アベノミクスの実績と消費増税 | 批判的頭脳

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創造的破壊を希求し、而して破壊的創造を遂げる。

noteにて、「経済学・経済論」執筆中!

「なぜ日本は財政破綻しないのか?」

「自由貿易の栄光と黄昏」などなど……



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2013年第3四半期GDP速報が先日公開され、二期連続のマイナスが多くの人々を動揺させた。

消費増税直後の低下とその反動は、駆け込み需要&反動で説明できる動きであったが(それを差っ引いても、非常に大きいマイナスであった)、直近の停滞は、消費税に起因する経済のトレンドの変化が原因だろう。上海株暴落に端を発した資産市場のショックも関係はしているだろうが、肝心の下降自体はそれよりも前から始まっている。

これらの状況を鑑みて、真っ先にリフレ派と呼ばれる人々が取った行動が、消費増税への論難とアベノミクスの擁護であった。

アベノミクスを成功させるために、消費税増税を先送りせよ
山本幸三×飯田泰之

では、山本幸三が「アベノミクスと消費税増税はまったくの別物。」と断言している。

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追記:12/18

しかし、当の山本幸三は、5⇒8%増税のときにはこう述べていたのである。


消費増税:自民、8%への引き上げ論一色に 全議員会合で


デフレ脱却と消費税は関係ない。10月まで延ばさず早く決めるべきだ

その真意は、飯田との対談記事で見て取れる。

『 増税しても大丈夫だと思っていたのは、金融緩和によって円安になれば輸出が伸びて、消費税増税の影響を相殺してくれるというのが根拠でした。

増税によって一時的にISが左方シフトしても、金利低下⇒為替減価⇒輸出増で解決されるとするのが、通常経済版マンデルフレミングモデルが示唆する典型的なマンデルフレミング効果である。山本幸三は、明らかに、この発想に準拠していると思われる。

また、予想が外れた原因を輸出構造の変化に求めているが、それは誤りで、実際には、財政政策の効果が流動性の罠では重大になることが原因である。後述するが、この点を認めた浜田に比べて、山本は一歩出遅れている印象である。


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もちろん、市井のリフレ派やアベノミクス支持者(上念司などが典型)の多くは、消費増税に反対する運動を長らく続けてきたのであり、それは認めるべきと思われる。

しかしながら、アベノミクスの基本哲学として、消費増税が否定されるものだったかどうかについては、大いに疑問符をつけざるを得ないだろう。

それはなぜか?

市井リフレ派レベルでは消費増税に対する反対運動が燃え盛る一方で、実際に施政に関わっていたアベノミクス推進派の経済学者は以下のように考えていたからである。


株高円安は日銀の不熱心さを露呈させた

浜田宏一「難しい言葉ではマンデル=フレミング理論というのですが、経済学は完全雇用※ではないところでは財政政策も金融政策も必要ですが、特に変動相場制では金融政策が主とならないといけないとなっています。」

「今、自民党の政策で一抹の不安があるとすると、「財政政策がないと金融政策はきかないのではないか」と思っている党の人、あるいは閣僚の一部も存在することです。私は金融緩和しても、何も効かなくなったという時に初めて財政政策が後押しをするという、副次的な役割をすべきだと思っています。」


第1回「今後の経済財政動向等についての点検会合」議事要旨

浜田「増税による財政引き締めはマンデル・フレミングのもとでは比較的安心ではないかと思っていたが、いま増税がもろに効いている。伊藤先生も言っておられたけれども、そんなに増税しても響かないのではないかと思ったが、それに比べれば響いている。そういう意味では私も今反省しているところだ。」
※すなわち、増税ショックが明らかになるまでは、マンデルフレミング効果により、増税の影響はあまり出ないと考えていたということである。


また、市井リフレ派の中でも、高橋洋一は、マンデルフレミング効果をかなり強調している。

高橋「変動為替相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きく、理論的には財政政策の効果はないとされています。
これは、1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデルと、ジョン・マーカス・フレミングの「マンデル・フレミング理論」によるもので、公共投資の効果が輸出減少・輸入増加という形で海外に流出してしまうというのがその理由です。
実際、90年代の日本で公共投資を連発したにもかかわらず、一向に景気は回復せず、巨額の国家債務だけが残ったのも、この理論でよく説明できます。
いまだに、公共投資一本槍の政治家やエコノミストの皆さんには、ぜひこの理論を論破してもらいたいものです。間違いなく、日本人初のノーベル経済学賞受賞者になれます。ぜひ、頑張ってください(笑)。」
(高橋洋一「この金融政策が日本経済を救う」、32~33ページ)


しかし高橋洋一は、この舌の根も乾かぬうちに消費増税を批判している。また、浜田宏一についても、支持者へのポーズかもしれないが、消費増税に懐疑的なコメントを出したりしたこともある。(最近は、法人税減税がセットならば良いという主張に鞍替えしたようだ)

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追記:12/18

市井リフレ派の代表格の一人である田中秀臣が自身のブログで引用したツイートを晒しておく。

浜田先生の解法は、1)財政政策だけ⇒マンデルフレミングから限定的な効果しかない、2)金融政策だけ、社会コストが少なく即効性もある、3)でも2)だけでは知的に洗練されてない人がつれない可能性もあるので、知的じゃない人たちが効くと信じてるもの(財政政策、構造改革)も組み合わせて釣れ。

これに関連した田中秀臣のツイートは、リフレ派がいかに財政政策を軽視していたかを理解するのに役立つと思われる。

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しかしながら、本当にマンデル・フレミング効果が有効なら、浜田が経済財政諮問会議で述べたように、財政政策は、財政出動であれ増税であれ、キャンセルアウトされるはずなのである。
もし影響があったとして、財政赤字縮小⇒資金需要の減少⇒金利低下⇒円安⇒輸出増を通じて、増税対象者から輸出業者への所得移転が起こるだけで終了するはずというわけだ。

ここらへんのロジックをしっかり詰めていない市井リフレ派は、増税への反対運動に何の疑いもなく勤しんでいたと思われるが、一定以上のレベルのリフレ派はこのことがわかっていて、消費増税懐疑のスタンスを保ちつつも、浜田のような楽観論に暗黙の裡に与していたのではないか? と思われる。

となれば、アベノミクスの根幹の議論も揺るがざるを得ない。

なぜなら、もともとアベノミクスは、リフレ派の理論を参照し、異次元緩和と称する非伝統的金融政策によって、経済浮揚を目指すものであったからである。(詳しくはここここ

その根底には、マンデルフレミング効果を念頭に置いた、財政無効金融有効の判断があるに違いない。

にも拘わらず、アベノミクスの中に第二の矢が入れられていたのが不思議なくらいなのである。おそらくは、リフレ派と異なる財政出動派との政治的折衝の中で作られたキメラ的項目なのであろう。実際、この第二の矢は、ことここに至ってまったくもって形骸化していると言わざるを得まい。

しかしマンデルフレミング効果は、流動性の罠では破れるのである。(詳しくはここ
※浜田も、最終的には経済財政諮問会議で、ゼロ金利時のマンデルフレミング効果に対する懐疑を表明している

この点を総括しなければ、アベノミクスは何度でも同じ過ちを繰り返すことになる。
すなわち、口だけの増税批判財政軽視による、財政政策の失敗、ひいては、経済政策トータルでの失敗である。

もはや、アベノミクスと増税に関係がないと嘯くことは、無意味を通り越して詐欺に近い。アベノミクスを支える根本的な考え方が、増税の有害性を見落とす最大の理由になっているからだ。


現在の経済停滞は、多かれ少なかれ、アベノミクスのもたらしたものである、という事実を受け入れる必要がある。

追記:同日

なお、アベノミクスによる成果と見做されていたものの多くは、アベノミクス以前からの回復とトレンドをなぞったものに過ぎないのではないかという重要な指摘があった。
 
アベノミクスで雇用が増えたと言えるのか?

こちらのページでは統計分析により、就業者増加のトレンドは安倍首相就任前から始まっていること、有効求人倍率の回復は危機直後から持続していること、投資の回復は2010年頃から、銀行貸出は2011年から回復が続いていることを明らかにしている。

『注意して欲しいのはアベノミクス以前から景気指数が改善されて来た事は、アベノミクスの失敗を意味しないことだ。アベノミクスが無ければ景気が既に腰折れていた可能性も、そうでない可能性もある。第二次安倍内閣が発足してから、消費増税後も含めて、雇用が増え続けていることは事実だ。』

………流動性の罠の議論に従えば、2013年にGDP寄与度0.8程度の弱弱しい財政出動を一発打った程度では(GDP統計より)、いかに非伝統的金融政策が"成功"しようとも、景気浮揚が限定的に終わることなど明らかである。

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