この記事は、
の続きです。
ネタバレしています。ご注意ください。
なんども書きますが、独自解釈です! 公式なものとは違っている場合があります。ご了承ください。
今回は、前回のカーチェイスの検証で出てきた、いくつもの疑問を一つ一つ考えてみたいと思います。ストーリーが進まない…。
銃撃の法則その1・物質と物質の場合
キャットの銃撃シーンを例に、テネットにおける銃撃と傷の法則を整理します。これがまた…ややこしいのです。
まず第1に、人が介在しない場合。つまり、壁に向かって逆行弾を撃ったり、逆行が銃を撃つのを順行が見る場合、です。
この場合、順行視点で、「壁の穴」や「ガラス窓の穴」などの「撃ったことによる結果」が先にあります。
それから、その穴から銃弾が逆向きに飛んでいき、逆行の持つ銃に吸い込まれるのを見る、ということになります。
銃弾が飛んで行った後は、穴はふさがって消えてしまいます。
オスロの回転ドアの部屋に入った名もなき男は、黒服の男が回転ドアから出てくる前から、ガラス窓に銃弾による穴が開いているのを見ました。
逆行セイターがキャットを撃つと脅す場合も、実際にキャットが撃たれる前から、ガラス窓には穴が開いていました。
図にすると、次のようになります。劇中で何度も繰り返し描かれているパターンです。
逆行の流れを見れば、それは当たり前の順行の流れを逆転したものになっています。
わかりやすく「銃撃」を例にしていますが、銃撃以外にも、逆行が順行に影響を及ぼす場合には同じことが起こります。
名もなき男のBMWは、初めからサイドミラーが壊れていました。アウディがぶつかることで、サイドミラーはもとに戻ります。
順行世界に逆行が入り込むことで、逆行が起こす「結果」を、順行が先に見るということが起こるわけです。
順行で見えるものが逆行のまったく逆…と思えばこれで自然ではあるのですが、こうなると、「じゃあサイドミラーはいつ壊れたのか?」という疑問が起こります。
映画の中では、「いつの間にか壊れていたことに気づく」という曖昧な形になっているのですが。
原理的に言えば、「いつ壊れたか」といえば「逆行でアウディがぶつかった時」なので、それ以前の時間では、サイドミラーはずっと壊れたままになってしまいます。
それなら、アウディが新車だった時は? 工場でロールアウトされた時から壊れていたことになるの?
…という疑問が解けないことになっちゃうんですね。窓ガラスも同様で、ガラス屋さんがそこにガラスをはめた時から穴が開いていたことになっちゃいますね。
銃撃の法則その2・人物がからむ場合
上の構図に人物を立たせたら、どうなるか。
逆行が銃を撃ち、順行がその銃弾を受ける場合、順行にとって銃弾は逆行からではなく、背後の壁から飛んでくることになります。
そして体を貫き、逆行の銃へと戻っていく。
逆行から見れば、普通に銃を発射して、相手の体に命中するという流れになるので、なんら矛盾はありません。
しかし、ややこしいのはここから。ここまでの考え方なら、逆行から見ると、撃たれた相手は銃弾によって傷を負い、倒れる…場合によっては死ぬ…ということになるはずです。
ですが、テネットの世界ではそうはなりません。逆行から見ると、相手は撃つ前に傷を負って(場合によっては死んで)います。
撃つと、銃弾は相手の体を貫通するとともにその傷を治していき、銃弾が貫通してしまうと相手はピンピンして元気になっているということになります。
だから、順行から見ると、背後から銃弾が飛んできて、それが体を貫通することで傷を負う、という流れになります。
順行視点だけ見ていると、確かにおかしなことではないように思えます。銃弾が体を貫通するという現象自体は、順行であれ逆行であれ変わらないわけなので、それによって傷を負うのが道理です。
しかしこの現象は、それまでの物質と物質の場合のパターンとは逆になってしまっています。物質の場合は、順行視点であらかじめ傷が存在し、撃たれることで傷がなくなっていました。人間が介在する場合は、それが逆になっているということです。
戸惑ってしまうのですが、キャットが撃たれるシーンで起こっていることは確実にそういうことですね。
あらかじめガラス窓に穴が開いた部屋で、順行のキャットが逆行のセイターに撃たれ、逆行する銃弾に貫かれ、キャットが傷を負う。
逆行のセイターから見れば、あらかじめ傷を負っていたキャットをセイターが撃ち、キャットの傷は治っています。
これ、逆であっても同じです。順行が逆行を撃つ場合も同じ。
これはちょうど、「逆行が順行を撃った場合」の逆になります。互いに向いてる方向が逆なだけだからそのはずですね。
順行視点では、銃を撃つ前から相手は傷を負っていて、銃弾が通ることで傷がふさがっていき、銃弾が壁に着く頃には傷が治ってピンピンしています。
逆行視点では、背後から飛び出した銃弾が体を貫いて傷を負い、相手の銃に銃弾が戻るとともに倒れる…ということになります。
劇中では、ラスト近く、ニールが撃たれるシーンがそれに当たります。
スタルスク12の爆心地地下にやってきた名もなき男とアイブスは、閉まっている扉の向こうに死体が横たわり、ボルコフがいるのを見ます。
やがて、セイターの指示でボルコフは名もなき男を撃とうとします。すると床に倒れていた死体が立ちあがり、ボルコフの撃った銃弾を受けます。
死体は元気になって閉まっていた扉を開け、後ろ向きに通路を走り去って行きます。
この「死体」は穴のあいたコインをリュックについけている男。すなわち、ニールです。
ニールは逆行、それ以外のボルコフ、名もなき男、アイブスは順行。
つまり、これは順行が逆行を撃ったシーンですね。順行視点では撃つことで相手の傷が治り、逆行視点では傷を負っています。
順行でも逆行でも、どちらでも主観的な時間の流れとともに、傷を負い、場合によっては死亡する…ということになります。
物質の場合とは逆になってしまうんだけど、しかし、人の生死のことを考えると、確かにこれ以外にはあり得ない…ということになりそうです。
もし物質の場合と同じように、撃たれる前に傷ができるのであれば、キャットはセイターに引き回されてアウディに乗せられてる間も、ずっと大怪我をしたままということになってしまいます。
それどころじゃない。セイターに連れられてフリーポートに来た時も、それ以前も。いったいいつ怪我をしたんだ…ってことになりますね。
もっとやばいのは、撃たれたキャットが死んでしまう場合です。「3時間の命」と言われていたんだから、キャットは3時間前までずっと怪我をした状態のままで、3時間前に死ぬ、ということになります。
3時間前に死んでたら、そもそもフリーポートに来ることも、セイターに撃たれることもできませんね。
だから、この方向で傷ができるとか死ぬとかいうのは、そもそも根本的な矛盾になってしまう。あり得ないということになります。
時間の流れは人の主観に従う
人が順行方向で時間を感じているなら、その人は順行方向の未来に向かって傷を負い、死んでいくことになります。
逆行方向で時間を感じているなら、その逆です。逆行方向の未来に向かって傷を負い、死んでいきます。
テネット世界で起きる現象を決めるのは、まずそこですね。人の意識が感じる時間の流れが、ベースになっています。
言い換えれば、時間の流れを決めているのは人の意識である、ということが言えるんじゃないかと思います。
順行と逆行がぶつかり合うと…銃撃のようなことが起こると、それぞれの時間軸が相手の時間に影響を及ぼします。それが、窓ガラスの穴とか壊れたサイドミラーとかですね。
それを知覚する意識は、順行であれば順行方向に固定されています。そこに逆行がぶつかってきて影響を及ぼすことで、窓ガラスの穴とか壊れたサイドミラーのような「逆行の痕跡」が、順行世界の中に残ります。
おそらくそれも、客観的事実というよりは、意識が認識することによって出現するのではないかという気がします。意識が痕跡を観測して、その存在に気づいた時点で、それがそこにあったという事実が確定する…という感じですね。
観測することによって、事象が確定するというのは量子力学の考え方ですが、素粒子レベルのそのような作用が、テネットの時間変動の際には巨視的なレベルで起こっている…のではないでしょうか。
だから、ガラス窓の穴も壊れたサイドミラーも、誰かがそれを認識した瞬間に、過去に遡って存在するようになるわけです。
スタルスク12における、ニールの死体も同様です。ニールの死体に関して、「いったいいつから存在した?」と考えていくと、この戦いの始まる前から、その何日も前、セイターの部下が金塊を取り出そうとして出入りしている頃から、どこの誰かわからない死体がごろんと転がっていることになっちゃいます。
しかも、これは逆行しているので、時間が前になるほど腐っていく…? 順行で見ると、白骨から始まって、だんだん腐った肉がついていき、死体の輪郭を取り戻していく…?
そんな気持ち悪いことは想像したくないですね。だからやはりニールの死体も、名もなき男がそれを観測して認識した時点で事象が確定し、存在することになるんじゃないかと思われます。
…って、自分で自分の言ってることが分かってるのやら、怪しい気もしますが。
腕の傷の謎
…となんとなく納得していったら、また不可解な現象にぶつかって、頭がこんがらがる。というのが、「テネット」という映画です。
オスロの回転ドア前での、順行と逆行の名もなき男同士の格闘シーン。順行が逆行の腕に「絵画の額のパーツを刺して傷を負わせる」場面。
この時、逆行する名もなき男は、オスロに着く前から腕に傷があることに気づいています。フリーポートが近づくほどに、傷は悪化して血が流れてきます。
回転ドアの前で順行の自分自身に刺され、そこで逆行の傷は治ります。
これ、これまで見てきた構図とまるっきり逆です。絵にすると、こんなふうになります。
これが謎なんですよね…。なぜこうなるのか、わからない。
仮にこの時、順行の名もなき男が破片を逆行の急所に突き刺し、致命傷を負わせていたら、逆行は「オスロに着く前に、あらかじめ死んでいる」というおかしなことになってしまいます。
精一杯解釈するなら、ここで逆行の腕にできた傷は、窓ガラスの穴やサイドミラーと同じように、逆の時間の側から強く干渉されることで起きた「痕跡」である、ということになるのかなと思います。
通常、生命活動は意識が認識している時間の流れの方向に従うかれど、逆行する時間軸からの強い衝撃によって、断片的な逆行時間の「痕跡」が残ってしまうことがある。
この時の傷は、それに当たる…ということになるのかな。なんかわかったようなわからないような…ですが。
プリヤの部隊について
ニールの要請で、応援部隊がやってくる。それが、アイブス、ホイーラーらの武装部隊で、ニールは彼らを「プリヤの部隊」と紹介します。
アイブスを演じてるのはアーロン・テイラー=ジョンソン。「キック・アス」の彼がいつしかこんなことに…。
敵が何もかも知りすぎてると訝る名もなき男に、アイブスはこれはセイターの「挟撃作戦」だと説明します。
敵の半分は順行で名もなき男を追いかけ、残り半分は逆行して未来側から攻撃を仕掛ける。挟み撃ち。
アルゴリズムの奪取と未来との戦いを指揮するプリヤは、セイターに対抗する意味でも未来人との戦争に備えてでも、戦力を持つ必要がありました。来るべき戦いに備えて、プリヤは武器商人としての財力や武力を生かして、早くから戦力を整えていたものと思われます。
特に、キエフでのテロとスタルスク12での戦闘が起こった14日以降は、その戦いに向けての準備が急ピッチで進んでいたものと思われます。
プリヤが、戦闘がスタルスク12で行われたことや、その詳細まで報告されていたかどうかはわかりません。
テネットのルールとしては「無知こそが武器」なので、あえてそれは知らないままでいた可能性も高い。
それでも、セイターが9つのアルゴリズムをすべて揃え、その争奪戦が行われて、そしてその結果として「人類の全滅が起こらなかった」ということをプリヤは知っているわけだから、それに向けた準備を進めることになるでしょう。
ニールの連絡を受けてすぐにやってきたので、アイブスたちはタリンの近くで待機していたようです。フィンランド湾に、マグネ・バイキング号が停泊しているのかもしれません。
それでも、アイブスたちはアルゴリズムの争奪戦に参加するつもりはなかった。セイターがアルゴリズムを持ち去ることはプリヤ的には既定路線で、アイブスたちの出番はそれから後、ということに決まっていたのでしょう。
アイブスたちがアルゴリズムの行方に興味を示さないのは、プリヤのそのような意図があったからだろうと思われます。
キャットの傷について
映画の中で見た限り、キャットは腹を撃たれただけ。そこまで重傷であるようにも見えませんが、部隊の隊員は「もって3時間」と言います。
しかし、逆行することでその時間を延ばすことができる。1週間は伸ばせることがわかったので、名もなき男はキャットを逆行させることを決めます。
逆行するのはいいけれど、タリンの回転ドアは(過去においては)セイターに制圧されているので使えない。
そこで、1週間前のオスロを目指すことになります。1週間前、飛行機事故が起こった時であれば、回転ドアに近づいて順行に戻ることができるからです。
なぜ、キャットはそんなにも急激に命の危険にさらされるのか。そして、なぜ逆行することでそれは回避できるのか。
しかし、貫通する場合は、逆行弾も順行弾も、実質的に体に及ぼす影響に変わりはないはずなんですよ。
銃撃の法則その2のところの図をもう一度見て欲しいんですが。順行が逆行に撃たれた場合、銃弾の飛んでくる方向が「敵のいる側ではなく背後」という違いがあるだけで、体に入って通り抜け、反対側から出て行くという部分では、順行も逆行も変わらないのです。
銃弾の物理的な働きが原因でないなら、キャットを殺すのは映画の中で何度も言及されている、逆行弾に伴うもう一つの特徴による…と考える他ないでしょうね。
つまり、放射線です。研究所のバーバラは、時間逆行の原理は「核融合の逆放射」によると言っていました。
それがどういうことなのか、意味はよくわかりませんが、バーバラは逆行弾を扱う時には分厚い鉛の手袋をしていたし、名もなき男も同様でした。逆行弾が放射能を帯びているのは間違いないと思われます。
「逆放射」は、順行の肉体に致命的なダメージを与える。だから、肉体を逆行状態にすれば、「逆放射」は「放射」となり、その影響を無化するか、少なくとも大幅に遅らせることができる。
…ということなんじゃないでしょうか。
(ていうかそれくらい、普通に劇中で言ってくれても良かろうに…)
おそらく、銃弾による物理的な傷自体は、通常の治療をすれば回復するのでしょう。
逆行によって、「逆放射」の影響をなくしさえすれば、通常の治療とその後の回復のための時間を得ることができる。
そうやって1週間の逆行で回復の時を稼いで、オスロで順行に戻る作戦、ということですね。
ちなみに、テネットの拠点である大型船マグネ・バイキング号には、回転ドアが設置されていました。アイブスが許すなら、わざわざオスロのフリーポートに侵入しなくても、味方の回転ドアを使わせてもらえた…のかもしれません。
しかし、アイブスはそんなことを教えてはくれませんでした。
この時点で、プリヤにとってキャットはアルゴリズムに関わった人物として、死ぬ方が都合のいい存在だし、名もなき男の役割も「セイターにアルゴリズムを渡すこと」でほぼ終わっている。二人とも、特に重要ではない人物だったということでしょう。
少なくともプリヤはそう思っていた。だから、コンテナを用意するくらいの協力はしても、重要機密である回転ドアの存在を明かして使わせるまではしなかった。
そこから、名もなき男は自身の力で、重要な立場をもぎ取っていくことになるわけです。
爆発が凍結に転じる理由
名もなき男が外に出るにあたって、ホイーラーが注意事項を伝えます。
ルールの第1は、自分自身と直接接触しないこと。
しかし、名もなき男はオスロで自分と取っ組み合いの格闘をしてますね。これは「直接」接触には当たらないようなので、皮膚と皮膚とが接触することで「対消滅」が起こるとされているのでしょう。
ホイーラーは「防御スーツ」を渡そうとしているので、素肌を隠すことで直接接触は避けられるみたいですね。
対消滅とは、物質と反物質が接触してエネルギーに転化し、消えることです。
となると、逆行した人物は反物質に転換されている…のかと思いますが、それでは自分自身のみならず、そこらへんの物質なんでも触れた時点で大爆発を起こしてしまいます。映画での対消滅は独自の別の意味で使われているようです。
ホイーラーは言います。
「走る時、風は後ろから吹いてくる。火に触れると、伝達された熱が反転して、あなたの衣服は凍りだす。重力は普通に感じるが、あなたは世界から反転している。視覚と聴覚に歪みが生じるが、それは正常な反応。車の運転は難しい。摩擦と抵抗が逆になるから」
セイター(逆行)がガソリンに火をつけ、名もなき男(逆行)が閉じ込められたSAABが爆発して、爆発の炎が凍結に転じます。
この時、名もなき男とセイターは逆行ですが、それ以外の世界は順行のままです。つまり、横転したSAABそれ自体や、漏れたガソリンは別に時間逆行しているわけではない。それなのになぜ爆発が凍結に転じるのか、不可解に思えます。
これも、少々強引に図にしてみると…
こんな感じですかね。
ガソリンが爆発するという現象自体は、順行方向で起こるはずなんです。だって、ガソリンは順行だから。
しかし、この場合は逆行方向から点火が起こっていて、通常の順行方向への爆発という現象は、起こる余地がない…ということになります。
名もなき男は逆行方向の現象しか知覚しません。したがって、ここで知覚されるのは爆発という現象を逆転させた現象、凍結である…ということになります。
上の図の②から①に向かうと爆発だけど、名もなき男の知覚の上では②から③に向かうので、爆発を反転させた現象として体験される、というようなイメージですね。
科学的に合ってるのかどうか微妙な気もしますが、図の上で、爆発の反対の現象だから凍結、というのは感覚的に納得できる気もします。
だから、ここでもやはり、それを体験する人の意識が基準になって、現象が起こっているということが言えるんじゃないかと思います。
まだまだ、カーチェイスにまつわる疑問はあるような気もしますが。
(アウディとSAABはどこからやってきたのか?とか。アウディを走り出させたのは誰か?とか)
まあ、その辺はおいおい触れることにして。
次回はストーリーを進めたいと思います。
それにしても、なんとなくわかった…と思ったら、また新たな疑問が湧いてきて、何もわからなくなってしまう。この映画の「わからなさ具合」はちょっと別次元のものがある気がします。
それも、ただ無駄に複雑にしてるとかではなくて、「もしも時間を逆行することができたら」というワンアイデアを形にしてみせて、その結果起こってくる様々な矛盾や問題を一つ一つ映像にして見せている。その結果としての、難解さだと思うんですよね。
ここまで検証して、そういうところがようやく見えてきたように思います。やっぱりこの映画、ちょっと凄いよ。