Star Wars : The Last Jedi(2017 アメリカ)

監督/脚本:ライアン・ジョンソン

製作:キャスリーン・ケネディ、ラム・バーグマン

製作総指揮:J・J・エイブラムス、トム・カーノウスキー、ジェイソン・マクガトリン

音楽:ジョン・ウィリアムズ

マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、アダム・ドライバー、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック

 

ネタバレなしレビューを読んでいただける方はこちらへ。

レイの出自に関して述べた、ネタバレありレビューはこちらへ。

ポー、フィン、ローズのパートに関して述べた、ネタバレありレビューはこちらへお願いします。

 

①前作からの直結

 

「最後のジェダイ」最大の意外性は、前作の直後から始まることでしょうね。

これは、過去の作品にはなかった初めてのこと。掟破りとは言えます。

前作の終わりがああだったから、どうなるのかなとは思ってたんですよね。あの島でレイが修行して1年…って感じかなとも思ったんですが、そうなると急いでルークを探してたのと矛盾しちゃうし。

蓋を開けてみればいちばんストレートな、前作の終わりから導かれる真っ当な続きを選んでいました。

 

壮麗な音楽とともにレイとルークが出会う前作のラストシーンを映し出し、その直後の転調で、ルークが受け取ったライトセーバーをぽいっと放り出す。

えっ」と思わせて、観客の意識を前のめりにさせる。実際、後ろで観てた人が相当大きな声で「えっ」って言ってたもの。

この1カットで、今回のルークが偏屈ジジイであること、そして島でのシークエンスがユーモアを込めて描かれることがスパッと伝わる。物語のトーンを一瞬で決める、とてもいい転調だと思います。

 

なかなかレイの求めに応じないルーク、辛抱強く待つレイ…という構図は、前作のストーリーから導かれる展開ではあるけれど、物語的には少々じれったくなるところですよね。物語が進まなくなる要因に、当のルークがなってしまうから。

でも、絶対に必要なところではあって。それをユーモアをたくさん散りばめて描くことで、退屈しない、面白いパートに上手く仕立てていると思いました。

 

島に住むヘンテコな動物たちを紹介しながら、ルークの食料調達も見せていく。前作ラストで誰もが抱いただろう疑問、「ここで一人で暮らしてるって…どうやって?」ということにきちんと答えていて、丁寧だなあと感じました。

ヘンな生き物がいっぱい出てくるのもスター・ウォーズらしさだし、あまりCG臭くなく立体物っぽく見えるのも好感が持てました。

結構モロに着ぐるみっぽいのもなんかツボ。ケアテイカーとかね。

 

ポーグとか、あまりにもカワイイ狙いが過ぎる奴は少々微妙な気もしましたが…。

でも子供と一緒に観に行って、そこに見事にいい反応をしてるのを見ると、やっぱり必要だなあと思った次第。

これから間口を広げていくにあたって、カワイイは必要だよ。マニアの方ばっか向いてたら、衰退していくんだから。

ポーグはそんなに物語に関わらないので、気に入らない人は気にしなきゃいいと思います。そういう意味でも、いいバランス。

 

②レイとルークの“笑える”二人パート

 

島という限られた空間で、レイとルークの二人だけで展開する、静的になってしまいそうなパートなんだけど、随所にユーモアを散りばめることで、とても観やすくなっていたと思います。

 

今回、本当にサービス精神旺盛というか。結構ベタなギャグを臆せずどんどん入れてくる。

「レッスン1」でレイとルークがノリツッコミみたいなコントをやっちゃうところとか、やり過ぎ感もあって、「あ、これ、気に入らない人もいるだろうなあ」とは思ったんですが、僕は全然OKでした。すごく楽しかった。

子供たちも全然退屈せずに、時々笑いながら楽しく観てた。大事だと思うんですよ、そういうことって。

 

スター・ウォーズの伝統的にも、決して逸脱ではない

「帝国の逆襲」でのヨーダの描写は、ユーモアに満ちていましたよね。

一見して見すぼらしく、ちっぽけなつまらないものに見えるけれど、実は内面に偉大なものを秘めている。それこそがジェダイ

だから、もったいぶらない、偉そに見えないルークの佇まいは、トリロジーでのオビワンやヨーダを継承するジェダイとして理想的な描かれ方だったと思います。

 

③ジェダイ・オーダーの終焉

 

ユーモアが散りばめてあるのは、語らねばならないテーマが暗く、重いからだと言えます。

スター・ウォーズ全体を通しての最大のテーマ、光と闇の対決。アナキンからずっと続いている、闇堕ちの問題

 

ハン・ソロとレイアの子ベンを、ルークが弟子として預かった。しかしベンはスノークに誘惑され闇堕ちしてしまい、ルークの寺院を焼き払ってしまった。

そこまでは前作でもおおよそわかっていたことですが、暗い未来を予知したルークがベンを殺そうとしたこと、それがカイロ・レンの誕生の直接のきっかけになったことが新たに語られます。

 

親友と妹の子供を失ってしまった後悔から、ルークは辺境の惑星に隠居して、姿を隠してしまいました。

プリクエル終盤におけるオビワンやヨーダに似ているようでもありますが、しかし決定的な違いがあります。

 

同じように身を隠したオビワンやヨーダと、ルークとの大きな違い。それは、ルークがジェダイそのものに失望し、ジェダイの滅亡を願ったということです。

ルークが新たなジェダイを育てようなどとしなければ、ベンが闇堕ちすることもなかった。不幸の連鎖を作っているのは、むしろジェダイを存続させようとするからだ。

だからジェダイは滅びるべきだ、とするルークの結論は、確かに一定の説得力があります。

 

プリクエルと新シリーズの顕著な違いが、ここにも現れています。

かつて、同じようにアナキンを闇堕ちさせたプリクエルのヨーダやオビワンは、後悔に苦しむこともなく、ジェダイを疑うようなこともありませんでした。

ルークは自分を責め、後悔し、ジェダイ・オーダーそのものを終わらせることを選びました。

プリクエルのジェダイたちとは違って、真っ当な人間性を備えたルーク。フォースの覚醒のレビューで述べた、ジェダイに人間性を取り戻すという大前提。それが、本作にもしっかりと共有されているように感じます。

 

ルークが語るジェダイが滅びるべき理由、「その全盛期に自ら崩壊し、帝国を生み出した」はプリクエル3部作を一言で言い切ってましたね。

プリクエルで描かれたような形のジェダイ・オーダーを、新しい展開の中でどう評価し、位置付けるのかを考えると、ルークの結論は一旦は必然となるのかなと思えます。

 

ジェダイを終わらせると言いながら、古い書物を収めた木を燃やす段には逡巡を見せるルーク。ここにも、人間らしさが現れていますね。

そこにヨーダが現れて、雷で木を燃やしてしまいます。プリクエルのCG臭いヨーダではなく、トリロジーのパペットぽいヨーダであるところが意味深ですね。

ルークと、「帝国の逆襲以降の」ヨーダによってもたらされたジェダイ・オーダーの終焉。

ここで、プリクエルで示されたジェダイ・オーダーは一旦リセット。そして、レイが担うだろう新しいジェダイが、ここからスタートする。そういう区切りがつけられたように見えます。

 

④自由になったレイとカイロ・レン

 

いろいろな負の遺産を背負ってなかなか自由に動けない旧世代に対して、次のジェダイの可能性を開いていくのが新しい世代、レイであり、カイロ・レンであると言えます。

 

レイとカイロ・レンがフォースで通じ合い、遠隔で互いの思いを探り合う。これまでになかったフォースの表現ですが、引きつけ合い反発し合う光と闇の側面が強調されていて、面白かったと思います。

ルークの目を盗んで通信している二人が、こっそりラインで悩みの相談してる高校生男女みたいで微笑ましいですね。

 

レイもカイロ・レンも、悩み、迷っている。それぞれの葛藤を抱え、その中で答えを求めてあがいている。

なんだか青春映画みたいですが、でも彼らの真剣さが好ましくて、応援したくなるんですよね。レイだけでなくカイロ・レンも。

 

「帝国の逆襲」のルークと同じように、レイも窮地にある他人を救うために、修行半ばにして敵地へ向かうことになります。

ルークは仲間であるレイアやハン・ソロを助けに向かったけど、レイは敵であるカイロ・レンを助けるために行くんですよね。なんて優しいんだ、っていう。

観ている方も、レイアを撃てないカイロ・レンの揺らぎなどを見せられて、彼の帰還を信じたい気持ちになっているから、俄然レイを応援したくなります。

それを止めようとするのが、かつて止めるヨーダやオビワンを振り切ったルークであるというのが面白い。歴史は繰り返す

 

スノークを前にして、レイとカイロ・レンが対峙する構図は、「ジェダイの帰還」における皇帝とルークとベイダーの再現ですね。ライトセーバーが椅子に置かれてるのも同じ。

でも展開は違う。もっとスッキリする、溜飲の下がる気持ちいい展開になります。

 

スノークの退場はあっさりなんだけど、でもいちばん魅力のないキャラだったし、これ以上スノークの話なんて誰も観たくないからいいですよね。ケレン味たっぷりに描かれるレイとカイロの共闘は、ベタではあるんだけどやっぱり気持ちを高ぶらせてくれます。

この辺りが本当、サービス満点なんですね。つまらないキャラはスパッと切って、面白いところをてらいなく真正面から描き切る。

観てる人を面白がらせよう、熱くさせようという強いサービス精神が、映画の隅々まで行き届いています。

 

スノークを倒し、カイロ・レンは自由になりました。でも同時に、それまでは機能していた「すべてはスノークのせい」という言い訳もなくしたことになります。

ここから先、もうカイロ・レンの行動に言い訳は効かない。あらゆる行動の責任は、彼自身が負っていかなくてはならないことになる。

 

カイロ・レンはベンに戻ることを選ばず、カイロ・レンであることを自ら選びました。誰にも強制されず、自分の意志で。

最後まで「すべては皇帝のせい」だったベイダーとはまた違う、自分の意志で選び取った悪役が、誕生したことになります。

 

血統の制約や、ジェダイ・オーダーの伝統から自由になった、自分の意志で自分の行動を決めるジェダイ、レイ

シスの支配、本意でない強制から自由になった、自ら選び取った悪役、カイロ・レン

若い主人公たちが、いよいよ言い訳の効かない正念場を迎えるのが、次のエピソード9になるのかも。

製作陣に関しても…そうなるのかもしれないですね。次作はハン・ソロもルークもいない。残念ながら、レイアまでいなくなってしまったのだから。

 

⑤ルークの物語の最終章

 

最後はルークが主役でしたね。ルークへのリスペクトがあるとは思っていたけど、これほどまでにカッコいい姿を最後に見られるとは思わなかった。

昔々、小学生の頃に初めてルークに会ってから、ずいぶん長い時間が経って。

ルークって割と不遇なところも多いキャラクターだったと思うんですよね…ワンパに引っかかれて顔に怪我したりして、第1作での快活な雰囲気を早くも失うというような不幸もあって。陽気でイケイケのハン・ソロに比べて、どうしても暗いムードをまとうようになっていって。

「ジェダイの帰還」の頃に既に、いつ闇堕ちしてもおかしくないような雰囲気があったもんね。でも、やっぱり僕らにとってはいつまで経ってもヒーローで。

その物語の終わりに、こんなカッコいい姿を見せてもらえたんだから。

接待だなんだと揶揄されても、そりゃあ感慨深いのは当たり前だろう、と言いたくなります。

 

カッコいいけれど、ちょっとやり過ぎかも…って最初思ったんですよ。集中砲火を浴びて、傷ひとつないというのはなんぼジェダイでもやり過ぎかも、と。

でも、後で実体でないことがわかって、驚くと共に、きちんと納得がいく。丁寧な作りになっていると思いました。決して勢い任せの雑な作りではない。

 

何より感動したのは、ルークが攻撃しないこと。ライトセーバーを持っていても、一度も斬りかかりはしないんです。防戦と回避に徹している。

それはもちろん、実体じゃないから攻撃できない、ってのもあるんだろうけどそれ以前に、師匠だからじゃないですか。

 

たとえもう説得を諦めていても、倒してしまうことが合理的であっても、でもやっぱりルークは師匠なんだから。弟子を殺すことなんてできない、しちゃいけない

そこが、あのひとつも感動しない無味乾燥なオビワン対アナキンとの、決定的な違いじゃないですか。

いちいちプリクエルの悪口を蒸し返して悪いですけど。

 

やっぱりこのルーク対カイロは、あのオビワン対アナキンに対する清算、落とし前なんですよ。

ジェダイの精神って本当はこうだろう? 師匠であるというのはこういうことだろう?と伝えている。

それはオリジナルのトリロジーにはあったはずの精神で。ベイダーに対して剣を収めたオビワンのように。

だからただむやみにカッコよくしてるだけじゃなくて、きちんと強いメッセージ性を含んでいるんですよね。

 

石を持ち上げる」という、ジェダイの修行の象徴のようなシーンがあって。実際の修行シーンはそれほどなかったけど、ルークからレイに確かに継承がなされたことが示される。いいシーンですね。

そしてその果てにやってくる、夕陽を見つめる大団円

そりゃあ感無量になりますよ。

 

 

⑥最後に

 

一本の映画について、何本もダラダラと書き倒してしまいました。

とりとめのない駄文を全部読んで頂いた方、誠にありがとうございます

 

さんざんほめといてアレなんですけど、ライアン・ジョンソンって人は、決して「上手い」タイプの監督じゃないっていうのは、否めないですね。

そんなにたくさんの映画を撮って手練れてる人じゃないし、テクニックがすごくあるわけでもない。演出はベタで、言ってしまえば素人臭い

今やってるテレビのCM。レイが「行くわよ!」とか言うあのベタなノリが、すごくしっくりくる作りになってますね。

 

でも、「スター・ウォーズ」では、それって欠点じゃないと僕は思うんですよ。

ジョージ・ルーカス自体そもそも職人監督なんて柄じゃない、素人の代表みたいな人だし、「新たなる希望」もベタのかたまりみたいな映画でした。

細かい演出の上手い下手、重箱の隅のような辻褄が合ってるかどうかなんかより、大事なことは観る人を心から楽しませるために、精一杯頑張っているかどうかということ。

笑わせ、泣かせ、ドキドキワクワクさせて、大人も子供も心から「面白かった」と思える映画を作ること。

そういう、娯楽映画の作り手が持っているべきサービス精神において、100点満点の見事な作品だったと思ってます。

 

スター・ウォーズ/最後のジェダイ ネタバレあり ポーとフィンとローズについて

 

スター・ウォーズ/最後のジェダイ ネタバレあり レイの出自について

 

スター・ウォーズ/最後のジェダイ ネタバレなしレビュー 今年度ベスト1

 

スター・ウォーズ/フォースの覚醒 今さらレビュー ルーク・スカイウォーカーが戻ってきた!

 

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー レビュー(ネタバレあり) 真・エピソード3