ドストエフスキー『貧しき人びと』全人物事典②

・海軍少尉…マカールのアパートの住人。マカールが最初にお近づきになった人物。ざっくばらんな性格。いつもトランプをやっており、マカールを賭けトランプの鴨にしようとしたので、マカールは憤激した。「もうあの連中のところへはいきません。あれは博奕です、まぎれもない博奕です！（byマカール）」。

・閣下…博愛の人。マカールが重要な書類でミスをした際に、「怠慢だ！　不注意だ！　とんでもないことをしてくれたな！」と怒鳴っていたが、マカールの風采と服装を見て、「なんということだ？　……見たまえ、なんという格好をしてるんだ！……あの男はどうしたんだ！……あれは何者だ？」とショックを受けて、百ルーブル紙幣を一枚手に握らせた。9月28日には、再び厳格な人にもどり、エメリヤン・イワーノヴィチを叱っているが、自分もへとへとになってしまった。

・ゴーゴリ ⇒ニコライ・ゴーゴリ

・ゴルシーコフ…マカールと同じ長屋に住む白髪頭の小柄な男。失職した元官吏。たえずびくびくしている。請負工事で公金をごまかした商人とグルだったとみなされ、裁判になっている。裁判は何年も続いており、本人は潔白と主張しているが、仕事をクビになってしまった。6月に息子を亡くす。裁判が長引き、無一文となってしまい、マカールから20コペイカを恵んでもらう。この20コペイカは、マカールにとって全財産だった。「子供が、それも生みの子が苦しんでいるというのに、何ひとつ面倒をみてやれないというのは、なんという残酷なことでしょうか？」。9月に裁判で無罪を勝ち取ったが、その日に亡くなった。

・ゴルシーコフの女房…昔は美人だったらしく、今もその面影が残っている。女主人の借金があるらしい。

・ゴルシーコフの長男（9歳）…ひ弱なタイプ。6月22日午前4時ごろに亡くなる。9月18日に、ゴルシーコフが無罪になったとき、彼のことをたずねて、「ああ、そうだ、そうだ、知ってるとも、みんな知っているよ、ペーチェンカは今じゃ天国にいるんだね」と言って、しばらくして、亡くなった。

・ゴルシーコフの長女（6歳）…兄の死の際に、マカールに強烈な印象を残した。

――小さな子供がじっと考え込んでいるのはいやなものです、わたしは見るのもいやです！　ぼろ切れでつくった人形が足もとの床にころがっているのに、その子は遊ぼうとしないのですから。一本の指をくわえて、じっと立ったまま、身じろぎもしないのです。女主人がお菓子をやっても、受け取っただけで食べようともしないのです。

・ゴルシーコフの乳飲み子

・サーシャ…みなしご。親戚のアンナ・フョードロヴナのもとで、育てられている。ワルワーラより1歳年下。ワルワーラが14～17歳のときに、同じ家ですごし、ポクロフスキーの授業を一緒に受けたり、ポクロフスキーを一緒にからかったりした。サーシャは、ワルワーラが家を出てからも、アンナ・フョードロヴナのところにおり、あやしげな仕事の片棒を担がされ、今、破滅の危機に瀕している。かつてのワルワーラと、同じ状態になっていると、推測される。

・ザハール・ペトローヴィチ　⇒ポグロフスキーの父

・士官…ワルワーラに求婚して、マカールご乱心のきっかけを作った。そして、士官自身の伯父が、ワルワーラを口説くきっかけともなった。

・士官の伯父…甥のワルワーラへの求婚騒動を謝罪する口実で、ワルワーラに言い寄り、キスしようとする。「父親のようにあなたの境遇に土壌しているから、父親のような感情をもって、これからなんでも援助してあげたい」という言葉は、皮肉にもマカールと同じものだった。ちなみに、マカールもワルワーラにキスはしている。

・スチェパン・カルロヴィチ…マカールの同僚。マカールのおちぶれた服装を見て、「いや、どうしたんだ、きみ、マカール・アレクセーエヴィチ」と、絶句した。

・スネリギョフ…役所の守衛。マカールが服の泥をブラシで落とそうとすると、「いけません、ブラシをいためますから、旦那、ブラシはおかみのものですからね」と言った。

・チモフェイ・イワーノヴィチ…9月9日に、マカールに緊急の書類を清書させるが、マカールは一行そっくり抜かして書いてしまった。

・テレーザ…マカールのアパートの女中。気立ての優しい、おとなしい女性。年がら年じゅうファリドーニと口げんかしている。やせ細っている。マカールの手紙を、ワルワーラに渡す係。ワルワーラが、やせて顔色の悪いテレーザを心配して、20コペイカ渡した。なぜか冒頭にしか登場しない。

・ナスターシャ…洗濯女。フェドーラの兄嫁のアクシーニャと懇意にしている。いとこが守衛をしている役所には、アンナ・フョードロヴナの甥の知人が勤めている。