CLEAR / 坂本真綾 | A Flood of Music

CLEAR / 坂本真綾

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 坂本真綾の27thシングル『CLEAR』のレビュー・感想です。表題曲は現在放送中のTVアニメ『カードキャプターさくら クリアカード編』のOP曲となっています。

CLEARCLEAR
1,404円
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 シングルとしては前作『Million Clounds』(2016)から約1年半ぶりとやや久しぶりですね。2017年は10年代で初めてシングルリリースのない年でした。

 ちなみに『MC』に関しては、通常のレビュー形式ではない記事2016年のアニソン振り返り記事で二度言及しているので一応リンクしておきますが、正直どちらも内容に乏しいので補足程度にご覧ください。きちんとレビューしておけばよかったと後悔。

 「今日の一曲!」では「おきてがみ」(2003)「30minutes night flight」(2007)を取り上げていますが、新譜レビューに限ると更新停止前の『You can't catch me』(2011)の記事まで遡ることになるので、本記事は更新再開後に初めてしっかりと真綾さんの作品と向き合うものとなります。





 前置きが続いて申し訳ありませんが、タイアップ先である『CCさくら』についても語らせてください。愛ゆえの批評がメインなのでやや閲覧注意です。読み飛ばしたい方はここをクリック

 上にリンクした「おきてがみ」の記事が伏線になっているのですが、去年旧譜レビューとして書いた「『カードキャプターさくら』の音楽の世界 -アニメ劇伴について-」という記事が、僕の『CCさくら』愛を顕現させた内容となっています。従って、基礎的なことはこれらの記事をご覧くださいと丸投げし、ここでは「クリアカード編」に話題を絞るとしましょう。

 20年ぶりの新作アニメということ自体が驚きですが、それだけスパンが空いているのに監督や声優などの主要メンバーが変わらないというのも僥倖ですよね。原作も変わらず面白いので期待値も高かったのですが、アニメに関しては「やはり20年のブランクは大きい」という、違和感を伴った思いのほうが僕の中では今のところ優勢となっています。

 「懐古厨」や「思い出補正」などの謗りを甘受する覚悟で以下書き進めていきますが、僕が気になるのはよく言われているようなキャラの理想像論に係る点ではなく、主に「演出」に関してなので作品自体やキャラに対するディスは一切ないことに留意してください。

 たとえば「画面上に文字を多く表示するスタイル」。これは少女漫画らしい(cf. 書き文字)という意味ではむしろ原作リスペクトだと思いますが、前シリーズに比べると過剰に思えて気になります。他には「小学生時代の描写を引き摺っている感」も挙げられ、好例は先生の着席指示に対して全員が声を揃えて「はーい」と答えるカットです。「えっ、中学生だよね?」と、優しい世界観を通り越して嘘っぽく感じてしまいます。せめて短く「はい!」にしてほしかった。

 こういう諸々を含めて「20年」がいかに長いかを実感しました。時代が変われば表現方法も変わりますし、受け手の好みや考え方も変遷していくので、致し方ないと割り切ることにしています。「時間の経過」という観点では、現代にあわせて作中の通信端末がしれっとスマホに切り替わっているのも話題になっていましたが、そこにツッコミを入れつつもすぐに納得出来るのと同じようなマインドで、「演出」にも向き合うべきなのでしょうね。

 余談ですが、スマホをはじめとした技術革新に関しては、大道寺グループの存在でどうとでも整合性が取れるので、こういう時にお嬢様キャラは便利だなと思います。「知世はドローンを使ってさくらを撮影しそう」という意見もちらほら見かけますが、大道寺トイズが手を出さないわけがないと思うので納得の予想です。笑




 想定はしていましたが、前置きがかなり長くなってしまってすみません。ようやく音楽レビューに入れます。…が、ここでまたも注意喚起で恐縮です。

 以降には特定のアーティスト名を挙げてディスる表現が一部含まれます。最終的には見直す方向に持っていったのでそこまで構える必要はないかもしれませんが、「CLEAR」の作曲者が所属している現在活動休止中のバンドのファンの方には不快な思いをさせることでしょう。以降ではがっつり名前を挙げていくので、このぼかした表現で察した方はそっ閉じ推奨です。


01. CLEAR

 『カードキャプターさくら クリアカード編』OP曲。「さくらカード編」のOP曲「プラチナ」(1999)に続いて、真綾さんが再び『CCさくら』の主題歌を担当したことになるので、作品のみならず彼女自身も長く愛されているとわかりますね。

 作詞は真綾さん自ら、編曲の河野伸さんも「脱菅野よう子」以降ではサウンドの中核をなしているひとりだという理解なので、ここは安定の布陣だと思います。僕にとって問題だったのは、「作曲:水野良樹」です。長いのでここにもスキップ用のリンクを作っておきます。

 水野さんは超有名バンド・いきものがかりのギター担当(リーダー)として有名で、ソングライティングを務めているのも彼であるため、数々のヒットソングを生み出す才能のある人だという認識でいます。世間的な評価も高いからこそ名が売れたというのは自明ですが、個人的にはいきものがかりの音楽は好きではありませんでした。酷い言い方をしますが、「つまらないJ-POPの代表格バンド」と、取り消し線も含めて否定的な感情を持っていたことを白状します。

 その原因は偏に「歌詞」にあるというのが自己分析の結果です。普遍的過ぎて陳腐の域に入っていると僕には感じられる。しかし調べていくと、これは「表現力や語彙力がない」というわけではなくて、作詞に対する水野さんのこだわり;「非政治/非社会的スタンス」に起因することらしいとわかったので、信念に基づいている点に関してはまず見直しました。ただ僕は「独特な目線でメッセージ性に富んだ歌詞」が好みなので、相容れないことにも得心がいった次第です。

 さて、歌詞のみを否定したことから逆説的にわかると思いますが、水野さんの作曲センスに関しては元より悪感情を持っていません。キャッチーなものを次々生み出せるのは紛れもなく才能でしょう。曲作りに関しても、調べると「なぜポップ(王道)なものばかりなのか?」に対する答えが出てくるので、所謂「表現したいことが大してないのにアーティストになってしまった(その後、行き詰まる)」パターンではないのだなと、認識を改めました。活動休止を知った時はこの通例を当て嵌め、「やっぱりね」としか思わなかったのですが、知らずに決めてかかるものではないなと反省。

 休止後(2017年~)の水野さんに関しては、『関ジャム』に企画を持ち込んで音楽について熱く語っていたのが好印象で、嗜好は違えど人物像に対してはポジティブな感情を抱き始めました。そして2018年、奇しくも同じ今期アニメ『からかい上手の高木さん』のおかげで、水野さんの作曲術ひいてはいきものがかりの音楽について再評価の流れが僕の中に来ています。「気まぐれロマンティック」(2008)のカバーが2話までのED曲として使われていたのですが、素直に良い曲だなと思えたのです。『高木さん』という作品にも歌っている高橋李依さんにも特に贔屓感情はないので、純粋に楽曲の良さが刺さったと解釈しています。





 実質ここからがレビューのスタートと言っていいほどに脱線から始めてしまいましたが、改めて「CLEAR」はいきものがかりの水野良樹さんが作曲したナンバーだということを書いておきます。

 彼のポップセンスが如何なく発揮された、キャッチーで爽やかなメロディが印象的な楽曲です。特に"Going on!"の連呼でサビを閉じるパートは、凄くいきものがかりっぽい。


 A/Bメロは控えめながらも王道の進行でサビへの道筋を着実に示しているところが好みです。ここが派手過ぎないおかげで、サビの爆発力が一層際立っていますよね。

 サビメロは非の打ちどころがないほどに美しいと思います。真綾さんの透き通った声質のおかげというのも大いにあるでしょうが、ともするとちっぽけに感じられる存在(ここでは「少女」としてもいいでしょう)が、息急き切るほどに駆け出したくなる衝動を抑えられないといったような、心地好い負荷を伴う疾走感に満ちた旋律と表現したい。

 この流れを受けてサビを閉じる役割を担う"できるよね/Going on!"の部分は、一拍置いて一度冷静を取り戻した後に思いっ切りスタートダッシュを決めるイメージが浮かぶので、「よーい、ドン!」に相当するハイポテンシャルさだと感じました。動的なところがさくららしいと言うかね。

 Cメロもなかなか素敵です。特に"私をつかさどる源が"の旋律が好きで、菅野プロデュース期のナンバーにもありそうな美メロだと懐かしく感じました。


 真綾さんによる歌詞も着眼点が流石としか言いようがありません。"風って 鳥って 私より自由かな"という立ち上がりは天才的だと思いました。

 だって普通「風」や「鳥」は「自由の象徴」じゃないですか。「風のように自由」とか「鳥のように自由」はありふれた直喩ですよね。「だからこそそれらに憧れる」というセオリーが王道のところを、"私より自由かな"という疑問で比較対象にしてしまう、この自信の表れにはっとさせられました。"翼がないなら走ってくわ"というのも、「人間」に寄り添った表現で素晴らしい。

 この自信に満ちたサビに対して、A/Bでは不安な感情が歌われているので、この対比には「プラチナ」の歌詞を彷彿させるものがあると思いました。『CCさくら』は「不安の払拭」が丁寧に描かれている作品なので、納得の歌詞であるとまとめます。


02. レコード

 c/wは落ち着いた印象のナチュラルソングです。脱菅野以降の真綾さんの楽曲では十八番のタイプというか、ミディアムテンポ系はこういうやわらかな質感を押し広げたものが多い気がしますね。

 曲の舞台は"東京"です。真綾さんの楽曲で東京というとまず「東京寒い」(2015)が思い浮かびますが、これは真綾さん作詞のナンバーではないので、本人作詞に限れば"東京タワー"が出てくる「トピア」(2011)以来かな。

 東京を描いたお気に入りのフレーズは、"なくなった映画館/増えていく駐車場"です。別に東京だけの話ではないと思いますが、建物が取り壊されて空き地となった土地が、「次は何が建つんだろう?」と思う間もなく駐車場に変わってしまうと少し寂しいですよね。土地活用を考えれば自然の流れだとは思うけども。


03. プラチナ -acoustic live ver.-

 c/w・2曲目はボーナストラックです。01.の冒頭にも書きましたが、「プラチナ」は「さくらカード編」のOP曲なので、『CCさくら』ファンへ向けたサービスでしょう。

 タイトル通りライブ録音で、歌詞カードによると「2017年6月4日 広島・嚴島神社にて収録」だそうなので、「第34回世界遺産劇場 -嚴島神社- 平清盛公生誕九百年 前年祭 坂本真綾 Open Air Museum 2017」の音源ですね。

 「プラチナ」という楽曲自体には、前置きにもリンクしたこの記事の中で一度しっかりふれているので、その神曲っぷりについては割愛とさせていただきますが、アコースティックアレンジとなっても、楽曲自体が持っているエネルギッシュさは変わらないと、短くまとめておきます。


04.~05.は、01.~02.の「-Instrumental-」です。


 以上、インストを除いて全3曲でした。01.に関しては、前置き部も含めて批判的な言及から始めてしまったので、そのまま素直には伝わっていないかもしれませんが、新しい『CCさくら』にぴったりの素敵なナンバーだというのがストレートな感想です。

 02.は真綾さんらしい安定の出来で、東京を切り取っているのも個人的には高評価ポイント。03.はファンサ精神あふれるボートラだったので、単純に収録されたこと自体がありがたい。

 久々のシングル、そしてそれが『CCさくら』新シリーズのOP曲、しかし作曲は水野さん…と、リリース前は期待と不安が入り混じっていたのですが、結果としては満足でした。