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北極海航路は今年も開く

 20世紀、北極海を航行することは困難でした。しかし今世紀に入り、夏には北極海を航行できるのが常態化しつつあります。
 ウェザーニュース発表によると、今年に9月は北東航路・北西航路ともに航行可能となるだろうとのことです。北東航路・北西航路共に開通するのは、これで5年連続になりそうです。
 

 夏の北極海は砕氷船などなしに航行できるのが当たり前。そんな時代に足を踏み入れてしまっているようです。

おひさしぶりです

 ずいぶんと間が空いてしまいました・・・。少しはペースを上げたいものですが。
 
 さて、あまり報道はされていない気もしますが、今年は世界中で異常気象-特に高温-が多く見られています。


6月の異常気象発生地域分布図。各地で異常高温を示す赤が見られる。気象庁HPより。

  それもそのはず、今年の6月は観測史上最も暑い6月でした。2014年6月は、20世紀全体の6月平均気温に比べ+0.72℃を観測しています。そして、実は今年は4月と5月も観測史上最も暑い月を記録しているのです。


6月の全球平均気温(上)・北半球平均気温(中)・南半球平均気温(下)の偏差。NOAA HPより。

 今年は夏にかけてエルニーニョ現象の発生が予想されていました。エルニーニョ現象が起きると全球平均気温は上昇する傾向があります(1998年が典型例)。しかし、この予想はやや外れ、今のところエルニーニょ現象は発生していません。発生は秋にずれこむと予想されています。
 エルニーニョ現象が発生していないにも関わらず、観測例がないほどの高温が頻発していることになります。もし、予想通り秋にエルニーニょ現象が発生したら、今年は「観測史上最も暑い年」になるかもしれません。年末に検証してみましょうか。

IPCC AR5 WG3

 ちょっと前の話ですが、IPCC第5次報告書の第3作業部会報告書が発表されています。
http://www.mitigation2014.org/
http://www.jma.go.jp/jma/press/1404/13a/ipcc_ar5_wg3.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/04/attach/1346991.htm

各作業部会の役割は、以下のように要約できるでしょう。
第1作業部会:温暖化により将来の気候はどうなるのか
第2作業部会:温暖化により人類はどんな影響を受けるのか
第3作業部会:じゃあどうすれば影響を少なくできるのか?

  ある意味、今回の第3作業部会の報告書が、3つの作業部会の中で最も「難しい」ものです。今後の人類社会がどのようになるか予想するのは、環境の将来を予測することに比べ、不確実性を多く含んでいます。
正直言って、私も第3作業部会報告書は"難解"で、あまり理解できた気がしません。自然科学と人文科学の間にあるような報告書なので、自然科学以上に人文科学が分からない私にとっては難解なのが当たり前だとは思いますが。

 訳文を読んでの感想ですが、炭素貯留がかなり重要視されていますね。特に、バイオマスを燃料として用いたうえでの炭素貯留はかなり有望視されているようです。
 化石燃料を燃やした上での炭素貯留だと、大気中CO2濃度はほとんど変動なしということになりますが、バイオマスを燃やした上での炭素貯留は、大気中CO2濃度を減らす方向に働きます。確かに有望です。
 国は、2020年頃には炭素貯裕が本格的に導入され始めるというロードマップを持っているようですが、果たしてどうなるでしょうか。

気候変動と柑橘栽培

 先日、ワインと気候変動の関係を紹介しました。当然ながら、気候変動の影響を受ける果樹はブドウだけではありません。柑橘類の栽培も、すでに影響を受けはじめています。
 愛媛県南予地方は、ウンシュウミカンの大産地です。品質も最高級とされ、24個で5,000円という超高級ミカンまであります。
 このあたりでは昔から、海に近い急斜面でよいミカンができると言われてきました。しかし近年、海に近い畑では日焼けが発生しやすくなるなど品質が低下傾向で、標高の高い畑でよいミカンができるようになってきた、とは多くの農家の言葉です。
 将来的には、南予地方の現在のウンシュウミカン主産地は、ミカン栽培に適さない地域になってしまうことはほぼ確実です。たとえば、国立環境研究所から先月発表されたばかりの報告には、地球温暖化がウンシュウミカン栽培に与える影響にも言及があります。
 https://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140317/20140317.html
 


ウンシュウミカン栽培には、青:寒すぎる 黄:適当 赤:暑すぎる 地域を示す。左が2031~2050年、右が2081~2100年。
「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」2014報告書より

 
 ちょっと図が小さく見づらいですが、今世紀末になると、現在の栽培適地は、愛媛に限らずほぼ全域が「高温すぎて栽培には向かない地域」になってしまいます。
 ブドウもミカンもそうですが、果樹は植えてから収穫できるようになるまで何年もかかるし、一度収穫できるようになると十数年~数十年も収穫が続くという事情があります。気候変動に柔軟に対応するのは、他の農産物に比べても難しい事情があります。
 このような事情もあり、愛媛県の果樹試験場などは、高温に強いブラッドオレンジなどの栽培研究を始めており、実際の果樹農家でも栽培が始まっているようです。「気候変動は、遠い未来の誰かの問題ではなく今まさに私たちの問題なのだ」という認識を持っていない農業関係者は少ないのではないかと感じています。

 ・・・実は、これと似た記事を、このブログ開設の最初期に書いています。この時に比べ、ウンシュウミカン離れと新規柑橘の上市が続いています。もちろん、この主因は消費者の嗜好の変化や労働力不足にあるのですが、果樹の更新の際に温暖化を考慮して別種の柑橘を導入、という例も今後増えてくるでしょう。
 ひょっとしたら、ウンシュウミカンが貴重なものにになる時もくるのかもしれません。

スコティッシュ・ワイン

 私はお酒全般好きですが、ワインも大好きです。
 ワインと言えばやっぱりフランスやイタリアですが、温暖化に伴い産地が次第に北上していて、最近ではイギリスでもよいワインが作られるようになっています。先日、ナイティンバーというイギリスのスパークリングワインを飲みました。硬派で酸が強い、いかにも「北のワイン」という感じでしたが、おいしゅうございました。 
 ナイティンバーは、イングランドの南部、つまりイギリスでも最も暖かい地方で作られたものです。イングランドでワインが作られるのは何も初めてではなく、「中世の温暖期」と言われる時期にはイングランドでも盛んにワインが作られていたことが知られています。ただ、グレートブリテン島北部にあたるスコットランドで商業的にワイン作りがされていた例は、私は知りません。
 ところが、スコットランドでワイン作りが開始されたというニュースがありました。
温暖化で様変わりするワイン産業
気候変動にスコットランドワインで乾杯
 
 スコットランドと言えば、ヒースの丘、低く垂れこめた雲と強風、霧と霧雨、スモーキーなウィスキー、というイメージで、おおよそワインとはかけ離れています。それがワイン作り可能な地域になるとは驚きです。
 まだテスト段階であり、商業的に成功するかどうかは分かりませんが、産地が高緯度地域へ移動していくのはもはや避けられず、スコットランドがワイン銘醸地になる日が来ることも十分にあり得ることだと思います。
 このことは、スコットランドにとっては福音になるかもしれませんが、当然ながら従来の産地では温暖化によりワインの出来が悪化してきており、問題になりつつあります。


2050年のワイン産地。赤:現在はワイン産地だが2050年にはワイン作りに不適になる。緑:現在も2050年もワイン作りに適している。青:現在はワイン作りに向いていないが2050年にはワイン作りの適地になる地域。doi: 10.1073/pnas.1210127110より。

 イタリアほぼ全滅じゃないですか。フランスもボルドーやローヌはアウト、ブルゴーニュも厳しい。スウェーデンすらワイン産地になるという驚き。スウェーデンワイン、飲んでみたい気もしますが、ブルゴーニュワインが飲めなくなる/品質が悪化するのは、やはり残念ですね。
 いずれにせよ、果樹栽培は植えてすぐ実がなるというものではないだけに、早めに手を打った者が生き残る、ということになるのかもしれません。


 なお、当然ながら、このような問題はワインに限ったことではありません。日本でも同様の問題が起きつつあるのです。
 地球温暖化が柑橘栽培に与える影響は非常に大きく、私が住む愛媛県では特に死活問題になりえます。よって、すでに多くの対策が取られており、いくつかの対策は実を結びつつあるようです。
 次は、日本、特に愛媛における柑橘栽培と温暖化の関係を書いてみようかな、と思います。