【8012】長瀬産業/政策保有株300億円削減で、向こう5年間の総還元性向は60%か。 | なちゅの市川綜合研究所

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【8012】長瀬産業(東証1部)  OP

現在値 1,685円/100株 P/E 11.5  P/B 0.63  3月配当株主優待 9月配当

染料・合成樹脂等の化学品専門商社首位。傘下にバイオの林原。
配当金は3月末・9月末の計48円配当のため、配当利回りは2.85%となります。

長瀬産業は株主優待制度を実施しており、3月末時点(半年保有)で100株以上を保有する株主に対して、1,500円分のご当地グルメ等を進呈しておりますので、配当優待利回りは約3.73%となります。なお、3年以上の長期保有により進呈額が3,000円分となりますので、その場合は約4.62%となります。

業績を確認していきます。2022年3月期より企業会計基準第29号(新収益)を適用しています。
■2018年3月期 売上高 7,839億円、営業利益 241億円、EPS 136円 

■2019年3月期 売上高 8,077億円、営業利益 252億円、EPS 161円 
■2020年3月期 売上高 7,995億円、営業利益 191億円、EPS 122円

■2021年3月期 売上高 8,302億円、営業利益 219億円、EPS 151円 

■2022年3月期 売上高(非公表)億円、営業利益 230億円、EPS 148円 ce新収益

□2021年9月2Q 売上高 3,830億円、営業利益 110億円、EPS 73.4円 四e

2021年3月期の売上高は前期比3.8%増の8,302億円、営業利益は同14.3%増の219億円と期初の減収減益予想から一転して増収増益となりました。機能素材セグやモビリティセグは新型肺炎禍による自動車生産台数の減少が響き国内外で減収減益となった一方、電子セグについては半導体中間工程向けの精密品が伸長し大幅な増益を確保したほか、生活関連セグにおいて前期に買収したPrinova(後述)が通期貢献したほか、健康志向の高まりによりビタミン等の食品素材の売上が好調に推移したため想定超の寄与となりました。利益面については、Prinovaのれん償却と全社横断的なDX化経費の計上があったものの、これらをこなして増益を確保した形です。


進行期の2022年3月期の予算については、新収益基準の適用開始により売上高は非公表ながら、営業利益は4.9%増の230億円を計画しています。低調だった機能素材・モビリティセグについては自動車生産数量の緩やかな回復基調が続く想定により反転増を見込むとともに、生活関連セグ中核の林原とPrinovaの国内食品素材や米国の栄養物中間体が伸長する見通しです(※為替前提はUSD円@106.1→104.0、RMB円@15.7→15.6)。他方、原価面については実績期と同水準ながら引き続きDX化経費を計上することとしています。
 

実績期で終わった従前5年中計「ACE-2020」については売上高を1兆円(CAGR6%)、営業利益300億円(CAGR11%)を計画していましたが、売上・利益ともに大幅未達となっています。そして今般新たに策定した新中計「Ace2.0」については、向こう5年で1,000~1,500億円の投資枠を設定するとともに、定量目標は営業利益219億円→350億円(ROEは8.0%)を目指すこととしています。内容的には①DX強化、②サスティナ推進、③コーポレート強化の3軸が挙げられており、どちらかというと体制再構築的な色合いが強いものの、成長領域として生活関連セグのバイオ・食品分野を注力領域として定めています。

 

その中核となるのが、2012年に約700億円を投じて買収した岡山の林原と、2019年に約630億円を投じて米Prinova社の2社です。林原はビタミンやアミノ酸、食品素材に強みを持ち、トレハロースや安定型ビタミンC等に強みを持っており、Prinovaは北米・欧州を中心に食品素材販売、配合品製造等を手掛けています。そのため、この買収2社は事業領域的に親和性が高く、グローバル規模での製造・販売が可能となります。特に林原が取扱うトレハロースは賞味期限の長期化が可能でフードロスの削減に寄与するほか、Prinovaのスポーツニュートリション(アミノ酸系のスポーツ系栄養補助食品)もヘルスケア領域のため、サスティナビリティ的観点からも世界的な事業機会拡大が期待されます。

 

当社はそもそも石油由来のケミカルビジネスが多く、昨今のSDGs風潮から機能素材のインク商材や加工素材の樹種系商材については、従来品での展開が難しい状況になっています。そのため、上述のような食品素材に寄せていくのはある種必然であり、林原はケミカル代替技術としての酵素技術の活用等も志向していることから、商社系でありながら多くの製造ラインを持つ当社グループはバイオ/食品分野のメーカー商社として業容変更出来るかどうかが注目点となります。

なお株主還元に関しては、13期連続となる増配46円→48円を予定しており、予想配当性向は32.4%となります。ちなみに当社の場合は純資産配当率(DOE)およそ1.5%+基準で配当額を決定していましたが、今回中計では継続的配当に300億円を配分するほか、別途300億円を上限に処分する政策株式削減を原資とした自社株買いを実行すること方針としているから、計算上される向こう5年間の総還元性向は6割程度となります。

 

*参考記事① 2020-09-16  1,512円 OP

【8012】長瀬産業/Prinova社買収で、化学専門商社からの変容を一段と志向。

 

*参考記事① 2017-06-25  1,668円 OP

林原のバイオ事業拡大に改めて期待、長瀬産業(8012)。

*本記事の内容記述は一般に入手可能な公開情報に基づき、作成されています。 特定の証券・金融商品の売買の推奨ないし勧誘を目的としておらず、本記事に基づいて投資を行い、何らかの損害が発生した場合でも責任を負いません。


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