今回の第3巻で、強く印象に残ったことが2つある。
                  
一つ目は、一枚の絵である。
3巻の内扉に、ハナのIT対応ツガイの虎鉄(こてつ)と二狼(じろう)の後ろ姿を描いた、本当にかわいい絵がある。どこか余裕が漂っていて、思わず見とれてしまう。ほかの描写にも、同じようなものを感じないではないが、とりわけこの絵が気に入っている。

もう一つは、扉絵と対極にあるともいえる、ある場面である。
襲ってきたツガイたちを撃退した後、影森家では、捕らえた襲撃者を尋問した。尋問後の部下への、影森家当主の言葉がある。
<  [ 生かしておいていいんですか? ]
 (いいよ 身元はっきりしたし個人情報握ったし )
 (使い捨てできる兵としてストックしておけ )   >(145頁)

「身元」、「個人情報」。どこかで聞いた言葉である。思い返してみると、「闇バイト」によって実行された強盗殺人事件のニュースで聞いていた。「住所」や「家族」を知られていたから、犯罪から抜けられなかった、と言うような内容だった。まさに、「使い捨てできる兵としてストック」されるのだ。読みながら、背筋が寒くなった。
現代の世相をとらえている、と言われれば、その通り、なのだろうが、それよりも、当主の、人間に対する基本的な態度を表す言葉となっている。作者が、そのような考え方をする人間を描こうとしているように見える。対立する、東村のヤマハおばぁにも、同質のにおいがする。

影森家に、田寺(通称デラ)がユルを迎えに来た。影森家側、東村側(こちらはデラのみ)、アサ、ユル、左右様が一堂に会した。

アサは、「解」の力を手に入れるために一度死ななければならなかった。ユル も「封」の力を手に入れるためには一度死ななければならない。ユルは初めてそれを知った。

アサは、影森家を信頼しているが、アサのいう理由がどこまで信頼できるのかは、定かではない。ユルとアサの両親の行方不明についても、説明がされているようだが、確かなことは何もない。

そして明らかになったのは、いずれの側も一枚岩ではなく、自らの側の動きさえ把握しきれていない、という事実であった。

この巻は登場する人物は多い。しかし、人数は多いが、そのことで、事態が決定的な場面を迎えたわけでもない。
ただひたすら、闇は深まっていく。

*荒川 弘 著 『黄泉のツガイ 3』
 ガンガンコミックス 2023/2/10