養子にしようと思っていた者・・・。わかりました。帝の頼みとあれば・・・。」
「ありがとう、侍医殿。よろしく頼みましたよ。」
次の日大和守と和気泰明は朝早くに行宮に現れ、侍医と面会する。侍医は帝からの紹介状を受け取ると、読まずに懐にしまい快く二人の前で承諾をする。


《作者からの一言》

官位相当であれば侍医は正六位下にあたりますが、殿上を許されるのは従五位下以上。ですので侍医は殿上を許される身分ということで従五位下に叙されていることにしています。

この和気泰明、今後の展開で中心的な人物になります。というよりも雅和帝編の次の主人公でしょうか?



                                   東大寺 大仏殿

第107章 初めての遠い御幸

 7月の婚儀が無事終わり、とても暑い夏が訪れる。帝は暑い暑いといいながら、弘徽殿を訪れる。いつもならば奥の上座に座るのであるが、今日はさわやかな風が流れる入り口近くに座り、側に彩子は座って扇で帝を扇ぐ。
「彩子、御幸の日程が決まったよ。もちろん彩子を連れて行く。『彩子も』になるんだけどね・・・。」
「え?」
「中宮も行くことになっているのです。大和には摂関家の菩提寺興福寺がありますよね・・・。中宮はそちらに摂関家出身の宇治院の使者として維摩会に出席予定になっています。春日大社は藤原家の氏神でもあるし・・・。本来ならば、わが姫宮である斎宮が私の使者として春日大社に参詣予定であったのですけれど、まだ姫宮はまだ八歳・・・。斎宮と共に中宮に行っていただくのですよ。昨年夏の大和の国の暴風雨で、東大寺の大仏殿に被害があったでしょう・・・。今回の御幸は、改修が終わったので、その法要で行くのですよ。まあ私ではなく勅使でもよかったのですが・・・。今年の末で私が即位して十年となります。区切りとしていくのにはいいかと思ってね。本当であれば、来年春の聖武帝の法要のときに行くつもりでしたが・・・。早く行きたいと思ってこの時期に早めたのですよ。」
もちろん昨年の暴風雨はすごかった。大和国でもたくさんの死者や怪我人が出た。彩子は国司の姫であるのにも関わらず、天災で怪我をした者や家をなくしたものの世話をした。もちろんこの時だけでなく、彩子が小さい頃から天災で被害が出るたびに父の国司と共に大和の国を回り被害を調べ、そして人々を援助する。彩子も熱心に父を見習って被災者の世話などをするので国の者達に大変慕われている。昨年、舞姫に選ばれた際も、彩子を慕っていた者たちが、都へ旅立つ彩子を大勢で見送ってくれたのである。あれから一年以上大和に帰っていなかった。もちろん中宮が一緒についてくることが残念でしょうがないのであるが、一年ぶりに里帰りできることに喜んだ。
 夏が終わり、十月の行幸に向けて着々と準備が整っていく。彩子も実家である大和の国司邸に文を書いた。大和の国でも帝の御幸のために準備をする。もちろん女御となった娘の里帰りに大和守を始め、縁のあるものたちはとても楽しみにした。
「彩子、父君に文を書かれたそうですね。」
「はい。もうすぐ里に帰る事が出来ると思うと楽しみで・・・。夜眠れないのです・・・。」
清涼殿の夜の御座の御帳台で帝は彩子を引き寄せ微笑む。
「でも・・・中宮様が一緒なので・・・。私中宮様が苦手なのです・・・。」
「どうして?中宮は摂関家であることとかを鼻にかけたりしない人だよ。何かあったの?」
「やはり私は皆様と身分が違います・・・。こうして右大臣様の養女として入内できましたが、養女の話がなければ、このようなところには・・・。気が引けてしまって・・・。」
帝は溜め息をついて言う。
「私はあなたを守りますと言ったでしょう。何かあったらいいなさい。あなたの身分など気にしていないから・・・。中宮が興福寺に行っている間は私たちや右大臣などの摂関家以外のもので、東大寺の法要の前に大和国一の宮である三輪明神に参詣に行くのです。あちらには歴代の帝が祀られているでしょう。そちらにも在位十年の報告と泰平祈願を・・・。彩子なら大和国のことを良く知っているのでしょう?案内よろしくお願いしますね・・・。」
彩子はうなずくと微笑んだ。帝もとてもこの御幸を楽しみにしているようで、一晩中彩子と共に大和国について語り合った。
 十月に入り御幸の日、帝は輿に乗り内裏を後にする。今回はたくさんの者達が同行する。大臣たちをはじめ、中宮、斎宮の姫宮、彩子、近衛府の大半など、たくさんの者達が列を成して大和古道を下っていく。そしてまずは大和の東大寺境内にある東南院を行宮(かりのみや)とし、帝はそちらに宿泊することになっている。まず到着すると、彩子の父である大和守が挨拶に訪れる。彩子は久しぶりに会った父君とゆっくり話したかったが、女御という立場のために、何も話せないまま大和守は退出していった。東大寺の僧侶やらなにやらの挨拶が一通り済むと、帝は他の者を下がらせて、話し出す。
「彩子、御簾の中からであったけれど、とてもいいところですね。やはり昔の都です。人々もとても良い人が多いようだ・・・。」
彩子は微笑んでいう。
「皆私の知っている者たちでした。懐かしい者達が出迎えてくれた様で・・・。ところで中宮様は?」
「中宮や摂関家縁の者達は興福寺にお世話になるのですよ。こちらでは到底数が多すぎて受け入れられませんしね・・・。法要もあるのでいいではありませんか・・・。姫宮もあちらに行っている。藤原氏の者達がいない分私も羽が伸ばせる。明後日の朝、三輪に向けて出立します。それまではこちらでゆっくりとね・・・。右大臣殿、常隆、ちょっと明日彩子と共にこちらを抜け出すから・・・。もちろん大和守にはいってあるし・・・。」
右大臣たちは驚いた表情で帝を見つめるが、とても楽しそうに彩子と話している姿を見て黙っていた。
「兄上もこちらにこればよかったのに・・・。」
と帝が言うと、右大臣は言う。
「しょうがないではありませんか・・・。都を留守にするのですから・・・。内大臣殿は中務卿も兼任していますし・・・。留守をしていただかないと・・・・。今回関白殿も来ておりませんよ。」
「うんそうだね・・・。明日は皆ゆっくりするといいよ。」
「しかし・・・誰が帝をお守りに・・・。」
と心配そうに右大将が言う。
「それは・・・常隆がついてきてくれてもいいのでしょうけれど、武官姿ではねえ・・・。私は明日直衣ではなくて、狩衣で散策するつもりだから。大和守は数人の随身をつけてくれるというし・・・。彩子の郷だから心配はないよ。」
「では私も、帝と同じように狩衣で・・・。」
「常隆、いつも私の警護をしてくれるのは嬉しいけれど、今回は・・・また頼むよ。」
右大将は残念そうな表情で帝を見つめた。


《作者からの一言》

大和(奈良)への行幸です。帝の行幸は大変だったに違いありません。ぞろぞろ群臣もついてきます。迎えるほうも並大抵ではないでしょうね・・・。

興福寺 五重塔 興福寺五重塔

第106章 内大臣の噂と意外な宣旨

 夕刻になると月に何度も内大臣が二条院に行くというので変な噂が立つ。案の定右大臣の養女のお相手は内大臣ではないかということだ。もちろんこの二条院に向かっているのは内大臣の姿をした帝であるのだが、誰もそのことを知らないのである。皆はもう好き勝手に噂を都中にばら蒔いている。もちろんこの噂は内大臣の北の方の耳に入ってきており、内大臣が自宅である一条院に戻ってくるとたいそう機嫌が悪いのである。
「殿、昨晩はどちらに?私はてっきり宿直だと・・・。もう内大臣になられたのにも関わらず・・・。」
「結子、私は中務も兼任しているのですよ。帝のご命令で側にいることもあります。」
「さあ、どうでしょうか?お隣の二条院によく出入りされていると聞きましたが?」
「ああ、それは帝のご命令で、帝のご生母様のご機嫌伺いに・・・。」
「さあ、それはどうだか・・・。お目当ては和子女王様ではなくて、右大臣家養女の姫君ではなくって?側室にされるという噂を聞きました。」
内大臣は困った様子で、人払いをすると意を決していう。
「結子、これは恐れ多くも帝に関わることであるから、内密に・・・。実は二条院に通っているのは私ではないのですよ。」
内大臣は北の方に一から説明をする。なぜ帝はお忍びで行かないといけないかから始まり、その姫が亡き皇后に生き写しであること、そしてまもなく入内宣旨が下ることなどを、詳しく丁寧に説明をすると、北の方は納得したようで機嫌を良くした。
「殿、それならそうと早く言ってくださればよろしいのに・・・。そうしたらこうして要らない心配や嫉妬をしなくて済んだものを・・・。」
北の方は微笑んでいうと、内大臣はほっとした表情で安心した。
 様々な噂が飛び交う中、春が訪れる。内大臣が右大臣家の養女を側室に迎えるという噂のおかげで、帝が密かに彩子を女御として迎える準備を摂関家の者たちに知られることなく着実に整えられていた。知っているのは中務省の一部の者や、右大臣、内大臣の縁の者のみ。入内予定の三ヵ月前を切ると、そろそろ帝は太政官の者たちに女御入内の件を話そうと思った。帝は内大臣と右大臣を呼び、人払いをすると、二人に詫びて話す。
「兄上、右大臣、いろいろご迷惑をおかけしてすまないね・・・。やっとここまで内密に事が運べたのはあなたたちが色々していただいたから・・・・。特に兄上は群臣たちに色々噂されて心苦しかったでしょう・・・。なんてお詫びをしたらいいか・・・。義姉上もさぞかし心を痛められたことでしょうから・・・。」
「いえいえ、妻はちゃんと話すとわかってくれたのでいいのです。これで帝に昔の恩返しができます。」
「恩返し?」
「帝は私が東宮をやめたいと願ったときに色々していただけた・・・。あの時体がまだ治りきっておられなかったのにも関わらず、自分を犠牲にして一生懸命私のために尽くして入れた上に、快く東宮譲位を承諾してくれた・・・。あのときを思えば、このような噂など・・・。」
「あれは弟宮であり、当時中務卿宮であったから当然のことをしたまで・・・。そこまで兄上は・・・。今まで色々私の心の支えになってくれたではありませんか・・・。それだけで十分であったのですが・・・。」
帝は苦笑して、内大臣にいった。すると、右大臣は帝に言う。
「そろそろ例の件まで三ヵ月を切りました。もうそろそろ表立った準備をしないと間に合いません・・・。今日当たり他の太政官に・・・。」
「そうですね・・・。もうそんな時期なのですか・・・。兄上に水面下で入内の準備をしていただいた・・・。もちろん右大臣殿もそうです・・・。わかりました。今からこちらに関白殿、左大臣殿、あと諸々の太政官を集めてください。今から話します。もちろん反対は許しません。」
右大臣や内大臣が下がり、少し経つと続々と太政官が集まってくる。大臣たちをはじめ、中宮職の者たちや宣旨に関わる者たちも呼ばれる。帝は内大臣兼中務卿宮である兄宮に、彩子姫入内に関することが書かれた書状を、侍従を通して渡すと内大臣は集まった者たちにゆっくり聞こえやすいように読み上げる。
「これは帝のご命令である。もし異議を唱える者は処分されると心得よ。」
皆の者は何事かとざわつくと、内大臣は皆を静め、静まったことを確かめると読み上げる。
「『七月吉日、正二位右大臣源朝臣将直卿の養女彩子姫を女御として入内させる。御殿は弘徽殿。婚礼の儀の日取りに関しては後ほど。以上。』とのご命令です。すぐに女御入内宣旨を下せるように・・・。いいですか?」
摂関家の者達は渋い顔をしながらも、帝の命に従い、頭を深々と下げる。その日のうちに中務省では宣旨の案を検討し、帝や大臣たちの承認を得て次の日正式に都中に女御入内宣旨を下した。もちろん右大臣邸には勅使が出向いて右大臣、和子女王、そして彩子に女御入内宣旨を読み上げる。もちろん彩子は正式に入内が決まったことで安心して帝に文を書く。そして右大臣を通して帝に渡され、帝は彩子に返事を渡した。
『これからは公になったのですから、堂々と文の交換が出来ます。公になったといっても、そうちょくちょく会いには行けませんが、入内の日を心待ちにして最後のお妃教育の仕上げをがんばってください。私もあなたがこちらに来られるを心待ちにしております。』
彩子は帝の文を抱きしめて微笑むと、小宰相と共に最後のお妃教育の仕上げを行った。
 宣旨が下ってからは着実に彩子の入内の道具や衣装などが揃っていき、今まで彩子が見たことのないようなものもたくさん用意されていく。続々と揃っていく豪華絢爛な入内の準備品を見て、彩子はだんだん宮中に入内するという実感がわいていくのである。あっという間に三ヵ月が過ぎ、滞りなく彩子の入内が終わり、そして婚儀の正式な日取りが決まってく。後宮内での女御お披露目の宴も無事に終了する。何とか後宮内でうまくやっているという報告を小宰相から聞いた帝は安心した表情で婚儀の日を心待ちにした。

女の子って結構そんなもんでは?

【漫画】ハリーポッターのヒロイン、降板か? [アメーバニュース]


結構思春期の女の子って急にやりたい事があるからとかでやめちゃうことって多くないですか?

アイドルでも、「進学したい」とか「留学したい」とか「方向性が違う」とかで急に辞めちゃう子って多いと思いませんか?

やはり男はどうしてかなかなか方向転換しないような気がします。女の子の場合は色々選択しありすぎるから、こうして急に方向性を変えたりするんでしょうね・・・。失敗しても結婚とか色々あるじゃんとか女の子のほうが楽天的なのでしょうね^^;やはり男は色々養う事が多いからね^^;なかなか・・・。


ハリポはテレビしか見たことないけどね・・・。どうなんだろ。配役が変わるとイメージがね・・・・。

第105章 忍び愛

 彩子は毎日のようにお妃教育に精を出した。見る見るうちに習得していく彩子を見て小宰相は驚きを隠せなかった。
(これなら半年後の入内も夢ではないわね・・・。)
小宰相は微笑みながら、一生懸命お妃教育をしている彩子を見つめる。そして右大臣を通して毎日のように文をよこしている。それを見た帝は二条院に行くのが待ち遠しくてたまらなかった。
「帝、中宮様がおいでですが・・・。」
と籐少納言が声をかけると、帝は急いで文箱の中に入れて、几帳の奥に隠す。
「今日は何?」
籐少納言は苦笑して言う。
「本日は中宮様の夜のお召しですけれど?お呼びしてよろしいでしょうか?」
「そうだったね・・・。呼んでいいよ。」
すっかり鈴華のお召しの日を忘れて、帝は小宰相の報告書を読んでいたのだ。文箱を二階厨子になおすのも忘れていた。
「何かいい事あったのですか?」
と、鈴華は帝にいうと帝は慌てた様子で言う。
「何にもないけど?どうして?」
「最近とても楽しそうになさっているので・・・。」
「そうかな・・・。」
そういうと帝は鈴華を引き寄せる。鈴華は几帳の隙間から見える文箱に気付く。
「雅和様、あのようなところに文箱が・・・。」
「ああ、読んでいる途中なんだ・・・。また後から片付けるから気にしなくていい。」
「私に構わずに・・・。」
「ちょっとね・・・。」
帝はドキドキしながら鈴華と一夜を過ごす。こうして毎日誰にも気付かれることなく文を読んでいる。
 師走に入り、宮中は大忙しである。帝が内裏を抜け出す暇もない。明後日に事始めであるので、何とか内裏を抜け出せないか、兄である内大臣と相談する。
「わかりました。右大臣殿からもいろいろ聞いております。何とかいたしましょう・・・。」
と困った顔でいう。次の日帝はいつものように内大臣と入れ替わり、二条院に入る。もうあれから数回はこうしてお忍びで二条院にやってきている。そしていつも、彩子に会い、一刻程して内裏に戻ってくる。
「姫、これからいろいろありまして抜け出すことは出来ません。次は年明け・・・それもだいぶん先でしょうね・・・。」
彩子は寂しそうな顔をして、下を向く。すると帝は気分を変えるように話を変える。
「だいぶんお妃教育が進んでいるって聞いたよ。会えない間、文の交換でもしようか・・・。」
「はい・・・。私、今歌集をいろいろ覚えています・・・。」
すると、小宰相が言う。
「宮様。姫様は、万葉集も、古今和歌集もほぼ覚えられましたわ・・・。先日の養女お披露目の宴でも滞りなくこなされましたし・・・。来年中には入内可能でございます。丁度いいかもしれません。来年末は帝の在位十年でございます。」
「ああそうだね・・・。あれからもう十年経つのですね・・・。来年はいろいろあるらしい・・・。まだはっきりとは言えませんが、都を出て遠いところへ行幸に行こうと思っています。内緒ですよ・・・。」
そういうと、彩子の耳元で、どちらに行くかを告げる。彩子は微笑んで、うなずくと帝に抱きつく。帝は周りの目を気にすることなく、彩子を抱きしめた。
「姫、いつまでこうして忍んで会わないといけないのだろうか・・・。早く入内していただけたらいいのに・・・。今日はこのまま夜が明ける前までこうしていたい・・・。」
「でも、早くお戻りにならないと、内大臣様がご心配になられますわ・・・。」
周りの者は気を使ってか下がっており、部屋には二人きりとなっていた。二人は見つめあうと、帝は微笑んで彩子に初めて口づけをした。
「姫、約束だよ。もしその頃までに入内していたら、きっと連れて行って差し上げます。その時はご案内お願いしますね・・・。」
「はい・・・とても素敵なところをいっぱい知っています。きっと気に入っていただけると思います。」
「楽しみだね・・・。それまでに入内できるように願っているよ・・・。じゃあ内裏へ戻ります。」
この日から、毎日のように忍んで文と歌の交換をするようになった。日に日に彩子の歌が上手になっていくのを見て、帝は彩子の入内宣旨の時期を考え出した。中務卿を兼任している内大臣は、帝の願いを聞き、年間儀礼やさまざまな臨時の儀礼を考慮して内密に入内の日取りを決めていった。
 年が明けてもなかなかはっきりした日取りが決まっていかないが、夏頃がいいのではないかという内大臣の報告を密かに受けた。右大臣もその大体の日取りに従って彩子の入内の準備を始めた。もちろんまだ摂関家の者たちや都の者達は気付いてはいなかった。

 一通り正月の儀礼が終わると、久しぶりにいつものように内大臣に扮して二条院に入る。そして彩子の部屋に入ると彩子に駆け寄り、彩子を抱きしめて言う。
「夏に入内できると思うよ・・・。あとは太政官の者たちに私の意向を伝えるだけ・・・。誰にも反対させないよ・・・。きちんと私の気持ちを皆に伝えるから・・・。」
とても早い入内話に彩子は驚き言葉が出なかったが、彩子は帝に微笑んだ。その微笑に帝は魅了された。

第103章 帝の決断

 夕刻になると内大臣に扮した帝が二条院にやってくる。もちろん内大臣の直衣と、冠をつけ、内大臣家の車でやってきた。右大臣は帝を出迎え、寝殿に案内する。二条院に入ってしまえば、内大臣になりすます必要はない。二条院では内裏内の帝の表情ではなく、雅和親王の朗らかな顔になる。
「母宮の体調はいかがなのでしょう・・・。」
「女王はご機嫌が悪い。手がつけられないのですよ・・・。」
「もう1年以上会っていないからね・・・。昨年は綾乃の看病で内裏を出ず、勅使を送っていたから・・・。」
帝は苦笑して母宮和子の待つ寝殿内に入る。すると母宮は帝の顔を見て言う。
「雅和、こちらに座りなさい。」
「はい、母宮・・・。」
帝は渋々母宮の前に座る。
(この母宮の顔は説教の顔だな・・・。母宮の説教は長いからな・・・。)
帝は苦笑して母宮を見つめると、母宮は急に微笑んで言う。
「雅和、やっと来てくれましたね。母はずっとあなたの事が心配でしたのよ。殿が毎日綾乃様を亡くされた日からのことを詳しく言ってくださった。雅和、あなたは帝なのですよ。思ったことを言えばいいのです。思ったようにすればいいのです。群臣や周り者たちのことをよく考えて行動する優しさはあなたのいいところです。でも悪いところでもありますよ。あなたはどうして自分を犠牲にしたがるのかしら・・・。殿から聞きました。せっかく殿がお膳立てした縁談をお断りになったそうですわね・・・。本心でもなかったということも聞きました。殿をはじめ、内大臣様、右大将様はあなたのためを思っていろいろしてくださっているのに・・・。元の雅和に戻って欲しいからです・・・。あなたが和むのであれば、あの綾乃様によく似た姫君を側において大切にされてもいいではありませんか・・・。その姫君が苦しむというのであれば、あなたが一身にお守りすればいいのでは?いい?雅和。本心を母の前で言いなさい。」
帝はうつむくと、少し考えて母宮の前で言う。
「母宮。もちろん私は綾乃に似た姫を側に置きたい。誰がなんと言おうとも・・・。中宮や女御が反対しようとも・・・。でも、あのようにのびのび育ってきた姫君を後宮に入れてしまったら・・・。」
母宮はため息をついて言う。
「ですから、あなたが姫君をお守りしなさい。いつも言っているでしょう・・・あなたはあなたらしくと・・・。もうあなたの気持ちは固まったはずでしょう。彩子姫を・・・。」
「入内させます。右大臣家の姫として・・・。でもひとつ条件があります。あの姫を出世の道具になどしないでください。少しでもあの姫を堅苦しい後宮の中であってもおおらかに暮らせるように・・・。」
母君と右大臣はうなずくと、右大臣は小宰相を呼ぶ。小宰相は帝の前に座り一礼すると、彩子姫について言う。
「帝、あの姫をこのまま後宮にお入れすることはできません。最低限のお妃教育をしなければなりません。後宮はしきたりが多いのです。」
「お妃教育にはどれくらいかかる?」
「2年・・・いえ早くて1年はかかるかもしれません。彩子姫様の努力次第でしょう・・・。この数日彩子姫様の実力を見てまいりましたが、後宮入りするにはまだまだでございます。あの綾乃様でさえあそこまでの教養を付けるのに十年はかかりました。でも恥ずかしくない程度の教養を何とか身に着けさせますので、お任せください。何とか飲み込みも早そうな感じです・・・。」
「小宰相頼んだよ・・・。」
小宰相は一礼すると、寝殿を退出する。すると帝は苦笑して言う。
「まだまだ側には置けないのか・・・。先は長いな・・・。早くて来年末って事か・・・。」
すると右大臣はあることを提案する。
「内裏からこの二条院は程近い・・・。月に一度くらいはこのようにお忍びで参られたらよろしい・・・。」
「そうですね・・・。でも兄上にご迷惑がかからないでしょうか?」
「それは少しぐらいあるかもしれませんね・・・。内大臣がこちらに来られるという事が摂関家の者たちの目を欺くかもしれませんから・・・。もちろんこのことは内大臣了承のことです。」
帝は心配そうな顔をして右大臣を見つめる。すると右大臣は思い出したように言う。
「そうそう・・・。この邸に彩子姫がいますよ。昨日右大臣家の養女として迎え入れましたので・・・。早速会っていかれますか・・・。」
帝は微笑んでうなずき、右大臣先導のもと彩子姫のいる部屋に入る。彩子姫は帝の姿に気が付くと、満面の笑みで迎え入れる。帝は思わず彩子姫を抱きしめるという。
「私は決めました。あなたを私の妃として迎えます。そしてお守りします。入内までにはまだまだ時間はかかりますが、私はあなたの入内を待っています。いいですか?あなたの入内の件は入内間近まで内密にしてください。そうではないと、いろいろ騒ぎが起こります・・・。」
「はい・・・。」
彩子は真っ赤な顔をしてうつむくと、帝は言う。
「本当にいいのですか?後宮に入っていただけて・・・。」
「はい構いません・・・。私が身代わりの入内としても・・・。私がんばります!」


第103章 養女

 あれから数日後、右大臣が帝の元にやってくる。そして人払いをすると、帝に言う。
「右大臣家に養女を迎えることにいたしましたので、ご報告をいたします。この姫の父君がどうしても京職の者との縁談を進めたがっているものですから・・・・。」
一応、右大臣家クラスになると、養女を向かえる際帝に報告をしないといけないことが暗黙の了解で決まっている。もちろん右大臣が養女に迎えようとしている姫君が誰であるかは帝にはわかっていた。
「うむ・・・。いろいろ縁談のほうは来ているのですか?」
「まあ・・・いろいろありますが・・・。」
「わかった、好きになさい。でもあなたが養女を迎えられるということはちょっとした騒ぎになるのでしょうね・・・。」
もちろん右大臣の養女の件で、ほかの者たちはいろいろ噂をしているのは確かな話である。でもその噂というのは帝に対してではなく、内大臣である一条院宮雅孝親王であって、右大臣の養女を内大臣は側室として所望しているというのだ。内大臣はなんといっても帝の兄宮であり、親王である。帝位継承順位も、帝の四の宮に次ぐ第四位に位置づけられている。いくら側室といっても、やはりそれなりの姫君ではないといけないので、右大臣家が後見となって話を進めているというのだ。もちろんそれだけの噂ではない、帝の弟宮である、御年十七歳である兵部卿宮雅哉親王の正妻として入られるのではないかという噂もある。もちろんこの親王も帝位継承順位は五位で正妻になるのにはそれなりの姫君ではないといけないのである。もちろん噂はうわさであって、実際はそんな話など全然ないのだが・・・。帝は右大将を呼ぶと、噂の真意を問いただす。
「やはり右大臣の養女とは大和守の?」
「はい。大和守の二の姫彩子姫でございますが・・・。何か?」
「噂の真意を聞きたい。兄上の側室なのか、それても弟宮の正妻か・・・。」
右大将はすべての噂がデマであることを知っている。しかし彩子の養女の件は帝のためであることなど言うわけがない。
「さあ・・・。内大臣様にそのような浮いた話は・・・。もともと結姫様との仲は睦まじく、お子様も三人いらっしゃるのです。今年親王様が生まれたばかりでありますし・・・。」
「そういえばそうだね・・・。兄上には側室など必要ない・・・。では兵部卿宮か?父上からは縁談の話は聞いてはいないし、弟宮であっても宮家の者の結婚は私の許しがないと・・・。」
右大将は苦笑して言う。
「あくまでも噂は噂。群臣の噂を信じられるとは・・・帝らしくありませんね・・・。どちらにせよ、宮様方の結婚に関しては、まず帝に報告が来るはずですよ・・・。今日兵部卿宮は参内されています・・・。良ければお呼びいたしましょうか?」
「いや、いい。噂だし・・・。」
「気になられますか?彩子姫のこと・・・。」
帝は黙り込んで、右大将を下がらせる。
 一方右大臣邸である二条院では、この日彩子が養女として迎えられていた。正式な養女の発表はまだ先である。彩子は綾乃が一時期暮らしていた部屋を与えられ、そして綾乃の側にいた女房たちが彩子の身の回りの世話をする。国司の姫として育った彩子は右大臣家の華やかさに驚く。何もかもが華やかで、今まで数人であった女房の数も、右大臣家の養女となると十数人を超えている。国司の姫であったので、乳母はおらず女房の筆頭として小宰相が側に付き、いろいろと女房たちに指示を飛ばしていた。彩子は圧倒されて黙り込んでいた。
「姫様、右大臣様の北の方様がおいでです。さ、きちんとお座りになられて・・・。」
と小宰相が彩子をきちんと座らせると、右大臣の北の方である和子女王が入ってくる。彩子はさすが優雅な身のこなしは右大臣家の北の方であると感心して見つめる。
「あなたが彩子様ね・・・。殿からいろいろお聞きいたしました。あの藤壺更衣様の姫君なんて・・・。よく存じ上げておりますのよ。」
「お母様をですか?」
「はい。私も右大臣様と結婚する前は後宮にいましたのよ。麗景殿中宮として・・・。まあいろいろありまして、後宮を自ら出たのですけれど・・・。」
和子は微笑むと、女房達に言っていろいろ持ってこさせる。
「お道具は殿の一の姫様の使っていた物で申し訳ありませんが、これは私からの贈り物です。右大臣家の姫として身だしなみをきちんとなさって・・・。」
そういうと、蒔絵の入った箱を手渡す。その中には櫛やら鏡やら入っていた。そしてさらに彩子の為にたくさんの衣装を用意した。
「こちらの邸は今上帝の御里ですので、稀にこちらに行幸される事があります。きちんとした身なりで・・・。」
すると小宰相が、彩子の耳元で言う。
(姫様、こちらの御方は帝の御生母様です。いろいろありまして右大臣様の正妻になられますが、度々帝は母宮様のご機嫌伺いに参られます。ほとんどは勅使の事が多いのですが・・・。)
彩子は驚いて和子を見つめると確かに帝の顔に似ている。
「小宰相、十日後に養女お披露目の宴があると殿から聞きました。姫君のことよろしくお願いしますね・・・。」
「かしこまりました・・・。」
そういうと和子は退出する。和子は右大臣から聞いて彩子はいずれ入内させるつもりであることを知っている。もちろん今日初めて彩子と面会して、綾乃に思ったよりも似ていることに驚いたのは言うまでもない。今日は早めに帰宅している右大臣に和子は言う。
「殿、本当に綾乃様によく似た姫君ですこと・・・。本当に雅和は優しすぎです。」
「ああ、そうだね・・・。内大臣からも聞いた。本当は側に置きたいと仰せらしい。しかし、姫の気持ちが大事だという・・・。帝にあなたのご機嫌伺いに来るように策を練りましょうか・・・。」
「そうですわね・・・。優しいあの子のことですから、私が寝込んでいると聞いたらすっ飛んでくるでしょうね・・・。」
次の日早速右大臣は帝の御前で和子のことを言う。
「最近、女王の調子が良くありません・・・。」
「え、母がですか・・・?」
「はい・・・今年に入ってから一度も二条院のほうにいらしてない・・・。」
「そういえば、皇后のことで頭がいっぱいで母宮に会いに行っていなかったね・・・。さぞかし母宮は寂しい思いをされたかもしれないね・・・。わかった、今夜お忍びでそちらに行くことにします。」
「御意・・・。」
帝は内大臣を呼んで話す。内大臣は右大臣からそれとなく聞いていたので、急遽清涼殿に宿直することにした。帝がお忍びでやってくるというのを聞いて、二条院は慌しくなった。もちろん小宰相も張り切って、準備を整える。
「小宰相、どうかしたの?なんだか邸内が騒がしいの・・・。」
小宰相は微笑んで言う。
「帝がお忍びでこられるのです。内大臣として・・・。お忍びにこられるときはいつもこうなのですよ。形式上では帝の御使者として内大臣様をお使いになるのです。今回は帝なのですけれど・・・。今回は急遽母宮様のご機嫌伺いとか・・・。姫様もきちんとなさってくださいね・・・。」
彩子はうなずくと、胸がときめく。
(あの帝にお会いできるかもしれないのね・・・。本当に素敵な方ですもの・・・。あの方なら皇后様の身代わりでもいい・・・。堅苦しい後宮でも我慢できそう・・・。)
彩子は顔を赤らめると、早く夕刻にならないかとドキドキする。


【作者からの一言】

久しぶりの更新です^^;

ネタがなくて・・・。やっとある程度かけたので更新しました。


彩子は帝に同情して入内しようと決心しました。これが良かったのか悪かったのかはこれからわかってきますが・・・・。