「シン・ウルトラマン」の上映以降、昭和のウルトラシリーズが映画館で特集上映されることが続いています。

これまでに庵野秀明監督セレクションによる「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」、それに庵野監督じゃないセレクションの「ウルトラセブン」がありました。

ファンの多い初期シリーズはまだしも、ここに来て「ウルトラマンタロウ」の上映というのは意外!

「タロウ」が映画館で観られるチャンスなんて、たぶんこの先もめったになさそう。なので、観たい新作もあんまり観れていない状況ではありましたが、慌てて観てきましたよ。

 

(以下、庵野秀明監督の発言は舞台挨拶より)

 

庵野監督「今の人にはわからないと思うんだけど、第2期ウルトラシリーズはこの界隈は扱いが悪くて。Qマンセブン(キャプテンウルトラ除く)くらいが最高峰で、それ以外はクズ。そんな扱いをしてる人が多かったんですよ」

 

庵野監督「今回タロウは無理言って入れてもらったんですよね。本当はセブンで終わりって言われてたんだけど。50周年だし、ぜひタロウは入れてくださいって」

 

昔の特撮って、「大人の鑑賞に耐える」から良い、という評価のされ方になりがちで。

だからウルトラシリーズでも、渋い作風のウルトラセブンとか、作家性の強いエピソードが評価される一方で、子供向けの明るく楽しい作風に徹した「ウルトラマンタロウ」は軽く見られがちです。

ネタとして言及されることはあっても、真剣に評価されることは少ない作品だと思います。

 

なんだけど!でも、個人的に大好きなんですよねタロウ。思い入れが強いのです。

主人公カッコいいし。ZATメカもカッコいいし。毎回(子供にとっては)退屈な人間ドラマではなく、怪獣を中心にしたドラマが展開されるのも子供心には良かったし。

頼もしいお兄ちゃんのような東光太郎がヒーローとしてがむしゃらに頑張り、気のいいおっちゃんたちという雰囲気のZATの面々が怪獣相手にあの手この手の作戦を繰り出し、そして最後にタロウがカッコ良く決める。

この王道の特撮ヒーロー路線というのは、後になって考えてみればウルトラシリーズの中でも実は珍しい、初代とタロウくらいにしかないものだと思うんですよね。

 

庵野監督「クラスでタロウ見てたの僕だけ。中1でしたけど正直つらいんですよ。タロウの世界観がなかなか辛くて馴染めなかったんですけど。それでもウルトラ兄弟が揃ってる時だけは見ようと」

 

庵野監督「タロウの良さに目覚めたのは大学以降の再放送。大人になってタロウの良さがようやく理解できた。大人の視点で子供の番組をきちんとやってるってのが、大学生になってようやく見えてきた。それまでは子どもを馬鹿にしやがってとか思ってたんだけど。自分がそこまで成長しないと、タロウの良さに気づかない」

 

考えてみればそもそも子供を対象にした番組なのだから、大人ウケする方が評価が高いってのも変な話ですね。

(セブンとかの良さはそれはそれで…とも思いつつ)

タロウは子供向けなのだけど、それは作り手がプロに徹していて、大人ウケの誘惑に陥らずに作っているとも言えるので。

子供に向けたものが、大人にとってどうかではなく、子供にとってどうかという文脈できちんと評価されるべき…と思います。

 

庵野監督「ZATのメカもカッコいいんですよ。羽根で飛んでいないってのをデザインの中にカチッと組み込んでる。マルで穴が空いてたり、これ反重力で飛んでるんだろうなと」

 

庵野監督「オープニングは本当にいい」

 

エースまでは、ウルトラシリーズのオープニングは影絵のようなシルエットで怪獣や隊員を見せるパターンだったのだけど。

タロウはZATメカの発進シーンになるんですね。これが本当、カッコいい。

阿久悠作詞の主題歌も素晴らしいし。本当、子供番組としてのクオリティがちゃんと高いのです。

第1話「ウルトラの母は太陽のように」

庵野監督コメント「ウルトラマンがいる世界を童話と寓話を織り交ぜて真面目に真摯に大人が描く子どもに向けた理屈抜きの感覚的な面白さが内容的にも濃密に詰まった第1話として秀逸なエピソード。これでもか!と豪華と豪快を重ね、技術の粋を凝らしコリに凝った各種特撮映像が劇場大画面に映えるかと思い選びました」

 

篠田三郎演じる東光太郎の魅力が満載の第1話。

タンカーに乗って日本に帰ってきて、出てきたと思えば海に飛び込む。陽気で破天荒な少年マンガの主人公

この1話の中だけでも、光太郎が生身で怪獣に挑みかかっていくシーンが2回もある。

光太郎の紹介、ZATの紹介、超獣を超える怪獣の出現、光太郎の母そっくりなウルトラの母(緑のおばさん)との出会いと、5兄弟に見守られてのウルトラマンタロウの誕生。そして市街地での怪獣とZATのバトルと、ピンチに分離して飛んで逃げるZAT基地!

30分とは思えないくらい要素がぎっしり、本当にこれでもかと詰め込まれていて、子供を一瞬でも飽きさせてなるものかという作り手の執念を感じます。

第18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」

庵野監督コメント「底抜けに明るいだけでない、人間や怪獣の生々しい容赦のない暗黒的なタロウの世界観の魅力が詰まったエピソード。悲壮感漂うタロウの衝撃的な敗北と無常感に満ちたゾフィの驚愕の敗北が劇場大画面に映えるかと思い選びました」

 

ウルトラシリーズ初の3部作の中編。冒頭いきなりタロウが殺されちゃうので光太郎は出てこない。更に助けに来たゾフィも殺されちゃう絶望編。

グサグサタロウに突き刺さるバードンのクチバシ。「死」を如実に感じさせるタロウの亡骸。ケムジラの手足を引きちぎりバラバラにしちゃうバードン。そして頭を燃やされ倒されるゾフィ。

子供って、ドギツイ残酷描写も大好きなんですよね。

昔の子供番組は今見るとびっくりするような残酷描写があったものだけど、でも子供って大人が思うよりも冷静に、そういうの受け流してるものだと思うんですよ。自分もそうだったし、強烈だからこそ記憶に刻まれるというのもあるし。

だから「ゴジラ」「鬼太郎」も子供に見せていいと思うんですよね!

第33話「ウルトラの国 大爆発5秒前!」

庵野監督コメント「ウルトラ兄弟の人間体が勢揃いし終始活躍し続けるサービス満点、大人感覚のセンスが光るイベント的な面白さが詰まったエピソード。その前編。街中で暴れるテンペラー星人の豪快さや海岸に集うオリジナル出演者の姿、大谷博士のカッコ良さが劇場大画面に映えるかと思い選びました」

第34話「ウルトラ6兄弟最後の日!」

庵野監督コメント「人類そっちのけの物語展開で、ウルトラ兄弟の人間体が活躍していくエンターテインメント感覚のセンスが光るお祭り的娯楽の楽しさが詰まったエピソード。その後編。前編から続く豪華な特撮映像、大谷博士のカッコ良さ、そしてウルトラ6兄弟勢ぞろいからの光線斉射の有り難さが劇場大画面に映えるかと思い選びました」

 

ウルトラ兄弟が人間体で勢揃いするイベント回の前後編。

昔はウルトラ兄弟にしか目が行ってなかったけど今見ると、違うところが見えてきます。

タロウ/光太郎の成長譚なんですよね。前編は兄たちに頼りがちな末っ子が、一人で勝ち抜く自信を得るお話。

そして後編は、自分を過信して増長した末っ子が、協調性を取り戻すお話。

子供たちに向けてのメッセージが、前後編それぞれ違う形で、対になる形で込められているんですね。すごいな。

 

小さな子供の視聴者に向けて教訓が込められている…とか言うと、特撮作品としてはあんまり評価には結びつきにくかったりするけど。

でも、子供に向けて大人が作るコンテンツとしては、そこは大事な責任だと思うし。

当時の大人たちが子供に向けて、渾身で楽しませることと、誠実なメッセージを届けることをきちんと両立させている。そこが、素晴らしいなと思います。