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本の虫凪子の徘徊記録

新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【再読】  赤川次郎 赤川次郎ベストセレクション①『セーラー服と機関銃』 角川文庫

 

本日はこちらの作品を再読。下手すると映画の方が有名かもしれない作品です。

私が初めて読んだ文庫本の表紙は薬師丸ひろ子さんでした。

こちらの新版の表紙は中村佑介さんによるイラストです。花札モチーフがお洒落。中村さんの絵は色遣いと線の感じが良いんですよね。この方の作品は和風でレトロなモチーフの方が良い仕上がりになっていると思います。

 

それでは、ここからは簡単に感想を。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

この物語の主人公は、突然ヤクザ「目高組」の四代目組長にされてしまった十七歳の少女・星泉ちゃん。父親を亡くしたばかりです。先代の血を引く唯一の人物ということで、ここにセーラー服を着た美少女親分が爆誕しました。
まあヤクザといっても組員はたったの四人という落ちぶれた弱小組織なのですが、そんな目高組のために泉ちゃんは奔走します。
ヤク絡みの事件に巻き込まれ、銃撃されたり、周りの人間を殺されたり、別組織に誘拐されたり。それでも折れない泉ちゃん。つい最近までパンピーだったとは思えないほどの強メンタルっぷりを見せつけてくれます。

泉はサバサバした性格なので見ていて本当に気持ちが良いです。が、そのぶん、あまりにも怖いもの知らず過ぎて時々冷や冷やもします。行動力の塊です。
若干短気ではあるものの、義理人情に厚く、土壇場での度胸もある泉は、人の上に立つ資質も十分に持っていたんじゃないでしょうか。最終的に目高組は潰れてしまうのですが、何だかんだ彼女は良い組長だったと思います。

そしてラストはほんのり切ない。
ハッピーエンドで終わらせてくれないのが赤川次郎です。憎い。
佐久間は一貫してカッコいい男でした。泉との絶妙な距離感も好きです。彼にも幸せになって欲しかった。

汚職刑事の黒木は紛うことなきクズですが、キャラとしては結構好きです。小物らしい惨めな最期も良い。さらっとコンクリ詰め。
泉のファン三人も良いキャラしていたと思います。特に頭脳派の竹内君。超有能でした。

ストーリーは結構重く、人もどんどん死んでいきますが、会話文が多くテンポが良いせいか、ライトなエンタメとして仕上がっています。泉もちょくちょく死にそうな目に遭っているのに、全体的にどことなくコミカルで、あまり暗い雰囲気にはなりません。こういうところに赤川次郎っぽさを感じます。
初見でもさくっと一気読みできるんじゃないでしょうか。

名作ですので、原作を読んだことがないという方はぜひ読んでみてください。
それでは今日はこの辺で。

 

 

 

 

【再読】  ロバート・マッシュ『恐竜の飼いかた教えます』序文リチャード・ドーキンス 新妻昭夫・山下恵子訳 平凡社

 

大人が読んで楽しい本です。絵本というか、図鑑というか。
タイトルも中身もツッコミどころ満載。
現代社会に恐竜が存在していることを前提に書かれた、文字通り「恐竜を飼育するための手引書」です。著者は間違いなく私達とは別の世界線に住んでいます。絶妙にリアリティがあるのがまた面白い。何なら冒頭のドーキンスの序文からもう愉快です。イギリス人のユーモアセンスが爆発してます。
それでは早速、内容について書いていきたいと思います。

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

恐竜を飼うためには、新鮮な餌や飼育場所の確保は勿論のこと、医療器具や拘束具、防護用のヘッドギアや頑丈な革手袋など、実に多くのものが必要になります。獰猛な肉食種や巨大種、翼竜種などを育てる場合には特に、犬猫を飼うよりもずっと気を遣うことになりそうです。

この本では恐竜の基本情報(全長と体重、見た目の特徴)に加えて、食性や飼育場所、繁殖方法や入手方法などの情報が細かく記載されています。イラスト付き。ネコや人とのサイズ比較もあるので大きさが分かりやすいです。
排泄のしつけができるもの、定期的なブラッシングを必要とするもの、子供を食べてしまう恐れがあるものなどはアイコンでそう示されています。とても見やすく親切な仕様です。

初心者向けの恐竜として紹介されているのは「コンプソグナトゥス」「エウパルケリア」「コエルロサウラヴス」の三種。中でも一番飼いやすそうなのはエウパルケリアでしょうか。イグアナに似た小型の恐竜です。室内で飼うことができ、エサもキャットフードや残飯でOKとのこと。飼い主にもよく懐いてくれるそうです。大抵のダイノマートで購入できるらしいですが、残念ながら私の家の近所にはありません。どこに行ったらいいんですかね。

羽毛のある恐竜は抜け毛が凄いようなので、室内で飼うのは少し大変そうです。始祖鳥とか多頭飼いしてみたいんですけどね。
大型の種は飼うのに放牧場が必要になるので論外だとして、あまり獰猛なものも近くに置きたくはないというのが本音。デイノニクスとかヴェロキラプトルとかを育ててみたい気持ちはありますが、あの立派な鉤爪を切ってしまうのも勿体ないですし。(危険なので鉤爪を切ることが法律で義務付けられているそうです。どこの国の法律かは知りませんが)

ここに載っているもので私が一番飼ってみたいのは「コエロフィシス」。小さい頃から大好きだった恐竜です。第五章【警備のための恐竜】の中で取り上げられています。
全長三メートル、体重二十キロほど、知能が高く器用で、俊敏さが特徴的な種類です。肉食ですが、卵や魚、キャットフードやミューズリー、コンビーフなども食べます。好き嫌いが少ないのはありがたい。危険なので幼児やペットからは遠ざける必要があります。
繁殖も割と容易。飼育に広い場所と柵が必要、というのだけがネックです。
アメリカのコネティカット州、コエルロサウルス・トレーディング・センターや、ニューメキシコ州アビキューのゴースト獣脚類牧場で入手可能だそうです。本当かなあ。

その他、革や羽毛、肉や卵などを利用するための畜産恐竜や、個人所有には不向きのテーマパーク用恐竜なども紹介されています。
恐竜バーガーなんて単語はこの本でしか見たことがありません。イグアノドンの肉が豚肉とロブスターの中間のような味、というのは本当なのか、著者に直接聞いてみたいところです。
テーマパークや動物園向きの恐竜は巨大種が主となっています。首の長い竜脚類やステゴサウルス、トリケラトプス、そしてみんな大好きT−レックス(この本ではティランノサウルス表記)。
いやあ、やっぱりカッコイイ。エサについては、【体重4.5tのティランノサウルス1頭の1年分の食餌として、体重68kgの法律家292人が必要とされている。しかし、誰が考えても楽観的にすぎる推定値だろう。】と書かれています。
どんな計算だ。確かに分かりやすくはありますけど。

一番最後には世界各地の恐竜ショップ案内がついています。
参考にはなりません。
本当に良いセンスしてると思います。

ディスカバリーチャンネルの『恐竜再生』を見て育った身としては、この本は本当に好みドンピシャです。恐竜好きのツボを的確に押さえに来てます。何度読んでも最高。
興味のある方はぜひ。
それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

【再読】  畠中恵『ねこのばば』 新潮文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。

若だんなと兄や、妖たちが活躍する『しゃばけ』シリーズの第三弾。今回も短編集です。

ちょっとカバーのフチが擦れてます。

それでは早速、簡単に感想の方を。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

『茶巾たまご』
寝込んでばかりの若だんなの調子が良くなった!?という事件。ラストで、長崎屋に来た貧乏神の金次のおかげだったことが判明します。貧乏神は大切に扱えば福運をもたらしてくれるそう。これ以降準レギュラーになる金次は結構好きなキャラクターです。
まあそちらはおまけみたいなもので、話の中心になるのは若だんなの異母兄・松之助の縁談話と、その相手の家で起きた殺人事件の方でした。お秋さんを殺した下手人がサイコパス過ぎてぞっとしましたね。倫理観どこいった。


『花かんざし』
妖の見える幼女・於りんちゃんが初登場。深川の材木問屋のお嬢さんです。そしてその叔父に当たる正三郎と許嫁のお雛さんも初登場。このカップル好きなんですよね。お雛さんは若だんなが塗り壁の妖怪かと勘違いするほどの厚化粧なんですが(表情を動かすと白粉が割れて剥がれ落ちそうになるレベル)、性格は普通に良い子です。この厚化粧にも理由があることが後々判明しますし。
そしてここでもまた殺人事件。
狐憑き(遺伝の精神病)に苦しむ女性と、彼女を愛する周囲の人々の苦悩、今回の殺人はどちらかというと事故に近いものではありましたが、何ともやるせない結末になってしまいました。
「選びたくない道しか目の前に無いとき、人はどちらを向いて、足を踏み出すんだろうか……」
最後の正三郎のセリフが重いです。


『ねこのばば』
今回の舞台は上野の広徳寺。妖封じで有名な、寛朝という御坊さんが出てきます。この御坊、金に汚く僧にしてはかなり俗物的で、飄々とした性格ながらも不思議と迫力がある、食えない男です。ちなみに腕っぷしも強い。強キャラ臭が凄い。
寺で退治されそうになっている猫又の救出に来た若だんなたちは、そこで起きた僧の殺人事件と消えた金の行方について調べてくれるよう、寛朝に頼まれてしまいます。
最終的には事件を華麗に解決し、猫又の小丸も無事引き渡してもらうことができました。

色欲に溺れた僧たちが起こした事件。まあ御坊さんが皆清廉潔白というわけでもないんでしょうが、こういうの、ちょっとがっかりしてしまいます。御仏に仕える身で何をしているのやら。
ちなみに色子買いより吉原通いの方が重罪だそうです。男が相手ならセーフなのか。


『産土』
今作の中で一番好きなお話です。
弘法大師によって描かれた犬神、今は若だんなの兄やの一人である佐助が主人公です。
初めて読んだときには、相棒の仁吉が全く登場しないのに違和感を感じました。そして読み終えて納得。過去編だったんですね。道理でちょくちょくあれ?と感じたはずです。

何度読んでも悲しくなるお話でした。ラストの「若だんな」の骸の側で呆然とする佐助はとても見ていられません。あまりにも絶望的な結末。佐助あんなに頑張ったのに。
結局、人の欲は恐ろしい、という話でした。金と引き換えに息子の肉体を妖怪に売り渡した井筒屋主人は親として最低だと思います。


『たまやたまや』
幼馴染の栄吉の妹・お春の嫁入り話を中心にストーリーが進んでいきます。若だんなにとっても幼馴染であり、妹のような存在のお春。下手な相手に嫁がせるわけにはいかないと、若だんなはお相手の「庄蔵さん」について勝手に調べて回ります。そしてごたごたに巻き込まれる。
武士が出てくる話はシリーズの中でも結構珍しいです。

お春ちゃんのいじらしさにキュンキュンしました。好きな人に妹としか見てもらえないのは辛いでしょうね。家格の違いもありますし。
お春ちゃんの気持ちを察して、きちんと答えを出した若だんなも立派だったと思います。


以上、全五編です。
今後準レギュラー化するメンバーがたくさん出て来きました。お雛ちゃん、可愛い。
『産土』もやっぱり良い。個人的に、仁吉よりも佐助の方が人間味があるような気がしています。私はどちらかというと佐助派です。
私のイチオシである屏風のぞきは今回あまり登場しませんでしたが、どれも面白かったです。

それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

【再読】  スティーヴン・キング『ゴールデンボーイ』浅倉久志訳 新潮文庫

 

最近忙しくて本を読む時間があまり無いのが悩み。

久々の投稿になります。

本日はこちらの作品を再読しました。キングの作品の中でも特に好きな一冊。

「恐怖の四季」の前編、『刑務所のリタ・ヘイワース』と『ゴールデンボーイ』の二作が収録されています。どちらも映画化済みです。

それでは早速、感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

『刑務所のリタ・ヘイワース』―春は希望の泉―
ショーシャンク刑務所内の調達屋・レッドが語る、アンディー・デュフレーンという男の話。
酒やタバコからいたずらグッズや女の下着まで何でもござれの調達屋・レッドは、ある時囚人仲間だったアンディーと親しくなり、やがて誰よりもアンディーという男を知る人物になります。

妻殺しの冤罪で収監されたアンディーは、元エリート銀行員という肩書と己の才覚のみで刑務所内をのし上がり、そしてその後脱獄した、伝説の男です。監房の壁をちまちま掘り進めること二十七年。四百五十メートルもある狭い下水管の中を汚物まみれになりながら這い進み、そのまま姿をくらましました。

レッドの知る囚人時代のアンディーは、身だしなみがよく物静かで、不思議な雰囲気を纏った男性です。
脱獄の方法からも分かる通り、信じられない程根気強く、また、かまほりのシスターたちに徹底抗戦するプライドの高さも持ち合わせています。良い意味で自己中心的というか、完全に己のペースで生きている人といった印象です。
先見の明と思慮深さに加えて、運を味方につける勝負強さまで兼ね備えており、脱獄だけでなくその後の平穏な暮らしまで手に入れました。手腕が鮮やかすぎて惚れ惚れします。

閉塞感漂う刑務所の中で、レッドとアンディーがお互いの中に価値を見出し、親交を深めていく様子には何度読んでも胸が熱くなります。
私は、作中でレッドがアンディーから贈られた石英の彫刻を前に感動する場面が好きです。かつてクソ野郎だった彼が、美しいものに素直に心打たれる様子にはこちらまでじんとしました。
レッドと同じようにアンディーに惹かれる仲間たちが、彼の脱獄後は寂しそうにしていたというのには少しほっこりとしてしまいました。
彼の自由を喜びながらも、彼のいない生活を空虚でわびしいものに感じてしまうレッドたち。陳腐な言い方になりますが、愛されていたんだなあ、としみじみ思います。
その後伝説が独り歩きして「アンディー」が半ば概念化しているのには笑いますが。

物語終盤、特にレッドが仮釈放になってからがこの作品で最も好きな部分です。
すっかり老いてしまい、「外」の世界に馴染めず、何度も刑務所に戻ろうかと考えるレッド。しかしその度、自由のために壁を掘り続けたアンディーのことを考えては、「それ(わざわざ自ら戻ること)は彼の苦労に唾をかける行いだ」と、思い留まります。ここは本当に良い場面だと思います。
そして、あのラスト。
【シワタネホ。そんな美しい名前は忘れようったって、忘れられるもんじゃない。】

【どうかアンディーがあそこにいますように。
どうかうまく国境を越えられますように。
どうか親友に再会して、やつと握手ができますように。
どうか太平洋が夢の中とおなじような濃いブルーでありますように。】
【それがおれの希望だ。】

かんっぺき。泣きます。
なんて綺麗な終わり方。もう言うことなしです。

ちなみにこちらの原作では、レッドが黒人だという描写はなく、ブルックスは結構影が薄く、トミーは殺されずに移送ですみます。良かったねトミー。


『ゴールデンボーイ』―転落の夏―
主人公は十三歳のアメリカン・ボーイ、トッド。健康的な体つきに明るく朗らかな性格、頭も良く、家庭環境にも恵まれた幸福な少年です。
こちらのお話では、そんな彼と、近所に住むナチ戦犯・デンカー老人との交流が描かれていきます。
気難しい老人×無邪気な少年というのはハートフル・ストーリーによくありがちな組み合わせですが、この作品ではそういった要素はまったくありません。ハートフル?とんでもない。ただただ胸糞展開です。前話との落差がすごい。

デンカー(本名ドゥサンダー)からナチスの残虐行為の詳細を聞くことで、自身の内にあった残酷さ、殺戮衝動を開花させてしまったトッド。そして、自らも捕虜を甚振っていたSS時代の邪悪さを徐々に取り戻していくデンカー。
お互いに弱みを握っているズブズブの共犯関係で、デンカーを脅迫していたはずのトッドが途中から脅迫される側に回るのが面白い。さすがに大人と子供、年季が違います。

トッドが狂っていく様子は何度読んでもぞわぞわします。―転落の夏―という副題のとおり、坂道を転げ落ちるようにして狂気に染まっていくトッド。表では成績優秀、スポーツも得意な好男子の皮を被り、裏では浮浪者を殺しまくる殺人鬼です。ラストの五時間の間には一体何人殺したんでしょうか。完全に正気を失っています。
彼に比べると、デンカーの方はまだ人間味がありました。自殺する前にトッドの未来を考慮するような素振りを見せていましたし。

最後の方のワイスコップとリッチラーの会話は特に印象に残る場面でした。ワイスコップの鋭さと冷静さが怖い。彼の、「殺人」に「汚染される」という言い回しは終盤のトッドの有様を上手く表現していると思います。
トッドがユダヤ人処刑や非道な人体実験といったものに興味を持った気持ちは、まあ理解できます。怖いもの見たさに近い、悪趣味な興味というか。私にもそういう嗜好はあります。ただ、彼はあまりにも「それ」に近づきすぎてしまったために、破滅することになってしまったんですね。好奇心はほどほどに、という教訓でしょうか。


以上、全二編です。
全くテイストの違う作品ですが、どちらも人間の本質というか、美徳、悪徳の両面を掘り下げるような物語になっています。ストーリーももちろん素晴らしいのですが、言い回しがまた独特で素敵です。訳が良いんでしょうね。
エグい表現も多いですが、どちらも本当に面白い作品です。『ゴールデンボーイ』→『刑務所のリタ・ヘイワース』の順に読むと読後感が良い感じになるのでオススメです。

それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

【再読】  金沢伸明『王様ゲーム 滅亡6.08』 双葉文庫

 

本日はこちらを再読。

金沢伸明作品が好きな妹から借りました。

 

謎に満ちた存在「王様」が支配するデスゲーム、それに巻き込まれる人々を描いたサバイバル・ホラー作品です。こちらはシリーズ第四巻。

表紙がツルッツルで光が反射しやすく、写真が撮り辛かったです。ちょっと携帯が映っちゃってる。
それでは早速、感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

「王様」からメールで送られてくる命令には絶対服従しなければならず、逆らえば罰を受けるという単純なルールの『王様ゲーム』。罰=死です。
今回のゲーム参加者は日本在住の全高校生。今までよりも規模が大きいため、日本政府も大々的に介入してきます。
広島県にいる者は全員岡山県に移動しろ、というメールからゲームは開始します。

主人公は広島に住む男子高校生・智久。ただ、場面の切り替えが早い群像劇スタイルの構成なので、登場シーン自体はそこまで長くありません。下手すると幸村の方が存在感があるような。

過去作とは異なり、「王様」による理不尽で残酷な罰よりも、人間たちが恐怖で錯乱し勝手に殺し合う様子に、より焦点が当てられています。
「王様」を炙り出そうとして行われる魔女狩りや、大人を殺して回る高校生たち。恐怖と欲望で正気を失い、獣性を剥き出しにした人間のおぞましさが、これでもかというほど描写されています。憎悪、疑心、謀略、裏切り。男と女を争わせたり、ゲームが止まって皆が安堵したところで「罰」のメールが届いたり、相変わらず趣味の悪さ全開のストーリー展開です。
心理描写が上手いので、キャラ同士が駆け引きめいたやり取りをする場面はかなり読み応えがあります。
中二クサい台詞回しが多いのも相変わらず。
登場キャラにポエマーが多い。

今作で一番好きなキャラクターは幸村ですね。
冷静で賢く、勇敢で友達思い。ついていきたいと思わせてくれるような、人を惹きつける魅力のある男の子です。罰を受けて四肢と頭部が切断され達磨のようになって死にましたが。
いやあ、彼には幸せになって欲しかった。
また、この状況下では仕方がないとはいえ、利己的な行動に走ってしまう者が多かった分、逆に誰かのために死んでいった直人や桜子、楓真の存在は非常に輝いて見えました。私に彼らと同じことができるかどうか。多分無理ですね。
葉月ちゃんや国生蛍のようなミステリアスな女キャラも好きです。

今作は、ゲームの仕組みや「王様」の正体についての謎が徐々に明らかになってくる重要な巻です。日本の高校生の数が半分になり、不穏なキャラクターもちらほら現れ、さあこれから、というところで次巻に続きます。
残念ながら続きは今手元にないので、そちらの感想はまた別の機会に書きます。
『王様ゲーム』シリーズはグロい上に後味も悪いですが、何故か時々読み返したくなるんですよね。自分でも不思議です。なんでだろ。

余談ですが「日本から20歳以上の人間を消せ」という三つ目の命令が公開された後の、四国の老夫婦の会話が地味に好きです。悲しいようなほっこりするような、不思議な気持ちになる場面でした。

それでは今日はこの辺で。