「TENET テネット」のネタバレ解説記事です。自己解釈なので、公式な解釈とは異なっている場合があります。
最後まで完全にネタバレになります。ご了承ください。
この記事は「TENET テネット ネタバレ解説1」ならびに「TENET テネット ネタバレ解説2」、「TENET テネット ネタバレ解説3」の続きです。
プリヤとの会話
名もなき男はムンバイに戻り、プリヤと話します。
プリヤは、オスロに現れた黒服の男が「同一人物」だったと言い、「回転ドア」について説明します。
それはまだ発明されていないテクノロジーですが、「未来から送られて来た」とプリヤは言います。
プリヤによれば、焦点となるのはプルトニウム241です。セイターはキエフのテロでそれを奪おうとしましたが果たせず、プルトニウムはウクライナ保安庁の手に渡りました。
プルトニウムはエストニアのタリンを経て、イタリア北東部トリエステの長期核物質保管庫に運ばれようとしています。
プルトニウム241はプルトニウムの同位体です。プルトニウムは核燃料、核兵器の原料として使われますが、プルトニウム241はα線、中性子線だけでなく、強いエネルギーのγ線を放射する危険な物質です。
セイターが求めているこの物質は実際にはプルトニウムではなく、未来の兵器であるアルゴリズムだった…ということになっていきますが、時間逆行のテクノロジーが「核融合の逆放射」と関わっているなら、世界の時間を逆行させるアルゴリズムが放射性物質であり、危険な放射能を帯びていても不思議ではないと思われます。
劇中で、名もなき男を始め、アルゴリズムを扱う際は分厚い鉛の手袋をしていますが、それ以外の扱いはかなり雑に見えます。放射線に対して大丈夫なのか、心配になります。
キエフの「プルトニウム241」はCIAによって持ち出されたはずですが、プリヤによればウクライナ保安庁の手に渡ったということになっています。
焦点となっているプルトニウム241が元はと言えばウクライナの核施設にあったものであれば、核物質としてのプルトニウム241の正式な保有者はウクライナ政府ということになります。CIAとしては、セイターの強奪から守ったならば正式な保有者に返還することになるでしょう。
プリヤとしては、それをテネットのものにしてしまいたいところだったでしょうが、アメリカ政府の機関であるCIAへの影響力はそこまでのものにはなっていない…ということでしょう。
ここでもプリヤは情報を小出しにして、名もなき男をセイターに近づけようとします。
ちなみに、後半の逆行後に、これより前の日に名もなき男はプリヤに会いに行き、「自分に会う時、セイターにアルゴリズムを渡さないよう注意しろ」と言いますが、プリヤは拒否しています。セイターが9つのアルゴリズムをすべて集めてしまうとわかっていても、プリヤは既に確定している結果に従おうとしているようです。
アマルフィ海岸へ
名もなき男がキャットに会うのは、イタリアの観光地アマルフィ海岸のラヴェッロにある、ヴィッラ・チンブローネ庭園のインフィニティ・テラス。風光明媚なアマルフィ海岸を一望できる、絶景ポイントです。
しかし、つい2週間前に900万ドル以上かけてベトナムでバカンスしてるのに、今度はアマルフィですか…。どれだけ金持ちなんだ、セイター。
オスロの空港で起きたことのニュースを見たキャットは、名もなき男を少し信用したようです。名もなき男は「絵は処分した」と嘘をついて、キャットを騙すのですが。
しかし本来ならば名もなき男は、ゴヤを手土産にキャットに会いたかったのでしょうね。結局は手ぶらで口八丁でセイターへの取次を頼むことになっちゃってますが。
昨年6月29日のリヤドのパーティーで出会い、シプリーズで再会して旧交をあたためたというのが名もなき男の筋書き。リヤドはサウジアラビアの首都ですね。
セイターの豪華な大型ヨットは、アマルフィの沿岸に停泊しています。
撮影に使われたヨットの名前はプラネット・ナイン。全長73メートル以上、6つのデッキがあり、専用のヘリポートも備えます。セイターのためのカスタマイズとして、ロケットランチャーが装備されています。
名もなき男はボルコフのボートを避けて、自身のボートでキャットを送ります。
それを見たアンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)は、名もなき男に疑いの目を向けます。
キャットは息子マックスと一緒にポンペイ観光に行くことを約束していましたが、セイターはマックスを一人で行かせてしまいました。
ポンペイは79年の火山爆発で灰に埋もれた都市として有名ですが、その遺跡からも"SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS"の石碑が発掘されています。
その夜、名もなき男はセイターの夕食の席へ。
セイターはいきなり名もなき男に「どんな死に方がいい?」と凄みます。名もなき男は「老衰で」なんて答えていますが。
庭で喉をかっ切り、その穴にタマを詰め込んで、それを取り出そうともがく様を見るのが、セイターのお気に入りの殺し方。
有無を言わさずボルコフに連れて行かれる直前で、「オペラはお好き?」と聞いてセイターの関心を引き、名もなき男はなんとか命をつなぎます。
ここから、オペラハウスのテロの首謀者がセイターだったことがわかりますね。
名もなき男がゴヤを処分したと思っているので強気なキャットに、セイターは回収したゴヤを見せつけます。
「俺がお前を手に入れられないなら、誰にも手に入れさせない」とセイター。
セイターは火災の前にゴヤを移動させていました。セイターは「俺は未来が読める」と言い放ちます。
セーリング
水中翼によって船体を空中に浮かせ、高速で走行する高速ヨットの世界。
「海のF1」「空飛ぶヨットレース」と呼ばれるセールGPが有名で、中でもアメリカズ・カップがその最高峰です。
2つの船体を持つヨットはカタマラン(双胴艇)と呼ばれ、最高時速は90キロを超えます。
映画に登場したのは最新式のF50フォイリング・カタマラン。帆の高さは24メートル。これも撮影には実際の船が使われ、ノーランと撮影のホイテ・ヴァン・ホイテマは体をロープでくくりつけて撮影に臨みました。
最高速度で走行するF50についていける船はないので、ヘリコプターがチャーターされ、IMAXカメラがアームに装着されました。
ヨットの操縦には、セールGPの実際のレースチームが招集されました。世界中を渡り歩くレースチームの都合に合わせるため、アマルフィの設定のシーンはイギリスのサウスサンプトンのワイト島で撮影されました。
高速ヨットの上で、名もなき男は「プルトニウム241」について知っていることをセイターに見せつけます。
2008年、何者かがロシアのミサイル基地を制圧した。
その後、核弾頭の重さが3分の1になった。
消えた241は、オペラハウスにあった。
名もなき男は、パートナーにしてほしいとセイターに持ちかけます。
キャットがいきなりセイターの命綱を外し、セイターは海に落ちます。
名もなき男がヨットをUターンさせ、セイターを助けますが、しかし90キロで走っているヨットから落ちて怪我しなくて済むものでしょうか。
セイターのヨットにて
キャットは、セイターを助けたことで名もなき男を責めます。名もなき男は「仕方がなかった」と言い、キャットに銃を渡します。
セイターは、名もなき男を命の恩人として認め、ウォッカを勧めます。
セイターのテーブルの上には虎の置物があります。後にセイターは、キャットに「虎は手懐けられない。崇めるしかないのだ」とカッコいいセリフを言ってますね。
セイターは、自分を虎になぞらえているようです。となると、その妻の「キャット」という愛称も意図的なものでしょうか。虎と猫。
名もなき男はタリンでプルトニウムを盗む計画を持ちかけ、セイターは自分の若い頃について語ります。
セイターは10代の時、スタルスク12で瓦礫を漁り、プルトニウムを探していました。飛び散った核弾頭を探す中で、セイターはタイムカプセルに入った「彼の名前入りの契約書」を発見し、契約をします。
それ以来、「その仕事は我が社が独占」することになります。
セイターはここで断片的にしか話していませんが、ここで出てきた「契約書」は未来人が送り込んだものです。そこにアンドレイ・セイターの名前が入っていたのは、未来人は歴史を通じてセイターの関わりを知っていたから…ということになるでしょう(ここも、因果が逆転しています)。
未来人とセイターの契約とは、セイターが9つのアルゴリズムを集めるかわりに、タイムカプセルによって定期的に送られる金塊を得るというものでした。
これによって大金を得たセイターは、大物武器商人に上り詰めていくことになります。
後で、セイターは末期の膵臓癌であとわずかの命…ということが明かされるのですが。
その原因は、若い頃にスタルスク12で被爆したから…なのではないかと思われます。
貧しい少年だったセイターは、未来の命を切り売りするような形で成功を得ました。その時点で既に、彼の未来に希望を持たない生き方は決定されていたと言えるでしょう。
未来人の金塊
その夜、ロシア軍らしきヘリがヨットに到着し、名もなき男はその荷下ろしの様子を盗み見ます。
ヘリから降ろされたのは、金塊がぎっしり詰まったタイムカプセル。それは、時を逆行しています。セイターは金塊を手に吸い上げて取っています。
これはつまり、未来人からセイターに送られた契約の報酬ということになるのでしょう。
この金塊は未来から送られているわけですが、セイターは「タイムカプセルを埋め、定期的に掘り出すことでそこに入れられた金塊を回収する」という方法で受け取っているようです。その場所は、スタルスク12なのだと思われます。
未来人は、スタルスク12を発掘して、セイターが埋めたタイムカプセルを取り出します。そこに逆行させた金塊を入れて埋め直すと、金塊は時を逆行し、現代のセイターのもとまで届くことになります。
この金塊の受け渡し方法について、検討しておきます。
セイターがタイムカプセルを埋めた日を1日目、掘り出して金塊を受け取る日をそれから10日目とします。そして、未来人がタイムカプセルを掘り出す日を仮に、セイターがタイムカプセルを埋めた日から数えて1000日目とします。
未来人は時を逆行しているので、タイムカプセルに金塊を入れて埋め直すのは990日目ということになります。
そうすると、金塊は990日目から10日目までの間、時を逆行しながらタイムカプセルの中に存在していることになります。1日目から9日目までの間、ならびに991日目から1000日目の間は、タイムカプセルの中に金塊は存在しないわけです。ここに矛盾はありません。
注意すべきは、2回目のときです。
金塊を回収したセイターは、20日目に空のタイムカプセルを埋めもどし、30日目にまた掘り出して第2の金塊を回収する…わけですが、そのときには、1回目と場所を変えて埋めなくてはなりません。
同じ場所に埋めてしまったら、矛盾が生じます。セイターが20日目にタイムカプセルを埋め直そうとしたときには、そこには過去から逆行してきた最初の金塊が埋まっているはず、ということになります。また、未来人が980日目にタイムカプセルを掘り出した時、そこには990日目に未来人自身が入れた最初の金塊が入っているので、2個目の金塊を入れることはできない、ということになってしまいます。
おそらく、セイターと未来人の間では、同じスタルスク12でも、少しずつポイントを変えて、タイムカプセルを埋めるような取り決めがあったのだろうと思われます。そうすれば、タイムカプセルは「別のもの」になるので、矛盾を回避することができます。
盗み見をしていた名もなき男は、ボルコフに見つかってセイターの前に連れてこられます。
痛めつけられる名もなき男ですが、ボルコフの監視付きでタリンでプルトニウム奪取に臨むことを認められます。
このとき、セイターは「我々は黄昏に生きる」とCIAの合言葉を口にしていますね。
これは、セイターはカマをかけて、名もなき男の反応を見たのかもしれません。名もなき男は「ホイットマンの詩?」ととぼけています。
ウォルト・ホイットマンは1819年生まれのアメリカの詩人です。「黄昏に生きる」のフレーズは、ホイットマンの詩"A Twilight Song"をもとにしているそうです。
名もなき男は前金を要求して、セイターは金塊を1本投げて渡します。それは、金塊をちょろまかそうとした部下を殴り殺した血まみれの金塊です。
名もなき男はさりげなく、金塊についた血でタイムカプセルについた土を回収しています。細かいですね。
この土はニールによって分析され、「北ヨーロッパかアジアのもの」という結果が出ています。
エストニア、タリン
エストニアはバルト三国の一つ、バルト海のフィンランド湾に面する旧ソ連の国家です。首都のタリンは港町で、フィンランド湾を挟んでフィンランドの首都ヘルシンキと向かいあっています。
名もなき男ニールはトラムの中で、輸送されるプルトニウム241(アルゴリズム)を強奪する作戦を立てます。タリンのハイウェイを輸送中に、大型車両で取り囲んで盗み取る大胆な作戦です。
一方で、セイターもキャットとともにタリンにやって来ています。港にはフリーポートがあって、ここにもセイターの拠点、回転ドアがあることが伺えます。
武器を並べた倉庫で、キャットはセイターに銃を向けます。名もなき男からもらった銃です。
しかしセイターは、キャットから銃を奪って制圧してしまいます。
セイターは「逐一報告しろ」と言い残し、回転ドアのある赤い部屋に閉じこもります。これは、セイター(逆行)と直接接触しないための措置だろうと思われます。
この順行のセイターは、タリンのカーチェイスの全体を通して待機して、逆行からの報告を聞いています。このセイターの存在が、アルゴリズムの行方に関して重要なポイントになってきます。
大型トラックとはしご車を使った大胆な作戦で、名もなき男は輸送されるプルトニウム241(アルゴリズム)を奪い取ることに成功します。
アルゴリズムを持ったセイターとニールがBMWで先行したところで、前代未聞の時間逆行カーチェイスが始まることになります。
…というところで、続きは次回。
その5では、超難解なカーチェイスの全容解明に挑みたいと思います!