『黄泉のツガイ 1』 『黄泉のツガイ 2』 『黄泉のツガイ 3』

田寺家の隠れ家で出会った凶悪なツガイ「手長足長」との戦いの決着後、ユルたちは、その主を見つけ出した。それはデラの異母弟ケンであった。何と、デラとの年の差22、である。

35歳になるデラと年若いハナが偽装結婚して、ユルは、そこで「家族」として、共に暮らすはずであった。そこに13歳のケンが加わった。
アパートで、ハナは、パソコンでの調べ物のかたわら、デラにつぶやく。
<ハナ (子供一人でも大変なのに二人世話するって えらいこっちゃですよ 大丈

     夫っスか? )
 デラ (大丈夫でしょ あいつ しっかりしてるし)
    (手長足長を解き放っちゃった事を 自分の命懸けてでも片付けようとした

     責任感の強さ  こっちが何を知りたいか要点を捉えて答える賢さ)
    (いい子だよ  大丈夫)
 ハナ (そーゆー頑張っていい子に努めようとする子が 実はめっちゃ心がすり減

     ってたりするもんスよ)>(133頁)
偽装であっても「家族」は家族である。血縁だけが家族ではない、と思えれば、ハナの言葉は、既に、家族の現実を見据えている。

ユルは、アサと、父と母と、離れてはいる。だが、彼らはまぎれもなく家族である。そして今、母の沖縄の母が顔をのぞかせた。さらには、デラとケンは、現在不在の彼らの実の父も入れて、一つの家族である。

影森家も一つの家族である。ただし一枚岩ではない。少なくとも二分(ひょっとしたら三分、四分)されている。だが、それでも、一つの家に住み、彼ら自身家族という関係を認めている。
では、アサにとって影森家とは、ジンとは、ガブちゃんとは何なのか。今はまだ定かではない。

話の始まりから、家族のかかわりが濃密に描かれている、と思っていた。
父母は、双子を連れて村を脱出しようとしていた。結果的にはアサだけになったが、脱出は成功した。ユルは、父に様々な教えを受けた。母との細やかなふれあいの記憶もある。

他にも気になっていたことがある。
「ツガイ」は、ツガイ使い以外には、基本的に見えないという。であるならば、周りにいるものにとって、ツガイの行いの結果は、単に偶然であるとするか、奇跡とするか、とにもかくにも、非常に印象に残るものとなるだろう。

家族を結びつけるもの、広く人間を結びつけているものも、眼に見えるものではない。だが、人々は結ばれており、その結びつきが、家族以外の者には、時として思いもよらぬ結果をもたらす。どこか、ツガイの行いの結果と似ている。

敵味方の関係がこれほど錯綜しているのも珍しい。
また、東村と下界との行き来が始まった。ヤマハおばぁをはじめとする村人との関係もそろそろ明らかになってもよいころだろう。

*荒川 弘 著 『黄泉のツガイ 4』
 ガンガンコミックス 2023/6/12