森のパン屋さん

とおの いち子 著

 

第1章 「非線形の文字」

いち子は 銀色に艶々(つやつや)光る服に身を纏った星の子たちが時々立ち寄るという

森のパン屋さんに行くことにしました

 

時は丑三つ刻

この地をよく知る大楠の根元から 七色に輝く扉をギィっと開けて

彼方(あちら)の山をグンと越えた先にある森と泉を抜けていき

月と金星の間にキュンと入ったら すぐに其の場所に到着しました

 

其処は平たい森の中です 

森の木々から少し空に浮いたところに そのパン屋さんは在るのでした

 

外から見ると輝く銀の匙のような形をした物体がキランと光って森を照らすので

森の緑色まで透明になって美しいことです

 

その巨大な物体の下まで行ってみたけれど

どうやって入っていいか分からずに困っていたら

一枚の紙がリラヒラと落ちてきたので拾ってみます

 

すると 何やら文字が書いてあって 一瞬でこう伝えてきました

「全ては願ったままに。完了形で。」

 

「あなたはだぁれ」 といち子が聞くと

「文字だ」と答えました

 

このパン屋さんのある森では 文字には意思も音もあって

形を自在に変える力も 時間さえジグザグに移動する力さえあるのだと話します

 

いち子は 「それは効率的だ」と答えました

 

 

 

第2章 「境目のパン屋さん」

文字は続けて話します

 

「“中に入りたい”と願っているから 中に入りたい状態 つまり はいれなくて困っているという状態に身を置かないといけなくなるんだ

だから 入った と 既に完了したように願うんだ」

さぁはやく と言わんばかりの顔まで見せながら 文字が盛大に語りかけてくるので

「心得た」といち子が言うと

既に其処は銀の匙の中にあるパン屋さんの中でした

 

そのパン屋さんはまるでオランダのポスト印象派の画家の絵の中に入り込んだような空間です

 

お客さんもたくさんいました

 

ぼわぁと灯(とも)る蛍火のような光だけの客人

体が透明で 赤色のトンガリ帽と黒いコートだけが動いているような客人

太陽と大蒜(にんにく)が大嫌いな男爵が静かに奥のカウンターでトマトジュースとチョコレートコルネを食べています

そうかと思えば 象の顔をした神様も

手と足が複数ある神様も

仲良く古びた赤色のソファに腰掛けて 楽しそうに談笑しています

 

此のパン屋さんは 其々の力や想い そして 形さえとどめたまま一緒にパンを食べたり楽しく過ごせる場所だとわかりました

 

皆 なかよくて良いことです

 

 

第3章 オリーブの憂鬱

いち子は パンを買いに来ているお客人の多様性に目を奪われていたけれど

香ばしくて心を優しくする焼きたてパンのにおいでハッと我に返りました

 

エボニー色のオイルステインをかけた古木風の棚には

ピンクや白のチョコレートがかかった縁結びのドーナツや

古い智慧を得ることのできる角笛(コルネ)のパン

化学や物理学をより深める力を得ることのできる細長い棒状のバゲット

マメになることのできる小豆餡の入ったあんぱん

微生物と仲良くなれるゴロゴロチーズパン

美味しくて魅力的なパンがいっぱいで うっとりしてしまいます

 

すると アンティークイエローの壁を背にしたオリーブの木が話し掛けてきます

「此処のパンはどれも特別だよ

なんていったて ここのオーナーは どんな世界にも どんな星にも繋がっていて

自ら旅して回った末に それぞれの良いところを示す光の断片を

パンに練りこむことに成功したんだからね」

そう言って オリーブは嬉しそうにカサカサと笑ったので

パン一つ一つが其々に誇らしげな顔を見せました

 

 

 

第4章 「カフェ・オーレ」

いち子は トレーの上に焼きたてのゴロゴロチーズパンと

黒と白が混じって茶色くなった砂糖多めの甘いカフェ・オーレをきっちりのせて

奥にある食事をするために設備された部屋に向かいます

 

赤色のソファでは異国の神様たちが駄弁(だべ)っていて

カウンターには良い暮らしをしていそうな伯爵が

最後のトマトジュースをストローでジュっと吸い上げました

 

いち子は丸テーブルに座っている球体の時計の顔をしたモノに

相席して良いか訪ねます

 

「こんにちは 此処に座ってもいいですか」 いち子が言うと

古くて大きな協会にある重たくて荘厳な響きの鐘の音のような声で

快く「いいよ」といいました

 

球体の時計顔のモノはうっすら青く透明で

見る角度によって

銀色の時計の針や世界地図 そして この世界の原理原則を示すような宇宙樹の姿を 

その硝子玉の中に代わる代わる映すのでした

 

いち子はうっとりしながら 

「何方(どちら)が前なの?」と訪ねます

 

すると時計の球体顔のモノは笑いながら

「前も後ろもないよ、僕は時間と空間そのモノだからね」と言って

澄んだ夜空色の華奢すぎる体の星たちをリラリラと輝かせました

 

 

第5章 「法則に想いを馳せて」

球体の時計顔のモノは 白虎色の器に入っているオレンジ風味の氷菓子(アイスクリーム)に

エスプレッソをザッと注いだら 

宇宙船色にギラリと光るスプーンで少し掬(すく)って口に入れました

 

「此処のカリフォルニアは絶品だ」

 

そう言って二口目を食べた球体の時計顔のモノの体を見ると

少し透けているので 

白色のバニラアイスとオレンジの果実

そして黒色のエスプレッソがうっすら見えたけど

すぐに体に散りばめられた星々の向こう側へと消えて逝きました

 

この宇宙のような体の中へと時間と空間を超えて

呑み込まれていったカリフォルニアのことを思うと

太古の時代からヒトの子等(こら)が夜空を見上げて星や銀河

そして宇宙にどんな想いを馳せてきたのか在り有りと目に浮かぶのでした

 

まるで時間の壁も空間の壁も 異世の壁も無いものかの様に

 

球体の時計顔のモノは優しく笑い

「帰っておいで

僕は君の本来住む“お山”よりもさらに縛りの少ない層に住んでいる

僕はね 時間と空間 それぞれの事象間に成立する普遍的で必然的な関係そのものだ

即ち“法則”とも呼ばれている」

 

 

第6章 「万華鏡世界に住まうもの」

球体の時計顔のモノは 顔の部分に当たる時計の入った硝子(がらす)玉を指差します

いち子が徐(おもむろ)に覗き込んでみると

いち子の大好きな社(やしろ)が

無数の万華鏡を重ねたように美しい鼈甲色(べっこういろ)の光に包まれながら

幾つも 幾つも 折り重なるように存在しているのが見えました

 

その事実を目の当たりにして

いち子の性質そのものさえぼやけ始めた頃

球体の時計顔のモノが更に語りかけてきます

 

「此処が僕の世界だよ 

この無数の社という同じ場所は すべての時間のこのやしろという空間の記録で

僕の世界ではこうやってすべてが同時並列的に存在しているんだよ

だから 此の社の何(ど)の時間も 何(ど)の空間も 

何(ど)の並行世界だって 行けちゃうんだ

だからといって 鑑賞するだけで干渉はしない その必要もない

ただ ごくまれに干渉出来るモノが紛れてくることがあって手を貸すことはある

法則は絶対だけど 曲げることはできるんだ おもしろいだろう」

 

いち子は ゴロゴロチーズパンが冷める前に食べなければならないことを思い出して

バッと 心地良い白昼夢から戻ってきました

 

 

第7章 「雪印」

気が付くと 相席していたはずの時計の球体顔のモノも

彼が食べていたカリフォルニアも姿を消していました

 

次元を超えることも時空を超えることも

海や山にピクニックに行くことと大差のない彼ならば普通のことなので

驚く程ではないけれど もう少し話をしてみたかったので残念です

 

ゴロゴロチーズパンは 外がカリカリ 中はふわふわ

そして 中身のチーズは表面の多少焦げたグラタンのような味で

一気に幸せの香りに包まれました

 

良いパン屋さんを教えてもらったので友人たちも連れてきたいと思います

 

ふと目を壁にやると

「忘年会貸切宴会承ります」とポスターが貼られているので違和感を覚えます

 

気を取り直して 透明のカップに入っているはずのカフェ・オーレに手を伸ばすと

現世(うつしよ)で見覚えのある茶色と黄色の牛乳パックに入った珈琲牛乳に変わっていました

 

時計の球体顔のモノが このパン屋さんを一瞬で現世仕様に変えていち子を驚かせようとしたんだと思います

しかも よく見るとその牛乳パックには しっかりと雪の結晶印まで貼り付けられていて憎いことです

 

いち子は 大手乳飲料会社の著作権が気になるところだけれど

なんだか楽しくなりました

 

そして “法則”は思いっきり干渉してくるということも思い知りました

 

 

 

 

2017.12

 

 

 

 

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