NN4444(2024 日本)
監督:中川奈月、佐久間啓輔、宮原拓也、岩崎裕介
企画/プロデュース:林健太郎、鈴木健太、浅野由香
出演:小川あん、磯田龍生、渡辺葵、鮎川桃果、桑原おさむ、錫木うり、原田新平、夏子、大下ヒロト、山脇辰哉、森田想、田中陸、野内まる、大石水月、伊藤歌歩、若杉凩、神嶋里花、安藤聡海、金子岳憲、平井まさあき、池田良
4人の新鋭監督、4人の主演女優で、4本の短編ホラー映画を集めたオムニバス作品。
全体を貫くテーマはあるようなないような。女性が主人公で、現代社会のなんらかの抑圧、息苦しさを描いていること…でしょうか。
完全に知らない作り手、知らない出演者の作品ばかりでしたが。
とても面白かったですよ! 素直に、楽しめました。
4作品それぞれ、違った面白さがあって。作品ごとにばらつきは、やはりありましたけどね。
犬
監督/脚本:中川奈月 出演:小川あん
楓(小川あん)は高圧的な態度の恋人との結婚を控え、もやもやした気分を抱えています。ある夜、汚れた格好の少女に犬の声で吠えられ、楓の精神は掻き乱されていきます…。
「偉そうな振る舞いの男」に抑圧される女性を描く作品。
すべて女性が主役である割には、4作品中唯一の女性監督による作品で、「女性の感じている抑圧」がもっともストレートに描かれた作品です。
ミソジニー的な若い男だけでなく、楓の母親(娘への評価がめちゃ低く、彼女の自己肯定感を破壊してくる)や、職場の女性上司(別の男性上司にまあまあ…となだめられる)が抑圧的であるのもリアルです。
「犬」は自由の象徴かもしれませんが、都会で野良犬として生きるのは見た目には汚く、グロテスクな食事風景を伴います。
女性の抑圧が「グロ」の形で噴出する表現は、「RAW〜少女のめざめ」や「Swallow/スワロウ」、「ボーンズ アンド オール」のような映画を思い出します。
いずれも「食べる」という行為が、大量の流血や生理的不快感を伴って描かれていく。
象徴の全部はわからないのだけれど、女性の生理や生殖のイメージが重ねられているのかな…と感じます。
ストーリーの中で何度か繰り返される「わん!」という声が鮮明で、ハッとさせられます。
女性同士の安心感が幻想として描かれ、男は物言わぬ死骸となって、無視され、放っておかれる。
4本の中で唯一、はっきりと女性視点で描かれた作品。面白かったです。
Rat Tat Tat
監督/脚本:佐久間啓輔 出演:錫木うり
謎めいたパーティーに出席した夫婦。妻(錫木うり)は周囲の夫婦の「子供や妊娠の情報」にコンプレックスを感じています。やがて宴が進むと、人々が不気味な手拍子を始め、妻のお腹が膨らみ始めます…。
パーティー会場で女性主人公が見る悪夢。
主人公は子供ができないことに悩んでいるようで、彼女が感じているプレッシャーや「周囲の目」が悪意を持ったものとして可視化され、幻想になっていく…
…ということかと思うのですが。
4本の中では、本作がいちばん共感しづらかったかな。
突き放した作風は構わないのだけど、アイデアに乏しい印象を受けました。
「謎の手拍子」と「主人公の苦しんでる描写」が単調に続き、短編なのに飽きてしまいます。
洗浄
監督/脚本:宮原拓也 出演:夏子
湖を訪れた若者たち。皆がはしゃぐ中、孤立するまお(夏子)。一人が溺れかけたことをきっかけに、皆が奇妙な現象に取り憑かれていきます…。
湖畔の別荘に集まった若者たちが、一人ずつ「水に魅入られて」いく。
4作品中、もっともベーシックなホラー映画らしいシチュエーションの物語です。
起こる怪異は不条理なのだけど、ホラーの定石を上手く使っていると言えますね。
常に無表情で感情に乏しく、皆に「何考えてるかわかんなくて、ブキミ」とか言われてしまう主人公、まお。
そんな彼女が、皆が怪異に見舞われた途端、生き生きとし始める。
ものすごく楽しそうに怪奇現象を見学し、いろいろ試してみたりする。冒頭でアリが溺れるのを観察していたように。
そんな「人怖」系のひねりが加えてあって、不条理なだけには終わらない面白いホラーになっていました。
「無限に水が飲みたくなる」だけの、シンプルな怪異。シンプルなので短編の尺にはちょうどいい。
水をズルズル啜る音が気持ち悪く、グロシーンはないのに生理的な不快さもかなりある。
そして、オチがつくのもいいですね。「無限に水を飲みたくなる」怪異と、彼らがいる場所が合わされば、自然に導かれるオチ。ホラー映画はやっぱり、きれいにオチて欲しくなります。
主人公だけが理由もなく無事なのはややご都合主義ではあったかな。
VOID
監督/脚本:岩崎裕介 出演:野内まる
郊外の高校に通う麻木(野内まる)。不慮の事故で友人が死んでも、変わりなく続く日常。微妙に噛み合わない会話、不穏な兆候。やがて何かが、麻木の日常を侵食していく…。
これは素晴らしかった! 4本の中でいちばん好きでした。
4本の中ではもっともストーリーはわかりにくい。不条理で不可解な場面が連続するのだけれど、「不吉なことが今にも起こりそう」な空気の醸成が非常に上手くて、最後までグイグイ引き込まれていきます。
絵が強いです。女子高生たちの並んだ絵面が美しくも不穏だし、常に薄曇りの風景もいい。
「何の変哲もない一般的な家や街角」が、どうしようもなく心をザワつかせるものになっている。
「晩ごはんでのお母さんとの会話」とかね。何が起こる訳でもないのだけど、なんだかどうにも気持ち悪いんですよね。
観ていて足元が頼りないような、心の奥の不安を掻き立てられるような、イヤ〜な感覚を何度も感じましたよ。(ホラーなので褒めてます)
テーマとしては「虚無」。
友達の死に対してさえも心が動かないなら、そんな世界はそもそも存在していると言えるのか。
変わらない日常が続いているのに何かがごそっと損なわれている、世界が空っぽになってしまったような感じ。
「女子高生の他愛のない会話」がリアルで上手くて、それでいてどこか空々しいというか、そこには心がないかのような怖さがじわじわと滲み出てくる。
アフターコロナの空気感も感じます。(別にそんなこと言ってる訳ではないのだけど)
言葉にできない空気感を伝える。これは映画ならではの表現ですね。
デヴィッド・リンチを感じさせるところや、黒沢清や諸星大二郎…あるいはヨルゴス・ランティモスの影を感じたりはしたけれど。
でも、それらのどれにも決定的に似てはいない。オリジナルな、初めて見る映画だったと思います。
短編といわず、ずっとこの空気に浸っていたいと感じましたよ。このまま長編映画に拡張してほしいくらい。
この作り手は、要注目です。
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