怖話 ポスターの女性 その3 「カップル」 | クリーチャーガレージキット人間のブログ

怖話 ポスターの女性 その3 「カップル」

その女性は妙に違和感のある服装をしていたので、
思わず見入ってしまった。

真冬の夜中に半袖で、
白地に黒い柄の入っているワンピースを着ていた。


「おい、あの女の人、見てみろよ」


さっきまで別れ話をしていた「彼女」に
そのワンピースの女を見るよう促すと、
今までの悲しみはどこへ行ってしまったのか、
それともあまりに不自然なその女の容姿に驚いてなのか、


「わ、なんか髪の毛汚いね・・」


小声で即答した。

言われて見れば確かに。
俺は髪より服装の方に先に目がいったので気付かなかったが、
一見カールがかっているように見える髪型は、
ごわついて数本が束になって
そりあがっているようにも見えとても不潔そうだった。


このワンピースの女は、壁の方を向いてなにかをしている。
独り言をいっているのが聞こえたので
とても気味が悪かった。


ワンピースの女を横切るのは想像したくなかったが、、
彼女を家に送るにはそこを通るしかなかった。




もちろん、俺のアパートにまっすぐ帰るのなら
こんなキモチワルイ思いをしなくてすむが、
別れ話に思いのほか時間がかかってしまい
気付けばすっかり真夜中になっったので
別れた相手とはいえ、
さすがにこの時間に一人にはできなかった。



「おまえ、あの人知ってる?」


「知らないよ・・・」




女は一心不乱に壁に向かって何かをしていたが、
こちらを向いたとき、
大声で叫んでしまいそうで見るのはなるべく避けた。




が、





好奇心の所為で
横切るとき横目で一瞬見てしまった。



ワンピースの背中に入っている柄が目に入った。




それは、柄ではなかった。





黒くこすれた汚れが、
右肩から左脇にかけてはっきりと入っている。




タイヤの後のようにも見えた。




ごわごわした、モップのような髪の毛が
上下左右に動いている。
頭皮の油の所為か汚れの所為か、
よっぽど髪の毛同士が癒着しているんだろう、
髪の毛は下に垂れ下がることなく、
頭の動きと一緒に動いていた。

女は今にもこちらに振り返りそうだった。




すぐに視点を進行方向に戻した。







二人は無言で歩き続けた。
そして何事も無かったように通り過ぎた。






50メートルもして、喋っても聞こえない距離まで遠ざかると、


「あー怖かった」

と彼女の言葉を皮切りに緊張が一気にほぐれた。



「キモチワルイやつだったよ」



俺も続いた。


「あいつあたまおかしいよね」




彼女がそう言い切ったか言い切ってないか、
その瞬間だった。




真後ろから声がした。






「どうしてなのよ」





もごもごとした、はっきりしない口調だったが
言ってることは聞こえた。






声は続いた。









「どうしてそんななのよ   うん  





うん
       どうしてなのよ




    うん    うん   うん





うん」





後ろを振り返れなかった。





絶対にあの女だ。




足音が聞こえなかったので、
まさかついて来ているとは思わなかった。





恐怖のあまり、動けなくなった。



前を見据えたまま、動けなかった。





一瞬で背中にびっしりと
汗をかいたのがわかった。




横にいた彼女の方に
首が動かせなかった。






彼女はどうなっているのか。






俺と同じく、固まっているのか!?





目だけは動かせた。




ゆっくりと、彼女の方に視線を送った。






彼女の姿が目に入った。




前方を見据えて恐怖でわずかに唇をゆらし、
固まってしまってる。






視界に





もうひとつ顔







ワンピースの女は、彼女の真横に立っていた。







続く