今日の一曲!ブンブンサテライツ「Moment I Count」【平成17年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!ブンブンサテライツ「Moment I Count」【平成17年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第十七弾です。【追記ここまで】

 平成17年分の「今日の一曲!」はBOOM BOOM SATELLITESの「Moment I Count」(2005)です。4thアルバム『FULL OF ELEVATING PLEASURES』収録曲。



 MVもあってライブでも定番のキラーチューンですが、意外にもシングル曲ではありません。同曲は過去に当ブログで幾度か取り上げたことがあり、後者に関しては2010年のROCKS TOKYOのフェスレポと、同年のJAPAN TOUR 2010 2nd STAGE -Final-の参戦レポの中に言及があります。一方で前者にもレビューが存在し、お気に入りMV紹介記事の33.にて映像の魅力を語りました。

 これだけでも非常に好みのトラックであることの証明にはなるでしょうが、通常のスタイルで楽曲を掘り下げたことは未だなかったため、改めて言葉を尽くしてみようと選曲した次第です。




 BBSの音楽性を説明する際には、ジャンル名としてビッグ・ビートがよく用いられるかと思いますが、その辺りの認識に関することは、以前にアップした「今日の一曲!」でも一度ふれています。リンク先の内容を乱暴にまとめると、「ゼロ年代の音は言うほどテクノ感なくね?」といった主張になりますが、同時に「曲による」と例外があることも匂わせていた通り、寧ろ「Moment I Count」は電子音楽的なマナーがバンドサウンドよりも優勢であるがゆえに、一段とアンセムらしさが色濃いダンスミュージックに仕上がっているとの認識です。

 ロックの要素が薄いと言いたいわけではなく、イントロから顕著な生ドラムの激しさや、シンプルなギターリフから来る直球の格好良さ、そして何より川島さんのボーカルの力強さも考慮に入れると、目指す先にビッグ・ビートがあることは否定出来ません。それを押してでも電子音楽優勢だとしたい点は、ずばり「ボーカルトラックの派手な弄り倒し方」で、これこそが本曲のツボであるとして話を進めていきます。


 一般的な手法として、ボーカルトラックに対する遊び心の加え方は様々です。ディレイやリバーブなどのエフェクトをきつめにかけたり、波形編集の過程でチョップや逆再生に面白さを見出したりと、歌声を聴き易くする以外の目的で行われる作業は、とりわけ電子音楽界隈に身を置くクリエイターが得意とするところだと理解しています。

 リスナーとしての解釈を述べるに過ぎませんが、この手の作業の背景としてある動機や目的には、文字通り単なるお遊びで特に深い意味はないケースもあれば、独特のグルーヴやリズムを生み出すことに重きを置いている場合もあると推測され、このうち後者に基づくこだわりの強さが、本曲に於いては神懸かり的であると絶賛したいです。


 以下、この点を歌詞に沿って通時的に解説していきます。第1スタンザの3行目まで("I got"~"be alright")は、各フレーズの最後の単語("wall"、"way"、"alright")の音節核となる母音が、エコーした後に減衰していくというオーソドックスな弄られ方です。裏返った声の反響であるためか、ややコミカルな印象を残していくところは独特かもしれませんが、この野生動物の鳴き声じみたラフさがトラックの攻撃性とマッチしているので、悪くはありませんね。4行目の"Evil is what I am"には上掲の法則性は認められませんが、出現位置として推定される0:46~0:49に登場するうねった音は、"I am"を声として捉えられないレベルにまで歪めたもののようにも聴こえます。

 続く第2スタンザ("Every moment I count down" ×2)は、全体的にリバーブがかかっているというか、空間を飽和させていくことで盛り上がりを演出する手法が取られていると感じられ、これが激しくチョップされたトラックの(=断続的なサウンドの)間隙を縫うように機能している点が技巧的です。わかりにくいので言い換えますと、0:57あたりから目立ち始める小刻みで激しいリズムパターンの圧倒的な格好良さとは対照的に、浮遊感のあるボーカルが音の隙間を優しく埋めていくギャップが心地好いとも表現出来ます。


 とはいえここまでは序の口で、先述した「派手な弄り倒し」という形容は、主に次の第3スタンザ("Sinful rhythm"~"your flags")に対するものです。このセクションはもはやDJプレイの域で、全ての音にノせてやるぜとでも言いたげな気概に富んだアグレッシブさを気に入っています。以降の記述は、いずれも一度目に普通に歌われるボーカルラインを指しているのではなく、次のフレーズに移行するまでのトランジション部の内容について説明していると留意してください。

 1行目の"Sinful rhythm in my mind"では、おそらく逆再生との合わせ技(或いは"Evil is"も混じっている?)で、中毒性のあるグルーヴ感が生成されているのが面白いです。最後に"rhythm, rhythm"と繰り返されるのも、自己言及的でユニークだと思う。2行目の"I'm on my way back home"には、第1スタンザの時と同様のリピートが見られますが、単に減衰していくのではなく、途中で変化(1:47~1:48)が付けられている点で凝っていると言えます。声質がコミカルな点でも類似する部分がありますが、音で表すと[ou]の連続だからか、悪役の断末魔っぽさがあるなと僕には思えたため、失礼ながらたまに笑いが先行してしまうほどです。…が、それが段々とクセになってきて素晴らしいと結びたい感想なので、誤解なきようお願いします。

 3行目は第1スタンザのパターンと基本的には同じなので省略するとして、続く4行目の"But still your waving your flags"はどう処理されるのかと期待していると、これには目立った加工がなく、最後の"flags"でぴしゃっと切られるのが翻ってクールです。ここで急にストレートなものが飛び出してくる意外性自体が、宛ら余韻になっていると受け取れます。


 過去にレビューをした海外アーティストの楽曲の中でも、この類のボーカルトラックに対する細かな配慮に言及したことがあり、そこでは「入れ子構造のような手の込みよう」という表現を使って、その作り込みを絶賛しました。更に読み進めていくと、「日本人だと平沢進、DE DE MOUSE、BOOM BOOM SATELLITESあたりには同種のセンスがある」との記述が出てきますが、この時に筆頭として想定していたBBSのトラックは、この「Moment I Count」であったことを補足しておきます。


 このニッチなツボの解説に終始するのもどうかと思ったので、最後に本曲のシンプルな良さも語っておきましょう。冒頭で「アンセムらしさが色濃いダンスミュージック」と述べている通り、本曲がとことん忘我の境地で踊り狂えるハイポテンシャルなトラックであることに疑いの余地はありません。

 立ち上がりは意外と暗めというか、ベースにあるのはあくまでもストイックなテクノだという気はしますが、きちんとロックのスタイルも取り入れられていることは、先の文脈では「押してでも」と横にやってしまったものの、聴けばわかる瞭然さでしょう。ここまではレコーディングレベルの話になると推測しますが、その後のトラックメイキングの段階でも更なる発展を目指して研鑽していたであろうことが、種々の遊び心も含めた作り込みの深さから充分に窺えるので、この混然一体はまさにビッグ・ビートであると得心がいきました。

 このジャンルを構築し得る各要素への音楽的な理解も勿論大切ですが、双方が持つ精神性が高い次元で一致していることもまた重要であると、本曲を聴く度に思い知らされます。特に3:20からの絶頂のサウンドスケープには、小手先だけの楽曲制作では到達不可能な凄みを感じますね。