不覚
今日はスパーリングを担当した。
腰をひねり変な力が入った瞬間に
パキン
と胸の下の肉の中で小さな音がした。
久しぶりにアバラをやってしまったようだ。
思えば、道場に通出だして間もない頃
今から12年前
強烈な蹴りを受けたあと、
前のめりになったところに膝蹴りを頂戴して
右のアバラを2本折られた。
臓器のダメージが深刻すぎて
息ができないのが辛く、
アバラが折れたのは後で知った。
その後、あくびをするだけで
超痛かったものの
先輩にどう稽古をしていいのか相談したら、
「そこを攻めないようにするから」
と言われたので、道場には行った。
しかし、スパーリングで攻撃を受ける度に
ダイレクトに当てられなくてもアバラに激痛が走る。
何とか耐えていたがスパーリング終盤、
今度は強烈なパンチが折れていない反対側のアバラに
突き刺さり、一番下の骨を折られた。
結局アバラは3本折れてしまったが、
おかげでそれ以上ひどい目にはあわずにすんだ。
両アバラを折られた後のあの生活の不便さに比べたら
今回のは自分の筋肉で折れたので
たいしたことは無い。
と強がってはみたものの、いてえなぁ。
腰をひねり変な力が入った瞬間に
パキン
と胸の下の肉の中で小さな音がした。
久しぶりにアバラをやってしまったようだ。
思えば、道場に通出だして間もない頃
今から12年前
強烈な蹴りを受けたあと、
前のめりになったところに膝蹴りを頂戴して
右のアバラを2本折られた。
臓器のダメージが深刻すぎて
息ができないのが辛く、
アバラが折れたのは後で知った。
その後、あくびをするだけで
超痛かったものの
先輩にどう稽古をしていいのか相談したら、
「そこを攻めないようにするから」
と言われたので、道場には行った。
しかし、スパーリングで攻撃を受ける度に
ダイレクトに当てられなくてもアバラに激痛が走る。
何とか耐えていたがスパーリング終盤、
今度は強烈なパンチが折れていない反対側のアバラに
突き刺さり、一番下の骨を折られた。
結局アバラは3本折れてしまったが、
おかげでそれ以上ひどい目にはあわずにすんだ。
両アバラを折られた後のあの生活の不便さに比べたら
今回のは自分の筋肉で折れたので
たいしたことは無い。
と強がってはみたものの、いてえなぁ。
怖話 ポスターの女性 その3 「カップル」
その女性は妙に違和感のある服装をしていたので、
思わず見入ってしまった。
真冬の夜中に半袖で、
白地に黒い柄の入っているワンピースを着ていた。
「おい、あの女の人、見てみろよ」
さっきまで別れ話をしていた「彼女」に
そのワンピースの女を見るよう促すと、
今までの悲しみはどこへ行ってしまったのか、
それともあまりに不自然なその女の容姿に驚いてなのか、
「わ、なんか髪の毛汚いね・・」
小声で即答した。
言われて見れば確かに。
俺は髪より服装の方に先に目がいったので気付かなかったが、
一見カールがかっているように見える髪型は、
ごわついて数本が束になって
そりあがっているようにも見えとても不潔そうだった。
このワンピースの女は、壁の方を向いてなにかをしている。
独り言をいっているのが聞こえたので
とても気味が悪かった。
ワンピースの女を横切るのは想像したくなかったが、、
彼女を家に送るにはそこを通るしかなかった。
もちろん、俺のアパートにまっすぐ帰るのなら
こんなキモチワルイ思いをしなくてすむが、
別れ話に思いのほか時間がかかってしまい
気付けばすっかり真夜中になっったので
別れた相手とはいえ、
さすがにこの時間に一人にはできなかった。
「おまえ、あの人知ってる?」
「知らないよ・・・」
女は一心不乱に壁に向かって何かをしていたが、
こちらを向いたとき、
大声で叫んでしまいそうで見るのはなるべく避けた。
が、
好奇心の所為で
横切るとき横目で一瞬見てしまった。
ワンピースの背中に入っている柄が目に入った。
それは、柄ではなかった。
黒くこすれた汚れが、
右肩から左脇にかけてはっきりと入っている。
タイヤの後のようにも見えた。
ごわごわした、モップのような髪の毛が
上下左右に動いている。
頭皮の油の所為か汚れの所為か、
よっぽど髪の毛同士が癒着しているんだろう、
髪の毛は下に垂れ下がることなく、
頭の動きと一緒に動いていた。
女は今にもこちらに振り返りそうだった。
すぐに視点を進行方向に戻した。
二人は無言で歩き続けた。
そして何事も無かったように通り過ぎた。
50メートルもして、喋っても聞こえない距離まで遠ざかると、
「あー怖かった」
と彼女の言葉を皮切りに緊張が一気にほぐれた。
「キモチワルイやつだったよ」
俺も続いた。
「あいつあたまおかしいよね」
彼女がそう言い切ったか言い切ってないか、
その瞬間だった。
真後ろから声がした。
「どうしてなのよ」
もごもごとした、はっきりしない口調だったが
言ってることは聞こえた。
声は続いた。
「どうしてそんななのよ うん
うん
どうしてなのよ
うん うん うん
うん」
後ろを振り返れなかった。
絶対にあの女だ。
足音が聞こえなかったので、
まさかついて来ているとは思わなかった。
恐怖のあまり、動けなくなった。
前を見据えたまま、動けなかった。
一瞬で背中にびっしりと
汗をかいたのがわかった。
横にいた彼女の方に
首が動かせなかった。
彼女はどうなっているのか。
俺と同じく、固まっているのか!?
目だけは動かせた。
ゆっくりと、彼女の方に視線を送った。
彼女の姿が目に入った。
前方を見据えて恐怖でわずかに唇をゆらし、
固まってしまってる。
視界に
もうひとつ顔
ワンピースの女は、彼女の真横に立っていた。
続く
思わず見入ってしまった。
真冬の夜中に半袖で、
白地に黒い柄の入っているワンピースを着ていた。
「おい、あの女の人、見てみろよ」
さっきまで別れ話をしていた「彼女」に
そのワンピースの女を見るよう促すと、
今までの悲しみはどこへ行ってしまったのか、
それともあまりに不自然なその女の容姿に驚いてなのか、
「わ、なんか髪の毛汚いね・・」
小声で即答した。
言われて見れば確かに。
俺は髪より服装の方に先に目がいったので気付かなかったが、
一見カールがかっているように見える髪型は、
ごわついて数本が束になって
そりあがっているようにも見えとても不潔そうだった。
このワンピースの女は、壁の方を向いてなにかをしている。
独り言をいっているのが聞こえたので
とても気味が悪かった。
ワンピースの女を横切るのは想像したくなかったが、、
彼女を家に送るにはそこを通るしかなかった。
もちろん、俺のアパートにまっすぐ帰るのなら
こんなキモチワルイ思いをしなくてすむが、
別れ話に思いのほか時間がかかってしまい
気付けばすっかり真夜中になっったので
別れた相手とはいえ、
さすがにこの時間に一人にはできなかった。
「おまえ、あの人知ってる?」
「知らないよ・・・」
女は一心不乱に壁に向かって何かをしていたが、
こちらを向いたとき、
大声で叫んでしまいそうで見るのはなるべく避けた。
が、
好奇心の所為で
横切るとき横目で一瞬見てしまった。
ワンピースの背中に入っている柄が目に入った。
それは、柄ではなかった。
黒くこすれた汚れが、
右肩から左脇にかけてはっきりと入っている。
タイヤの後のようにも見えた。
ごわごわした、モップのような髪の毛が
上下左右に動いている。
頭皮の油の所為か汚れの所為か、
よっぽど髪の毛同士が癒着しているんだろう、
髪の毛は下に垂れ下がることなく、
頭の動きと一緒に動いていた。
女は今にもこちらに振り返りそうだった。
すぐに視点を進行方向に戻した。
二人は無言で歩き続けた。
そして何事も無かったように通り過ぎた。
50メートルもして、喋っても聞こえない距離まで遠ざかると、
「あー怖かった」
と彼女の言葉を皮切りに緊張が一気にほぐれた。
「キモチワルイやつだったよ」
俺も続いた。
「あいつあたまおかしいよね」
彼女がそう言い切ったか言い切ってないか、
その瞬間だった。
真後ろから声がした。
「どうしてなのよ」
もごもごとした、はっきりしない口調だったが
言ってることは聞こえた。
声は続いた。
「どうしてそんななのよ うん
うん
どうしてなのよ
うん うん うん
うん」
後ろを振り返れなかった。
絶対にあの女だ。
足音が聞こえなかったので、
まさかついて来ているとは思わなかった。
恐怖のあまり、動けなくなった。
前を見据えたまま、動けなかった。
一瞬で背中にびっしりと
汗をかいたのがわかった。
横にいた彼女の方に
首が動かせなかった。
彼女はどうなっているのか。
俺と同じく、固まっているのか!?
目だけは動かせた。
ゆっくりと、彼女の方に視線を送った。
彼女の姿が目に入った。
前方を見据えて恐怖でわずかに唇をゆらし、
固まってしまってる。
視界に
もうひとつ顔
ワンピースの女は、彼女の真横に立っていた。
続く
怖話 ポスターの女性 その2 「私」
「最近夜中に玄関から話声がするから、
目が覚めるのよ」
久しぶりに実家に戻ってきた私に
母は他愛の無い会話の中でそんな事を愚痴った。
古い家なので壁には少なくとも今のような
性能の良い防音を施してあるとは思えないし、
道路や道に面している場所なので
人が通るたび話し声は家の中までよく聞こえる。
だが、母の話によると明け方四時頃、
玄関から10分ほど、女性のひとりごとのような
喋り声が続くという。
もともと父がいなかったため、
私が家を出ると
今は母一人でこの家に暮らす事になった。
色々不安なことともあるんだろうが、
普段はあまり愚痴らない母が珍しく私に相談したので
実家にいる間にこの問題を取り除いてやりたいと思った。
また、一体どんな人物なのだろうかという
興味も無かったわけではない。
声がするのは明け方という事もあり、
確かめるには明け方まで起きているか、
一度寝て近い時間に目覚めるか
二通りあった。
目覚ましをかけて私は一度寝る事にした。
眠気がきたと思ったら、
目覚ましがなった。
3時間以上寝ていたらしいが一瞬の出来事だった。
早起きをした経験が少ない私は
時間外に起きるのはこんなにも苦痛なのかと思った。
そして真冬の夜中に布団から出るのが
それより更に辛い事だった。
四時頃に声がするという事だったので、
目覚ましは3時40分にセットした。
まだ時間があるのでもう少し寝ていたかったが、
今 寝てしまうと朝まで起きないだろうし、
布団から出てしまわないと、
声がしたとき飛び起きて玄関まで急いで動ける自身がなかった。
覚悟を決め布団から出て着替えると
寒さであっという間に眠気が消えた。
さあ、一体どんな人が母を困らせているんだろうか。
とっ捕まえて真相を聞きだしてやる。
もっともこんな時間に人の家の前で
独り言を言っているなんて
きっと普通ではないはずだから
理由なんてなさそうだけど。
普通・・・・ではない・・
今までは母の問題を解決しようと躍起になるばかりで
考えなかったが、心の中で若干の恐怖が芽生えた。
無計画なところは相変わらずだ。
自分の感情的に行動してしまうところを呪った。
考えよう。
...
まずはドアの覗き穴から相手の姿を確認しよう。
気が弱ければ、門灯を付けるだけで逃げ出すだろう。
もしそれでも喋り続ける場合は、
ドアを少しだけ開け
警察に通報すると警告すれば
「普通」の場合は止めるだろう。
そうでない場合は本当に警察に通報してしまえばいい。
恐怖を完全に消すことはできなかったが、
考えれば、なんて事の無い対処法がすんなりと思い浮かんだので
さっきよりは気が楽になった。
ぼそぼそとした女性の声のようなものが聞こえてきた。
時計を見ると、まだ四時になっていない。
とたん、肌があわ立った。
夜中に女性の声が聞こえるのは、
こんなにも怖いものかと改めて恐怖した。
なにを言っているのかは聞き取れないが、
声は思っていたよりも大きかった。
昼間の会話くらいの音量だが、
夜中には大き過ぎる。
家の中から音がしないので、母は起きていないようだ。
一人だけ起きているという現実に
また更に怖くなったので
覗き穴から見る事すら止めようかと思ったが、
興味が打ち勝った。
玄関のドア前まで行くと、
声はさらに大きくなった。
甲高く女性の声にも子供の声にも聞こえた。
発音が聞き取りにくい事と、
ドアを隔てているので声が反響し
何をいっているかはまだ分からなかったが、
時折
「うんうん・・」と会話のように頷いたりしている。
思い切って覗き穴を覗き込んだ。
いない。
声は聞こえるが、姿が確認できない。
もう一度
よく耳を澄ましてみる。
声は、ドアの、玄関の右側の方から聞こえた。
国道の壁のほうだ。
昔、隣には家が建っていて
国道を広げるということで立ち退いた。
隣の家がなくなる事で工事の間も
窓から家の中が道路にむき出しになり
プライベートがあらわになるのを避けるため、
一時的という約束で隣との境にあった壁だけを
残してもらったが
結局その壁は今でも建ったままになっており
玄関の横から家の向こう側まで続いている。
その、壁と家の隙間から、声がしているのだ。
もう怖くてどうしようもない気持ちと、
ここまできたら姿を見てやるという気持ちが
ごっちゃになった。
武器になるものはないかと見渡し、
最初に目に入った靴入れに立てかけてある傘を手にとった。
そして、思い切ってドアを開けた。
続く
目が覚めるのよ」
久しぶりに実家に戻ってきた私に
母は他愛の無い会話の中でそんな事を愚痴った。
古い家なので壁には少なくとも今のような
性能の良い防音を施してあるとは思えないし、
道路や道に面している場所なので
人が通るたび話し声は家の中までよく聞こえる。
だが、母の話によると明け方四時頃、
玄関から10分ほど、女性のひとりごとのような
喋り声が続くという。
もともと父がいなかったため、
私が家を出ると
今は母一人でこの家に暮らす事になった。
色々不安なことともあるんだろうが、
普段はあまり愚痴らない母が珍しく私に相談したので
実家にいる間にこの問題を取り除いてやりたいと思った。
また、一体どんな人物なのだろうかという
興味も無かったわけではない。
声がするのは明け方という事もあり、
確かめるには明け方まで起きているか、
一度寝て近い時間に目覚めるか
二通りあった。
目覚ましをかけて私は一度寝る事にした。
眠気がきたと思ったら、
目覚ましがなった。
3時間以上寝ていたらしいが一瞬の出来事だった。
早起きをした経験が少ない私は
時間外に起きるのはこんなにも苦痛なのかと思った。
そして真冬の夜中に布団から出るのが
それより更に辛い事だった。
四時頃に声がするという事だったので、
目覚ましは3時40分にセットした。
まだ時間があるのでもう少し寝ていたかったが、
今 寝てしまうと朝まで起きないだろうし、
布団から出てしまわないと、
声がしたとき飛び起きて玄関まで急いで動ける自身がなかった。
覚悟を決め布団から出て着替えると
寒さであっという間に眠気が消えた。
さあ、一体どんな人が母を困らせているんだろうか。
とっ捕まえて真相を聞きだしてやる。
もっともこんな時間に人の家の前で
独り言を言っているなんて
きっと普通ではないはずだから
理由なんてなさそうだけど。
普通・・・・ではない・・
今までは母の問題を解決しようと躍起になるばかりで
考えなかったが、心の中で若干の恐怖が芽生えた。
無計画なところは相変わらずだ。
自分の感情的に行動してしまうところを呪った。
考えよう。
...
まずはドアの覗き穴から相手の姿を確認しよう。
気が弱ければ、門灯を付けるだけで逃げ出すだろう。
もしそれでも喋り続ける場合は、
ドアを少しだけ開け
警察に通報すると警告すれば
「普通」の場合は止めるだろう。
そうでない場合は本当に警察に通報してしまえばいい。
恐怖を完全に消すことはできなかったが、
考えれば、なんて事の無い対処法がすんなりと思い浮かんだので
さっきよりは気が楽になった。
ぼそぼそとした女性の声のようなものが聞こえてきた。
時計を見ると、まだ四時になっていない。
とたん、肌があわ立った。
夜中に女性の声が聞こえるのは、
こんなにも怖いものかと改めて恐怖した。
なにを言っているのかは聞き取れないが、
声は思っていたよりも大きかった。
昼間の会話くらいの音量だが、
夜中には大き過ぎる。
家の中から音がしないので、母は起きていないようだ。
一人だけ起きているという現実に
また更に怖くなったので
覗き穴から見る事すら止めようかと思ったが、
興味が打ち勝った。
玄関のドア前まで行くと、
声はさらに大きくなった。
甲高く女性の声にも子供の声にも聞こえた。
発音が聞き取りにくい事と、
ドアを隔てているので声が反響し
何をいっているかはまだ分からなかったが、
時折
「うんうん・・」と会話のように頷いたりしている。
思い切って覗き穴を覗き込んだ。
いない。
声は聞こえるが、姿が確認できない。
もう一度
よく耳を澄ましてみる。
声は、ドアの、玄関の右側の方から聞こえた。
国道の壁のほうだ。
昔、隣には家が建っていて
国道を広げるということで立ち退いた。
隣の家がなくなる事で工事の間も
窓から家の中が道路にむき出しになり
プライベートがあらわになるのを避けるため、
一時的という約束で隣との境にあった壁だけを
残してもらったが
結局その壁は今でも建ったままになっており
玄関の横から家の向こう側まで続いている。
その、壁と家の隙間から、声がしているのだ。
もう怖くてどうしようもない気持ちと、
ここまできたら姿を見てやるという気持ちが
ごっちゃになった。
武器になるものはないかと見渡し、
最初に目に入った靴入れに立てかけてある傘を手にとった。
そして、思い切ってドアを開けた。
続く