miniature絵画対応作品の一つです
約五日分の長さなので、長いです！笑い
蟹鍋の季節の頃に書かれた作品です
蟹鍋 編
とおの いち子 著
1章 「おかえり」
今晩は 出雲の国から帰ってきた大楠のお爺さんとおばあさんの処にて
妖の類（たぐい）たちが集い 蟹鍋をします
京の都で百有余年大切に使われてきた大鍋や包丁
擂鉢（すりばち） 擂り粉木（すりこぎ） の 憑き物神たちは
一週間ほど前に京都をあとにして此方（こちら）に向かっているそうです
妖にも其々（それぞれ）性格があるので
のんびりしているモノや急勝（せっかち）なモノがいます
すりおろし器の妖はいつも焦っていることが多いです
いち子が どうしてそんなに急（せ）いているの と聞くと
まだ憑き物神になる前の ただのすりおろし器だった時に
使い手がいつも慌てたりイライラしながら一生懸命大根をすりおろしていたからだよ
と 言いました
モノはいつもヒトの心と一緒に在って念を受けているんだよ と
平家の落人（おちうど）が散（ざん）ばら頭を櫛（くし）で整えながら話しました
この落人（おちうど）は成仏していないけれど
皆で集う楽しい席に出席するために身なりをきちんとする行儀の良い優しい妖です
熊野には いろいろなモノがいて 楽しいことです
２章 「孤高のサラリーマン」
大楠はこの土地や地域の様々な情報の中心であると同時に
命の廻りの中継地点でもあるので
何本もの太い高圧電線の蜘蛛の糸を張り巡らす鉄塔みたいです
昔からこの地の人々や見えざるモノ達は此処に集い語らいをしたものです
いち子は少し早く大楠についたので
久方ぶりに合う見えざるモノたちに挨拶します
すると 赤い顔をした若い天狗が背中の大きな羽を
ぶぅわっさ と仕舞いながら降りてきました
天狗は輪郭の美しい肩幅も袖丈もぴったりなネイビーカラーのビジネススーツに
今朝アイロンをしっかりかけたであろうパリッとしたストライプのシャツ
そして 古びた赤煉瓦（れんが）色と濃紺色のネクタイをして
左手にはタブレット端末を入れた英国御三家の一つと言われるハイブランドのカバンを持っています
いち子が 今度はどういう風の吹き回し？と聞くと
天狗は ヒトに紛れて大手メーカーに勤め始めたと笑いました
其処に 提灯（ちょうちん）の妖が来て
現世時計で言う十数年前 天狗はリクルートスーツに身を包み
就職活動を体験していた と 耳打ちしてくれました
3章 「現世（うつしよ）にまぎれて」
天狗から リーマンショック期の就職氷河期を乗り越えた苦労話や
其処で出逢った若人（わこうど）たちの様子
そして ニンゲン社会の光と闇について
天狗なりの考察を一頻（ひとしき）り聞いたらすっかり暗くなっていたので
彼方（あちら）の方角を見てみると
今晩の鍋の主役である化け蟹がゆっくり横向きに歩いてきているのが見えました
今晩は 何処から来たの？ いち子が聞くと
化け蟹は 加賀の国からきたよ と言いました
今日は良い出汁を頼むよ と いち子が言うと
風呂に入れてくれるんだね と化け蟹が言うので
恐らく と いち子は答えました
化け蟹は 蟹鍋のために各地に呼ばれていることを
温泉巡りくらいにしか思っていないようなので驚愕です
妖の類も色々で楽しいことです
化け蟹は 昼間はあんまり動く気にはならないので
深くてジメジメした山や岩の下にジッと座ったり
使われなくなった古い寺が気に入ったら気が済むまで居座って
のんびりしながら暮らしているとブクブク話してくれました
第４章 「山姥（やまんば）」
大楠の中に入る入口をタントンと降りていくと幾つものお部屋があります
お風呂場の付近では
友人の垢嘗（あかなめ）が五右衛門風呂に薪を焚（く）べ
狐火（きつねび）が火の加減を調整します
化け蟹の姿を確認した束子（たわし）の妖が
まず鍋の前に体を美しく禊（身削ぎ・みそぎ）ましょう と 言って
五右衛門風呂に案内します
いち子は面白そうなので
五右衛門風呂の戸を そぉっと開けて 中を覗くと
ジメジメした狭い処を好む よく汚れの付いた化け蟹を
必死な眼（まなこ）で磨き上げる束子（たわし）と垢嘗（あかなめ）の形相が
狐火の強くなる炎の中でより一層大きく揺らめき
非常に切迫した様子を物語っていたので
まさに地獄絵図でした
この光景を見てしまったニンゲンがいたのなら、
山姥（やまんば）伝説のもとになったことも多いのではないかといち子は悟り
何も見なかったことにして
そっと戸を閉めて 宴会席まで小走りしました
皆仲良くて 協力的で 良いことです
第５章 「時間の乗りモノ」
宴会場には座布団がたくさんあるけれど座ってはいけません
皆 妖の類（たぐい）なので どれが憑物神かわからないからです
間違えて座ってしまったことがあるけれど
その時は
“その小さなお尻でも座られると身動きが取れなくなるから退（ど）いてくれるかい？”
と 控えめに言われたので 御免ね と言いました
この座布団ほどではないけれどモノには何らかの光の魂が宿るので
ありがとうと言ったり 大切にすると喜びます
すると 其のモノの周りの氣を良くして部屋全体も良い氣で包まれるので
良い神様がたくさん集まってきます
そんな場所に住まうヒトは 良いことをどんどん引っ張ってこれるようになるので
ツイてる人 と 見られることも多いみたいで良いことです
モノを捨てたり 仕舞う時は
ありがとう と言ってあげると
其処に宿る光は次のモノへと生まれ変われます
すでに うんと前に捨てたものでも
その時を心の中で思い出してありがとうというと
時間を遡（さかのぼ）ってやり直すことができます
心は時間を旅するための乗り物とも言えます
気になることがあればやってみると良いと
いち子は思います
第６章 「交わりの場」
宴会場の古びた白壁には
異世や異界へ通じる扉とも言えるゆらめきが
同心円状に青く光るので美しいです
座敷の真ん中には大きな囲炉裏があって
天井から灰色の自在鉤（じざいかぎ）と魚の形をした横木がぶら下がっています
その囲炉裏の火を調節している火玉（ひだま）が魚の形をした横木に向かって
”僕は火をしっかり調節できるし 火事なんて起こさないから
そんなにジロジロ見ないでくれ”
と ブツブツ文句を言っているのを聞いて
土間から竈神様が顔を出して
“ニンゲンは火には到底かなわないことを知っていたからこそ
火のそばには水を意味する魚などの形のモノをおいて
火を使わせてもらえることに感謝していたんだよ
決して私たち火のモノを見張ったり 忌むモノとして扱ったんじゃない
火の怒りに触れて 家が燃えてしまいませんように と
願掛けしているようなものだよ
可愛いじゃないか”
と言ったので
火の神も 水の神も皆大きな声で笑いました
それにしても
化け蟹は未だお風呂から出てきません
相当に汚れているのかもしれません
蟹鍋編 おわり
＜いち子ちゃんの日記＞
天使や妖精のたぐいで、見えない存在「座敷わらしのいち子ちゃん」の日記を自動書記で代筆しアップしています。
・プロローグ（アップしていくことに至った経緯）
https://ameblo.jp/nanahoshi073/entry-12370124734.html
・出会い１
https://ameblo.jp/nanahoshi073/entry-12371055384.html
・出会い２
https://ameblo.jp/nanahoshi073/entry-12371056864.html
・第一日目（はじめまして・自己紹介）
https://ameblo.jp/nanahoshi073/entry-12371447335.html
二十四節季とは（ほかのページのリンクです）
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お香（熊凪）
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miniature絵画 プロローグ
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ズバリ診断！あなたの周りにいる隣人さん（見えない存在）のタイプは！？