リフレ派は増税を肯定し、財政出動を否定しているという事実を認めない人々 | 批判的頭脳

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noteにて、「経済学・経済論」執筆中!

「なぜ日本は財政破綻しないのか?」

「自由貿易の栄光と黄昏」

「異次元緩和はなぜ失敗に終わったのか」などなど……




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最近各所で議論するにあたって、私が本当に辟易したのは、いわゆるリフレ派の支持者であるにも関わらず、リフレ派が財政政策の効果を(財政出動効果という意味でも増税効果という意味でも)認めていないという事実を、なぜか知らない、あるいは意図的に無視している人々が多いことである。

確かに、上念司などはリフレ派を自称しつつも財政政策(特に増税反対)を強調することもあり、こういったごく一部の市井リフレ派の喧伝によって"印象操作"されたのかな? とも思える。

また、市井リフレ派の活動の一環として、三橋貴明のような本来リフレ派とは乖離する部分を持つ論客を、政策宣伝に"利用"したというのも、リフレ支持者の知見を混乱させる事態であったに違いない。

例えば、山本博一氏のブログ「ひろのひとりごと」の以下のエントリのコメント欄では以下のような返信をつけられた。


軽減税率決まってほしくなかったが・・・


22. Re:Re:Re:本当に消費増税が問題だと思っているのか?

(前半略)

そして、ほかのリフレ派の方々は消費税に反対してますので、あなたの理解不足は明白ですね
(^_^;)

べてらんず 2015-12-16 08:00:39


30. 無題
ポジショントーク上とは言え、浜田参与の発言自体(本心は別にして、発言自体)を批判するのは理解しますが、リフレ派の大多数は消費税増税に反対なのですから、増税派でなければリフレ派批判する意味がないですよ(^O^)
浜田参与の発言のみを批判すれば良いだけですし、浜田参与よりも増税圧力として働いている財務省や税調を批判するのが筋でしょう(^_^)/
(後半略)
べてらんず 2015-12-16 11:55:40




(このべてらんずというコメンターの他の主張の異常性についても特筆すべきものがあるが、また後述する。)

また、血祭謙之介(NWD)のブログ『とあるプロレスラーがモノ申す』においても、ブログ主でありリフレ派政策の強烈な支持者であるはずの血祭氏から、リフレ派が財政政策を軽視している証拠を出せと言われるまで至った。

【島倉原】「グローバル化は“いつか来た道”」なのか?【経済評論家】 ※「マ」付き

55. ※53 望月夜様
(前半略)

そもそも、所謂“リフレ派”と呼ばれている人達の中で、
「金融緩和だけで十分」
と主張された人は、誰かいらっしゃいましたか?
血祭謙之介(NWD) 2015-12-20 12:55:59



しかし、いわゆるリフレ派、特に、政治的影響力の比較的強いリフレ派については、増税は肯定されているし、財政政策は無効(あるいは有害)と考えているということは、すでに明らかである。

参考:アベノミクスの実績と消費増税

また、先日のエントリのコメント欄でポルシェ万次郎さんが紹介してくれた原田泰の言説も、リフレ派の基本的な認識を理解するのに大変役立つものであったので、紹介者に感謝しつつ引用する。


原田「財政・金融両面から景気を刺激しようとするからいけないのであって、財政は何もせず、金融だけで景気を刺激すれば良い。(中略)それでも6割は金融政策が支えていたということは可能で、かつ、公的支出によって、他の需要項目が抑えられてしまっていた可能性がある。(中略)1990年代以降、政府支出の増大で景気刺激策を行ってきたときには、金融緩和をしていなかったので、政府支出の効果はほとんどなかった。(中略)公共事業を抑えておけば円安がさらに進んでもっと輸出が伸びていたはずである。(中略)不要不急の工事をすれば単価が上がって、他の必要な建設工事の妨げになる。第2の矢の財政拡大政策は再考すべきである。(中略)小泉政権下の金融緩和と緊縮財政の組み合わせという政策が成功したことを再認識すべきだ。(中略)財政政策の効果は小さい。金融政策だけで景気刺激効果があるのだから、財政政策を発動しなければ、財政状況は必ず改善する」

公共事業が持つ景気抑制効果 第2の矢の再考を 原田泰 WEDGE Infinity(2014-04-02)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3650




リフレ政策のおそらくはもっとも強力な支持者の一人である原田氏の、大変明快な金融財政政策理解である。これは通常経済版マンデルフレミングモデルの理解に完全に沿ったものであり、一定以上の知的水準のリフレ派には明らかに共有された見解である。

ちなみに、このことを指摘した際、血祭氏には「ウザいんでBanさせて戴きました。」という捨て台詞とともに投稿拒否を喰らうこととなってしまった。私が投稿拒否を喰らうべきコメンターであったか、あるいは、血祭氏の投稿拒否処分が理性的で説得的なものかは、是非引用記事コメント部分をご覧になって各々判断していただきたい。)


しかし、現実には、少なくないリフレ支持者が、このことを知らないまま発言を繰り返している。べてらんずや血祭といった人々は、氷山の一角に過ぎない。

特に奇妙なのは、マンデルフレミング効果を強調しつつ、増税を非難することの論理的非整合性をほとんど自覚していないということである。また、その論理的非整合性を是正するのに、誤った認識でフォローする、という現象もみられる。


【島倉原】「グローバル化は“いつか来た道”」なのか?【経済評論家】 ※「マ」付き

61. ※57&58&59 望月夜様
>増税の場合は、ISが左シフトし、金利が下がり、資本が流出して為替が下がり、輸出が増えるというルートで元の均衡点に再均衡する。したがって増税の影響はまったくキャンセルアウトされる。

それは、
A.当初の国民所得の水準が暗黙のうちに完全雇用水準を仮定
B.暗黙のうちに金融政策は何もしないことが最善だと仮定
のどちらかを前提にしなければ成立しない論ですね。

(後半略)
血祭謙之介(NWD) 2015-12-20 19:33:34



マンデルフレミングモデルの解説部分を付記したマンデル=フレミング・モデルの妥当性と流動性の罠に関する下手くそなお絵かきを参照していただければ、彼の誤りは明らかであろう。

まず、完全雇用水準を仮定しているということはまったくない。そもそもマンデルフレミングモデルは、総需要制約的な経済を前提としている。(これは、マンデルフレミングモデルがIS-LMを基礎に作られており、AD(総需要)を決定するモデルであることから明らか)
したがって、マンデルフレミングモデルが妥当するのは不完全雇用水準においてである。もちろん、増税がキャンセルアウトされる効果も、不完全雇用均衡下で見られるものである。

また、増税単体の効果を考えているため、金融政策は考慮していないし、その必要もない。むしろ増税それ自体の効果を考えるなら、他の要素は攪乱要素だ。当然、実際の経済変化を予測するのに攪乱要素への考慮は大事だが、増税単体の効果分析には必要ないし邪魔である。

そもそも、マンデルフレミング効果とは総需要が金融政策のみに左右され、財政政策は無効になるというものを示唆するものである。これは当然増税も同じだ。金融政策でもし総需要をどうとでも動かせるのであれば、増税しようが何しようがお構いなし、ということになるし、リフレ派諸賢は当然そのように考えていた。


余談だが、こうしたリフレ派支持者たちのマンデルフレミングモデルの無理解や誤解には目に余るものがある。
上記拙エントリで、マンデルフレミングモデルの概説を付記として必要と判断するに至った他ブログエントリのコメントを紹介しよう。


財政派の提言は極めて経済学に忠実(ただし・・・)

(私のコメント)40. 無題
そもそも、空き地氏はマンデル・フレミング効果の説明を受け入れているにも関わらず、どうして消費増税には(負の)効果があるという認識も同時に成立させているのだろう? それが私にはとっても不思議に移る。
通常のマンデル・フレミングモデルのもっとも重要な示唆は財政政策が総需要に"中立"であるということであり、増税があっても輸出増で相殺されることになっている。財政出動による輸出減の説明は受け入れているにも関わらず、逆について(とくに詳説することなく)否定している様は、私を大いに混乱させている。
(ちなみに、流動性の罠を導入すると、どっちの効果も崩れる。以下の私のブログ記事から)
http://ameblo.jp/nakedcds/entry-11824015244.html

(後半略)
望月夜 2015-03-18 23:14:56



42. Re:無題
>望月夜さん

>どうして消費増税には(負の)効果があるという認識も同時に成立させているのだろう?

え?だって今回の消費増税には金融緩和が伴っているじゃないですか。金融政策が伴っているなら「マンデルフレミング効果」の範疇ではありませんよね?というか、マンデルフレミング効果自体が「どちらか片方の政策だけ行う」ことが前提の話でしょ?

前提が異なるのですから、マンデルフレミング効果を基に「消費増税は中立だ」と“言わない”のは当然のこと。同時に、金融政策が伴っているから財政政策は「無効ではない」というのが私の立場。拙ブログの別記事ではちゃんと(変動相場制の国における)経済政策効果について「金融と財政の併用>金融政策のみ」であることを述べています。

(後半略)
空き地 2015-03-24 02:19:24




当然のことながら、マンデルフレミング効果は、どちらかが片方の政策だけを行うことが前提であったりはしない。(単純に、それぞれの政策の性質を説明するにあたって、便宜的に分けて説明しているに過ぎない)

また、金融緩和が伴っていると増税が効果を持つという主張、裏を返せば、金融緩和がなければ増税は効果を持たないという主張は、珍妙極まりないものであると言えよう。(しかし、このような珍妙な誤解なしには、マンデルフレミング効果を受け入れつつ増税に反対するという精神分裂的な行動は不可能なのである

私はここでただただ空き地氏をなじりたいわけではない。すでに述べたようなリフレ界隈の主張の混乱を、リフレ支持者たちがなんとか自分の中で整合的に整理しようとするとき、こういった誤解が続出するのである。この誤解を維持して自身の知的整合性を表面的にあっても保つために、モデルの理解を怠るという暴挙にまで出るに至っては、人間の無知・盲目への誘因というものの強さを感じ、恐怖せざるを得ない。

また、自身のうちで認知整合性を保つために、解釈をゆがませたり誤ったりする例の一つとして、べてらんずの「浜田参与ポジショントーク仮説」は非常にユニークなものであった。
しかも似たような見解を引用元ブログ主である山本博一氏も共有していたということには驚愕した。
おそらく、市井リフレ派が増税に反対しているのに、リフレ派急先鋒の浜田教授らが増税に肯定的であるという矛盾した事実を整合させるために市井リフレ派が構築し流布した歪んだ認識なのだと思われる。


軽減税率決まってほしくなかったが・・・



19. Re:Re:Re:本当に消費増税が問題だと思っているのか?
>望月夜さん

浜田参与が
「増税しちゃったらもうおしまいだ」って言ったらそれこそオシマイでしょう。

氏の発言一つで、為替が1円以上も動いてしまうそれだけ影響力のある人なんですよ?ダメだといったら期待インフレ率もだだ下がりに、実体経済にも影響が出てくる。

弱気な発言はできるはずがない。藤井参与とは影響力が違うのです。
山本博一(ひろ) 2015-12-16 05:50:11



31. Re:Re:Re:Re:Re:本当に消費増税が問題だと思っているのか?
>望月夜さん
消費税が確定の間は、悪影響を主張するほど野党からの攻撃材料+実際の市場にも心理的マイナス影響でしょう(^O^)

悪影響出た後は、次に同じ過ちをさせないためにも、「思ったより悪影響大きかった」と発言するのです(^_^)/

参与の本業は総理への提言
次に総理の意を汲んでの世論作りですよね

立場を理解してない変な参与もいるでしょうけど
(^_^;)
べてらんず 2015-12-16 13:43:34




これは実に奇妙かつ恐るべき見解である。

それがなぜか、コメント欄で私がすでに指摘しているので、引用しよう。


浜田参与はアジテーターとしてではなく、経済の専門家として行政に助言を与えるために参与という役職についているはずである。
もしそれを否定するなら、リフレ派諸賢に対しても大変な挑戦なのである。浜田教授の言っていることは何から何までポジショントークで、経済学的に正確かどうかは関係ないというのだから!!



もしこれがまともな理解だというなら、それを知った上で浜田及び主流リフレ派の論説を素直に聞くことなど二度とできはしないだろう。

なにより、私は、浜田が行った自己批判(参考:マンデル=フレミング・モデルの妥当性と流動性の罠に関する下手くそなお絵かきの追記2)、すなわち、マンデルフレミング効果によって増税の影響がないと考えていた自身の見解は間違いで、流動性の罠では財政政策が有効になるということを受け入れた発言は、その言葉通りの正直な浜田の見解なのだと見るべきだと思う。それまでの浜田の主張との連続性が強力で、風見鶏的ポジショントークの産物とは見受けにくいからだ。


この話は、何もこの論争に限った話ではない。自身の知的整合性に矛盾が発生したとき、それを誤謬や嘘、盲目で取り繕うか、そもそも自身の議論そのものを点検して変換するか……どちらが正しい態度なのかを、より深く見つめなおすべきである。リフレ支持者たちにとって、今回はそれを学ぶいい機会であるはずだ。



追記:2015/12/23





当記事のはてなブックマークにつけられたコメントだが、実に散々なものだ。
しかも多いのが、タイトルだけ見てとりあえず否定的なコメントをつけておくという厚顔無恥な行為を平気の平左で行う方々だ。これはいわゆるレッテル貼りとか印象操作というやつで、最も稚拙な議論の仕方であるということを分かっているのだろうか。

笑うべきか悲しむべきかわからないのが、かような見づらいところに勇ましいコメントをつける人々が当記事自体にはまったくコメントしてくれないという事態である。これでは深まる議論も深まるまい。


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