今日の一曲!坂本真綾「30minutes night flight」 | A Flood of Music

今日の一曲!坂本真綾「30minutes night flight」

 【追記:2021.1.4】 本記事は「今日の一曲!」Ver. 2.0の第十九弾です。【追記ここまで】

 本日の出目は【10, 6, 3, 6】だったので【1stの643番】の楽曲、坂本真綾の「30minutes night flight」を紹介します。

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 曲名と同名のミニアルバム『30minutes night flight』(2007)の幕開けを飾る表題曲です。アルバムとしては菅野よう子の手を離れてから2枚目の作品となります。ミニとは言え非常にコンセプチュアルな内容で、よくまとまった名盤だという認識です。

 今でこそ『魔法少女まどか☆マギカ』で有名ですが、当時活動を始めたばかりの劇団イヌカレーによるショートフィルムDVD(収録曲「ユニバース」MV)が付属していたり、白紙のパスポート(という体のメモ帳のようなもの)が封入されていたりと、アートワーク周りにも趣向が凝らされているのも特徴。


 表題の「30minutes night flight」は、そのタイトルが示す通り「30分間の夜間飛行」をモチーフにしている楽曲(アルバム)です。1曲目に据えられていることからもわかるように、この曲の持つ役割は「出発」だと思います。

 ジャケットの中に書かれているプロローグ的な文章によれば、いつの間にか「その飛行機の中に座っていました。」とのことなので、それを意識してかイントロは離陸の激しさを伴わない静かな幕開けです。

 とはいえ歌が始まる前の段階で力強いビートが挿入されて曲が俄に勢い付くという展開を見せているため、この物語の主人公(「彼女」)は水平飛行に移る前の上昇段階で自身の存在を機内に認めたのではと解釈しています。

 「力強いビート」という表現をしたことからも察せるかもしれませんが、全体的にはとてもダンサブルなナンバーだと言えますね。キックが印象的でベースラインもグルーヴィーで格好良いので、ダンスミュージックと形容しても障りないと思う。特にベースはBメロバックが素敵。


 メロディは[A→B→サビ]と着実に盛り上がりを積み重ねていくタイプで、サビの旋律に最たる疾走感が宿るという流麗な仕上がりです。それだけならただキャッチーな曲だと思うにとどまったのでしょうが、この曲最大の特徴は「2番以降のサビには新たなメロが加えられることで更なる盛り上がりを見せている」というところにあります。

 表現方法に悩むのですが、「2番以降はサビのすぐ後にCメロ(大サビ)が挿入されている」或いは「1番はサビの前半のみで終わっていて、2番以降が完全版」と分析するのが直感的かな。普通Cメロと言うと一曲の中で一度しか登場しないパートを指すことが多いと思いますが、この曲のように複数回ピークが来るような楽曲も稀にあるんですよね。

 この場合はCメロや大サビという言葉を使ってややこしくするより、単に「1番はサビのメロを小出しにしているだけ」とするのが収まりがいいと思うので、直感的表現の肩を持ちたいと思います。くどくど書き連ねていますが、要するに「こういう展開大好物!」ってことです。笑

 序でなので同じような構造を持つ他の曲を紹介しますが、当ブログでレビューした範囲だとavengers in sci-fiの「Depature」(2016)や、スピッツの「歌ウサギ」(2017)あたりは好例ですね。リンク先でも前者は「サビ前半/後半」方式、後者は「大サビ×2」方式で表現していて、僕の中でも揺れているのがわかるかと思います。


 歌詞の面でもこのサビ後半部が最もお気に入り。"そらさないで この景色を/ちゃんと見てありのまま"というのは共通部ですが、2番サビでは"よごれた雨 消えない影/なにもかもを受け止めて"と表現されている一方、ラスサビでは"青いひかり 水の匂い/愛を歌う人の声"と、明暗に等しくフォーカスしているのが真摯で素晴らしいです。

 "これが僕らの住む世界"と結ばれているのも、"60億の孤独"を歌い上げた「ユニバース」に繋がるところがあると思うので、アルバムのラストの流れが06.「ユニバース」 → 07.「30minutes night flight ~sound of new day」(ボーカルトラックはコーラスのみの半インストナンバー)であることとあわせて、まさに本作を象徴する楽曲であると結論付けます。