超自己満足的自己表現 -459ページ目

うれしはずかし恋愛生活 東京編 (16)雅和の記憶の欠如と変化

 僕はアメリカ留学から帰国し、成田から乗った特急電車の事故にあい、奇跡的に助かった。九死に一生・・・。助かった原因はいろいろあったそうだけど、やはり眠っていて変な力が入らなかったこと、偶然狭い隙間に入り込んで挟まれずにすんだこととかいろいろな偶然が重なって周りの乗客が命を落とす中、僕は奇跡的に助かった。


でも命の代償は大きい。僕は記憶の一部をなくした。父さんによると僕の人生の中で一番大事な記憶をなくしたらしい・・・。それは僕の身の回りのことをしてくれる「綾乃」っていう女の子のこと。とても可愛くていい子なんだけど、彼女がどうして僕の側にいるのか、そして彼女が誰なのか一切思い出せない。それなのに彼女は文句ひとつ言わずに僕の側に寄り添って身の回りの世話をしてくれる。 彼女は僕の婚約者らしい・・・。親が勝手に決めたんじゃなくって、僕が父さんに頼みこんで決めた最愛の女の子らしい・・・。


「あたしは雅和さんに無理に思い出してほしいなんていわないよ。思い出せないのなら、1から私を好きになってくれればいいから・・・。」


と、彼女は僕に無理を言わずに微笑みながら話してくれた。


今日から彼女は昼間大学に行くらしい。朝早くにおきて、きちんと朝食と僕のために昼食の準備をしていく。


「雅和さん、お昼テーブルにおいてあるから、レンジでチンして食べてね。今日は講義が始まるから、帰り買い物して帰るね。雅和さんの大好物作るから、楽しみに待ってて・・・。じゃあ行って来るね。」

「どこの大学?」

「慶應だよ。今三田のキャンパスにいるのよ。」


そういうと、彼女が連れてきた犬、マックスの頭を撫でて鍵を掛けて出て行く。


彼女は本当に料理が上手で、気が利く子。いつも笑顔を絶やさずに朗らかに生活しているんだ。僕はマックスを抱き上げて、撫でてやると、服従のポーズをしてじゃれてくる。 僕は勉強部屋に入って机に向かう。机に並べてある写真たてにはいっぱい思い出写真が並べてあったが、まったく記憶にない。もちろん自分がいるのはわかるんだけど、どうして彼女が横にいるのかがわからないんだ。


一応頭がなまってはいけないと思って、本棚からいろいろ政治学の本を取り出し、はじめから読んでみる。もちろんこの本を講義でやった記憶はばっちりある。いろいろ本棚を漁ると、アルバムを見つけた。


「なんだろこれ・・・。」


表紙には「結納式」と書かれ、中には着物を着た彼女と幸せそうに微笑んでいる写真が何枚もあった。そしてぱらぱら見ているうちに封をされた封筒を見つけたんだ。その表書きにはこうかかれている。


『源綾乃の20歳の誕生日にこの婚姻届を区役所に必ず出すこと  弐條雅和』


婚姻届???


僕ははさみで封を開けてみると本当に婚姻届だった。提出日は来年の1月15日になっている。そして後は提出するだけの状態。表書きはもちろん自分の筆跡。このとき彼女は本当に僕の婚約者であると確信したんだけど、でも記憶が戻らないんだ。 僕は昼を食べて後片付けをしたあと、パソコンをいじっていた。久しぶりにメールを確認する。いろいろなフォルダーの中に彼女からのメールがぎっしり入ったフォルダーがあった。そのフォルダーを開け、読もうとしたら玄関のベルが鳴る。のぞき窓から見るとそこには懐かしい顔を見える。


「桜ちゃん?」

「雅和さん、パパに住所聞いて来ちゃいました。源さんはいないようね・・・。」



雅和×桜
僕の幼馴染、土御門桜は僕に抱きついてくる。


「なに?」

「いつまで好きでもない婚約者といるの?もともと私は親が決めたあなたの婚約者だったのに・・・。」


もちろん桜ちゃんは20歳になって大学生だからか、以前に比べてとてもきれいで色っぽい。なんていうのかな・・・。彼女(綾乃さん)は清楚な感じで、僕の後ろを歩くような古風な感じなんだけど、この桜ちゃんは現代的で派手って感じかな・・・。遊んでるって感じ・・・?小悪魔って感じ?超いいとこのお嬢さんなのに・・・。


桜ちゃんは僕の肩に手を回して、いきなりキスを迫ってくる・・・。


「悪い・・・今日は帰って・・・。そんな気にはなれない・・・。」

「私がこうしてわざわざ来たのよ!私に恥をかかせるつもり?」

「お願いだからかえって!」


この小悪魔は僕の顔を見てむくれると、こういって家を出て行った。


「まあいいわ。私この近くの聖心女子大に通っているから、ちょくちょく顔を出しに来るわ。もちろん源さんがいないときにね。また携帯に電話するわ。」


もちろん桜ちゃんは僕が彼女の記憶をなくしているのをお父さんに聞いたんだろう・・・。今の段階では彼女のことはなんとも思っていないつもりなんだけど、さっきの婚姻届といい、結納の時の写真を見る限り、記憶をなくす前の僕は彼女の事が好きで好きでたまんなかったんだろうと思う。


僕は彼女のどこがよかったんだろうと疑問に思うときがある。どうして桜ちゃんを選ばなかったんだろう・・・。タイプは違うけれど、どちらもきれいな子なのに・・・。僕はどっちがいいんだろう・・・。


僕はいけないことを考えてしまった。もしかしたら、桜ちゃんと付き合ったら、僕が婚約者である彼女の良さがわかるかもしれないと・・・。まあ世間で言う二股をかけてみることにしよう。もちろん婚約者である彼女には秘密で・・・。


夕方になると、買い物袋をかかえた彼女が帰ってきた。


「雅和さん、おなか空いたでしょ。今から夕飯作るね・・・。」

「んん・・・。」


彼女は満面の笑みで僕を見つめながら自分の部屋に着替えに戻ると、エプロンをかけてキッチンに立つ。


「今日はね、雅和さんが大好きなトマトソース味のロールキャベツだよ。ちょっと時間がかかるけど、待っててね・・・。」


彼女は手際よくロールキャベツを作っていく。ホントに彼女は家庭的だ。一切惣菜なんて買ってこないし、きちんと手をかけて夕飯を作ってくれる。そして美味い。下手なレストランに行くよりも美味いんだ。彼女はたくさん作って、密封容器に入れると、きちんと毎日近くに住む彼女のお父さんのために食事を運んでいる。今時珍しい親孝行のいい子かもしれない・・・。もしかしてそういうところを好きになったのかな・・・。


「ホントにたくさん作っちゃったね・・・。たくさん食べてね。残ったら明日の昼にでも食べてよ。」

「ん、んん・・・。」


彼女は僕が食べ始めるまで一切手をつけず僕を見つめて微笑んでいる。


「久しぶりに作ったからまずいかな・・・。」

「ううん・・・おいしいよ。ホントに君は料理が上手だね・・・。」

「よかった・・・。明日は和食にするね。中華がいいかな???」


なんて朗らかで純粋な子なんだろう・・・。僕は彼女にだんだん惹かれていることには気づかなかった。 僕は彼女がいないときは桜ちゃんと会い、桜ちゃんがいないときは彼女と過ごすという二重生活がはじまる。もちろん桜ちゃんと関係を持ったのは言うまでもないが・・・。


桜ちゃんを抱きながら、僕はすごく心が痛む。どうしてだろう。婚約者の彼女のことなんてなんとも思っていないはずなのに・・・。


この二重生活を親友の響貴に知られてしまったのは言うまでもない・・・。もちろん怒鳴られてしまったけど・・・。


「雅和、お前は何考えているんだ!あれ程綾乃ちゃん一筋だったのに・・・。あんな高飛車桜と二股かよ!綾乃ちゃんはお前の前ではすごく明るくしているけど、大学ではしょっちゅう泣いているんだ。それを見て綾乃ちゃんに言い寄るやからが増えたんだよ。このままだったら誰かに持っていかれちまうぞ!早く厄介なことになる前に、桜と別れろ!そして綾乃ちゃんを大事にしてやれって・・・。あんなにいい子はいないぞ。」

「え?」


彼女は僕の前でなんともないように振舞っていたんだ・・・。そうだよな・・・。一番大事な人から忘れられて・・・悲しまない人なんていないだろう・・・。


もちろんこのひと月桜ちゃんと付き合ってみて、だんだん彼女と桜ちゃんの違いがわかってきたんだ。やっぱり彼女は家庭的で、僕のことを一番に思ってくれている。


すると響貴は僕にこういったんだ。


「桜と別れないのなら、俺は綾乃ちゃんをお前から奪う。いいか!綾乃ちゃんを泣かせるお前を許せないんだ。俺は高3の頃から綾乃ちゃんを想っていたんだからな!お前に隙があれば、いつでも奪ってやろうと思ってたんだよ!」


僕は無意識のうちに響貴を殴っていた。なんとも思っていないはずなのに・・・。


僕は桜ちゃんに別れを告げる事にした。もちろんそう簡単には別れることはできなかったけれど・・・。でもなんとか別れる事が出来た。


11月末。毎年恒例の三田祭の季節・・・。僕は響貴に連れられて参加することになった。休学中とはいえ、いろんな先生や学生たちの声をかけられる。みんな僕のことを心配してくれるんだ。もちろん記憶の一部以外はもうなんともない。出来ることなら今すぐ復学したいくらいだ。


「雅和、4月には復学するんだろ?」

「ああ・・・。」

「俺はなんとか3月に卒業できそうだけど・・・。先に出ちゃってごめんな・・・。」

「いいよ。しょうがない。秋の卒業式には卒業するよ。」


僕は久しぶりにキャンパスライフを味わった。すると特設ステージが騒がしくなる。


「ああ、始まった!行こう雅和。」


ステージは恒例のミスコンが始まるようだ。


「雅和、驚くなよ・・・。今年は綾乃ちゃんが出てるんだ・・・。綾乃ちゃんは嫌がったんだけど、結構推薦が多くてね・・・。大学いちの美人だし・・・。清楚な感じが男子学生受けをするんだよな・・・。今年は綾乃ちゃんに決まりだな・・・。ほら出て来た。」


衣装であるウェディングドレスに身を包んだ彼女は最後に司会者に呼ばれ、誘導役の男子学生に手を引かれ、はずかしそうに出てくる。彼女が出ると、男子学生からの黄色い声援が・・・。


「・・・・。」


彼女は緊張のあまり言葉を失っている。すると僕は無意識で彼女に向けて叫んでいた。


「綾乃!ガンバレ!!」


みんな僕のほうを振り返る。僕は恥ずかしくなってその場を急いで立ち去った。もしかして徐々に彼女のことを無意識に思い出してきたのかな・・・。最近になって特にそうなんだ・・・。もちろん彼女はミス慶應に選ばれたらしいんだけど・・・。僕はなぜか機嫌が悪い。


「あれ?雅和、焼いてるのか?綾乃ちゃんがミスに選ばれて・・・。これでますます綾乃ちゃんは大学の人気者だよな・・・。」

「べ、別に・・・。」

「今年は今日、ミスターも決めるらしいぞ。雅和が休学していなかったらきっと選ばれるだろうに・・・。残念だよね・・・。ミスとミスターに選ばれたら明日なんかあるそうだよ・・・。」

「実行委員は誰だよ!実行委員は!」

「さあね・・・。あれ?雅和、綾乃ちゃんのことなんとも思っていなかったんじゃないのか?」

「う、うるさい!」


僕は気になって会場に急ぐ。もうすでにミスター慶應は決まってしまって、選ばれたのは医学部4年の丹波というやつ・・・。こいつはなんとなく知っている。


「やっぱり丹波がなったのか・・・。信濃町キャンパスの丹波、三田キャンパスの弐條というくらい有名やつだ。ホントにお前が出ていたら一騎打ちだったよ・・・。丹波の家は代々医者だよ・・・。江戸時代には徳川家の御典医・・・。もちろん綾乃ちゃんとこみたいに古くは平安時代以前から続く名家だよ。どうする?雅和・・・。あいつは結構遊び人だ。」


なんと最終日に二人はスポンサーが行うファッションショーで模擬結婚式をするらしい・・・。すると丹波が僕のほうにやって来て言うんだよ。


「弐條。明日、お前の婚約者の唇を奪わせてもらうぞ。じゃあな。」

「丹波・・・。」


ホントに丹波は嫌味なやつだ・・・。本当に僕はイラついた。家に帰ってもイラつきはおさまらなかった・・・。


【10うん年振りの漫画^^;】IF~もし全部夢だったら・・・

もう高校生以来の漫画となりますね・・・。漫画になっていないような気がしますが・・・。

これは長期連載していた作品1(題名がありません^^;)の中間部分からの話がすべて夢だったっての設定で小説を書いたんですが・・・。なんか漫画を描きたくなって・・・書いてみました・・・。これ以上のものはかけません・・・。


題名「IF~もしぜんぶゆめだったら・・・」

主人公の中務卿宮雅和親王15歳が夢から目覚めたところから始まります。本編では主人公はタナボタから15歳で東宮になって帝になって波乱万丈な人生を・・・って言う設定ですが・・・それがすべて夢だった???これは・・・?




if1



If2


気が向いたら書きます^^;やはり私には無理かも・・・。GOODが入ればまた書くかもしれませんが・・・。


やはり無理そう!!!挿絵でもうちょっと勉強します^^;


追伸^^;:FC2 ブログ の小説サイトでのみの連載となりました^^;こちらでは発表いたしません^^;すみません。イラストもそちらでのみUPします。



うれしはずかし恋愛生活 東京編 (15)大惨事のNEXに乗った彼

 あたしは雅和さんが帰ってくる当日の朝から、雅和さんのマンションを掃除したり、買い物行って夕飯の支度をしているの。さっき無事成田についたって電話あって、6時半までには帰って来るっていうからあたしは雅和さんの好きなものばかり作って、後は帰ってくるのを待つだけの状態で、ソファーに座って再放送のテレビを見ていた。


 あああと1時間で渋谷に着くなって思ってそろそろ準備再開しようと思った途端、ニュース速報が入ったの!


『17時過ぎ、成田国際空港発大宮行き成田エクスプレス32号脱線転覆事故発生。詳しい情報が入り次第・・・・』


え!確か雅和さんが乗るって言ってた特急!ちょっと待ってよ!あたしは急いで雅和さんの携帯に電話をしたの。でも何度かけても呼び出し音だけで、出ない!


テレビでは緊急報道番組で事故現場の映像が流れている。原因はわかっていなかったけれど、マジで脱線転覆!3両目までぐしゃぐしゃだった。4両目以降に乗っていることを私は願ったんだけど、その願いは叶わなかった。


あたしの携帯が突然なってきっと雅和さんだと思ってでたら違ったの。


「雅和さん?!あ、お父様・・・。」


それは雅和さんのお父さんからだった。あたしはお父さんの一言に絶句した。


『雅和は1両目に乗っているんだ!とりあえず公邸に来なさい!』



綾乃&NEX
あたしは早速広尾からタクシー拾って総理公邸まで急いだ。私はパパに電話をかける。


「パパ!雅和さんが!雅和さんが・・・。脱線した特急に乗っているの!それも一両目!どうしようあたし・・・・。今から雅和さんのお父様に呼ばれて公邸に向かっているの・・・。」

『弐條君がか!パパも今、防衛庁から救援命令が出て今現場に向かっているところだ。パパが陣頭指揮を執ることになったから見つかったら電話する!』

「お願い助けて!」

『わかってる。落ち着いて・・・。』


やはり雅和さんが事故に巻き込まれた情報が流れているのか、公邸前は報道陣でいっぱいだった。あたしの乗ったタクシーは報道陣のいっぱいいる公邸玄関前で止められ、あたしはタクシーから降りる。あたしにたくさんのフラッシュがたかれる。あたしは待っていた橘さんに支えられながら公邸内に入ったの。


あたしは公邸内の大きなテレビの前で、雅和さんのお父さんと一緒に報道番組の映像を見ながら、連絡を待っていた。公邸内どころか、官邸内も関係者が走り回っている。


「綾乃さん、大丈夫・・・。きっと雅和は見つかる。雅和は昔から運のいい子でね・・・昔いろいろあったけれど、傷ひとつ負わずに生きてきた子だ。現場には綾乃さんのお父様もいることだ。お任せするしかない。」


あたしは雅和さんのお父さんに抱かれながら泣いていたの。続々と死傷者が運ばれていくんだけど、まだみつからない。


「総理!1両目から雅和様のスーツケースが!」

「そうか!やはり乗っているんだな・・・。ほかは情報はないか?!」

「いえ・・・。1両目は損傷が激しいためなかなか手をつけられないとの報告が・・・。」


やはり混雑時の特急列車。時間がたつにつれて死傷者の数が増えていく。テレビでも続々と亡くなった人の名簿や運ばれた人の名簿が発表されている。もちろん乗っていると思われる行方不明者の名簿も発表された。もちろん先頭には雅和さんの名前。報道番組でも総理大臣の次男が行方不明であると報道され始めたの。


陸上自衛隊の救援部隊と消防庁レスキュー隊が少しずつ事故車両を重機で解体していき、人が見えると重機が止められ手作業で解体し、救助されていく。やはり一番ひどい1両目の前のほうは生存者が極端に少ない様子で、死者数が増えていく。


雅和さんのお父さんは橘さんを現地に派遣して、あたしのパパの側にいるらしい。あたしのパパの指示がきちんと通っているからか、2両目から3両目までは救助が終わり、最後は一番ひどい1両目を残すだけとなったの・・・。


あと何人残っているんだろう・・・。


満席としてあと20人ほどだという情報が流れる。本当に情報が錯綜しているの・・・。


夜が明け、第二班と交代し、制服を着たパパが、たくさんの荷物を持って公邸を訪れる。もちろん報道陣はパパを取り囲み、様子を伺う。


「総理のご子息は?」

「まだ行方不明のままです。今発見された荷物をこちらに持ってきただけですから。」


パパは報道陣を振り切って公邸の中に入っていく。公邸の一室に雅和さんのものと思われる荷物を運び入れ、雅和さんのお父さんは中身を確認する。


「スーツケースは名前が書いてありましたのでこれだと思うのです。あとかばんも見つかりました。カバンのほうはパスポートと携帯電話が入っておりましたのでこれであると・・・。」


カバンの中にはパスポート、携帯、財布、大学に出すレポート、そしてあたしの写真とお土産・・・。確かに雅和さんのカバン・・・。中は無事だったけれど、外はどう見ても血でいっぱいだった・・・。パパはあたしに言ったの。


「綾乃、覚悟しておいたほうがいい・・・。あの状況では・・・。だから・・・。」


あたしはパパの言葉に絶句する。もちろん雅和さんのお父さんも・・・。


「こうしてカバンも見つかったのだから、きっともうすぐ見つかるはずだ・・・。いいね・・・綾乃・・・。」


その時雅和さんのお父さんの携帯が鳴る。橘さんからのようだ・・・。


『総理!発見されました!今搬送中です!』

「橘君!本当か?!どこの病院だ!」

『新宿区東京医科大学病院救命救急センターです!』

「わかった。今から向かう!」


パパは市ヶ谷駐屯地に戻ってから病院に合流の約束をする。パパはあたしをぎゅっと抱きしめたあと、一緒に来ていた部下の人と車に乗って市ヶ谷駐屯地に向かった。あたしは用意された車に雅和さんのお父さんと乗り込んで病院に向かう。 病院にはまだ雅和さんは到着していなかった。


続々と雅和さんよりも先に助け出された乗客が運び込まれている。やはりここも大変混雑している。ここに総理大臣が来ている事さえ皆気がつかない・・・。まだ雅和さんが到着しないうちにパパも急いでやってきた。


「まだ到着していないのか!現場はもう救出活動は終了し、現在は国交省に引き継ぎました。現場検証をしています。あのような惨状はこの私でも・・・。とりあえず救出活動が予想より随分早く済みましたので、なんとか最悪の事態は免れたと思います。」

「そうですか・・・。さすが源さんですね・・・。レスキューと災害救援部隊が協力し合って出来たんだと思います。このような時は結構行き違いなどで活動が遅れる場合が多いが・・・。さて雅和の様態はどういう程度かが問題だ・・・。」


やはりいつも冷静な雅和さんのお父さんはこの時ばかりは大変苛立っているの・・・。続々と病院の表は報道陣が集まってきている。すると救急車が到着するのか、看護師と医師が表に走っていく。


「最後の負傷者です。名前は弐條雅和さん、年齢21歳、男性、学生、程度は・・・・。」


看護師と医師のやり取りする声が聞こえる。やっと到着したみたいなの・・・。


ストレッチャーにのせられ、首には災害時にかけられる負傷の程度が書かれた札がついている。意識はなく、酸素マスクをかけられていた。やはり体中は血でいっぱい・・・。あたしは見ていられなくなって、パパの胸に顔をうずめた。ここまで付き添っていた橘さんが雅和さんのお父さんに状況説明をしている。雅和さんのお父さんは椅子に座り込んで溜め息をつく。相当危険な状態らしい・・・。あたしはショックのあまり気を失って倒れたの・・・。


気がついた頃には雅和さんは峠を越え、なんとか命には別状ない状態だと聞いた。でもまだ面会謝絶状態は続いているの・・・。雅和さんのお父さんは公務があるからとしょうがなく病院を離れ、あたしは救命センターのロビーで夜を過ごす。


一度雅和さんの家に戻って、片づけをしたり、着替えを用意したりしたぐらい・・・。やはり相当頭を打っているのかまだ意識は戻らないらしい・・・。そのほかはなんとか怪我の程度は軽く、切り傷、打撲と骨にひびが入っている程度という。不幸中の幸いというか、あの状態でこれくらいで済んだことが奇跡に近いといわれたの。だって雅和さんの周りのほとんどの人は即死状態か、助け出されたとしてもショック状態のため、続々と息を引き取っていく。でもまだ意識が戻らないということが、主治医は気がかりでしょうがないという。


「CT、MRI、脳波と、すべて検査しました。脳内出血等は見られません・・・しかし意識が戻らないとは・・・。何かほかに原因があるかもしれません。もう少し詳しい検査を行ってみます・・・。そのように総理にお伝えください。わたくしたちは全力を尽くして治療いたしますので・・・。」


「はい・・・。」


あれから何日経ったんだろう・・・。毎日病院を行ったり来たりで、日にち間隔も曜日間隔もまったくなくなってしまったの・・・。まあ今は夏休みだからしょうがないんだけど・・・。


あたしはこの前、雅和さんのお父さんの代理として大学の学生課や国際交流センターに書類を届けに行ったの。もちろん大学はあたしが雅和さんの婚約者であることを知っているから、いろいろ心配してくれる。あたしは雅和さんの休学届けと、留学後に関する書類を全部提出して家に戻ってきた。雅和さんは帰国前に書類をすべて揃えていたから、留学中の単位認定は可能であると、先生たちは言っていた。もちろんあっちの大学でも結構優秀な成績であったと、報告があったらしい・・・。


意識は戻っていないんだけど、事故から1週間で一般病棟に移ることになったの。相変わらず面会謝絶だったけど、あたしだけは病院の配慮で病室に寝泊りするの・・・。


いつまで眠っているつもり?早く目覚めて「綾乃おはよう・・・」って言ってよ!お願いだから・・・。いつものように優しい微笑であたしを見つめてよ・・・。


あたしは毎晩雅和さんの手を握りながら椅子に座って眠ったの・・・。手のぬくもりはいつもの雅和さんと同じ・・・。


雅和さんのお父さんによると脱線原因はやはり鉄道会社にあるようで、詳しい原因はよくわかってないんだけど・・・。毎日のように鉄道会社の社長や取締役達が公邸にやってきて土下座してお父さんに謝って帰っていくらしい・・・。お父さんはやはりいろいろ言いたいらしいけれど、やっぱり総理よね・・・。


「うちは最後でいいから先に他の遺族や被害者に謝罪を・・・。」


と・・・。もちろん記者会見でもそう言ってた。もちろん公の場以外ではすごく落胆して泣いていらっしゃるんだって・・・。


ある日あたしはいつものように雅和さんの手を握ってじっと雅和さんの顔を眺めてた。そしていつものように、雅和さんに声をかける。


「雅和さん・・・起きて・・・愛してるから・・・起きて・・・。」


するとなんだか手を握り返してくるような感覚がしてもう一度握ってみるの。やっぱり気のせいではなかった・・・。あたしは看護師を呼び、確認してもらう。やっぱり気のせいではなかったの。すぐに公邸に電話してお父さんを呼んだのね・・・。お父さんは公務を切り上げてすぐに病院までやってきたの。やっぱり意識が徐々に戻ってきたのか、お父さんが声をかける・・・。


「雅和、聞こえるか?父さんだ、わかるか?」

「ん・・・んん・・・。」


まだ意識が朦朧としているのか、反応は鈍い。主治医の先生はこれで大丈夫ですと言ったの。


「弐條さん、弐條雅和さん。聞こえますか?聞こえたら手を握ってください。」


するとすぐに握り返してくるというので、もうすぐ意識がはっきりしてくるでしょうといい、病室を出て行った。


「よかったね、綾乃さん・・・これで雅和は大丈夫だ・・・。これからも雅和のことを頼みましたよ・・・。」

「は、はい!」


あたしは嬉しくてたまんなかった・・・。早くあたしの顔を見て「綾乃」って呼んでくれないかな・・・。でも・・・。 でも違ったの・・・。少し経って先生の言うとおり意識がはっきりして目を開けてくれた・・・。


「雅和!気がついたか?どうだ、気分は?」

「父さん・・・?公務は?」

「お前の意識が戻りそうだと電話があって、公務を切り上げてきたんだよ。ほら側には綾乃さんがいてくれているぞ。ずっと心配して側にいてくれたんだ。」


すると雅和さんはあたしの顔を見て不思議そうに言ったの・・・。


「綾乃・・・?綾乃って誰・・・?この子は?」

「何言ってるんだ、お前に最愛の婚約者じゃないか・・・。」

「婚約者?そんな人いたの・・・?」

「おい!こんな時に冗談を・・・・まさか・・・。」


そう雅和さんはあたしのことだけを忘れてた。記憶喪失ってことかな・・・。ホントにあたしに関することをすっかり・・・。ちゃんと大学に進学して、ワシントン大学に留学して帰ってきてNEXに乗ったことまでは覚えてるらしいけれど、事故の直前あたしに電話したことも、1年ちょっと前に結納したことも、高校で運命的な出会いをしたこともすっかりあたしのことは記憶になかった・・・。先生は多分一時的なショックによる記憶の欠如といっていたけど・・・。でもなんであたしのことだけを忘れるんだろう・・・。パパの名前と職業はわかっていても、どのような関係なのかがわからないというしね。あたしはショックだった・・・。


なんとか事故から一月後、無事退院して、自宅療養となったの。依然あたしの記憶は戻らないまま・・・。あたし達の関係はどうなってしまうんだろう・・・。あんなにあたしのことを愛してくれていたのに・・・。あたしは悔しくて悔しくてたまらなかった・・・。


自宅療養中あたしはパパに許可をもらって雅和さんのマンションに住み込むことになったの。もしかしたら一緒にいて思い出すかもしれないって・・・。あたしも休学しようかと思ったけれどそれは反対されて、9月末から始まる大学生活の再開をこうした形で迎えなければならないと思うと、ホントに悔しくてたまんないよ・・・。 本当にいつになれば以前のようになるのかな・・・。あたしは祈るような気持ちで雅和さんとともに広尾のマンションに戻ったの。



【作者からの一言】

何とか命が助かった雅和。しかしその命の代償は大切な記憶・・・。この2人の関係は終わってしまうんだろうか?

今回のNEX画像はキハ28号 さんからご提供いただきました^^スペシャルサンクスでした^^

縁~えにし  (7)選択 (イラスト付)

(7)選択


 ついに夜になって元服のお式が始まろうとしていたのね・・・。続々参列者が紫宸殿に集まってきて、私は最後のほうに入ってきたの・・・。上座には後二条院の横にもうひとつお席があって、誰が座るんだろうって思ったら、紫宸殿中が騒がしくなって私の本当のお父様後宇治院が入ってきて後二条院の横に座ったのね・・・。育てのお父様は正四位だから群臣の中央くらいに座っておられたけど、私とお母様は後宇治院の側に座ったの。


 みんな着座したのを確認して、誰だかわかんないけど、偉い人が私の宣旨(院政中だから院宣だけど・・・。)について読み上げるの。


「院宣 後宇治院三の宮小夜子姫を本日より三品内親王とする。」


私は後宇治院の元皇后の子だから皇族位の上から三番目の位と内親王の称号を賜ったんだけど、何がなんだかわからないし、周りの人たちは不思議そうにざわついていたわ。後宇治院様は私に真横に座るように言われたから立ち上がって座りなおしたの。そうしたら院様は私の頭を撫でて微笑まれたの。


「今日からあなたは正式な私の娘だよ・・・。」


私は黙ったままで院様の顔を見つめていたんだけど・・・。なんとかそのあと帝の元服式が始まって、さっきとは一変、厳粛なムードになったのよ・・。


帝は禁色の衣装を身に着けて、長い童髪を切りそろえて大人の髪を結って冠をつけられたお姿はますます後宇治院によく似ておられて御式を見て私は感動してしまった・・・。お母様もやはり親なのね・・・。とても喜んで御式を見ていたわ。


いつの間にか私は後宇治院様にもたれかかって私は眠っていたの。やっぱり朝早かったし、ずっと重い衣装で一日いたでしょ。お式は夜行われるしね・・・。あとから聞いたんだけど、後宇治院様が眠っている私をお母様のお泊りになる桐壷まで運んでいただいたらしいの・・・。その夜、眠っている私の横で八年ぶりにお母様と後宇治院様が今後の私についてゆっくりお話になったそうだけど、とりあえずこの私の意見を尊重しようということになったらしいの。


その日の夜、後宇治院様は後二条院様と二条院にて色々お話し合いになったそうよ。 朝早く私は目覚めたのね。横に寝ているはずのお母様は昨夜全然眠れなかった様子で、目覚めた私の顔を見て微笑んだの。


「今日は二条院に行ってあなたのことを話すことになっているの。和気のお父様も同席するわ。」

「院のお父様は?」

「昨日二条院にお泊りだから、二条院におられるわ・・・。」


私は朝餉を食べてお母様と一緒に二条院に行くことになったの。お母様は車の中でずっと溜め息をついて私を見つめているの。


「あなたのお父様はあなたをどうするおつもりかしらね・・・。小夜、きちんとあなたの気持ちを伝えるのですよ。あなたのお父様は信用できない方だから・・・。」

「どうして?とてもいい方だと思うけど?」


お母さまは苦笑してそれ以上のことは言わなかったけれど、きっと話したくないことがいっぱいなのかなってなんとなく思ったの・・・。ほんとにお母様はいろいろな事がありすぎの方だから、きっと話したくないことがいっぱいなんだと思うのよ。


二条院につくとすでにみんな揃っていたの。後二条院様は側にいる侍従まで遠ざけて、私達だけにしたの。身内以外がいなくなったのを確信したら、後二条院様は私にお聞きになったの。


「小夜、小夜はどうしたいのかな?本当のお父上のいる宇治で過ごすのか、それともこのまま下賀茂で過ごすのか・・・。小夜はどちらに行きたい?」

「そうだよ、小夜姫。父はあなたを無理に宇治に連れて行こうと思わない。まずはどうして内親王院宣をしたかわかるかな?」


私はあまりよくわからなかったから首を横に振ったのね。そしたら和気のお父様が言ったの。


「小夜、いいかい。父様はお前を捨てたのではない。お前のことを考えて承諾したのだよ。父様の家柄ではもういくらがんばっても、これ以上は出世しないよ。このままだったらいいところにお嫁にいけない。いいところに行けたとしても、側室だよ。お前には幸せになって欲しいから、内親王院宣に承諾したのだよ・・・。決してお前を嫌いになったわけではないから安心しなさい。だからこれからどちらのお邸で過ごすのかはお前が決めていいんだよ。無理強いなどしないから・・・。」


私は和気のお父様も好きだし、後宇治院のお父様も好き。本当に悩んだんだけど、いい事を思いついて、後二条院様に聞いたのね。


「ねえ後二条院様、私の考えを聞いてくれる?」

「何?いいよ。どうしたいんだね?」

「とてもずるい考えなんだけど・・・。あのね、小夜どちらの家の子にもなるの。」

「どちらにも?」



「うん。小夜ね、たくさん家族が増えて嬉しいの。だって下賀茂のおうちは和気のお父様と、お母様とお兄様と、小夜が住んでいるだけでしょ。小夜にはお爺様がいないから寂しかったんだ。お優しい後二条院様がお爺様なんてとっても嬉しいの。あとね、お父様が二人もいるって素敵じゃない?帝のお兄様や東宮のお兄様・・・。小夜にたくさんの家族が増えたんだもん。だから小夜はどちらのおうちの子にもなるの。そうしたら誰も寂しくなることないし、悲しまないと思うの。」


みんな私のほうを不思議そうに見ていたわ。どういうことかはっきりわからないみたいね・・・。


「だからね、小夜は半月交代で下賀茂と宇治を行ったり来たりするの。そうすればどちらの子にもなれるでしょ。もちろん私がどこかにお嫁入りするまでの話よ。」

「なるほどね・・・。小夜、よく考えたね。さすが私の孫だ。」


後二条院様は私の頭を撫でで微笑まれたの。だって宇治を選んだら和気のお父様とお母様はとっても悲しがることになるでしょ。で、下賀茂に行ったら今度は後宇治院のお父様がお寂しい思いをされるのですもの。交代で行ったり来たりすればいいんじゃないかなって思ったの。変かな???


「本当にいいの?小夜・・・。母様のいる下賀茂にもいてくれるのね・・・。」

「うん。小夜、下賀茂大好きだもん。そして宇治も好きだよ。宇治のお父様、色々案内してね。」

「ああ、宇治にきたときには色々案内するよ。」


お母様は嬉しそうな顔をして涙を流しながら、和気のお父様と見つめ合っていたの。宇治のお父様もすっごく嬉しそうな顔をして、私を見つめてた。


私はこの日から下賀茂と宇治の子になったの。下賀茂ではね、和気のお父様やお母様と薬草園を散歩したり、お父様と鴨川の辺で遊んだりしたの。宇治ではね安子様や宇治のお父様に習字やお歌、琴、香など、色々内親王として必要なことを教わったりしたの。もちろん宇治のお父様と宇治を散策したり川を眺めたりしてたりもしてたわ。


3兄妹 ほんとにどちらの子になってよかったの。もちろんお爺様の後二条院様のところによく遊びにも行ったの。東宮のお兄様のところにも。私は帝のお兄様の妹だからよく節会なんかにも呼ばれたりもしているの。後二条院様と後宇治院様も和解して、今じゃホントに仲のいい親子に戻ったし・・・。私がみんなの縁を結んだのかな?ホントにみんな幸せに暮らしています。


え?私?あれから四年後の十三歳の時に無事に裳着を済ませて、その年の豊明節会で知りあった三歳年上でお爺様の弟宮であられる兵部卿宮様のご次男従五位下侍従であり四品親王輝仁様と婚約したの。もちろん結婚はまだまだ先だけど、まめに文を下さるいい方なのよね。


本当に今充実した毎日を送っています。私、幸せになります!


番外編 縁~えにし   完




一応ひと区切り・・・。

どうなんでしょう・・・。

次は現代版を・・・。

主人公はここに出てきた後二条院と、亡き後二条院贈皇太后綾乃なんです^^;

まあ現代版なもんで、設定は無茶苦茶なんですが・・・。フィクションなのでご勘弁を・・・。一応恋愛ものを・・・。 また気が向いたら平安版の番外編を・・・。いらないか・・・。


追伸:イラストを付け加えた再更新です^^;ご了承ください。左から小夜の兄博仁東宮、小夜、兄の良仁帝です。兄妹でも微妙に顔が違うのわかりますが?帝は父似、東宮と小夜は母似です^^

縁~えにし (6)真実

(6)真実  


 年末で忙しいのと、蘭お姉さまの副臥&入内で大忙しの我が家・・・。相変わらずお父様はおうちにいないし・・・。忙しすぎてあのことなんて忘れてたわ。相変わらず、お父様は私のことをかわいがってくれるし、お母様もいつもどおり・・・。あれって夢かなんかなのかなって思うようになってきたのね・・・。夢であったらいいのになんて思ったこともあったっけ???


 私はというと、きちんとお父様の言うとおり、習字とか黙ってやっていたのよ。でも最近のお父様の口癖は「お前は才能ないなあ・・・。」だもん。もちろんどうしてかなんてわかるでしょ。お父様の子じゃないから・・・。私、医学書を読むよりも物語や和歌集を読んでいるほうが楽しいのよ。この前東宮御所に遊びに行って、東宮様や東宮御所の女房たちに舞とか、お歌とか、お琴とか教えてもらったのね。そしたらみんな飲み込み早いって言ってくれて、嬉しかったなあ・・・。やっぱり私は和気家の人間じゃないんだって思ったの。でもお父様がだいすきだから、ちゃんと医学書なんか引っ張り出してきて読んでみたりするのね。そのおかげかわからないけれど、難しい漢字くらいは読めるようになったわ。


あっという間に年が明けちゃって、私はひとつ歳とって9歳なったの。9歳になったって言っても別に変わったことなんてないけどね・・・。でもお父様なんか、私の将来のことを考えるようになってこの前も女医の養成施設に入れるか悩んでいたのよね。お兄様はもう私の歳でこの施設に入っていたし・・・。元旦早々お父様ったら、出仕前に私の肩に手を置いて言うのね。


「どうしよう・・・。女医として学ばせるのであれば早いほうがいいが・・・いろんな医学生を見てきた父様が見てもお前の才能はこれっぽっちもない・・・。いやいや学ばせるよりも殿上人の姫らしいことをさせたほうがいいのではないかな・・・。でもお前は母様に似てじっとしていられない性質だから姫として部屋に籠もるなど・・・・。」


お父様は溜め息をつきながら出仕して行ったのね。お母様もお父様の言うことにうなずきながら私を見ていたの。


「お母様、小夜、お医師にならないから。小夜には才能がないし・・・。小夜はお姉さまの女童で出仕できないかな・・・。そうしたらいろんなこと勉強できるもん。」

「そうね・・・その方がいいかもしれないわね・・・。右大臣様にお文を書くわ・・・。きっと人手が足りないだろうから、喜ばれるかもしれないわね・・・。ちゃんとお行儀よくできるかしらね・・・。まああなたは東宮御所とか二条院によく出入りをしているから、心配ないと思うけど?」


早速お母様は右大臣様にお文を書いたの。そしたらすぐに返事を持ったお父様が帰ってきたのね。


「右大臣様から直々に小夜を蘭の女童として同行せよといわれたよ。どういうことだ?」

「お父様、小夜が行きたいとお母様に頼んだのよ。小夜はお医師にならないから。宮中で動き回ってお仕事するほうがいいもん。」

「んん・・・。それだけじゃない。後二条院様が小夜を帝の元服式に参列させよと仰せなのだ。詳しい事は当日話すと仰せで、訳がわからん・・・。急いで参内の準備を整えないと・・・。」


この日からお父様は私のことでさらにお忙しくなったのよね・・・。お衣装はすぐにたくさん用意できないから、始めのうちは内大臣様の大姫のお衣装をお下がりしてもらうことになったんだけど・・・。ホントにお母様に礼儀作法とかを突貫工事のように教え込まれて気が付いたらもう一月五日の朝・・・。さすがお母様は長年宮中で生活していたから良く知ってるわ・・・。知らない一面を見てしまったって思ったのよ。(やっぱり宮中では猫を被ってるんだね・・・・。家では結構性格大雑把なのにさ。)


私は一応今年新調してもらった女童装束を着せてもらって、きれいに髪も整えてもらってね、お母様のお部屋に行ったのよ。するとお母様ってやっぱりきれいよね・・・。とっても品のいい唐衣を着て、きれいにお化粧して・・・。三十七歳でいままで六人子供を産んだようには見えないって・・・。ほんとに感心しちゃうよね・・・。やっぱりお父様がとってもお母様を愛しているからなのかな・・・。やっぱり女って愛が大切よね・・・。


まず後宮に入って、お姉さまのいる承香殿に挨拶に行ったの。やっぱりお母様は後宮に入ると、緊張しているのかお淑やかなのよね・・・。おうちでは結構走り回っているのに・・・。やはり熟女っていうのか、いい雰囲気があって、後宮の女官たちが振り返るのよ。やっぱり清涼殿あたりから承香殿西廂が見えるじゃない?その辺りにいたときに清涼殿のほうから視線を感じたのよね・・・。振り返ったら数人の公卿達がお母様を見ていたのよね・・・。私じゃないのは確かよ。だってまだお子ちゃまですもの。


やはりお姉さまのいる承香殿は大忙しだったのよね。昨日こちらに入ったばかりだからかもしれないけれど、お姉さまは大変疲れた様子で座っておられたの。久しぶりにお姉さまにお会いしたんだけど、やっぱり綺麗よねって思ったの。


縁~蘭姫
蘭姉さまのお母様はとても綺麗な姫君だったってお父様は言ってたし、お父様も姿形のいいほうだもん。色白で、すっきりして、ちょっと違った感じのお顔つき(だって宋国と倭国の混血児なんだもの。)がいいように綺麗さを際立たせているのね・・・。蘭姉さまは私の顔を見ると微笑んで、側に呼んでくださったのね。そして私を撫でてくれたの。


ちょうどその頃、紫宸殿で帝の元服による臨時の除目があって、紫宸殿の隣にある御殿だから、結構騒がしかったわ。


除目が終わったのか、その足でお父様はこちらの御殿に来たの。蘭姉さまは大変喜んで満面の笑みでお父様をお迎えになったのよ。お父様は複雑な表情で蘭姉さまの前に座って除目についていったのよ。


「位階は変わっていないが配置換えがあってね・・・。私は宮内卿になったよ・・・。まあ典薬寮は宮内省の管轄だから配慮があっての事だけど・・・。後二条院に伺ったら、これで表立って医師の仕事も出来るでしょうと仰せになった。まあ私は事務的な仕事よりも医師として動き回っているほうが性に合うのだが・・・。」

「泰明、院は他に何か仰せではなかった?」

「彩子、ここではいえない・・・。今から弘徽殿で後二条院からお話があるから、小夜と一緒に行こう。」


お父様は何やら真剣な顔で、私とお母様を連れて弘徽殿にいったの。弘徽殿に入ったら元服式前の帝(実は初めて会うんだ・・・。)と、東宮様、そして後二条院様がお待ちになっていたの。帝はとてもお父様の後宇治院にそっくりで、驚いたけど・・・。帝は私を見るなり、おっしゃるの。


「この子が僕の妹小夜姫だね・・・。お父上やお爺様から聞いたよ。先日八年ぶりに父上と対面してね・・・。色々小夜姫のことは聞いたよ。本当に東宮によく似た姫だ・・・。」

「東宮様に?」


私は東宮様を見たの。東宮様は黙ったまま微笑まれていたの。お母様はなぜか焦った顔をして私を見るのよね。


「母上。」

「はい、帝。」

「この子は本当に母上に似て可愛らしい。すました感じは父上に似ているのかな・・・。そう思わない?東宮。」

「そうですね兄上。」


お母様はさらに慌てて帝に申し上げたの。


「帝、小夜は和気殿の子ですわよ。なに冗談を・・・。」


やっぱり私は後宇治院様の姫なんだわ・・・。お父様は下を向いたまま黙っていたの。私はお母様に私の知っていることを言おうと思ったの。


「お母様、小夜は後宇治院様の姫なんでしょ。なんとなくわかったんだ・・・。隠さなくってもいい。」

「小夜・・・。」


すると後二条院様が話をしだしたの。


「小夜が悟ったのであれば話は早い。まさしく小夜はわが息子後宇治院の子だ。先日小夜に言われて息子に会ったのだが、あの者もそうではないかと言っていたのだ。そうだよね彩子殿。」


お母様はうなだれて頭を縦に振ったの。すると後二条院様はお母様に言ったの。


「先程和気殿にも申し入れ、内々的に承諾を得た。この子の将来を考え、先帝の内親王として院宣する。その方が嫁ぐときもよい家に嫁げるであろう。」


じゃあ私は養女に出されるってこと???そんなのやだ。後宇治院様はだいすきだけど、今のお父様お母様と離れたくないの。やっぱりお母様は悲しそうな顔をするのね・・・。私は悲しくなってせっかくのお衣装が濡れるくらい泣いちゃった。


「お父様!小夜は宇治に行かなきゃいけないの?下賀茂にいたいよ・・・。お父様の側にいたいの。」

「ありがとう小夜。これからのことはまたゆっくりと話そう・・・。とりあえず、今日元服式の前にお前の内親王院宣があるから、お前もお式に呼ばれたのだよ。泣かないでおくれ。父様も悲しくなるよ・・・。この院宣はお前の将来のことを思ってのことだよ。いいね・・・。」


そのあとお父様は何も言わないまま、じっと式が始まるのを待っていたわ。お母様はというと、やはりすごくショックだったようなの・・・。



作者からの一言

またまた挿絵付更新。そしてちょっと設定上おかしかったところを改正しました。

イラストは和気泰明と宋国の姫との間に出来た蘭姫。中国系にしようと目を小さめにしました。泰明は目が大きい設定ですので^^;書き分けできていますか?

縁~えにし  (5)縁結び(挿絵付再UP)

(5)縁結び  

私は後宇治院と共に院の車に乗って、私の家がある下賀茂に向かったの。下賀茂は平安京の北東のはずれにあるでしょ、結構時間がかかるのよね。お忍びとはいえ、先帝が都入りするって言うんで、車には結構護衛が付くのよ。車の中で、院は何か考え事をされていたんだけど、私がじっと見つめると慌てて苦笑されるのよね・・・。


「小夜姫どうかしたのですか?」

「あの、私のような身分でお伺いするのはとても恐れ多いのですが、どうして後二条院様と院は仲が悪いのですか?親子であられるのに・・・。」

「ん?んん・・・。私を嫌うのは父上だけではないのですよ。ほとんどの群臣が私を嫌っていると思う。小夜姫のお父上もそうだよ。本当に帝位についていた頃は皆にひどいことをしてしまっていた。特に父である後二条院、和気殿、そして特に小夜姫のお母上にね・・・。」


詳しく聞きたかったんだけど、後宇治院はそれ以来何もおっしゃらなくなってしまわれたから、私もそれ以上聞かなかったんだ。こんなにお優しい方なのにどうしてみんなが嫌うんだろう・・・。


都に入ったころ、また後宇治院様は話し出されたの。今度はお父様の話・・・。


「本当に和気殿には命を助けていただいた恩があるのに・・・。」


後宇治院様はもともとお体が弱いところがあったらしいのよ。だからみんなに幼い頃から大変大事にされてお育ちになられたそう・・・。特に十歳の頃に最愛のお母様を亡くされて病気がちになったらしくって、どんな典薬寮のお医師様、侍医様が治療してもなかなか治らなくって、典薬寮にお医師として配属されたばかりの二十歳位の時のお父様がなぜか主治医に選ばれてね、色々民間療法とか何とかで見事に治したらしいのよ。お父様がいなかったらこの院様はこの世にいなかったかもしれないって院様は言っておられた。それなのに院様はお父様にとてもひどいことをしたんだって・・・・。そんなことするような人には見えないけど・・・。


「若気の至りではすまない自分勝手なことをしてしまったから皆に退位を迫られたのですよ・・・。もう私はあの時の私ではない・・・。それを皆わかってくれないのだよ。わかってくれるのは私の二歳年上の叔父上、源博雅殿のみ・・・。叔父上は暇を見つけては宇治まで足を延ばしてくれて、話などしてくれるのです。本当に助かります。」


私は考える暇なく、院様に言っていたの。


「後宇治院様はひどい人じゃない!私わかるもの!心の中はホントにあったかい人だって!私も後宇治院様の味方だよ!」


院様は驚いた表情を見せたあと、微笑んで私の頭を撫でられたの・・・。


「ありがとう・・・。本当にありがとう可愛い姫君・・・。私にこのような姫がいれば心強いのだけど・・・。」

「じゃあ院様!今からこの小夜と二条院に行きましょう!きっと後二条院様は話せばわかっていただけます!だって後二条院様は情深い優しい方だもの・・・。小夜が付いてるから!小夜は院様の味方だよ!」


院様はありがとうって微笑まれて私を抱きしめてくれたの。丁度二条大路の入ったところだったから、私は車を止めてもらって飛び降りて院様に言ったの。


「院様、ここで待ってて!小夜、二条院様にお会いしてくるから!いい?」

「小夜姫!勝手に入れないよ!」

「いいの!私後二条院様に可愛がられているからいつも入れてもらえるのよ!」


院様は車の御簾をめくって心配そうに見つめていたの。もちろん二条院は顔パス!にこって笑って「和気小夜で~~~す。」って言ったらすんなり入れてくれるんだ。もちろん後二条院様がそのように衛門の者に言ってくれているからなんだけど・・・。私は仲のいい後二条院の侍従さんに面会を頼んだのね。そしたら丁度公務が一段落したらしくってすんなり合わせて頂いたの。私は後二条院様の部屋に通されていつものように御簾の中に入れてもらって挨拶するんだよ。


「おや?小夜。お父上は先程客人が来るって言うから急いで帰ったよ。入れ違いだね・・・。」

「小夜は後二条院様に御用があってきたの。小夜ね昨日後宇治院様のお邸にお泊りしたのね。」


そういうと、後二条院様のお優しい顔が一変、険しい顔になられたの。ああ拙かったかなって思ったんだけど、やっぱり後宇治院様の誤解を解いて仲のよい親子に戻して差し上げようと思ったから意を決して言ったのね。


「あのね、小夜、後二条院様と後宇治院様が、仲が悪いって、親子なのにおかしいと思うの。昨日安子様に呼ばれて宇治院に遊びにいったの。夕刻、小夜ね、お庭で迷子になってないてたら、後宇治院様が探して助けてくださったのよ。この前初めて会った時も、小夜においしいお菓子をくれたり、楽しいお話を聞かせてくれたりしたの。まあそれだけじゃないんだけど、ホントにお優しい、まるでお父様みたい・・・・・。」


(んんんん?お父様???)


そうよ、後宇治院様の私を見る眼差しはまるでお父様のような優しい眼差しだった・・・。何か引っかかるのはこれだったんだって気づいたのよね。ただの優しい眼差しではなくって、温かくって見守ってくれているような優しい眼差し・・・。うちのお父様やお母様と同じじゃない!


え~~~~~~!


「小夜、どうかしたの?」

「あのね、後二条院様!小夜ってお父様に似てるの?安子様はお父様に似ていないって言うのよ・・・。本当に小夜はお父様とお母様の子なのかな?」

「たぶんそうだろうね・・・。予定よりも二月いや三月早かったと聞いたが、そんなに早く生まれて育つのだろうか・・・。医学のことはよくわからないが、お祝いに行ったときは結構小夜は大きかったからおかしいなって思ったけれど・・・。」


何言ってんのよ!二月三月の早産で生きてる例って今まで見た医学書とかにも載っていなかったわよ!!!私って後宇治院様の姫ってこと???だから後宇治院様は養女のことを切り出したのかな・・・。


「とりあえず後二条院様!小夜のお願い聞いて!表に後宇治院様が待っているの!少しでもあってあげてよ!もう以前の院様じゃないと思う!だって小夜わかるもん!だって小夜、後宇治院様の姫かもしれないんだもん!!!!」


後二条院様は目を見開いて私の顔を見たのよ。そして後宇治院様と面会することをお許しになったの・・・。もちろん私は遅くなるからって、後宇治院様の車にひとり乗せられて、下賀茂のおうちに戻って行ったの。お二人はどんな話をしたかまではわからないけれど、おうちに帰った私は心配していたお父様に抱きしめられて、お父様のお部屋に連れて行かれたの・・・。


「遅かったじゃないか・・・。後宇治院様は一緒じゃないのか?」

「うん。二条院までは一緒だったの。小夜ねどうしても後二条院様と仲直りして欲しかったのよ。だから小夜、後二条院様にお会いして、お二人を引き合わせたのよ。お父様は後宇治院様を誤解しているわ。とっても優しいいい方よ。もう許してさし上げたらいいのに・・・。ねえ、お父様。小夜、後宇治院様のお気持ちがなんとなくわかるの。とってもお優しいけれど、寂しいの。若いときに色々してしまったっておっしゃっていたけど、それはきっとお寂しいからよ。だからお父様、これ以上後宇治院様を憎まないで・・・。」

「小夜・・・。」


気が付くとお母様がお父様の後ろに立っていたのよ。とても悲しい目をしていたの。今までお母様が見せた事のない悲しそうな目・・・。なぜ・・・?もしかして私がお父様の子じゃないかもしれないって気が付いたからかな・・・。


そのあと私は夕餉を食べて早く寝所に入ったの。でも厠に行きたくなってお父様の部屋の近くで聞いてしまったの。お父様とお母様の話を・・・。


縁~彩子&泰明
「泰明・・・。小夜はもしかして気づいたのかしら・・・・。あなたの子じゃないってこと・・・。」


(え~~~~~~~。)


「かも知れないね・・・。あの子は結構勘のいい子だから。あそこまで後宇治院をかばうなんてね・・・。辻褄をあわすために、早産で生まれたと報告したが・・・。やはり無理があった・・・。」

「このまま放っておくべきかしら・・・。」

「ああ、そのほうがいいかも知れない・・・・。きっと本当のことを知るときがくるから・・・。でも、私はあの子を本当の娘と思っているのを忘れないで欲しい。彩子が蘭を自分の子のように可愛がって慈しんでくれたように・・・。いくら憎い後宇治院の姫だとしても・・・。私は彩子を再び和気家に迎えたとき決めたのだから・・・。彩子のおなかの子は私の子として育てようと・・・。だから私はこれから小夜がどう選択しようとも私の娘には変わらない。これからずっと・・・。」

「ええそうね・・・。」


私は真実を知ってしまったの。でも、不思議と冷静にいられたのはなぜだろう・・・。やはりこれが縁というものなのかな・・・。ああやっぱりそうだったって・・・。私はお父様のお部屋を遠ざかって自分の部屋の寝所に入って眠ったの。



またまたイラストを付け加えた更新版です。

まだまだ若い2人^^;36歳くらいなのに^^;

作者からの一言

うれしはずかし恋愛生活 東京編 (14)帰国

 僕は充実したワシントン生活をしている。ホストファミリーもすごくいい人だし、ご主人は政府関係者だから、いろいろためになることを教えてくれるし、休みの日は家族みんなでアウトドアをするとても温かいいい家族だ。ホントに憧れの家庭・・・。


 毎日メールで綾乃とやり取りしているんだけど、相変わらず元気にやってるみたい。 クリスマス休暇は綾乃がワシントンに来てくれて、すごく楽しかったし、ホストファミリーも僕の婚約者と知って、綾乃を家族の一員のように扱ってくれたんだ。もちろん綾乃は英語がぺらぺらだからね・・・。ホストファミリーのご主人は防衛関係のお仕事をされているから、特に綾乃と話があう。ご主人は綾乃のお父さんが自衛隊の司令部にいるときいて、いろいろ聞いてくるみたい。でも綾乃はある程度しか知らないから困っていたようだけど・・・。


 春休みは日本に帰った。住人のいない僕のマンションをいろいろ片付けたり、(響貴は僕が留学すると聞いて引っ越していったんだよな・・・)綾乃やマックスといろんなところに行ったり楽しく過ごしたんだ・・・。


 あとひと月で大学の授業が終了し、日本に帰る。僕はそろそろ大学に提出するレポートや資料、そして届出物の整理を始めたんだ。早く日本に帰るのが待ち遠しい。綾乃は2年生になってるから、今は僕と同じ三田キャンパスで学んでいる。帰国したら一緒に大学に通うんだ。帰ったら僕は4年生。すぐに年が明け、綾乃の誕生日・・・。綾乃は20歳・・・。二人だけで入籍する約束をしているんだ。少しずつ荷物をまとめ、いらない物は日本に送っている。綾乃のマンションに送っているから、綾乃は僕のマンションに持って行ってくれて、整理してくれているんだ。 ホント連絡はメールばっかり・・・。だって時差のせいで生活が合わないんだ・・・。たまには話すけど、ほとんどメール。綾乃が送ってくれる写真つき近況メールが唯一の楽しみで、小さかったマックスが、もう成犬になってるのはびっくりしたかな・・・。当たり前の話だけど・・・。綾乃はなんとか後期試験も単位を落とさずクリアできたみたいだし、今はもう2年の前期試験のために勉強しているらしい・・・。


 あっという間に帰国まであと一週間。ホストファミリーは帰国する僕のためにご近所を呼んでガーデンパーティーをしてくれたりしたんだ。


「雅和、ぜひ結婚したら新婚旅行にこっちにおいで。綾乃さんはホントにいいお嬢さんだよ。」

「ええ・・・。きっとこちらに顔を出します。」

「雅和はきっといい政治家になるよ。君のお父さんのように・・・。君のお父さんはこっちでも有名だし、ファンも多いのだよ。」

「ええ、がんばります。」


ホントにいい方ばかりに囲まれて、楽しい1年だった。いろいろ学んだことも多い。留学してよかったと思ったよ・・・。


僕は久しぶりに綾乃に電話をする。飛行機の時間を知らせるためだ。


「綾乃、5日後の15時45分につく便に乗るよ。そのあとは東京までリムジンバスか電車で戻るから・・・。ついたらどちらにするか連絡する。」

『じゃああたしマンションでおいしいもの作って待ってるね・・・。』

「楽しみだな・・・。久しぶりに綾乃の手料理が食べられるんだもんな・・・。もう前期テスト終わったんだろ?どうだった?」

『まあギリギリ大丈夫そうだけど・・・。がんばったよ!今は結果待ち・・・。』

「そう。帰国したらゆっくり二人でいようね・・・。」

『うんそうだね・・・じゃあ切るね・・・。』


ホントに帰国が楽しみでしょうがない・・・。大学の提出物を先に大学に送り、レポートのみ帰りのカバンに入れ、帰りの支度をする。スーツケースに最後の荷物を入れて、帰る日を待つ。帰りの便が午前中発だから、出発2日前にニューヨークに入り、観光がてらにぶらぶらする。


もちろん綾乃へのお土産も買う。何がいいかなって思いつつやっぱりティファニーでちょっと早いけど結婚指輪を買って帰ることにした。綾乃用の指輪には字を入れてもらった。 これをきちんと持ち込み用のカバンの奥に大事に入れておいた。きっと綾乃は喜ぶだろうな・・・。まだ使わないけど、入籍したら渡すんだ・・・。


やっと帰国の日、僕は滞在先のホテルを出てJFK国際空港へ・・・。搭乗手続きをして綾乃に電話をする。やっぱり綾乃は喜んでいた。だってあと1日弱で会えるんだから・・・。僕は帰りくらいはゆっくりしようと取ったファーストクラスにのり、飛び立つのを待つ。やはり日本の航空会社だ。キャビンアテンダントの日本語を聞くとなんだかほっとするんだ。まだアメリカを飛び立っていないのになんだか日本にいるような気がして・・・。 飛行機が成田に向けて旅立つと、なんだか緊張の糸が切れたようにどっと疲れが来る。機内サービスを受けるまもなく僕は椅子を倒し、横になって眠りにつく。何度か起きて機内食を食べたりした。食べた後は体を動かさないとエコノミー症候群になりそうだ・・・。ストレッチとかしながら、体を動かす。そしてまた横になるの繰り返し・・・。いつの間にか日本領海に入り、着陸態勢に入る。眼下には日本が見える。これは房総半島だろうか・・・。


もうすぐ綾乃に会える。どんな顔で綾乃に会おうかな・・・。やっぱり抱きしめて綾乃にキスしたい・・・。きっと1年経って綾乃はもっときれいになっているに違いない・・・。


あっという間に成田に無事到着した。そして綾乃に電話をする。


「綾乃?今ついたよ!」

『お帰り!何で帰ってくるの?バス?電車?』

「成田エクスプレス32号に乗る。渋谷に6時につくから渋谷からタクシー拾うよ。」

『じゃあ6時半くらいかな・・・。おいしいもの作って待ってるよ!』



雅和&NEX
僕はなんとか座席券が取れて座席に座る。ちょっと1両目というのが気になるんだけどな・・・。まああと1時間半もすれば綾乃に会えるんだもの・・・。


僕は首相公邸にいる父さんに帰国の連絡を入れる。


「父さん、今成田についたよ。成田エキスプレス32号の先頭車両に乗るからね・・・。」

『そうか、やっと帰ってきたか。また自宅についたら電話くれ。』

「んん。明日、公邸のほうに行くからね・・・。じゃあ切る。」


乗る予定の成田エクスプレス32号が静かにホームに入ってきた。僕はスーツケースを持ってスーツケースおき場に固定をすると、手荷物を持って指定席に座る。夕方近くだからだろうか、結構混んでいる。座れてよかったなんて思いながら、やはり疲れからかすぐに眠ってしまった。


夢の中、僕は綾乃と再会していた。とてもいい夢だった。


しかしこの成田エクスプレスがあんな大惨事を起こすなんてこの時はわからなかった・・・。



【作者からの一言&スペシャルサンクス】

m-wonderさん に頂いたNEXの画像で挿絵を描いてみました。やはり著作権の問題で、ネット上などのものは使えませんよね^^;私は関西在住だし^^;先日行った東京でNEXの写真を取れなかったんです^^;m-wonderさん はたくさんの電車画像をお持ちです。だめもとで頼んですんなりいただけたのです^^またキハ28号さんにも画像提供していただけることになっております。

さてNEXが次何を起こすんでしょうか?雅和の身に何か起こるんですが・・・。

縁~えにし (4)呼魂(ここん)(挿絵付)

(4)呼魂(ここん)


 私は夢の中で声を聞いたの。とても不思議な感覚。この声を聞いて何か温かいものに包まれているような・・・。懐かしい・・・・そうとしか言いようがなかったの。夢から目覚めようとしているのか、その声ははっきりしてくるの。薄目で声のするほうを見つめると、安子様と後宇治院様がおられたの。御簾越しだったので、私が目覚めたことに気が付かないみたい。私は寝るふりをして話している内容を聞いたの。


「康仁様、小夜姫はほんとに可愛らしい姫君で・・・。」

「そうだね・・・。最愛の彩子殿に似ているだけではない・・・。安子は気が付いたかな・・・。」


(何?あと誰に似ているって言うのさ・・・。)


「まああの和気殿に似ていないのは確かですわね・・・。」


(和気殿って・・・お父様???)


「私が譲位したのは八年前の春だろ・・・。そして泰明殿に彩子殿を返したのも同じ頃。そして生まれたのは霜月末。おかしいと思わないかな・・・。」

「辻褄が合わないってことでしょうか?十月十日って言いますものね・・・。泰明殿が彩子様と密通していたというのであればわかりますが、それはちょっと考えられませんもの・・・。もちろん父院様も・・・。」

「んん・・・。後見になられていた父院でさえ彩子殿の御殿には殿上を許さなかったのだから、あの堅物な泰明殿が密通などありえない。」


(ど、どういうことよ!!!!!)


「たぶんあれは・・・。」


私はつい緊張のあまり物音を立ててしまったの。もちろん私に聞かれてはいけない内容だったらしくそれ以上は話さないで、院は部屋を出て行かれたのよね・・・・。私って馬鹿・・・。 安子様は驚いた様子をこれっぽっちも見せず、にこやかな表情で私のところに来たの。さすが教養高いかたよね・・・。なんて切り替えが早い・・・。


「まあ、小夜ちゃんお目覚めかしら・・・。もう夕刻だから泊まっていきなさいね・・・。先程和気本邸に文を届けさせたから・・・。」

「さっき・・・。」

「何かしら。」


私はなんだかさっきの話を聞くのが急に怖くなって聞くのを辞めたんだけど、安子様の品のある溢れんばかりの笑顔を見るとまあいいかなって思ったりしたのよね・・・。でも今日はどうして後宇治院様は私にお顔を御見せにならないのかしらね・・・。前回はお一人で長々話しておられたくらいの方だったのに・・・。


「あの・・・院様は?」

「お庭だと思うけれど・・・。最近物思いにふけられることが多くてね・・・。」


私はなんだか知らないけれど、居てもたってもいられなくなって、気が付くと庭に下りていたの。無我夢中で院のお姿を探していたのね。


「小夜ちゃん!大切なお衣装が!」


やはりいいおうちの邸の庭ってどうしてこんなに広いのかしら・・・。院を探しているうちに庭木が茂った訳のわからないところに出ちゃって、日も陰ってきたし、もう真っ暗・・・。いくら緑豊かな下賀茂に生まれ育った私だって、こんなに緑の生い茂った知らないお庭で迷って心細いって何の・・・。恐怖のあまり腰が抜けちゃって後から考えたら恥ずかしいんだけど、思いっきり泣き叫んでいたのよね。


「お父様!お母様!小夜おうちに帰りたいよ!」


その場にうずくまってしまって、大声で泣いていたの。小半時ぐらい経ったのかな。松明を持った人影が現れて私を抱きしめてくれたの・・・。


「お父様?」


きっとお父様が迎えに来てくれたんだって思って緊張の糸が切れたのか私はいつの間にか気を失っていたのよね。意識が朦朧としている間ずっと抱きしめられたままだったのか、とても温かい感じして、なんだか不思議と落ち着けたのよね・・・。そのまま温かい胸の中で眠ってしまったわけ・・・。


朝気が付いたら、なんと御帳台の中で寝ていたのよ!!!御帳台よ!!!横には・・・・。


「!きゃ~~~~~~~~~~!」


小夜ああ勘違い 邸中どころか外にまで聞こえるような声で叫んでたわよ・・・。だってだって横には、い、院が・・・・。もちろん私も院も小袖姿よ!小袖姿っていったら下着なの!まだ裳着を済ませていないとはいえ、私も姫よ!いい歳した殿方と同じ布団の中で寝ていたんだから!!!!何このおっさん!いくら最愛か何かわからないけど、元皇后のお母様に似ている私と同じお布団で・・・。へんな趣味してるわ!このロリコン!!!私は座り込んで泣いたのよ!私の初枕(初夜のことね)がお母様の元旦那様だなんて・・・。洒落にもならないわ!!!


私の悲鳴に驚いたのか、院も飛び起きて、周りにいろんな女房や院の従者とか家司とかが集まってきて大騒ぎになったのよね!院と目が合うと、私は無我夢中で院を叩きまくったわ!


「やだやだやだ!!!!」


院は何がなんだかわからない様子で、目を見開いて私を見てるのよね・・・。するとね安子様がすっ飛んできて平然微笑ながらと言うのね・・・。


「院、ですから昨夜お止めくださいと・・・。」

「小夜姫に誤解をされてしまったようだな・・・。ほんとに気の強いところは母君によく似て・・・。安子、引っかかれてしまったよ・・・。」


院は苦笑しながら引っかき傷を触ったのね。結構力任せに叩いたり引っかいたりしたもんだから頬にできた傷から血が出ていたの・・・。まあたいしたことなかったからすぐに血が止まったんだけど・・・・。


「ごめんなさい・・・。」

「こちらこそ驚かせてしまったようだね・・・。いくらこの私でも裳着前の姫を手籠めにするつもりはないよ。昔は若気の至りで色々やってしまったけれど・・・。」


院はね、私に頬にある古傷を見せて言ったのよね。


「これは小夜姫の母君につけられた傷でね・・・。まだ小さいあなたに言うのは控えるけれど、若気の至りで今上帝である良仁を懐妊させてしまったときの傷・・・。」


ちょっと待ってよ・・・無理やりってこと????よくそんなこと裳着前の私にいえるわよね!!!いろんな物語を読んだ私には今上帝とお兄様の歳の差がなんとなくわかったような気がするけど・・・。かの光源氏の君のように父帝(後二条院様のことね)の女御(大和女御と呼ばれていたお母様のこと)に手をつけたって事なのかな????


「昨日庭で小夜姫が泣いているのを見つけてね、かわいそうだと思って抱きしめてやったとたんに倒れたのだよ・・・。そのまま眠ってしまったから、可愛らしい姫の寝顔を眺めながら眠りたくなってね・・・。安子達には反対されたが・・・・。」


院は優しい笑顔で寒いだろうと側にある単をかけてくれてね。院は小袖のまま御帳台を出られて脇息にもたれかかって溜め息をつかれたの。女房は急いで院に上着を羽織らせて朝の支度をしているのよ。


「小夜姫は大きくなったらやはり女医になるのかな・・・。」


院は私に聞いてくるのよ。私はなるのが当たり前だと思っているから、他に何になるかなんて考えたことなかったわよ。(まあ私は姫だから、どっかにお嫁に行くかお婿さんをもらうかしかないけど・・・。)私は黙っていると院は変なことをおっしゃるのよ!


「小夜姫、うちの子になるつもりはない?小夜姫がいてくれたらこの邸もきっと楽しいだろうね・・・。」

「え?」


ここのおうちの養女になれって事???もちろんこのおうちは、古い由緒ある家系(都が飛鳥や斑鳩とかにあった時代以前?かな、昔は結構高位まで登りつめたらしい)だけがとりえのうちと違って、隠居されてるとはいえ皇族中の皇族のお家柄だから、うちと比べていい生活が出来るのは確かだけどね、


私が出て行ってしまったらお父様やお母様はきっと寂しいと思うのよ。それでなくても蘭お姉さまが右大臣家の養女として出て行かれたときはお父様なんて何日も寝食ができなくって、お倒れになる寸前だったんだもの・・・。お父様に可愛がられている私が出て行ってしまったらきっと再起不能になるわねきっと・・・。


「小夜姫には弟や妹はいないの?」


と院は私に詳しく家族構成を聞かれるんだけど、もちろん私には妹も弟もいないわ・・・。


お母様は私を産む時に大変難産で、三日三晩陣痛に苦しんで、やっと生まれても生死をさまよったほどだったって聞いたわ。お父様は大事な節会にも出席せずに、ずっとお母様に治療しながら寄り添って看病していたんだけど、私が生まれたあとも出仕しないでお父様の力を全部出し切って一生懸命治療と看病していたの。命は助かったけれど、お母様は私を産んでから子供の出来ない体になってしまったのよ。だから私には妹や弟はいないの。そんなこと公言できないからいえないけれど・・・。


「いません・・・。」

「そう・・・きっと和気殿は手放さないだろうね・・・。小夜姫がいたら生きる張り合いが出来ると思ったのだが・・・。」


院はとても悲しそうな表情で私を見つめたのね。そんな顔で見つめられたら・・・。ここ最近の帝と違ってホントに4年程しか帝位についていなかった方だからまだ若いしきっとお寂しいんだと思うけどね・・・。


話は変わるけど、やっぱ皇族の朝餉って豪華でいいわね・・・。この院は隠居されていても、亡くなられた祖父院から受け継いだご領地やお妃様がたが有力な貴族出であったから援助もあってこうして優雅な生活をしているのだろうけど・・・。それがなければただの帝位についたことのある宮様で終わっているんだろうな・・・。


院とお妃様たちと一緒に食べた朝餉のおいしいこと・・・。珍しくおかわりまでしてしまったのよね・・・。安子様はたくさん食べる私を見て驚いておられたけど、院は微笑んでずっと私の事を見ておられたの。


「小夜姫、今日は私がお邸まで送ってあげよう・・・。」

「まあ!院。珍しいこと・・・。」


なんと院自ら滅多に宇治を出られないのに私を送ってくださるって・・・。あんなことしてしまったのにホントに恐縮・・・。


「誰か料紙と筆を・・・。誰か手の空いているものをこちらへ・・・。」


院は何かすらすらと立派な御料紙にお書きになって、お邸の従者のものに2通の文を託されたの。


「隆哉、先触れとして二条院と下賀茂の和気邸にこれを・・・。」

「御意。」


えええ!私をお送りになるついでに二条院にも寄るって事???確か後二条院様と後宇治院様の仲は超険悪だって聞いたのに???そういえばお父様は後宇治院様を苦手だって言ってたしな・・・。こんなにお優しくていいかたなのに・・・どうしてだろ・・・。


朝餉を終えた私は安子様の女房が持ってきたお衣装に着替えたの。なんだか安子様のお兄様のとこの姫(安子様の姪ってことね)が着ていたらしいのよ。まあ言うお下がりってやつね・・・。


「よかったわ、ぴったりで・・・。昨日お庭で汚してしまったでしょ。うちには子供がいないからどうしようと思ったのだけど、お兄様のところに連絡して大姫が着ていたものを持ってきていただいたのよ。」

「またお返しに来ないと・・・。こんなにいいものだもの・・・。」


やはり安子様のお兄様も源氏長者のお家柄だけあって姫はいいもの着てるわ・・・。安子様ったらこのお衣装を返さなくていいわっておっしゃるのよ。ほんと太っ腹よね・・・。やはりいい絹使ってるから重いってなんの・・・。重そうにしている私を見て院は笑いをこらえておられたわ・・・。ホントに恥ずかしい・・・。


そんなことをしているうちに隆哉って言う院の従者が早馬で戻ってきて1通の文を渡すのね・・・。そしたら院は溜め息をつかれて言ったの。


「また父上に面会を断られてしまったよ・・・。いつになったらお許しを得られるのだろう・・・。下賀茂の帰りにだめもとで寄ってみるかな・・・。」

「まあ・・・またですか?きっと父院様はお許しになられます。きっと・・・。」

「でも年明けはわが子良仁帝の元服。元服の祝いぐらい・・・。」


ホントに悲しそうな顔をして安子様と話しておられるからなんかあるんだろうなって思うのよね・・・。何で親子が何年もの間、仲良く出来ないのだろう・・・。なんだか私、後二条院と後宇治院の仲を取り持ってあげたくなっちゃったのよ。私っておせっかいかしら・・・。


【追伸】

またイラストをつけるための更新。

ちょっと誤字脱字の変更もしましたが・・・・。

縁~えにし  (3)お迎え(挿絵付)

(3)お迎え

あんな事があってからどれくらい経ったかな・・・。年明け早々5日に帝の元服があるってことで、師走に入った途端お父様は一番上の蘭姉さんの副臥役の準備のため、朝早く出て行ったと思ったら、夜遅く帰ってくるようになったのね。お母様も御年十二歳の帝の元服の準備のためになんだか知らないけどよく後二条院様に召されて内裏に参内するんだよね。


まあ、宇治にいる帝のお父様後宇治院様は、だいぶん前に後二条院様のお怒りをかって、絶縁状態だって噂で聞いてまったくと言っていい程宇治から出てこられないそうだから、親代わりとして後二条院様が取り仕切って、加冠役は後二条院様の歳の離れた弟君である内大臣源博雅様がされるって言うしね・・・。もちろん蘭姉さまは摂関家の姫として副臥役をするから、もう都中は祝賀ムードいっぱいってわけ。蘭姉さまは帝よりも三歳年上だからそのまま入内して立后されるんだって。だから下賀茂にあるうちのお邸は朝早くから夜遅くまで両親の不在な事が多いわけ。


お父様はここんとこお忙しいから、いつもがみがみ(一生懸命といっておくわ^^;)と教えてくれる医術の勉強を後回しにしてくれて勉強嫌いの私には嬉しい限り・・・。だって優秀すぎる泰大お兄様といつも比較されるのだもの・・・。たまったもんじゃないわ。宿題として薬草の名前を覚えなさいって言われたけれど、そんなの後回し・・・。毎日家司の子とか、下働きのおうちの子とかと庭を走り回っているの。だって蘭姉さまはおうちを出て行ってしまわれたし、お兄様は毎日出仕してるんだもん。そういえば来年の春、お兄様は元服するって聞いたな・・・。


すると意外なところから御文が届いたのね。もちろんこの私によ。立派な御料紙を品のいい文箱に入れてきたの。誰だと思う?後宇治院様のお妃、安子様からの御文だったの。とてもきれいな筆跡で見とれてしまったわ・・・。安子様は内大臣様の妹君であられるからさすがよね・・・。ということは後二条院様の妹君ってことね?ホント血縁関係って難しいわよね・・・。まあ余談はこれくらいにして、内容はこう・・・。


『小夜姫 随分前になりましたけれど、お約束を覚えていますか?毎日家族が出払ったお邸で一人いるにはお寂しいでしょう。良かったら遊びにいらして。同じ院の妃であられたお母様の姫様だから私たちの子供と同じようなもの・・・。泊まられてもいいですよ。必ずお父様に一言言ってから来なさいね。楽しみに待っていますよ。  安子』


あとから聞いたんだけど、お母様と安子様って、同じ源氏を祖に持つ一族で、亡き安子様のお父様と、私のなくなった大和のお爺様は従兄弟らしいから、なんとなく似てるって・・・。安子様の若くしてなくなったお姉さまは私のお母様になぜか瓜二つだったって言うから不思議よね・・・。まるであの有名な物語のようだわ・・・。


まあ血縁の話はややこしくなるからやめておくこととして、この手紙を珍しく早く帰ってきたお父様に見せたのね。そしたら困ったお顔をされて、お母様にお聞きなさいって言うのよ。お母様に聞いたら、大変疲れているのか内容を十分確かめないでいいわよって言ってくれたの。


「本当にいいの?お母様。」

「いいわよ。ずっと寂しい思いをしていたものね・・・。安子様は同じ先帝の妃同士だったのですが、後宮ではお友達のようにお付き合いをしていたから・・・。もし泊まることになったら必ず連絡するのですよ。」

「はい!じゃあお返事書くね・・・。」


私はあまりきれいな字じゃないけど、一生懸命これ以上はないという字で返事を書いて安子様の文箱にお手紙とお庭に咲いている椿の花を入れて家のものに持って行かせたわ。


小夜正装

するともう次の日の朝早くに宇治からお迎えの車が来たのよね。私は急いで東宮御所や二条院へお使いで行くときに着るとびっきりの汗衫(かざみ)を着て私の女房に髪をきれいに整えてもらって、物忌みもお衣装に合う色のものをつけてもらってね、蘭姉さまが持っていた衵扇(あこめおうぎ)を借りてお迎えの車に乗って出かけたの。


やはりいいおうちの車は違うわ。あまり揺れないし、内装もきれいに装飾してあって、見ているだけでも飽きなかった。 (別にお父様が甲斐性なしというわけではなくって、家柄の違いかな^^;和気家は由緒正しいお医師の家系よ・・・。)


あっという間に後宇治院の御在所である邸に着いたの。着くとたくさんの女房たちがこの私を迎えてくれて、安子様のいるお部屋を案内にされたの。そうしたらね、お部屋いっぱいに貝合わせとか、珍しい絵巻物とかお人形とかがあってびっくりしちゃったわ。


「まあ、小夜ちゃん。この前の姿とは違ってなんて可愛らしいお衣装を着ているの?普段の格好でよろしかったのに・・・。」

「お父様が安子様のところに行くのだからって正装しなさいって・・・。」

「本当に可愛らしくって、色合わせもきちんとしてあるわ。ますます可愛らしくなって」


私はホントここまで褒められたってことないから 相当恥ずかしかったわね・・・。私はお父様に言われた通りきちんと安子様にご招待のお礼を述べて頭を下げたの。そしたら安子様はそこまでしなくてもよろしいのよって大変恐縮されてね・・・。


この前はあまり安子様のお顔を見ることはなかったけれど、今回はまじまじと見る事が出来たの。三十路近くの品のあるお顔は年を重ねられてもやはり高貴なお姫様って感じで、美しいと評判だったという大和生まれ大和育ちのお母様に比べたらやはり育ちが違うって感じだったわ・・・。


まあ私もそんなお母様から生まれたから、都では色々噂にはなっているそうだけど・・・。まだ裳着も済ませてないのにちらほら縁談話が入ってきていてお断りするのが大変だってお父様は嘆いてたのを覚えている。(なんか自慢しちゃったみたいね・・・。)蘭姉さまの養父である東三条様は、私が東宮様と同腹の兄妹でなければ蘭姉さまみたいに養女に迎えて東宮様に入内させるのにって嘆いてたわよ。まあ東宮様とは2歳しか違わないから、いい歳の差かもしれないけど、兄妹じゃね・・・。そりゃ東宮様は利発でお優しくて何でもこなすいい方よ。特にお爺様の後二条院様に手ほどきを受けた龍笛などを演奏されたらもうびっくりするほどすばらしいの。即興で舞いも披露されるし、お歌も完璧。私にとって理想なんだけどね・・・。兄妹じゃなかったら入内を考えたわ。


安子様は私と色々遊びたかったらしくって、あれやこれやと遊び道具を出してきて一緒に遊んでくれるの。ちょっと遊びつかれて、眠たくなってきたから(だって朝がむちゃくちゃ早かったんだもの!)うとうとしてきたら、安子様は私を寝所まで連れて行ってくれてお昼寝させてくれたの。安子様は私を本当の子供のように見つめて私が眠るまで横についてくださったの。


「安子様はどうして私をまるで自分の子供のように可愛がってくださるの?」

「本当は院のお子が欲しかったのだけど、出来なかったのよ。院と私は叔母、甥の関係だけど、院の母君は私の父方のお姉さまだし、父宮は母方の私のお兄さま。あなたのお父様和気殿が言うとおり、血縁が深すぎて子供を諦めたのよ。だから小夜ちゃんがまるで私の子供のように思えてきて・・・。つい可愛がってしまうのですよ。」


(ふ~~~んそういう事があったのか・・・・。だから血縁ってややこしくってわかりづらい・・・。)


いつの間にか私は眠っていたのね。でも私は夢を見ているんだけど、私の側で何か話し声が聞こえるの。


この声は誰?

一人は安子様・・・。

あと一人・・・なんだか聞いているだけで心が温かくなっていく懐かしいような、なんか血が・・・。

この感覚は何?誰???誰なのよ!



(追伸)

またまたイラスト付のための更新です^^;

小夜ちゃん正装姿です。

うれしはずかし恋愛生活 東京編 (13)約束

 あたしは結納の日、雅和さんから留学の件を聞かされ、ホントにショックだった。でも将来立派な政治家になってほしいから、あたしは雅和さんを送り出そうと決心したの。もちろんパパに雅和さんについて行きたいって言ったけど、もちろん反対された。


雅和さんがアメリカに行くまであと3ヶ月。長いようで短い3ヵ月・・・。 入学式も終わり、あたしの大学生活が始まった。パパはあたしを気遣ってか、あたしが雅和さんといる時は門限が過ぎても何も言わなくなったどころか、雅和さんの家にお泊りしても何も言わなくなった。まあ同じ大学に通っているといっても、キャンパスが正反対の場所にあるから、すれ違いの生活が続いているんだけど・・・。時間が合えば、できるだけ一緒に過ごしているの・・・。


今日あたしと雅和さんのマンションに結納の時に撮った写真がアルバムのようになって送られてきた。ホント写真集のよう・・・。あたしは雅和さんとアルバムを見ながらいろいろ話したりしたの。すると雅和さんは茶色の封筒に入れられた白い紙切れを取り出す。


「綾乃、これ書いて・・・。」

「これって・・・?」


開くとなんと婚姻届。雅和さんは先にいろいろ書いてくれていて、あとは私のサインと印鑑だけ・・・。あたしはまだ未成年だから、後見人欄に大人の名前が必要だけど・・・。


「まだこれは提出できないけれど、僕が無事帰ってきて、綾乃が20歳の誕生日にこれを役所に出しにいこう。誰がなんといっても・・・。式はまた後にすればいいことだし、先に入籍だけでもしよう。いいね?」

「う、うん・・・。」


雅和さんは封筒にさっき話したことを書き留める。



『源綾乃の20歳の誕生日にこの婚姻届を区役所に必ず出すこと  弐條雅和』



この封筒にあたしがサインと印を押した婚姻届を入れ封をする。そして今日届いたアルバムにはさみ、大事に雅和さんの本棚の中央に立てかけたの。


「綾乃、冬休みとか春休みになったら必ず帰ってくるし、綾乃もワシントンに来るといい。」

「うん・・・。約束よ・・・。」


あたしと雅和さんは約束のキスを交わしたの。


「綾乃、何かほしいものある?」

「雅和さんの赤ちゃんがほしい・・・。」

「え?」


雅和さんは引きつっていたの。もちろん半分冗談だけど・・・。だってなんとなく素敵に思うのよ。雅和さんの赤ちゃんを妊娠して、慈しみながら帰国する雅和さんを待つってこと・・・。あたしって変かな・・・。


「もちろん冗談よ。」

「そ、そうだよね・・・。僕も早く綾乃との子供がほしいけど、まだそんな歳じゃないし、甲斐性もない。結婚もしていないし・・・。出来ちゃった結婚はね・・・。」

「でも、雅和さんの代わりがほしいのは確かよ。寂しいもん・・・。」

「綾乃のマンションって、ペット買える?」

「う、うん・・・。」

「犬が好き?猫が好き?鳥?ウサギ?」

「い、犬かな・・・。」

「じゃあ買ってあげるよ・・・。僕と思って・・・。」


あたしはパパに犬を飼ってもいいか頼んだの。パパは最初反対したけど、なんとか説得して許してもらったの。


次の休みの日にあたしは雅和さんとペットショップに行っていろんな犬を見に行った。なかなか気に入ったのがいなくって何件もはしごしたの。そして最後に寄ったペットショップで見つけたの。


「あたしこのこがいい!」


あたしは店員さんに抱かせてもらい、やっぱり気に入ってしまって、雅和さんが買ってくれた。


ホントに可愛い真っ白いMシュナイザーの男の子・・・。珍しいカラーらしくって、結構高かったけれど、雅和さんは嫌な顔をせずに買ってくれた。



雅和&綾乃&マックス
次の日から、あたしは雅和さんと白いシュナ、マックスと散歩したりなんかして雅和さんがアメリカに旅立つまでゆっくり過ごしたの。


明日はもう雅和さんが旅立つ日、いつものように朝早くマックスを散歩させながらゆっくり話す。


「もう準備できた?いよいよ明日だね・・・。」

「うん、そうだね・・・。もう荷物は送ってしまったよ。住所は前、渡したところ。」

「ホームステイなんでしょ。」

「うん。アメリカ政府関係者のお宅でね、ちょっと父さんに伝手で見つけてもらったんだ。遊びにおいでよ・・・。」

「うん。」


雅和さんはマックスを可愛がりながら抱き上げ、微笑む。こんな風景はもう1年は見る事が出来ないのかな・・・。


ついにやってきた雅和さんがアメリカに発つ日、あたしはもちろん成田まで見送りに行った。夕刻に成田を発つJALのニューヨーク行き。雅和さんは搭乗手続きを済ませ、荷物を預けると、あたしと一緒に時間ギリギリまでいてくれたの。そしてぎゅっと抱きしめてくれた。


「必ずメールちょうだいね・・・。」

「わかってるよ。電話もするよ。今度は年末帰る事ができたら帰るから・・・。それかクリスマスはワシントンにおいでよ。航空券用意するし・・・。」

「うんそうだね・・・。パパがいいって言ったら行くから・・・。あたし待ってるから・・・。浮気しないで待ってる。だから雅和さんも金髪美人さんと浮気しないでね・・・。」


雅和さんは苦笑して、人前なのにあたしにキスしてくれた。やっぱり雅和さんのお父さんは来れないようだった。雅和さんは残念そうな顔をして、出国口に向かう。


「じゃあ綾乃、行ってくるよ。」

「うん、がんばってね・・・。早く帰ってきてね・・・。あの約束忘れないで・・・。」

「わかってるって・・・。僕がいなくても単位を落とさないようにね・・・。前期試験ギリギリだったんだから・・・。わからない事があればメールちょうだい。」

「雅和さん!絶対だよ!」


雅和さんはあたしに手を振りながら、出国口に消えて行った・・・。あたしは溢れる涙を抑えながら立ち尽くしていたの。


雅和さんは現地時間の夕方にニューヨークに無事について、国内線乗り継ぎでワシントンに着いたみたい。ついてすぐあたしの携帯にメールをくれた。ワシントンではホストファミリーと無事合流して、いろいろワシントン市内を案内してもらったらしい。ワシントンは首都だからね・・・。きっといい勉強が出来るよ。度々あたしのパソコンにメールと写真が送られてくるんだけど、ホントに充実した生活をしているみたいで楽しそうだった。でも必ずメールの最後には・・・。


『綾乃、早く会いたい。愛してるよ・・・。早く結婚したいね  雅和』


って・・・。あたしもちゃんと愛してるよって返事をする。あたしは雅和さんにもらったマックスを抱きしめて、寂しさのあまり涙が出てくる。マックスはあたしの涙をなめてくれるの。


(ぼくがいるからだいじょうぶだよ・・・。)


って、言ってるみたい・・・。早く会いたいな・・・。