Birthday | 君と重ねたモノローグ / Mr.Children ―CD買いましたか?― | A Flood of Music

Birthday | 君と重ねたモノローグ / Mr.Children ―CD買いましたか?―

 今回の更新スタイルは「今日の一曲!」でも「特集」でもなく、物凄く久しぶりにシングル作品をそのままレビューします。対象とするのは、Mr.Childrenの38thシングル『Birthday / 君と重ねたモノローグ』(2020)です。

 

 

 当ブログ上でミスチルを取り立てるのは昨年にアップしたこの記事以来で、リンク先をタイトルだけでもご覧いただければ察せるであろう通り、19thアルバム『重力と呼吸』(2018)へクリティカルな目線を披露したのを最後にそれっきりでした。当該エントリーには今日までコンスタントなアクセスがあり、メインに据えて紹介した「天頂バス」(2004)の人気に拠るところが大きいのだとは思いますが、自分で認めたとはいえ「批評」の文字を冠した記事がアクセス解析の上位に幾度も食い込んでくると、その度にばつが悪い心持ちになってくるのも事実です。であるならば、ポスト『重力~』の音源について語って発展性を持たせることで前出記事も含めた内容の昇華を図ればいいのではとの考えに至り、本来的な意味で白羽の矢を立てたのが38thの収録曲となります。

 

 先に結論から述べますと、「なんとも評価のしにくい作品をリリースしたな」というのが僕の38thに対する正直な感想です。普通「結論から述べる」と宣言したなら、スパーンと納まりの良いものを提示すべきだと頭ではわかっています。しかし、17thアルバム『(an imitation) blood orange』(2012)の出来に物足りなさを感じた後に配信限定5thシングル『REM』(2013)の素晴らしさで手の平を返した時のような(詳細はこの記事を参照)大逆転の高評価を下す気にはなれなかった一方で、『重力~』の延長線上にあると見做してあまり響くものがなかったと酷評を続けるほど悪い内容ではないと主張したい気持ちも芽生えているため、先のどっちつかずの意見を結論とするしかなかったのです。以降に展開する文章は「内容の昇華」を目的にしているとはいえ、即ちポジティブな意見だけを連ねるという意味ではないので、先の批評記事が不愉快だった方は本記事に関してもどうか慎重にご覧ください。

 

 

 

 本題である楽曲レビューに入る前に、外部要素から38thの立ち位置を分析したいと思います。具体的には、『重力~』へのネガティブなリアクションが38thへの期待値をかなり押し下げているのではという立脚地からの考察です。当ブログというか僕にしては珍しく、売上枚数やランキングについても(主に俗物的な視点から)言及します。前置きながら非常に長文なので、早く本題に入ってくれとお望みの方はスキップ用のリンクを活用してください。

 

 発売日から二ヶ月以上空けてのレビューという遅さもその結果のひとつですが、38thは僕が人生で初めてレンタルで済ませてしまったミスチルの作品になります。リアルタイムでは20thシングル『優しい歌』(2001)以降の全作品を発売週には現物で購入していて、それ以前の作品もアルバムは勿論のこと8cmシングルも全て遡って買い揃えてあるため、自宅のCD棚に於けるミスチルディスコグラフィーが不完全なものとなってしまいました。上掲した『重力~』のカスタマーレビューのトップに「これからミスチルのCDは買わないだろう」との辛辣な意見があり、僕はそこまで完全な拒絶をするつもりはなかった(文句を言いつつ次のアルバムが出たら直ぐに買う気満々なタイプだった)のですが、シングルなら様子見してもいいかとの慢心とコロナ禍で店頭に赴くのを控えていた自粛心理が重なり、ぐたぐだしているうちにレンタル出来てしまったといった経緯です。

 

 補足①:僕の言う「レンタル」とはTSUTAYA DISCASの宅配レンタル(以降の用語説明は全てCDが対象で、DVD/BDの場合はまた別です)のことで、ヘビーユーザーを自称しても構わないくらい古くから利用し続けています。どのくらい古参かを証明するには、2008年に新規入会が出来なくなったMプランに未だに入り続けていると答えれば充分でしょう。2011年にサービス内容が変更されるまでは、定額で無制限に借りまくれる夢のプランでした。現在では枚数制限がかかり優位性は消失しているものの、他プランへの移行をしていないので加入サービス名にはMプランと表示されたままになっています。これだけ書くと僕がただのレンタル狂いに映りそうなのでフォローしておきますが、この記事の1.1.1~1.1.4で述べているように鑑賞形態に優劣があるとすれば現物入手が最高位にあたるとの認識です。これを前提にしているからこそ、「レンタルで済ませてしまった」や「レンタル出来てしまった」などの言い回しをとっています。

 

 

 いきなりこの点を掘り下げだした理由は、同サービス下でレンタル開始日からの時間経過で変化するパラメータ【「新作」 → 「準新作」 → 「旧作」】のうち、「新作(90日以内)」の段階で本作を借りられたことに多少なりともショックを受けたからです。なぜなら、15年以上利用を続けている人間の経験則として「新作のうちにレンタル可能=あまり期待されていない」のイコールが成り立つ傾向にあると理解しているからで、その背景には『重力~』に対して厳しい見方をした人が一定数いたのではと推測します。各種SNSやBBSでのリスナーの反応を見て、明らかにヒットしているとわかる作品は「新作」のうちに借りられないことが殆どで、早ければ「準新作(91日以降)」に変化したタイミングでレンタル出来ますが、更なる人気作であれば「旧作(181日以降)」になっても未だにレンタル不可という経緯を辿ることが多いです。このことを考慮すると、天下のミスチルの新作が文字通り「新作」のうちに借りられた事実からはどうしてもニーズ減を意識させられます。

 

 補足②:上記に対してはその他の要因や反論も当然考えられるため、突っ込まれる前にセルフで思い付くだけ書き出してみましょう。第一に、DISCASにはニーズに応じた在庫枚数が用意されているので、ミスチルほどのネームバリューを持つ存在であれば在庫は潤沢にしておくのが常道です。正確な数字を出しますと、38thの在庫は62枚でした(2020年5月12日時点)。借りられないと不満を唱える利用者が多くてはサービス提供側の不利益となるため、それを阻止するために通常以上に多く用意されたストック分のおかげで、「新作」のうちに借りられたのかもしれません。加えて、タイアップ先のネームバリューまで考慮に入れると、38thの収録曲は映画『ドラえもん のび太の新恐竜』の主題歌で、幅広い世代に訴求力を有する作品に起用されていることは更にストック増に傾く理由となります。第二に、タイアップ先も含めたコロナ禍による影響も一考すべき要因です。肝心の映画の公開が延期されていること然り、僕自身がそうであったように自粛心理に基く行動変容然りで、平時の需給バランスで考えるのがそも正しくない状況と言えます。需要のピークは映画公開のタイミング(今年8月の予定)に訪れるかもしれず、現時点で結論を出すのは拙速であると自覚済みです。

 

 第三に、「新作のうちにレンタル可能=あまり期待されていない」が真だとしても、それがそのまま「当該作が不人気である」を意味するとは限りません。極端な例を挙げれば、音源を出せば必ず現物ないしダウンロードで購入しようとするコアなファンしかついていないアーティストならレンタルへのニーズは人気に反して下がりますし、サブスクが当たり前の若い世代を中心に盛り上がりを見せているようなアーティストはフィジカルリリースを重視しておらずレンタルもその一形態ゆえに端から選択肢に入らないでしょう。この観点からミスチルのファン層を分析してみると、DLおよびサブスクが2018年に解禁されて以降はそれらも音源鑑賞の手段として認知されているであろう現状に鑑みたとしても、CD世代が支えてきたこれまでの長い年月があるからして(この辺りの視座については「ミスチル サブスク」で検索して上位に来る『エキサイトニュース』の記事が参考になります)、今なお現物派が多く存在していると推測されます。つまり、選択肢としてレンタルを排除しない層がある程度は期待される中で、実際にレンタルに手を出した人が少ないのであろう(「新作」のうちに借りられてしまった)結果に向き合うと、上述したような極端なケースでフォローすることも難しくなり、やはり「期待値が低かった」のではとネガティブな帰結を得てしまうのです。

 

 

 第三の点をより正確に語るには、レンタルから離れてCDの売上にも目を向ける必要があります。オリコンチャートの数字なぞ気にしなくなって久しいので見方を誤解していたらすみませんが、現在はCDだけでなくDLでの売上やサブスクの再生数もランキングに反映されているようです。そのことは「合算」というワードでマークされており、その週単位での数字の積み重ねが月間ランキングに反映されているのだとしたら、今年の3月4日に発売された38thは2020年03月度の月間ランキングの初登場第5位で、推定売上枚数は89,380枚となります。DLとサブスクは遅れて3月23日からの配信開始だったので、この数字はほぼCDによるものと言っていいでしょう。なお、Wikipediaには初週の売上枚数(確実にCDの売上分だけが反映された数字)が載っており、ソースがリンク切れまたは何処にデータがあるのかわからなかったため正確性は保証しませんが、オリコンで6.8万枚/ビルボードで6.4万枚だそうです。

 

 更に同ページには「初動売上が10万枚を切ったのは「CROSS ROAD」以来、約27年振り。」との記述があり、これも正しいとすればショックな事実ですね。勿論それには所謂CD不況の影響もあって、同作への期待値云々だけが理由ではないのでしょうが、週間ランキングでもJO1の『PROTOSTAR』(2020)にトップを奪われ2位に甘んじたことは、Sexy Zoneの『君にHITOMEBORE』(2014)に連続首位記録を止められた時よりも、状況が深刻だと個人的には甚く憂慮しています。男性アイドルグループに阻まれた点では同じでも、既に人気を博していたアイドルの8thシングルに負けるのと、公開オーディション番組出身アイドルのデビューシングルに負けるのとでは、後者のほうが「嘘だろ…」という気持ちが大きいです。

 

 

 以上が、『重力~』へのネガティブなリアクションが38thへの期待値をかなり押し下げているのではないかと主張する根拠になります。先にAmazonのレビュー欄の一部を引用しましたが、僕は正直その中でも☆1を付けている方の文章ばかりに賛同してしまい、『重力~』の出来に大きな落胆を覚えたファンのひとりなのだなと改めて実感しました。見かけ上は低評価を付けている人間のほうがマイノリティなれど、その多くは熱心な購買意欲を持ってこれまでCDを買い続けてきた層だと批判内容から読み取れるので、彼ら・彼女らが38thの売上に与えたマイナスの影響は決して少なくないだろうと見ています。とはいえここまでは予想通りで、なればこそ次はレンタルにニーズが集中すると予想していたのですが、まさかその導線すら断たれているのかもしれないと考えさせられるファクターが出てくるのは予想外でした。時代的にサブスクに流れた分も相当数あるとは思うものの、外出自粛が意識されだして寧ろ宅配レンタル業界的にはプラスに働きそうな状況下にあるのにも拘らず「新作」のうちに借りられてしまったという経験は、僕にここまでの文章を書かせるのに充分な動機となったのです。

 

 コロナ禍による生活苦や将来不安で音楽というか娯楽どころではない人が増えたのだろうかとか、『重力~』への評価は関係なしに38thの内容そのものが刺さらない人が多かったのかもとか、映画の公開延期も相俟ってそもそもミスチルが新譜を出したこと自体があまり認知されていないのではとか、理由を拵えようと思えば如何様にも出来るため、僕の考察は言葉遊びの域を出ないかもしれません。ただ、過去作と比較しての売上減とレンタルの容易さは純然たる事実なので、それを単にCD不況の一端ないしコロナ禍の煽りと捉えて諦めてしまうより、前作に対するリアクションの結果と見做したほうがいくらか建設的だと僕は考えます。

 

 

 

 さて、予め宣言しておいたようにここまでの長文は38thの「外部要素」を語っただけに過ぎず、その「中身」に対する評価はさして行っていません。唯一提示していたものが「なんとも評価のしにくい作品をリリースしたな」という煮え切らない感想だったので、ここからは具体的に収録内容をレビューしていきます。

 

 

01. Birthday

 

 まず全体的なサウンドについてですが、日本のミュージシャンが海外でレコーディングしたということがありありとわかる音色および音像だと感じました。こればかりは同様のケースを多く知っている人なら共感していただけるであろうと経験則に逃げたうえで一応は説明に努めますと、高温多湿の日本から解き放たれて一音一音が軽やかに響くようになっている質感が欧米的だといった意味合いでの「海外」です。本曲を初めて認知したのは上掲のSPOTがたまたまTVで流れたタイミングで、通常は湿っぽくなるはずのストリングスがその存在を全く隠していないのにも拘らず、バンド隊のドライなサウンドが優勢に聴こえる点で新鮮味を覚えました。

 

 より感覚的な言葉に置き換えれば、本曲は終始焦燥感に満ちていると言えます。ベースとドラムスのリズム隊は勿論のこと、ギターとストリングスの弦楽隊もリズムを担っている際には足早なプレイが耳に残り、躊躇いなどなく前だけを見て突き進んで行くようなサウンドスケープが印象的です。「Birthday」という曲名を加味すれば、この早鐘の如き勢いは「再誕の鼓動」の表現かなと思います。歌詞のベクトル自体はポジティブと言えますが、その背景には相当の重みがあると解せる内容でもあるため、生き急ぐ様が音にも反映されているのかもしれません。単に「生き急ぐ」だけはネガティブに響きかねないところに、"何度だって 僕を繰り返すよ/そう いつだって It's my birthday"とリバース(rebirth)する意志が示されると「常に全力で生きる」といった決意が滲んでくるため、「生き急ぐ」が必ずしもネガティブではなくなります。メロディに若干の翳りがあるのもこのようなコンテクストが存在するからではないかと解釈していて、特に前出したサビ終わりの旋律は無責任に明るいだけじゃないところが素敵です。

 

 歌詞でシンプルに好みなのは、"君にだって2つのちっちゃい牙があって/1つは過去 1つは未来に/噛みつきゃいい/歴史なんかを学ぶより解き明かさなくちゃな/逃げも隠れも出来ぬ今を"で、「今」にフォーカスするために比較対象とされる「過去」と「未来」の三要素は王道ながら、後者の2つに対しては自身の裁量に基いた行動がとれる一方で、「今」に対しては否応なしに向き合うしかないとする対比は、中々に冴えた描写だと感心しました。また、愛憎相半ばする厄介な気持ちで惹かれた一節は、"「否定しか出来ないなんて子供だしね」って/期待された答えを吐き散らかして"で、前半の鍵括弧の内容だけならともかくそれを婉曲させて提示してきたところがニクらしくて、自意識過剰ですが本記事を含めた種々の批判に真正面からではなく搦手から返答されたような気がします。

 

 

02. 君と重ねたモノローグ

 

 こちらは割と従来のミスチルらしさがあるナンバーで、過去曲で例示すれば「僕らの音」(2005)がツボな方はおそらく気に入るはずです。歌詞内容は桜井さんにしては単純過ぎるきらいがあるとは思いますが、メロディの素直さが心地好いので『重力~』の収録曲に覚えたほどの肩透かし感はありませんでした。元より旋律が複雑な言葉を求めていないのでしょうね。

 

 本曲最大の魅力は何と言っても5:28~の長尺アウトロです。このセクションがなかったら上のパラグラフだけで感想を終えるつもりでした。少し特殊な例示の仕方になりますがまたも過去曲を持ち出せば、「いつでも微笑みを」(2002)にルロイ・アンダーソンの「そりすべり」(1948)のような楽しさを見出した時に似た、このままいつまでも聴き続けてハッピーな気分に浸っていたいと思わせる、物語性と娯楽性が共に高いサウンドに懐かしさと新しさが宿っていて、素晴らしい聴後感を誇るクロージングだと絶賛します。"また会おう この道のどこかで"と再会を期する約束が、いずれ果たされるであろうことを予感させる音作りです。

 

 

 

 以上、Mr.Childrenの38thシングル『Birthday / 君と重ねたモノローグ』のレビューでした。先に「なんとも評価のしにくい作品」と結論付けたのが嘘みたいに、語りたい美点が意外にすらすら出てきたなと自分で驚いています。本記事の執筆理由は最初に示した通り、『重力~』を批判したっきりでは後味が悪くなってきたからというものです。38thの「外部要素」について書いている段階では、「この内容は更に後味を悪くしていないか?」と自分で不安になっていたものの、楽曲の「中身」に向き合った文章を認めてみたら、「何とか前向きに結べた」と一応の安堵を得ることは出来ました。外部要素で明らかにしようとしたのはあくまで「期待値の低さ」で、それがそのまま「出来の悪さ」に繋がるわけではありませんからね。

 

 だからこそ、初動が10万を割ったことや週間2位止まりなのは残念な結果で、『重力~』で離れてしまったファンを完全に引き戻せる内容とまでは言わないものの、次のアルバムに絶望するには尚早と思わせるだけの質は担保されていると感じます。仮に『重力~』がリリースされていない世界線の話として、37thシングル『himawari』(2017)と配信限定7thシングル『here comes my love』(2018)に続けて本作があるとしたなら、次のアルバムへの期待値は高いままだったのではないでしょうか。まとめに妙な仮定を持ち込んですみませんが、純粋に38thの内容だけが評価されていればもっとポジティブな反応が多く寄せられていそうなものなのに、どうしても『重力~』に引き摺られてしまっているのであろう現実がもどかしいという話です。

 

 

 

 タイムリーな余談を最後に載せますと、「himawari」が主題歌に起用されていた実写映画…のほうではなくアニメ映画の『君の膵臓をたべたい』がこの間Eテレで放送されていたので遅ればせながら視聴しました。原作者の住野よるさんが語っておられるように、作品内容を受けて並の感性であれば「sakura」と題しそうなところで敢えて季節が進められている点に桜井さんの慧眼が窺え、約3年越しでもう一段階評価が上がる結果となったのです。ともすれば『重力~』の他の収録曲も、こうして時間差で良さに気付けたら重畳と願います。

 

 

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