『黄泉のツガイ 1』 『黄泉のツガイ 2』 『黄泉のツガイ 3』 『黄泉のツガイ 4』 『黄泉のツガイ 5』

この物語では、多くの集団がしのぎを削っています。
まず、ユルたち。ユルが最近まで住んでいた東村と関係が深い者がほとんどです。第二に、東村の村人と、その関係者。第三に、影森家の人々とアサ。最後に、影森家分家の新郷家の人々。
言うまでもないことですが、それぞれの集団のメンバーを主(あるじ)とするツガイが、それぞれに加わります。

影森邸では、ジンたち影森関係者の間の戦いがあります。倉庫街ではユルたちと新郷家と東村の者たちの戦いがあり、そこに影森家の当主とアサが加わります。

影森分家の新郷はユルに言います。
<(おまえ  もう東村に 居場所 無(ね)ぇだろ)
 (両親は村から逃げた  妹も逃げて おまけに東村の奴らに一度殺された  おま

  えも 何度も命を狙われてる)
 (もうおまえの居場所は 東村には無(ね)ぇ)>(7-8頁)
認めたくなくとも、事実関係そのものに誤りはありません。だからと言って、ユルたちが新郷家に、あるいは影森家に与(くみ)するかどうかは別の問題です。

ユルは思わず口にします。
<(おまえら同じ新郷家なのに意志の統一ができてないのか? )
 (東村の中や影森家の中に各々意見があるように 新郷家にも色々あるんですよ)>

 (11頁)

戦いの間にも言葉が飛び交い、各々の心が、信、不信の間を揺れ動きます。すでにあぶりだされた裏切者に対する戦いも始まっています。

ツガイである「ザシキワラシ」のダンジと偽のアサの位置が、この物語の、つかみどころのない複雑さを表しているように見えます。
偽のアサはユルを騙していました。主のキョウカの指示で、ダンジはユルを守っていたことも確かですが、ヤマハおばぁを守れ、とも命令されていました。

ダンジは、犬を主とするツガイに言います。
<ダ(アサちゃんは… たぶん 俺の相方を嫌ってるし ユルも  俺 あんな事しち

   ゃったから)
  (助けてなんて 言えないや…… )
 ツ(頼ってみましょうよ  ユルさんは あなたに会って 言いたい事 いっぱいあ

   るって言ってましたよ)
 ダ(   )
 ツ(怒ってても きっと 来てくれますよ)>(155-156頁)
一筋縄ではいかない、揺れ動く心の動きがよくわかります。

信、不信、裏切り。心の動きは様々ですが、人の心に亀裂を入れるものは他にもあります。

<勝手に アサの気持ち代弁して 先走っちゃダメ>(113頁)
そう言われる人間が登場しています。
アサの気持ちを代弁するためには、気持ちを推測できなくてはなりません。共感できる人でなければならない、という方が当たっているかもしれません。
しかし、思わず共感する、感情移入してしまうような状態というのは、ほとんど善意からのものです。そして、自分も善意から、ということに確信があることになります。善意の人ほど怖いものはありません。
ある人が、「気持ちを代弁して先走る」ことになった時、本当は何が起こるか。なかなか、思いもよらぬことが起こるのではないか、と考えてしまいます。

この作品は、様々な集団の形と、集団の性質に影響されてしまう、心の多様な形を見せてくれるようです。

*荒川 弘 著 『黄泉のツガイ 6』
 あらかわ ひろむ よみのつがい
 ガンガンコミックス 2024/1/12