【再読】 畠中恵『ねこのばば』 新潮文庫
本日はこちらの作品を再読しました。
若だんなと兄や、妖たちが活躍する『しゃばけ』シリーズの第三弾。今回も短編集です。
ちょっとカバーのフチが擦れてます。
それでは早速、簡単に感想の方を。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
『茶巾たまご』
寝込んでばかりの若だんなの調子が良くなった!?という事件。ラストで、長崎屋に来た貧乏神の金次のおかげだったことが判明します。貧乏神は大切に扱えば福運をもたらしてくれるそう。これ以降準レギュラーになる金次は結構好きなキャラクターです。
まあそちらはおまけみたいなもので、話の中心になるのは若だんなの異母兄・松之助の縁談話と、その相手の家で起きた殺人事件の方でした。お秋さんを殺した下手人がサイコパス過ぎてぞっとしましたね。倫理観どこいった。
『花かんざし』
妖の見える幼女・於りんちゃんが初登場。深川の材木問屋のお嬢さんです。そしてその叔父に当たる正三郎と許嫁のお雛さんも初登場。このカップル好きなんですよね。お雛さんは若だんなが塗り壁の妖怪かと勘違いするほどの厚化粧なんですが(表情を動かすと白粉が割れて剥がれ落ちそうになるレベル)、性格は普通に良い子です。この厚化粧にも理由があることが後々判明しますし。
そしてここでもまた殺人事件。
狐憑き(遺伝の精神病)に苦しむ女性と、彼女を愛する周囲の人々の苦悩、今回の殺人はどちらかというと事故に近いものではありましたが、何ともやるせない結末になってしまいました。
「選びたくない道しか目の前に無いとき、人はどちらを向いて、足を踏み出すんだろうか……」
最後の正三郎のセリフが重いです。
『ねこのばば』
今回の舞台は上野の広徳寺。妖封じで有名な、寛朝という御坊さんが出てきます。この御坊、金に汚く僧にしてはかなり俗物的で、飄々とした性格ながらも不思議と迫力がある、食えない男です。ちなみに腕っぷしも強い。強キャラ臭が凄い。
寺で退治されそうになっている猫又の救出に来た若だんなたちは、そこで起きた僧の殺人事件と消えた金の行方について調べてくれるよう、寛朝に頼まれてしまいます。
最終的には事件を華麗に解決し、猫又の小丸も無事引き渡してもらうことができました。
色欲に溺れた僧たちが起こした事件。まあ御坊さんが皆清廉潔白というわけでもないんでしょうが、こういうの、ちょっとがっかりしてしまいます。御仏に仕える身で何をしているのやら。
ちなみに色子買いより吉原通いの方が重罪だそうです。男が相手ならセーフなのか。
『産土』
今作の中で一番好きなお話です。
弘法大師によって描かれた犬神、今は若だんなの兄やの一人である佐助が主人公です。
初めて読んだときには、相棒の仁吉が全く登場しないのに違和感を感じました。そして読み終えて納得。過去編だったんですね。道理でちょくちょくあれ?と感じたはずです。
何度読んでも悲しくなるお話でした。ラストの「若だんな」の骸の側で呆然とする佐助はとても見ていられません。あまりにも絶望的な結末。佐助あんなに頑張ったのに。
結局、人の欲は恐ろしい、という話でした。金と引き換えに息子の肉体を妖怪に売り渡した井筒屋主人は親として最低だと思います。
『たまやたまや』
幼馴染の栄吉の妹・お春の嫁入り話を中心にストーリーが進んでいきます。若だんなにとっても幼馴染であり、妹のような存在のお春。下手な相手に嫁がせるわけにはいかないと、若だんなはお相手の「庄蔵さん」について勝手に調べて回ります。そしてごたごたに巻き込まれる。
武士が出てくる話はシリーズの中でも結構珍しいです。
お春ちゃんのいじらしさにキュンキュンしました。好きな人に妹としか見てもらえないのは辛いでしょうね。家格の違いもありますし。
お春ちゃんの気持ちを察して、きちんと答えを出した若だんなも立派だったと思います。
以上、全五編です。
今後準レギュラー化するメンバーがたくさん出て来きました。お雛ちゃん、可愛い。
『産土』もやっぱり良い。個人的に、仁吉よりも佐助の方が人間味があるような気がしています。私はどちらかというと佐助派です。
私のイチオシである屏風のぞきは今回あまり登場しませんでしたが、どれも面白かったです。
それでは今日はこの辺で。