今日の一曲!Perfume「心のスポーツ」―ベストアルバム『"P Cubed"』と絡めて― | A Flood of Music

今日の一曲!Perfume「心のスポーツ」―ベストアルバム『"P Cubed"』と絡めて―

 増税の前にとまとめ買いした音源やら円盤やらの消化で久々の更新となってしまった今回の「今日の一曲!」は、Perfumeの「心のスポーツ」(2011)です。3rdアルバム『JPN』収録曲。


 本記事の執筆動機は副題にある通り、今月の18日にリリースされたベスト盤『Perfume The Best "P Cubed"』(2019)にあります。普通ならここで同盤の収録曲をレビューするのが筋でしょうが、以前に別アーティストの記事でも同様の手法を採っているように、僕はベストアルバムが出ると「選外の名曲を紹介したい!」といった欲のほうが強くなってしまうので、これを理由とした選曲を披露する次第です。後付けの理由としては、スポーツの秋に託けられる点で、時宜に適うとした部分もあります。笑

 まあベストに入らなかったことはさておき、個人的に「心のスポーツ」はリリース時からずっと好きの上位に君臨し続けているフェイバリットナンバーであるため、特段の理由はなくとも取り立てたい楽曲でした。その魅力を誤解を恐れずに敢えてセンセーショナルに表すならば、「並のアイドルソングもしくはJ-POPらしいところ」だと評します。ここで想定される誤解とは、上記に「アイドル」および「J-POP」との言葉を出したことによるもので、「並」に否定意図はありません(後述)。以降の文章は僕が抱いているPerfume像の提示から始まるので、同曲のレビューとしては回りくどい内容であることをご了承ください。


 まず前者に関して、「Perfumeはアイドルか否か」の議論は今更というか、これまでにも散々やり尽くされているかと思います。従って、プロセスは割愛して結論の認識だけを述べますと、僕はPerfumeのことをアイドルとは見做していません。もちろん一側面としてそれらしい要素を備えていることは純然たる事実と言えますし、そういう見方をしている人にも何らおかしい点はないとフォローはするものの、「表現者としての在り方や目指す方向性が、所謂アイドルと呼ばれる人たちとは異なっている」との意味合いで、カウンターの立脚地に身を置いています。

 これとは別に、音楽性を理由に従来のアイドルと区別する捉え方にも一理あるとは感じますが、昨今はアイドルソングも多様化・複雑化してきていて、Perfume以外にも音楽の格好良さを売りに出来る存在は頭に浮かぶので(当ブログからの例示:)、この面は本質ではないとの理解です。正確には「本質ではなくなった」で、Perfumeまたは中田ヤスタカがパイオニア的な役割を果たしてくれたからこそ、自由度が増した現在のアイドルソングシーンがあると考えています。

 リンク先で熱弁している通り、先に挙げた三組の音楽はジャンルこそPerfumeとは違えど、何れも確かにハイクオリティな仕上がりです。しかし、当該の三組を表現者として見た場合でも、一義的に来るものはやはり「アイドル」だと感じます。一方でPerfumeに於いては、アイドルを第一義に据えると違和感を覚えてしまうため、先達ては在り方からして違うと述べたわけです。「ではPerfumeの第一義は何か?」と問われると返答に窮してしまうのですが、ベスト盤収録の新曲「Challenger」および「ナナナナナイロ」の歌詞に鑑み、「未来への担い手」であると、観念的な形容を当座の答えとさせてください。今この文脈でおさえておいて欲しいのは、第一義がアイドルだとは思っていないということなので、横道はこれ以上掘り下げません。



 ここまで記してようやく、話を「心のスポーツ」に持っていけます。前置きの長さに反して同曲に対して主張したいことは実にシンプルで、Perfumeには上述したような革新的なイメージが強くあるからこそ、王道のアイドルらしさやポップさが翻って深く印象に刻まれるといった称賛のロジックです。否定意図はないとしつつも「並」では語弊があるため、「王道」への換言はご容赦いただくとして、前出の魅力についての言「王道のアイドルソングもしくはJ-POPらしいところ」を、以下補足解説していきます。

 おそらく共感を得られるだろうと期待して感覚に依存する書き出しにしますと、本曲のポップさはPerfume楽曲の中でも群を抜いているとの判断です。とりわけサビの跳ね感のあるメロディラインは、促音が多めの歌詞と相互作用を果たして、この上ないほどにキャッチーなアウトプットとなっています。この強力なフックをして「王道のアイドルソング」と表したわけですが、これはイコール「往年の〃」に繋がるような定石通りの打ち方を言いたいわけではなく、例えば近年のアイドルアニメの楽曲にありそうなあざとさすら感じさせる、過剰なガーリーさを誉め言葉として適用したいケースの「王道」です。俗っぽく言い直せば、「あざと可愛いの最高!」の男性心理に付け込むような楽曲の方向性を、ここではアイドルソングの王道のひとつとしています。

 歌詞内容も含めればなお納得していただけると思いますが、"ほっぺたにキス キミがスキ/ドキドキドキが止まらないの"に見える直球あるいは直截さと、"こっち向いて ステキなBOY/あなたのハート射止めたいの"から窺える男性狙い撃ちのスタンスは、"恋"をテーマとする女性アイドルソングとして百点満点の言葉繰りですよね。ただ、それを"心のスポーツ"というユニークな比喩で表現して、"運動不足"でコミカルさと切実さを両立させた結びにしている点は、効果的なひねり方だと評価します。ちなみに、同曲のサジェストに「ブーイング」があるのは当該部のダンスの振付に起因するものですが、普通はネガティブに解されるポージングをキュートに転化出来ているのも、本曲の可愛さに高い包容力が付随しているからではないでしょうか。


 加えて、前項では話の流れで否定してしまった「往年のアイドルソング」的な要素も、実はしっかり込められていると分析しています。それは曲の入りおよびAメロの切ない立ち上がりから、暗から明への橋渡しの役目を負ったお手本のようなBセクションを経て、繰り返しの妙で聴かせるサビへと移行する楽想に関してです。このシークエンスに「往年」を感じるのは、偏に日本人がJ-POPのマナーに慣れ親しんでいるからだと考えます。先の「もしくはJ-POPらしいところ」とは、このポイントを意識して「王道のアイドルソングらしさ」を換言したものです。

 とはいえ、日本人である中田さんがトラックメイキングを担っている以上、J-POPらしい魅力を見出せるのは何も本曲に限った話ではありません。ただ、僕は本曲が「日本」を冠した『JPN』というアルバムを初出とする楽曲である点を重視しています。同盤のWikipediaの概要欄が端的にまとまっているので、詳しくはそちらを参照していただきたいと丸投げしますが、シングル曲や歌モノの割合が大きいことや、エレクトロ志向のサウンドが比較的鳴りを潜めていることは、Perfumeを通した「中田さんなりのJ-POPの提示」だと解釈したいです。

 J-POPとはこういうものだという暗黙の了解があるからこそ、それを逸脱したPerfumeの音楽性が一層格好良く映るわけですし、反対に王道の路線を素直に踏襲した際にも斬新性が演出されるため、この恩恵に大いに与れているのが「心のスポーツ」の美点であるとまとめます。「僕はPerfumeのことをアイドルとは見做していません」との認識を前提にしておきながら、その実本曲の「王道のアイドルソングもしくはJ-POPらしいところ」を絶賛しているのが、何よりの証左となるでしょう。


 ここまでの流れに上手く組み込めなかったので、最後にアレンジ面のツボを語りますと、2番サビ直後の間奏から鳴り出す、目立ってキュートなシンセがなぞっているラインが堪らなく好みです。ボーカルの主旋律に負けないだけの強い音でもって、ラスサビでは助奏的・副旋律的な機能を果たしながら継続していくので(3:13~)、満を持して第4のボーカリストが参入してきたような感覚に陥ります。

 これは推測なので事実に反する変な物言いになるかもしれませんが、主旋律に対する楽典的な正解は敢えて意識しないで演奏されているように感じられ、完全アドリブとまでは言わないものの、半アドリブ的な自由性を有したメロディラインを保っているところが殊更に素敵です。