ホワイトクリスマス
この歳になっても、雪が降るとワクワクしてくるmushiです。
実は、愛媛の南部(南予地方)は太平洋側にしては雪が多いところです。冬型になればほぼ確実に降雪があります。
積雪もほぼ毎年あり、多い年は海沿いでも20センチ、山では1メートルも積もることもあります。山深いところでは積雪が3メートルに達し、自衛隊が出動したこともあったとか。
これには地形が深く関与しています。
冬型が強まると、北西の風に乗って日本海から雪雲が次々とやってきます。普通は本州の山地で雪を降らせてしまい、乾燥した空気が太平洋側に流れ込みます。しかし、愛媛県南予地方から北西を見ると、関門海峡が開いています。
そう、雪雲は関門海峡を潜り抜け、南予地方を直撃するのです。
2010年1月13日の気象衛星可視画像。雪雲が関門海峡を抜けているのが分かりますかね?この日、南予各地で積雪がありました。高知大学気象情報頁
より。
さて、南予地方は、今年はホワイトクリスマスになりそうです。楽しみですねえ。
12/25、日本時間午前9時の、850hPa予想天気図。濃い青より上は、降れば雪になるとされる-6℃線。日本列島はほぼ全域が「降れば雪」。
こうなるともう南予地方は雪が降るのはほぼ確実でしょう。unisys weather より。
この10年で得られたこと
2010年ももうすぐ終わりですね。21世紀が始まってから10年が経過したわけですか、何とまあ早いことか!
さて、それを記念してかどうかは分かりませんが、今週号のScienceは"Insights of the Decade"という特集を組んでいます。この10年に得られた知見、という感じでしょうか。
http://www.sciencemag.org/site/special/insights2010/
この10年間に得られた科学上の重大なできごとを、10個提示しています。
1.ヒトゲノムの解読とこれに伴う遺伝子理解の進展
2.宇宙論の進歩
3.分子生物学による先史時代研究の進展
4.火星探査による水の発見
5.iPS細胞の発見
6.人間の体内に存在する微生物の研究の進展
7.外宇宙の調査の進展
8.炎症は、癌・糖尿病・アルツハイマー病などの要因となることへの理解
9.光をコントロールする技術の進歩
10.気候変動に関する理解の進展
どれも「なるほどね」という感じです。個人的には、インターネットや携帯電話など情報通信技術の進歩も挙げたいところですね。
さて、このブログでは主に気候変動問題を扱っているだけに、やはり10番目が気になります。この10年のうちに、科学者達は
・地球温暖化は起きている
・その原因は人為的なものである
・自然変化は、地球温暖化にほとんど影響を与えていない
の3点について合意に達した、とまとめられています。 そして、この分野では、科学と政治が密接に関わるようになったことも論じられています。
確かに、冷静に考えてみると、気候変動のような不確かさが大きい事柄について、科学者たちが一応の合意に達したということは、これまでにあまりなかったことかもしれません。
また、(軍事関連を除けば)これほどまでに政治と科学が密接に関わったことも、これまでにあまりなかったことかもしれません。
次の10年はどうなるのでしょうか?もはや、人為起源の気候変動が起きているという理解が揺らぐことはないでしょうし、政治と科学の関与も深まる一方でしょう。
気候変動に関するさらなる理解と、科学と政治のよい関係の形成が、次の10年も続きますように!
2010年の気温
Science nowに速報が出ています。NASA によると、2010 Meteorological year(気象学では、冬を12~2月、秋を9~11月とするため、1年の区切りを11月にすることがあり、meteorological year(気象年)と言います)の平均気温は、観測が始まった過去130年間で最も高くなったとのことです。
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2010/12/nasa-2010-meteorological-year-wa.html?etoc
せっかくなので、さくっとグラフにしてみました。縦軸は、1951~1980年の平均気温に対する偏差です。
近似曲線も入れましたが、一次近似(赤)よりも二次近似(緑)のほうがより現実に近い気もしますねえ。まあ、お遊びですが。
正のフィードバック
地球温暖化が進むと、大気中の水蒸気の振る舞いは変化します。そのため、雲の振る舞いも変化し、気温に影響を与えます。
しかし、気温上昇に伴う雲の変化は、さらなる気温上昇をもたらす(正のフィードバック)のでしょうか?逆に、気温上昇を抑制する(負のフィードバック)のでしょうか?
気温が上昇すると大気中の水蒸気が増え、これに伴い雲が増加し、太陽光を多く反射するから気温上昇を抑制するのではないか(雲は負のフィードバックとして働く)、と主張する人もいます。一見、筋が通った意見に思えます。
しかし、このような意見は科学者の間では少数派と言っていいでしょう。むしろ、気温上昇に伴う雲の変化は、さらなる気温上昇をもたらす(雲は正のフィードバックとして働く)と予測する人の方が多いと思われます。
http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/~hmiya/sympo/MSatoh_4th_Chimondai2010.pdf
などわかりやすいでしょうか。
雲は太陽光線を跳ね返し気温を低下させる効果があるのは事実なのですが、同時に地球から宇宙に捨てられる熱を地球に戻す効果も持っているのです。どちらの効果が卓越するかは、雲の種類に大きく依存します(一般に、低層の雲は前者に、高層の雲は後者に強く働くとされます)。
そもそも、水蒸気量が増えたからと言って、雲の面積が増えるとは言い切れません。夏の積乱雲のように垂直方向に成長する雲と、梅雨時の雨雲のように水平方向に広がる雲では、仮に同じ水蒸気量を持つとしても、雲が覆う面積は全く異なります。
平均気温の上昇は積乱雲のような雲を増やし、面積そのものは増えたりしない、ということもありえる話です。 「温暖化したら雲が増える、だから温暖化は止まる!」と断言する人に出会ったら要注意です。そんなに単純な話ではないのです。
とはいえ、雲の振る舞いを予測するのは困難で、将来予測の最大の不確実さであったことは事実です。
12月10日のScienceに、「この10年間、雲はやはり正のフィードバックとして働いてきた可能性が高い」とする報告が掲載されました(DOI: 10.1126/science.1192546)。
http://www.sciencemag.org/content/330/6010/1523.abstract
http://www.sciencemag.jp/highlight/index.jsp?pno=241 (3つ目に日本語版要約あり)
上記報告によると、2000~2010年の間に雲の変化が放射強制力に与えた影響は、+0.54±0.74W/m2/Kと見積もられました。つまり、この10年間の雲の変化は気温を押し上げる方向に働いた可能性が高い(正のフィードバックとして働いた)ということになります。
もちろん、+0.54±0.74W/m2/Kということは、負のフィードバックとして働く可能性もわずかながらある、ということになります。まだまだ誤差が大きくさらなる研究が必要なのは間違いありませんが、雲が負のフィードバックとしてはたらくので温暖化しないという予測は楽観的過ぎるのも間違いありません(仮にマイナス側に働いたとしても、温室効果ガス増加による気温上昇を相殺するほどのものではありません)。
むしろ、プラス側にずれた場合を想定することが、特に政治家や科学者には求められる姿勢なのでしょう。
著者は、「雲のフィードバックを考慮しても、今まで考えられてきた気温上昇の予測は妥当なもので、例えば二酸化炭素が倍増した場合の気温上昇は2.5℃~4℃となる」と結論付けています。
「IPCCは雲のことを全く考慮していない(本当はそんなことはないのですが・・・)」という批判に対する一つの回答にはなりそうです。
太陽活動と気候変動②
このエントリーは「太陽活動と気候変動① 」の続きです。すっかり遅くなりましたが・・・。
さて、ニュースになった論文がPNASで公開されました。
http://www.pnas.org/content/early/2010/11/08/1000113107.abstract
残念ながら無料記事ではありませんが・・・。
この論文中には図が4つ出てきます。この図を解説する形式で話を進めていこうと思います。
図1:酸素同位体比と気候要素の相関について
いきなり貴重な古木を用いて実験することはできません。まずは、ここ100年くらいの気候を、木材に含まれる酸素同位体比を用いて再現してみましょう。100年程度であれば気象観測も整備されているので、データの信頼性も検証できます。
まず、木材に含まれる酸素同位体比を分析します。年輪ごとに材を切り出し、それぞれについて酸素同位体比を分析していくという、なんとも大変な作業です。今回、試料は2つ。奈良で伐採した杉と、滋賀で伐採したヒノキです。
こうして得られたデータと、気象庁が観測してきた気象データ(温度、湿度、降水量)を比較していきます。奈良の場合は1938~1993年、滋賀の場合は1881~1993年のデータを用いています。
その結果、酸素同位体比と湿度に強い負の相関(酸素同位体比が大きいと湿度が低い)ことが分かりました。湿度ほどはっきりしていませんが、気温とも正の相関(酸素同位体比が大きいと気温が高い)がありそうです。降水量は、いちおう負の相関がある傾向はありますが、かなり弱そうです。
木材に含まれる酸素同位体比は気候要素を反映していると言えそうです。
図2:酸素同位体比と気候要素の相関、その地理的分布
酸素同位体比と気候要素(特に湿度)に相関があることは分かりました。ところで、たとえば北海道や九州の気候と、近畿地方の木材に含まれる酸素同位体比には相関があるのでしょうか?
日本全国96地点の気象観測データと、杉の酸素同位体比から再現した気象データを比較してみると、関東~九州にかけて、湿度はかなりよい相関がありそうです。東北・北海道や沖縄との相関はあまりよくありません。
図1、図2から、杉の木に含まれる酸素の同位体比は、その土地の過去の気候(特に湿度)をよく反映していると言えそう。
それではいよいよ、貴重な古木を用いて過去の気候を再現してみましょう。
図3:室生寺の杉と古気候データの相関
1612年~1760年にかけての5つのグラフが併記されています。
A:室生寺 の杉の酸素同位体比を分析した結果
B:グリーンランド南部の気温
C:北半球平均気温
D:太陽の黒点数および木材から抽出された14Cの量(太陽活動が低調だと宇宙線が多く地球に到達し、14Cが多く生成する)
E:アイスコアに含まれるベリリウム同位体10Beの量から推定した宇宙線の強度(10Beは、地球大気と宇宙線が衝突して生じるので、宇宙線が強いほど10Beが多いことになる)
これらを比較すると、
・室生寺の杉の酸素同位体比と、グリーンランドの気温と、北半球平均気温は、相関がある。
・これら3つの気温が低い年は、10Beが多い。よって、気温が低い年は宇宙線が多く地球に到達していると言えそう。
・マウンダー極小期には、太陽の極性(注1)が負の時に宇宙線が多く到達(=気温が低い傾向)する。ただし、通常は極性が正の時の方が気温が低い傾向がある。
図4:マウンダー極小期における14C量と酸素同位体比の重ね合わせ
14C量と酸素同位体比を並べて書いてみると、 太陽極性が負になった年は14Cは多く作られるのに対し、酸素同位体比は小さくなっています。これは、宇宙線が地球に多く到達し、それを要因として14Cは多く作られ気温は低下することを示唆する。
という感じになっています。
さて、これを読んでどう思われるでしょう?「近い将来ミニ氷河期が来る」なんて一言も書いてないことは間違いありません。この研究の主題はあくまでも「太陽活動と気候には相関がありそう」ということに尽きます。
そう書くと「太陽が温暖化の原因なの?」と思ってしまいそうですが、そうではありません。太陽活動と気候に相関があるとしても、それが"現在の"気候変動の"主要な"原因だとは言っていないのです。
仮に宇宙線が地球に多く到達することを原因とする気温低下が起きうるとしても、その気温低下幅は小氷期の例を考えると1℃未満にすぎません。これは、予測される気温上昇幅(2100年までに+1.8~+4.0℃)に比べ小さく、しかも太陽活動低下はいずれ終息します。
結局、今回の研究を、現在の温暖化とからめてニュースにするのなら、
太陽活動の変化に伴い地球に到達する宇宙線が変化し、これが気候に影響を与える可能性が今回の研究により示された。ただし、それが現在進行中の気候変動の主要な要因と言うわけではない。
くらいになるのかな、と思います。
なお、この件に関する考察をmacroscopeさんがされています。こちらもぜひご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/masudako/20101118/1290067118
注1:太陽も地球と同様磁場を持つが、11年に一度逆転する。一方を極性が正、他方を極性が負、と表現する。ただし、マウンダー極小期にはこの周期が14年になっている。