この記事は、

「TENET テネット ネタバレ解説1」

「TENET テネット ネタバレ解説2」

「TENET テネット ネタバレ解説3」

「TENET テネット ネタバレ解説4」

の続きです。

ネタバレしています。ご注意ください。

なんども書きますが、独自解釈です! 公式なものとは違っている場合があります。ご了承ください。

 

 

いよいよ中盤の山場、逆行カーチェイスです。

ここは、本作における最大の難関。非常に分かりにくい部分だと思います。

たぶん、クライマックスの戦場バトルより複雑です。

 

名もなき男がアルゴリズムを入手してから、逆行するセイターと渡り合い、自身も逆行に転じて、同じカーチェイスをもう一度視点を変えて繰り返すまで。

この一連の流れは非常に複雑で入り組んでいるので、それぞれの視点ごとに、順を追って辿って行きたいと思います。

数字は順行での時間の流れです。同じ数字は同じ時刻を意味しています。赤い数字は順行の流れ、青い数字は逆行の流れです。

 

カーチェイスまでのシーンとして…。

まず、セイターキャットボルコフが、ベンツでタリンのフリーポートにやって来ます。

そのとき、キャットはアウディが待機しているのを見ます。そのドライバーはマスクをつけています。

セイターはキャットに「オスロで回収したものを見せる」と言いますが、倉庫に並べられていたのは銃器です。

キャットは名もなき男にもらった銃をセイターに向けますが、反撃され、蹴り倒され、容赦無く蹴りを入れられます。

セイターは回転ドアのある赤い部屋に入り、「逐一報告すること」を部下に指示し、自身は赤い部屋に閉じこもります。

名もなき男(順行)の視点

1:名もなき男ニールは、はしご車を使って輸送車からケースを奪取します。BMWのサイドミラーは壊れています。

 

2:名もなき男とニールはBMWを先へと走らせます。名もなき男はケースを開けて中のアルゴリズムを取り出し、「なんだこの形状は」と疑います。ニールは「それが狙いのものだ」と言います。

 

3:名もなき男とニールは無線を傍受し、意味不明の言葉を聞きます。「言葉がさかさまになってる」とニールは言います。

 

4:道路の前方から、アウディが後ろ向きに走って来ます。

 

5:アウディはすれ違いざまにBMWのサイドミラーにぶつかり、壊れていたミラーは元に戻ります。アウディはBMWの後ろにぴったり付き、後ろ向きに追いかけて来ます。

 

6:アウディはBMWの隣に並走し、窓が開きます。アウディの後部座席にはセイター(逆行)がいて、キャットに銃を突きつけています。

セイター(逆行)はマスクをつけており、キャットはマスクをつけていません。

セイター(逆行)は指で3、2、1とカウントダウンします。

 

7:路上でひっくり返ったSAABが、起き上がって走り出します。

 

8:前向きのBMW、後ろ向きのSAAB、後ろ向きのアウディが横に並んで並走します。

 

9:名もなき男はケースを投げ、ケースはSAABのボンネットを超えて、アウディに渡されます。

(このとき、名もなき男はケースの中身のアルゴリズムをSAABに投げ込んでいますが、この視点ではそれはわかりません。)

 

10:ベンツが近づいて来て、セイター(逆行)とアウディのドライバー(逆行)は、アウディからベンツへ乗り移ります。

 

11:キャットだけが走り続けるアウディに残され、名もなき男はアウディに乗り移り、危ないところでブレーキをかけてキャットを救います。

 

12:渋滞を前に、BMWとアウディが停まったところで、セイターの部下たちがやって来て、銃撃戦になります。ニールは「応援部隊」を呼びます。

 

13:名もなき男とキャットはセイターの部下たちに捕まり、連行されます。

 

14:ベンツが来て、セイター(逆行)はBMWのグローブボックスを探り、そこに何もないことを知ります。

 

15:名もなき男は港のフリーポートに連れて行かれます。柵の向こうでは、キャットがセイター(逆行)に連行されています。

 

16:名もなき男は赤い部屋に連れ込まれ、ガラス窓に向かわされます。ガラス窓には銃弾の穴があります。

 

17:ガラス窓の向こうの青い部屋に、セイター(逆行)が、マスクをつけたキャットを連れ込みます。セイター(逆行)は途中でマスクを外します。

 

18:セイター(逆行)は「ケースはBMWか?」と聞き、その声は逆回転で再生され、名もなき男には聞こえます。

 

19:セイター(逆行)は3、2、1とカウントダウンし、キャットを窓に押し付け、逆行弾を回収します。銃弾はキャットの腹を貫通します。セイター(逆行)は「次は頭だ」と脅します。

 

20:名もなき男は「プルトニウムはBMWのグローブボックスだ」と言います。

 

21:赤い部屋にセイター(順行)がやって来て、「どっちだ、早く言え」と聞きます。名もなき男は「もう言った」と言います。

 

22:アイブス、ニールら、テネットの応援部隊がなだれ込みます。

 

23:セイター(順行)は回転ドアに入り、セイター(逆行)も後ろ向きに回転ドアに入ります。

 

24:セイターたちが過去に消えたことを確認し、アイブスらの部隊はキャットを介抱します。ニールは名もなき男にアイブスを紹介し、「プリヤの部隊だ」と言います。

 

25:キャットがあと数時間の命で、救うためには逆行が必要であると聞き、名もなき男はキャットを逆行させ、1週間前のオスロの回転ドアへ向かうことを決めます。

 

26:名もなき男、キャット、ニールは、アイブスらとともに回転ドアを通って逆行時間に入ります。

名もなき男(逆行)の視点

26:名もなき男、キャット、ニールは、アイブスらとともに回転ドアを通って逆行時間に入ります。

 

25:担架に乗せたキャットを皆が押して行きます。

 

24:名もなき男(逆行)はニールに、キャットを救い過去を変えるため外に出ると告げます。

 

23〜20:名もなき男(逆行)は逆行時間に外へ出るための説明を受けます。

 

19:名もなき男(逆行)は外に出て、停めてあったSAABに乗り、その時に後部座席を覗き込んでそこにアルゴリズムがあるのを確認します。

 

18:名もなき男(逆行)は逆方向の抵抗や摩擦に苦しみながら、SAABを走らせます。

 

17:受信機を見て、名もなき男(逆行)は道端に捨てられたケースを発見します。

 

16:名もなき男はSAABを降り、ケースに盗聴器を仕掛けます。

 

15〜13:名もなき男(逆行)はSAABで待機します。

 

12:やって来たベンツに、ケースが飛び込みます。

 

11:後ろ向きに走っていくベンツを、名もなき男(逆行)のSAABは追いかけます。

セイター(逆行)の、「ケースは空だ。爆心地に残りのアルゴリズムを集めろ」という通信を、名もなき男(逆行)は聞きます。

 

10:SAABは高速道路を逆行していき、ベンツからセイター(逆行)と逆行ドライバーがアウディに乗り移っているところに追いつきます。

 

9:SAABはBMWとアウディの間に入ります。名もなき男(逆行)は、アウディのセイター(逆行)からBMWの名もなき男(順行)にケースが渡され、SAABの後部座席にあったアルゴリズムがBMWの名もなき男(順行)の手に戻るのを見ます。

 

8:セイター(逆行)がアウディをSAABに当てます。

 

7:SAABは横転します。

 

6〜4:名もなき男(逆行)はひっくり返ったSAABの中にいて、身動きがとれません。

 

3:アウディが停まって、セイター(逆行)が降り、「連携プレーか。無駄に妻を撃った」と言います。セイター(逆行)は漏れたガソリンに火をつけ、アウディで走り去ります。

 

2:SAABは爆発し、爆発は凍結に転じます。

 

1:アイブス(逆行)とニール(逆行)が、名もなき男(逆行)を救出します。

セイター(逆行)の視点

23:回転ドアを出たセイター(逆行)は、窓の向こうに回転ドアから後ろ向きに出てくるセイター(順行)を見ます。青い部屋では、キャットが撃たれた傷で苦しんでいます。

 

22:青い部屋のセイター(逆行)は、赤い部屋でアイブスの部隊が後ろ向きに去っていくのを見ます。

 

21:赤い部屋の名もなき男が「もう言った」と言い、セイター(順行)が問い詰め、部屋を出て行きます。

 

20:セイター(逆行)は、名もなき男が「BMWのグローブボックスだ」と言うのを聞きます。

 

19:セイター(逆行)は、「次は頭だ」と言ってから、キャットの腹を撃ちます。すると、キャットの傷は直ります。それから「1、2、3」とカウントアップします。

 

18:セイター(逆行)は、キャットに銃を突きつけ、「ケースはBMWか?」と名もなき男を問いただします。

 

17〜16:セイター(逆行)は、マスクをつけ、青い部屋からマスクをつけたキャットを連れ出します。

 

15:セイター(逆行)はキャットをフリーポートから連れ出し、車に乗せます。

 

14:セイター(逆行)はベンツで銃撃戦の現場に到着し、グローブボックスを探してそこに何もないことを知ります。

 

13:セイター(逆行)はベンツに乗り込みます。

 

12:セイター(逆行)の乗ったベンツに、道端に落ちたケースが飛び込みます。

 

11:ベンツの中で、セイター(逆行)は「ケースは空だ。爆心地に残りのアルゴリズムを集めろ」という通信を部下に送ります。

 

10:セイター(逆行)と逆行ドライバーは、ベンツからキャットの乗っているアウディに乗り移ります。

 

9:アウディに乗ったセイター(逆行)は、BMWの名もなき男にケースを投げ渡します。

そのとき、セイター(逆行)はSAABに乗っているのが名もなき男(逆行)であること、SAABからBMWにプルトニウムが飛び込んだことに気づきます。

 

8:セイター(逆行)のアウディ、SAAB、名もなき男とニールのBMWが並走します。

 

7:セイター(逆行)はアウディをSAABに接触させ、SAABを横転させます。

 

6:セイター(逆行)はキャットに銃を突きつけて、1、2、3とカウントアップします。

 

5:セイター(逆行)とキャットの乗ったアウディは、後ろ向きに走るBMWの前を走ります。

 

4:セイター(逆行)はのアウディはUターンして、引き返す方向へと向かいます。

 

3:横転したSAABの前でアウディは停まり、セイター(逆行)は降りて、漏れたガソリンに火をつけてSAABを爆破し、またアウディに乗って立ち去ります。

 

3':セイター(逆行)は無線で、アルゴリズムはSAABにあると伝えます。それが、名もなき男とニールが聞いた「逆回転の無線」の正体です。

セイター(順行)の視点

0〜2:セイターはキャットを虐待した後、赤い部屋に入って閉じこもり、「逐一報告しろ」と部下に伝えます。

 

3:セイター(逆行)からの通信で、セイターはアルゴリズムがSAABにあることを知ります。

 

4〜19:セイターはフリーポートの外で待機します。やがて、SAABが後ろ向きに走って来て停まり、名もなき男(逆行)が降りて、フリーポートの中へ戻って行きます。

 

20:セイターはSAABの後部座席からアルゴリズムを回収します。

 

21:セイターは赤い部屋に戻り、縛られている名もなき男(順行)に「どっちだ、早く言え」と迫ります。名もなき男は「もう言った」と答えます。

 

22:アイブス、ニールら、テネットの応援部隊がなだれ込みます。

 

23:セイターは回転ドアに入り、逆行に転じます。

あらためて、解説(カーチェイス順行部分)

というわけで、これでだいたい辻褄は合ったと思うのですが…どうでしょう。あらためて順を追って検証していきます。

 

カーチェイスのスタート時点である3で、BMWに乗った名もなき男とニールは、逆回転の通信を聞きます。

これは、セイター(逆行)が仲間に通信している声ということですね。セイターは逆行の声を同時逆再生する技術を持っているので、順行のセイターもこの通信を聞くことができます。

順行視点のスタート地点(1〜3)は、セイター(逆行)にとってはゴール地点です。ちょうど、セイター(逆行)が名もなき男(逆行)の横転したSAABを爆破した時点です。

セイターがこれに当たる通信をするシーンは、映画では描かれていません。

 

4で、前方からアウディが後ろ向きに向かって来ます。これは逆行しているので、乗っているセイター(逆行)の主観的には、BMWから遠ざかっていくところになります。

アウディのドライバーとセイターは逆行しているので、彼らの主観的には前に向かって走っているわけですが、同じ車に乗っているキャットは順行のままなので、キャットにとってアウディは高速道路を後ろ向きに猛スピードで走っていることになります。

これ、さぞかし怖いでしょうね。

 

6でアウディのセイター(逆行)が顔を見せ、指でカウントダウンしてキャットを撃つぞと脅します。言葉は逆回転になってしまって通じないので、指で示しています。

セイターは逆行での振る舞いに慣れているので、1、2、3とカウントアップして、相手にはカウントダウンしているように見せています。後の尋問シーンでも、セイターは複雑な逆向きの尋問をこなしています。

これはセイターが逆行に慣れているからこそなんだけど、観ている者にとってはかえって混乱のもとにもなってますね。

 

7で、ひっくり返っていたSAABが起き上がる。

8〜9で、BMW、SAAB、アウディが3台横並びになり、名もなき男はプルトニウムのケースをアウディに投げて渡します。

セイター(逆行)にとっては、ケースをBMWに投げて渡していることになります。

このとき、名もなき男はこっそり、ケースの中身であるアルゴリズムを、隣のSAABの中に投げ込んでいます。

これが、アルゴリズムの行方を追う上でもっとも重要な動きなんだけど、順行の時にはその動きはほぼ見えません。逆行の時には、カメラはSAABの中にあるので、SAABの後部座席にあったアルゴリズムがBMWに戻っていく様子が(一瞬だけ!)映ります。

それにしても一瞬です。そんなんわかるかー!って言いたくなりますね。

 

ここでの名もなき男の行動を、セイター(逆行)は後に「連携プレー」と称していますね。

名もなき男は隣のSAABを見て、運転しているのが逆行している自分だと気づいて、とっさに自分にアルゴリズムを渡すという行動をとって、セイター(逆行)にアルゴリズムを渡すことを回避したのでしょう。

 

10で、アウディのセイター(逆行)と逆行ドライバーは、受け取ったケースを持って近づいて来たベンツに乗り移ります。逆行視点では、ケースを持ってベンツからアウディに乗り移ることになるのですが。

このベンツは順行で、おそらくセイターの部下の誰かが順行状態で運転しています。

セイターは逆行しているので、最初から持っていたケースを持ってアウディに移って、ケースをBMWに投げ返す…というような行動になってしまうのですが、ここで順行の部下を挟むことで、順行での通常の成り行き、「BMWから受け取ったケースを、セイターの部下が受け取る」という流れが成立しているのだと言えます。

名もなき男(逆行)視点の12で、道端のケースがベンツに戻っていく(順行視点では、ベンツがケースを投げ捨てる)シーンがありますが、これはベンツが順行で、順行の部下が乗っているから成立するんですよね。

逆行のセイターがベンツからケースを捨てると、その後でアウディに移る時にケースを持っていないことになってしまって、BMWにケースを戻すこともできない。矛盾が生じてしまいます。

ここが、逆行の名もなき男一人しかいないSAABとの差ですね。名もなき男(逆行)はSAABに乗った時点でアルゴリズムを手に入れているのですが、それをSAABから持ち出すとその後の(その前の)展開に矛盾が生じるので、どうすることもできないのです。

 

というわけで、順行視点では、ベンツの中で順行の部下がケースを開け、空であることがわかって、順行の部下がケースを投げ捨てる、という流れになります。

セイター(逆行)は同じベンツに乗っていて、ケースが外から車内に戻ってきて、受け取った部下がケースを開けるのを見て、その時点でそれが空であることに気づき、「ケースは空だ。爆心地に残りのアルゴリズムを集めろ」という通信を送ることになります。

 

11で、名もなき男は必死でアウディに飛び移り、キャットを救おうとします。これはセイター(逆行)が仕組んだ時間稼ぎですね。

この時間稼ぎのおかげで、その間にベンツはケースの中身を確かめ、大勢の部下を引き連れてBMWのところへ戻ってくることができます。

 

12、13、14のところで、名もなき男とキャットはセイターの部下(順行)に捕まります。ケースが空だったので、次の尋問作戦に移行するわけです。

セイター(逆行)にとっては、これは尋問作戦の後です。名もなき男から「BMWのグローブボックスの中」と聞いているので、それを確かめます。逆行視点では、それが嘘だったので、次の「並走しながら脅迫作戦」に移行することになります。

順行と逆行で、順番は逆になっているのだけれど、どちらも成立していることがわかります。

 

15から20にかけて、セイター(逆行)は名もなき男を尋問します。

ここでのセイター(逆行)の行動は、順行の名もなき男から見て成立するように周到に計算されていて、ここは逆行に慣れているセイターならではと言えます。

観客が混乱することを恐れたのでしょう、ここではわざわざ23〜17でセイター(逆行)の視点を見せています。セイター(逆行)がキャットを撃ってから「撃つぞ」と言ったりしてるのは、ミスじゃなくてわざとやってるんだよ…というのをはっきりさせておく必要があると思ったのでしょう。

 

21で、セイター(順行)が急に登場します。

セイター(順行)は赤い部屋に閉じこもって待機していたはずなので、ここまでどこにいたんだ?ということになりますね。

ここが、アルゴリズムの行方を考える上でのキーだと思います。

アイブス部隊の登場

22で、ニールが呼んだ応援部隊、アイブスたちが到着します。

ニールは彼らを「プリヤの部隊」と説明します。名もなき男はここで初めて、ニールが自分よりも前からこの件に関わっていることに気づきます。

 

ここで観ていて戸惑うのは、アイブスたちがアルゴリズムの行方について、全然気にしていないように見えることですね。

話題は、キャットの容態ばかりに終始しています。

そして、そのキャットの話がまたややこしい。逆行弾で撃たれたらあとわずかの命で、逆行したら猶予が伸びて、1週間前のオスロに向かう…ってまたわからない話が次々出てきて、???となっちゃいます。

…なんですが、とりあえずキャットの話は今は置いといて、アルゴリズムとカーチェイスの話に集中したいと思います。

アイブスたち部隊の立場の検証と、キャットの容態についての話はまた次回で!

カーチェイス逆行部分の解説

26で、とりあえずキャットを救うという目的のために、名もなき男はニール、アイブスらとともに、キャットを運んで回転ドアを通ります。

青い部屋からつながるエリアは、逆行空気が満たされています。だから、セイター(逆行)はキャットにマスクをさせていましたね。

逆行して早々に、名もなき男はニールに「俺は外に出る」と言い出します。

 

ニールは「過去を変えたらその結果は決して知り得ない」と止めようとします。名もなき男はキャットが撃たれるという結果を変えに行く…とニールは考えたようです。

しかし、名もなき男の真意は別のところにあったんじゃないかと思います。過去を変えてもキャットを救いたいなら、逆行した名もなき男は青い部屋で待つべきじゃないかと思います。どこかに隠れて待っていれば、いずれアイブスの部隊が撃たれたキャットを連れ戻し、回転ドアが開いてセイターが出てくるはずです。そこでセイターを撃てばいい。

そんなことをしたら、辻褄はめちゃくちゃになってしまいますが。

過去を変えても良いと思うなら、そんなめちゃくちゃをすることもできる。でも名もなき男は外に出て、あえてカーチェイスに戻ることを選びます。

 

19で外に出た名もなき男(逆行)は、外に停められていたSAABに乗り込みます。

運転席に座った名もなき男(逆行)が真っ先にするのは、後部座席を覗き込むことです。ここで彼は、そこにアルゴリズムがあることを確認しているんですね。

アルゴリズムがそこにあるなら、わざわざカーチェイスに戻らずにそれを取っちゃえばいいやん。いっそ逆行もせずに、順行でそれをゲットしてしまえばいいじゃないか…と一瞬思ってしまうんですが。

でも、そうはいかないんですね。アルゴリズムを積んだSAABがここにあるのは、名もなき男が逆行してSAABでカーチェイスの現場にいた…という事実に基づくものであって。

名もなき男が逆行してSAABで現場に戻らなければ、順行の名もなき男はアルゴリズムをどこへも隠せず、ケースに入れて渡すか、BMWに隠すかのどちらかで、どちらにせよセイターに取られてしまうことになります。

 

順行で自分を見て、自分にアルゴリズムを託した名もなき男は、その事実を完成させるために、SAABで現場に戻らねばならない。それが、名もなき男の真意だったのだろうと思います。

ニールは、SAABに乗っているのが名もなき男だとは気づかなかったのでしょう。彼は運転でそれどころじゃなかった。

そして、名もなき男はその事実をニールにも、アイブスにも伏せていました。いきなり現れた「応援部隊」を見て、名もなき男はアイブスたちをまだ信用していないし、ニールにも疑いを抱いたのでしょう。とりあえず自分の真意は伏せて、名もなき男は一人で外に出たわけです。

 

18で、名もなき男(逆行)は苦労しながらSAABを走らせます。

空気抵抗や摩擦などが「逆」という話だったので、車を運転するという行為は相当難しいものなのでしょう。

しかし、燃焼が冷却に転じるなら、エンジンはどうなってるんだ…という疑問がわきますが。

まあ、それも今は置いておきましょう。とりあえず名もなき男(逆行)は、ニールがケースに仕掛けた発信機の信号を追って、ケースの場所を目指します。

 

17で名もなき男(逆行)はケースを発見し、16でそこに何かを仕掛けます。その説明はないのですが、何かは盗聴器だろうと思われます。直後のシーンで、名もなき男はベンツの中でのセイターの通信を聞いているからです。

12でベンツにケースが戻るので、ベンツは順行であることがわかります。

 

そこから先は、高速道路上で行われた展開を、逆行視点で繰り返すことになります。

9でケースの受け渡しシーンが繰り返されますが、今度は逆行なので、セイター(逆行)からBMWにケースが戻ることになります。

そして、後部座席にあったアルゴリズムも、BMWの名もなき男の手元へとすっ飛んで戻っていきます。

ここで、セイター(逆行)がアルゴリズムの動きに気づいたことが示されています。

 

この、逆行視点では受け渡しが逆になってモノが戻っていく…というのも、理屈ではわかっていても忘れてしまいがちなところなんですよね。

アルゴリズムがSAABに投げ入れられた…というイメージから、なんとなくアルゴリズムはこの先もSAABの中にあって、横転と爆破を経てセイターに持ち去られた…のかな…と思ってしまうのです。

でも、そうじゃない。順行でアルゴリズムが投げ入れられたなら、逆行ではBMWに戻らねばならないのです。

だから、この先横転するSAABの中にはアルゴリズムはない。

そうではなく、順行視点の未来、フリーポートからここまで走ってきたSAABの中に、アルゴリズムはあった…ということになるわけです。

 

アルゴリズムの動きに気づいたセイター(逆行)は7でSAABを横転させ、指のカウントダウンで名もなき男(順行)を脅迫した後、SAABのところまで戻ってガソリンに火をつけ、爆発させることになります。

ここまでが、映画の中で実際に描かれたすべて。

ここで疑問になるのが、あれ?アルゴリズムは?ってことなんですね。

セイターはどうやってアルゴリズムを入手したのか

爆発〜凍結の現場から救出された名もなき男は「アルゴリズムを渡してしまった」と言い、そのあとはセイターがアルゴリズムを手に入れた前提で進んでいくんですが、ここで「あれ?」となります。

セイターはいつ、どうやってアルゴリズムを入手したのか?

 

横転したSAABの中にアルゴリズムがあったなら、簡単なんですけどね。そうじゃない。

アルゴリズムがあったのは、順行時間で9より未来のSAABの中です。

19で名もなき男(逆行)がSAABに乗ってから9まで逆行するまでの間も、アルゴリズムを取ることは不可能です。そこで取ってしまったら、受け渡しが成立せず矛盾が生じるからです。(だから、同じ車に乗ってる名もなき男自身でさえも、アルゴリズムを自由に移動させることができません!)

 

アルゴリズムに手を出すことができるのは、19よりも未来のタイミングだけ、ということになります。

順行時間で名もなき男(逆行)の動きを見ると、彼は後ろ向きに進むSAABに乗って、BMWからアルゴリズムを受け取り、後ろ向きにフリーポートまで戻っていって、フリーポートの前にSAABを停め、後部座席にアルゴリズムを残したまま車を降りて、フリーポートの中へ入っていく…ということになります。

そのあとは、アルゴリズムはSAABの中に放置されたまま。取り放題です。

 

しかし、セイター(逆行)は、それを取りに行くことはできません。彼の向かう時間軸ではアルゴリズムは既にBMWに戻っており、その先は輸送車に戻るだけだからです。

ここで生きるのが、待機している順行のセイターです。逆行にとってはもう終わり近くでも、順行にとってはまだ始まったばかり。余裕を持って行動することができます。

セイター(逆行)は順行に通信して、アルゴリズムがSAABにあることを伝える。それが、3で聞こえた逆回転の通話の正体ですね。

セイター(順行)はフリーポートの青い部屋側の出口で物陰に潜んで待っていれば、いずれSAABが後ろ向きに戻ってきて、名もなき男(逆行)がそこから降り、アルゴリズムを置いたままフリーポートに入っていくのを見るはずです。

そうしたら、セイターはSAABからアルゴリズムを取っていけばいい。

 

ただ、これはタイミングが非常にシビアです。

もし、SAABが帰ってくるのが(逆行視点では、名もなき男がSAABに乗って出かけるのが)かなり遅ければ、先にアイブスたちが回転ドアを制圧してしまうことになります。

そうなると、セイターは逆行に転じられないことになり、矛盾が生じます。

 

21で、順行のセイターがようやく赤い部屋に入ってくるのは、だからギリギリまで外でSAABを待っていたということなのでしょう。

スタート時点の状態なら、順行のセイターは赤い部屋に閉じこもっていたはずで、ギリギリまでいないのは不可解ですからね。外でSAABを待っていたとすれば、辻褄は合います。

 

セイター(順行)が赤い部屋に来るのは、アイブスたちの突入の本当に直前なので、むしろ間に合わなかったと受け取る方が自然かもしれません。

その場合は、セイターは部下の誰かに(例えばボルコフに)SAABを待つのを引き継がせることになります。

ボルコフ、セイターが回転ドアを通るときにいましたっけ? 覚えてない…。もう一回観ねば。

 

タイムラインではセイターが間に合ったていで書きましたが、間に合わなかった場合、名もなき男(逆行)が外に出てSAABに乗るのが25から23の間になり、ボルコフ(もしくは部下の誰か)はそれを待ってアルゴリズムを手に入れることになります。

その時点でタリンの回転ドアはアイブスたちに制圧されているので使えません。ボルコフはオスロかスタルスク12まで移動して、回転ドアを通って逆行し、セイターを追いかけます。

(もちろん、それ以外に映画に出ていない回転ドアをセイターが持っているという可能性もあります)

 

逆行するタイミングで、ボルコフはセイターに遅れをとることになりますが、時間逆行ではそれはほぼ問題になりません。

ボルコフの逆行がどんなに遅れたとしても、23よりも前まで逆行してしまえば、同じ時間軸にセイター(逆行)が存在することになるので、アルゴリズムを手渡すことができます。

そういえば、スタルスク12の穴の中で、ボルコフが最後のアルゴリズムをセットするシーンがあったように思います。ボルコフはアルゴリズムをセイターに渡さず、14日のスタルスク12に直接届けた、という解釈もできます。

名もなき男はどうしたかったのか

最後に、名もなき男はどうしたかったのか…ですが。

順行カーチェイスで自分にアルゴリズムを渡してしまった以上、名もなき男はどうしても逆行してアルゴリズムをBMWに戻す過程をこなさなければならない

それをやらないと因果関係が崩壊して、どうなるか誰にもわからない。最悪世界が滅びる、というのであればやらざるを得ないでしょう。

 

しかし、この過程は閉じたループを作るだけなので、その間は名もなき男自身もアルゴリズムに手を出せないことになります。

手を出せるのはループが完成した後。19でSAABが置かれたより未来ということになるので、そこはセイターと条件は同じですね。

 

おそらく名もなき男としては、なんとかしてこのループを完成させた後で脱出することができれば、オスロの回転ドアで順行に戻って、この日のフリーポートに戻ってきて、19直後のタイミングでアルゴリズムを奪取する…ということを考えていたのではないでしょうか。

その時は、そこでセイター(もしくはボルコフ)とバトルになるでしょうが、そこは勝つつもりで。

 

…なんだけど、実際には名もなき男は横転したSAABから脱出できず、セイターに燃やされて低温やけどを負い、行動不能になってしまいました。

上の理屈で言えば、まだここからでも、順行に戻ってタリンの現場まで戻ってアルゴリズムを奪えばいい…ということも言えるんですが、しかしこの時点ではアルゴリズムがセイター側に取られたことは事実として確定しているっぽいので、そこに更に書き換えようとすると「過去を変える」というパラドックス案件になってしまうのかな…と思います。

 

名もなき男がアルゴリズムを手に入れるために選ぶべきだった作戦は、ニールにSAABのことを打ち明け、ニールには順行のままでいてもらって、SAABが戻ったらすぐアルゴリズムを手に入れるよう指示することだったんじゃないかと思います。

その場合、ニールとセイター(もしくはボルコフ)との間でバトルになるわけですが。あ、だったらアイブスの部隊に行かせればよかったのかな。

 

しかし、この時点での名もなき男は、ニールやアイブスたちをそこまで信用できなかった…ということでしょうか。

実際、プリヤの意図がセイターにアルゴリズムを集めさせることなのであれば、アイブスはこの時点では動かなかった可能性が高いかもしれません。

 

現時点で解明できるのは、こんなようなところでしょうか…。想像(妄想)も大いにありますが。

タリンのカーチェイス部分だけで、これまでで最長の記事になってしまいました。

まだまだ、不可解なところも後から出てきそうです。その時はあらためて検証したいと思います。

皆さんも、何か気づかれたらお知らせください…!

 

その6に続きます!