『黄泉のツガイ 1』 『黄泉のツガイ 2』 『黄泉のツガイ 3』 『黄泉のツガイ 4』

東村が襲われ、壊滅的な打撃を受けました。そして、ある者は自発的に山を下り、ある者は強制的に村を連れ出されます。

ハナは、自宅に帰りつき、デラに話しかけます。
<ハナ (これ昨日の夕飯に用意した鍋の材料?  食べなかったんスか?)
 デラ (うん ハナちゃんが帰って来たら食おうと思って  俺らはてきとうに余

     り物食った)
 ハナ (私にかまわず食べちゃってよかったのに)
 デラ (ユルが 鍋は皆で揃って食べるものだって)
    (家族みたいに)                >(52-53頁)
「家族みたい」な関係が、ユルの周りのそこかしこで出来ていきます。同様に、生きるか死ぬかの関係が、シレッと結ばれていきます。

自発的に山を下りた者が、ユルたちの下にたどり着きます。
その久しぶりの出会いがもたらしたものは、ユルの、これまでの東村での生活が、徹底的にだまされることで成り立っていた、という事実でした。
<(もう信用できる村の人間が誰もいなくなった)>(100頁)
悲痛な言葉です。

影森家の長男で、マンガ家の波久礼(はぐれ)ヒカルが、影森家の男女の臨時アシスタント二人と休息を取ります。
<ア・男(ヒカルさん こんな殺伐とした家に生まれたのに よくこんな美しい話描

     けるっスよね)
 波久礼(こんな家に生まれたからだよー)
 波久礼(おれの理想の平和な世界を描いたら  売れた)[波久礼ヒカル ハートフ

     ル幸せマンガの名手である]
 波久礼(殺し殺され 裏切り裏切られが ふつう~~~に 生活の中にある人生は

     嫌だ…‼)
 ア・男(俺は人殺しはした事 無いっスよ!)
 ア・女(私も!)
  … 略 …
 波久礼(俺は…  ふつーに生きられたはずの人たちが 血生臭い事に 手を染め

     なきゃいけない世界なんて嫌だよ)      >(131-132頁)
これだけ聞けば、マンガ家ヒカルは、たいへん真っ当な人物だと判断されます。しかし、彼は、「殺し殺され 裏切り裏切られが ふつう~~~に 生活の中にある人生は嫌だ…‼」と言いながら、そのような家族と生活を共にしている。はたして、ここでの言葉が額面通り受け取れるものであるかどうか、判断に苦しむところです。

誰が敵か、誰が味方か、一向に判然としません。
新たな個人が、集団が、現れます。
物語は、未だ拡散し続けているということなのでしょう。

ユルにとって、今は救いのない世界ですが、読者にとっては、悪人(と言えるかどうかの人も含めて)も善人も、なかなか魅力的な人間が描かれていて、興味が尽きない作品です。

*荒川 弘 著 『黄泉のツガイ 5』
 ガンガンコミックス 2023/9/12