半年ほど前になりますが、ブログ記事『HPVワクチンを何がなんでも推奨する村中璃子氏の本音と目的はどこにあるのか』をエントリーしたこともあって、私は村中璃子氏のWedge記事やSNSなどでの言動を注視してきました。そんな中で先頃、彼女の人間性の一端を垣間見せてくれる言動が目に入ってきました。
村中氏は6月17日付『Wedge』記事
子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚 利用される日本の科学報道(後篇)
で、信州大学の池田修一副学長が研究班長を務めるHPVワクチン副反応の研究の中には「捏造」があると断じていました。
この「捏造」疑惑(*1)に関して大手メディアの毎日新聞が
『子宮頸がんワクチン 信州大、研究内容で調査委設置』
という記事を配信しました。信州大学で事実解明の予備調査が動き出したことを毎日新聞が第一報として速報したわけです。
その報道について村中氏は、毎日新聞の記事では情報源、リソースであるはずの『Wedge』記事やそれを書いた自分のことが一言も触れられていないと怒り、毎日新聞側に抗議したことが伝えられています。
彼女からの抗議には毎日新聞医療プレミア記者の中村好見さんが電話応対されたようですが、中村好見さんのツィートからは村中氏の怒り様が伝わってきます。
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中村好見@yoshimi_nakamu
終始冷静に対応したつもりでしたが、村中氏は電話口で怒鳴り電話を一方的に切ってしまいました。その後はメールでやり取りさせていただきました。色々言いたいことありますが、本筋とは関係ないのでこの件に関してはこれ以上発言しません。
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実は、中村好見さんの上記のツィートはご本人によって削除されています。
その理由は、
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ツイッターでは一方的な批判や誤解を生む表現でも、反論せずそれをそのまま放置していると「事実」とされてしまうので、経緯を説明しましたが、個人批判に利用されるのは意図するところではないので、ツイートを一つ削除します。私は自分の能力と責任でできる精一杯の仕事をやっていきます。
5:24 - 2016年6月29日
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とのことですが、村中氏が毎日新聞の報道に怒り抗議したというのは事実であり、HPVワクチンに関する言説を『Wedge』等の広く公に発信する媒体を通して盛んに発表しているジャーナリストの言動として、その事実を公にすることには意義があると私は考えるので、敢えて元のツイートを貼らせていただきます。
毎日新聞という大手メディアの医療プレミア記者の発するツイートは影響力が大きいと言わなければなりません。中村好見さんのツイートをざっと拝見しましたが、宮川剛氏らもっぱらHPVワクチン推進派の方々へのリツイートが多いようです。
当然自覚されているとは思いますが、推進派の人たちの意見にだけ耳を傾けるのではなく、HPVワクチン副反応被害者たちやHPVワクチン慎重派の人たちの生の声にも広く耳を傾けてほしいということをここでお願いしておきたいと思います。
さて、「電話口で怒鳴り電話を一方的に切ってしまう」村中氏の行動には、彼女の言説をこれまで肯定的に擁護してきた「サイエンス・ライター」こと片瀬久美子氏からも「自己顕示欲が剥き出しになっているのはどうかと...。」いうリツイートがありましたが、それは頷けるものです。
医療(科学)ジャーナリストを自負する村中璃子氏の目的が池田研究班の「捏造」疑惑を科学的に明らかにしようとすることにあるのなら、信州大学でその問題を調査しようとする動きが始まったことを素直に歓迎し喜んでいるのだろうと思いましたが、彼女が見せた素早いリアクションはちょっと異様なものでした。
売名や功名心にかられている三流ライターならさもありなんでしょうが、科学(医療)ジャーナリストとしてそれなりの矜持を持ってものを書いているのならば、自分が書いた記事のことが大手メディアの第一報で取り上げられなかったからといって、「電話口で怒鳴り電話を一方的に切る」ような行動をとるものでしょうか。
たとえば同じジャーナリストとして、私がかなり前から(『機会不平等』を読んだ頃くらいから)一目も二目も置いている斉藤貴男氏がもし大手メディアから村中氏と同じような「扱い」を受けたとしたらどのような反応や態度を示すだろうかと考えると、村中氏のような行動や態度はとても想像できません。
たまたま斉藤貴男氏を引き合いに出したので、HPVワクチンの様々な問題に切り込んだ彼の著作のリンクも貼っておきます。
子宮頸がんワクチン事件/斎藤 貴男
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村中氏の「もの書き」としての読者を巧みに惹き付ける文章力の「才能」は認めざるを得ませんが、彼女の文章は特定の意図や悪意に根ざした修辞や引用技法(第三者からの取材内容を自分の主張の都合のいいように上手に編集することetc.)が巧妙に駆使されていると言うべきものです。そういった修辞(レトリック)は『Wedge』記事やSNSから発せられる彼女の文章の随所に見られます。
たとえば、
子宮頸がんワクチン研究班が捏造 厚労省、信州大は調査委設置を 利用される日本の科学報道(続篇)で結びの言葉となっている村中氏の以下の文章。
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それぞれの立場と動機から、捏造に手を染める研究者たち——これが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。子宮頸がん罹患リスクを負ったワクチン未接種の少女たちとワクチンに人生を奪われたと苦しむ少女たちの未来は、こんな大人たちの手に委ねられている。
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「子宮頸がん罹患リスクを負ったワクチン未接種の少女たち」と、「ワクチンを打たなければ子宮頸がんになるリスクが高いぞ」という具体的科学的根拠を示さない脅し文句を入れる一方で、「ワクチンに人生を奪われたと苦しむ少女たち」と、「ワクチンに人生を奪われ苦しむ少女たち」と素直に書かずに“たと”の字句を入れて「それは被害者側の言い分」と抗弁できる用意周到な修辞。
「少女たちの未来は、こんな大人たちの手に委ねられている。」も、村中氏のかねてからの主張である「元凶は少女たちを洗脳している親や周囲の大人たち」に都合がいいように一方的に歪曲して一般化した悪質な印象操作です。こんなレトリックは他にもうんざりするほどあります。
村中璃子氏のツイッターでの発言
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テレビが少女を取り上げるのを見る度に心が痛む。少女たちが原告に名を連ね、ワクチンを恨むことで青春を過ごそうとしていることに対し、大人たちは正しく想像力を働かせて行動することができるのか。マスコミもよく考えて欲しい。子供たちが大人たちに消費されてしまうことがあってはならない。
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ジャーナリストとして当然に求められる副反応被害当事者たちへの取材を全くと言っていいほど行ってこなかった人物が、「ワクチンを恨むことで青春を過ごそうとしている」「子供たちが大人たちに消費されている」との言葉をよく吐けるものだと思います。
HPVワクチン副反応被害者の中には選挙権のある18歳や成人になっている女性も少なくありません。「大人たちに洗脳されている、消費されている」というイメージを拡げたいために、副反応被害者を自らの意志が働いていない操り人形かのように描き、被害者当人と家族や支援者の間の分断を諮ったり、被害者の親や支援者たちが悪者とのイメージを作って社会との分断を諮る村中氏の言動は悪質だと言わなければならないでしょう。
さらに、
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「子供たちは何も言えなかったんじゃないかな」今度は女の子の勇気が新しい記事を届けます。子供に向き合うことを忘れワクチンしか見なくなった親と症状しか診ない医者たちへ。ワクチン接種後の症状に苦しみステロイドパルスや血症交換まで経験し元気になった女の子から大切なメッセージを預かりました
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というコメントも酷い。
辛い症状から回復した女の子もいますが、全国にはまだまだ多くの健康被害に苦しんでいる人がいるのです。
村中氏の書き方では、そういった副反応被害者たちが健康をなかなか回復できないのは「子供に向き合うことを忘れワクチンしか見なくなった親と症状しか診ない医者たち」にも一因があるかのようです。そのような親や医者に少女が「何も言えなかった」からということにもなるようです。
繰返しますが、副反応被害当事者たちへの取材を全くと言っていいほど行ってこなかった村中氏にどうしてそういったことが分かるのでしょう、決めつけられるのでしょう。
副反応被害者と親の親子関係について意図的に歪曲し、それを一般化する印象を読者に植えつけようとする村中璃子氏の卑劣さには吐き気を覚えるほどです。
引用すればキリがありませんが、公正で科学的な批評を心がけるべき科学(医療)ジャーナリストがやってはいけない、慎むべき予断と姑息で狡猾な修辞を意図的に乱用するのが村中氏のやり方です。
そういった村中氏の言動には、彼女自身がHPVワクチン副反応に否定的な見方をしていることを割り引いても、現実として健康被害に日々苦しんでいる少女たちと家族に対する人間としての想像力やあるべき眼差しが全くと言っていいほど感じられません。
そのことと毎日新聞に猛然と抗議した村中氏の異様な行動を重ね合わせれば、彼女の人間性が透けて見えるというものです。
以前のブログ記事で、村中璃子氏には科学(医療)ジャーナリストを名乗る失格はない、彼女の本音と目的はソーシャルクライマーとして名声と権威を得ることにあるのではないかと書きました。ここに来てもっと言わせてもらえば、もはや彼女は悪しきソーシャルクライマーであり、ワクチンメーカーと推進派のスポークスマンになり下がっていると言うべきでしょう。
一方で見方を切り換えると、彼女の「本音と目的」は、もしかしたら達成されつつあると言えるのかも知れません。ひとつには、HPVワクチン推進派の医師たちから「ワクチンの効果と接種の正当性について、敢然とよく主張してくれた」といった評価や応援の声が上がっているからです。
副反応被害が社会問題になり接種勧奨が中止されている時に、世間の風当たりを気にして表だった接種勧奨再開の声をあげることに二の足を踏んでいた医師もいた中で、巧みな言論を纏って颯爽と登場した村中璃子氏はそういった医師たちから拍手喝采を持って迎えられ、彼女の言説はそういった医師たちの溜飲を下げる役割も果たしました。そういった意味では、村中氏は機を見るに敏な能力に長けているとも言え、それはそれでソーシャルクライマーとして成功するための必要な能力なのでしょう。
村中氏は、SNSのプロフィール欄からは隠匿のためか削除していますが、ワクチンメーカーである製薬企業の市場開発・マーケティング部門で働いていた経歴の持ち主です。その経験からワクチン広報活動の知識やノウハウに長けていたこと、さらにWHOの感染対策部門にも在籍経験があり、ワクチン行政の世界戦略にも明るいことが彼女の「成功」を後押ししていると言えるでしょう。日本産婦人科学会関連の国際シンポジウムに講師として招待されるなど、すでにHPVワクチン推進派から「重宝」されてもいます。
そして、いつの間にか彼女には京都大学の非常勤講師の席も用意されています。まさに、「ソーシャルクライマー」として村中璃子氏は、それなりの「成功」を収めているかのようです。
成功という言葉を括弧付きで書きましたが、それは医学・医療界において彼女の名声や地位がそれなりに高まり、「評価」されたという村中氏個人の話であって、既に社会問題化しているHPVワクチンをめぐる様々な問題の建設的解決という観点からは、彼女の言動がそれに貢献しているとはとても言えないのではないか、逆に阻害しているのではないかということを含意しています。
HPVワクチンを有効だと考えている医師や医療関係者の中にも、村中氏の一連の言動には眉をひそめ批判的にみる人が少なからずいます。彼女の言動には、HPVワクチンをめぐる推進派と慎重派の間にある対立の溝や傷をより深くしている面があることは否定できないでしょう。
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(*1)本ブログ記事は村中氏記事が主張する「捏造」疑惑の検証を主題、目的にしていませんが、以下のWeb記事が池田研究班の報道の経緯や「捏造」疑惑の真偽を冷静にみる上で参考になると思うのでリンクを貼っておきます。
村中璃子氏記事『2016.6.17 子宮頸がんワクチン薬害研究班に 捏造行為が発覚』について マキノさんのツイートまとめ
追記および村中璃子氏の連載記事に関して (後編)
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