彫刻家 青野正さん  第1回 | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさん、おはようございます。

 

毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。


本日は素敵な作家をご紹介いたします。彫刻家の青野正さんです。


前回の高田洋一さんからのリレーでご登場頂きます。


高田洋一さん  第1回  http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11263522127.html
                
http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11239924858.html

          第2回  http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11241895457.html
          第3回  
http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11249133042.html
          第4回  http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11249134184.html



第1回の今日は、青野正さんの制作テーマと素材についての思いを

インタビュ―をもとに紹介させて頂きます。


 

お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。

 


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アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

風に向かう王




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館
天をめざす街




アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

風壊





日下
青野正さんの制作テーマについてお聴かせ頂けますでしょうか。



青野正さん

テーマは毎回毎回ありますが、今は鉄というものにこだわって作っています。

鉄というものは錆びますよね。昔から時間経過を表現したいというのがあって、
鉄というものは風化していく素材ですよね。

特にそれが象徴的に「錆びる」という姿で時間経過を表現しやすい素材だなと

いうことで使っています。



日下

青野さんのモニュメント的な大きい作品で、特に『風の王』は造形的に、天候、気象

というのか、鉄の風化に関わってくるものに造形で話しかけている感じがありますよね。

やはりそういうところでかたちを作っていらっしゃるのでしょうか。



青野正さん

テーマは『かたちあるものはいつか無くなる』ということで作っているのですが、

そうは言っても、やはりもたせたいという気持ちもあって、かなり頑丈に作ったりしています。

鉄にもいろいろ種類があって耐候性といって、条件が良ければ、普通の鉄の

10倍長くもつという鉄を使っているんですよ。 


だから、『無くなる』ということがテーマなんだけれども、極力長く持つように、

自分の作れる範囲ではやっているんですね。
 
だから100年、200年300年400年というレベルで無くなればいい、

そう思っているんです。



日下

青野正さんは鉄にこだわって制作されているということですが、青野さんが鉄を素材に

彫刻を制作し始めたきっかけについてお聴かせいただけますでしょうか。



青野正さん

鉄を選んだというか・‥、その前に、美大っていろんな素材を一通りやりますよね。
それで、僕は最初に興味を持ったのは石だったんです。

石彫は10年近くやっていて、結構大きな3トン、4トンという御影石なんかも

彫っていたんですよ。


僕の本質的な話をすると、彫刻家でも制作と平行して結構スケッチとか

アイデアデッサンとかなさる方もいらっしゃいますよね。 
でも僕の場合は、スケッチとかデッサンとかではなかなかアイデアが出てこないんです。

それで、とにかく素材と話すというか、石の時もそうでしたが、そのかたちから

何か見えてくるかなと、石と向き合うことで彫ることが多かったんですね。

 
石の魅力というのもあったのですが、
そういうやり方をしていると、

石って彫っていくだけなので、やはり、小さくなって無くなってしまうんです。
だから、ある程度プランがないと、なかなかやりづらいというのを感じていました。


それである時、鉄で制作したら、鉄って割と付けたり取ったりが楽に出来ることに気付いて、

取っちゃったんだけどまた足そうかなとか。
そういう粘土みたいな感じ、
自分で制作中に思考錯誤ができるというのかな、

そこが自分に合っていると思ったのです。

 
つまり、僕は基本的に何が出来上がるのか、
最終的なものがよく分からなくて

作っているんですよ。

まあ、何となく最終形が分かっていてそれを目指して作ることもあるんですが、

そういう時は稀で、いつもアトリエに行ってから今日は何を作るかなという感じです。


鉄って作っているといろんな端材が出てくるんですね、いろんな形が。

それを捨てずに残しておく。


アトリエに鉄の破片がゴチャゴチャ散らばっているんですよ。
そういうものを拾い集めてきて、どうするか、ああするかとか。

そういう感じでものを作っているので、僕は、ものを作るという思考回路が

そういう風になっている頭みたいなんです。


だから鉄というのは、簡単に取ったり付けたり出来るし、突然立っていたものが

横になってもいいし、逆さまになってもいい。


作品が突然、ある一部分で一緒になっても面白いとか、そういう感じで、

結構その日のほとんど思いつきで作っていくのに、そういう思考回路に

合っている素材なので鉄で制作しているんです。



日下

ああ~、分かります。面白いですね。
青野さんの制作では、
凄く大きいモニュメントのような作品がとっても印象的なのですが、

小さい作品でも面白いものがとてもたくさんおありですね。



青野正さん

ちなみに大きい作品は模型がありますからね。大きい作品では最終的なかたちを目指して作って行くという感じです。先ほどお話した方法で大きい作品を作ろうとしたら、

もう収集がつかなくなりますし、実際に出来ない。
 
だから、大きい作品では、
先ほどお話したような制作は基本的には出来ないので、

模型の小さな段階の時にそれをやっているんです。



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ヤマの礎





日下

制作では鉄棒を一本一本積み上げて制作されるそうですね。


『月を射る』や「『風に向う王』、『風壊』『ヤマの礎』『天をめざす街』など

大作ではとても時間がかかるかと思うのですが。

「ヤマの礎」では一年間かけて制作されたとありましたね。



青野正さん

一年間かかるという理由は、僕は作品を基本的に一人で作っているんです。

大きなモニュメントも一人で作っています。それに、どちらの彫刻家さんも

そうだと思うんですが、やはり彫刻だけでは生活出来ないところがあるのです。


僕は造形大学を卒業した時から、講師のアルバイトを週に3日か4日やっていまして、
そのアルバイトと制作を並行しながらなのでそのぐらいかかるんですね。

毎日やっていたとしたら半年ぐらいで終わったかも知れませんけど、制作時間には

そういう訳もあるんです。



日下

はい。『ヤマの礎』では一年間かけて制作されたとありましたが、

これはどのくらいの大きさなのでしょうか。



青野正さん

この作品は、僕の作品の中では単体では一番大きくてメートル近くあるんですが、

ビルというか、作っていても高いし、怖いし、違法建築みたいな感じですね。
運ぶのも10トン近くありますから。



日下

7メートルは凄いですね。私は大きくても3メートル超のものまでしか

作ったことがありません。
青野さんの制作では鉄棒を一本一本積み上げて制作されるそうですね。
これはギザギザのついた番線というものでしょうか。鉄筋にするような。



青野正さん

材料は番線ではないんですよ。鉄筋のようには見えるんですが。


鉄って工業製品なので、基本的には板材なんですよ。あれは32ミリという

板材なんですね。厚い鉄板を32ミリ厚の36ミリ幅に切っちゃうんです。
それを割り箸みたいにギザギザに真ん中を溶断で
切れ目を入れて割るんです。

だから鉄板を32ミリ厚の36ミリ幅に切るところまでは工場でやってもらって、

それをギザギザに切るところは僕がやるんです。
そのギザギザの面を外側にして積み上げていっているんです。





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「ぬ箱」シリーズ  「句点入れ」




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月を射る





日下

なるほど~。そうなんですか~。
 

私が青野さんの『月を射る』の作品写真を拝見した時、鉄棒が積みあがった痕跡というか、作品の表情からなぜか『鉄を火で彫っている』という印象を受けたのですが。



青野正さん

そうですね、確かに彫刻って言うこともあって、あれはやはり火で溶かして

彫っているんですね。


だから多分、彫っているという風に見えると思いますよ。厚い鉄を彫っている。

溶かしながら。だから、のみで削っているように見えると思います。

裏側を溶接して、表側も溶接しているんですけど、 本当はあんなに完全に

溶接しなくてもいいんだけど~。

実は、人に言わせるとあんなに溶接しなくてもいいという話なんです。

さっきの話に戻るけど、自分は出来る限り永くもたせたいというのがあって、

無意味な溶接をやっているんです。
 
普通は裏表、全溶接しなくてももつから。

本当はスパンを開けながら4分の1ぐらいの溶接でも良いんです。
それは分かっているんですけど、自分ではやはり、やってしまうんですね~。

裏表全部やらないと気が済まないという風に。


全部溶接するということで一体感が出るような気がするのかな、裏表溶接することで

一つのものになったという感じがするんですね。
形をまた削り出したと言う感じが自分の中であるんだろうね。



日下
なるほど~。塔のような、建築物のようにも見えますよね。



青野正さん

塔というか…さっき僕は時間の表れたものを制作したいという話をしたと思うんだけど、

要するに、今出来た作品なんだけど、ひょっとしたら200年も300年も1000年も前から

あったかもしれないという錯覚を見せたいみたいな、ですかね。


こんな僕一人で、一人文明を作っているという鉄の文明を、極小規模だけ

作っているんです。(笑)



日下

なるほど~。面白いですね。私はそういう意味では、青野さんの『Steel's Ash』や

『迷犬ハナの冒険』にそういうものを感じます。

 

次回これらの作品について少し詳しくお聴かせ頂きたいです。
今日はここまでありがとうございました。

 



アーティストを応援する素敵な彫刻工房@日下育子の学び場美術館

迷犬ハナの散歩




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Steel's Ash



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青野正さんには、前回登場の高田洋一さんからのリレーでご登場頂きました。


今回、初めて青野正さんへの制作への思いをお聴かせ頂きました。


青野正さんは、「時間の表れたものを作りたい」 「かたちあるものはいつか無くなる」と

仰っています。


鉄という物質さえもいつかは錆びて風化し500年後というような長い時間の後には

土に返っていくということをテーマに制作していらっしゃいます。


青野さんは、文明の発展と共に鉄が線路として、橋として、戦車として、弾丸として

使われてきたということを、作品制作の中で追体験するかのように

作品化していらっしゃいます。


時には大いなる自然に話しかけるような大作、またいわき市の炭鉱の歴史に

強く根付いた慰霊碑としてのモニュメント、鉄を素材に鉄の文明を表現した

訴求力のある作品群など、鉄による表現の可能性をどこまでも追求して、

本当にどこまでも夢中で向き合っていらっしゃるというのがふさわしい、

素晴らしい作家さんだと感じました。


皆さんもぜひ青野正さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。

 


 

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◆青野正さんの展覧会の予定です。


    展覧会名: 芸術センター記念受賞作家展 青野正展

       期  間:2012年9月1日から9月20日まで
       会  場: 東京都足立区北千住   
              日本芸術センター
                 URL⇒http://www.art-center.jp/

                http://www.art-center.jp/compe/choukokucompe04.pdf



    展覧会名:青野正 個展
       期  間:2012年9月15日から9月30日まで
       会  場: 東京 代々木上原  Gallery YORI

                 東京都渋谷区上原3ー25ー2
                 URL⇒g-yori.com/info



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◆ 青野正  略歴 


 ◇受賞歴◇
1955  徳島県に生まれる
1980  東京造形大学彫刻科卒業
1992  第4回ロダン大賞展 美ヶ原高原美術鑑賞(美ヶ原高原美術館、長野)
1993  ブジサンケイ・ビエンナーレ現代国際彫刻展 特別賞
(美ヶ原高原美術館、長野)
1994  アート・リゾート朝来2001野外彫刻展in多々良木’94 大賞 
(朝来町、兵庫)
1995  第10回国民文化祭・とちぎ ’95  国民文化祭実行委員会会長賞

(西那須野運動公園 栃木)
1997  第2回 荒川リバーアートコンテスト  特賞  (北区岩淵水門 東京)
1998  ヤマの男たちのモニュメント 大賞 (いわき市 福島)
1999  第10回川鉄デザインコンペ グランプリモニュメント賞

(川崎製鉄東京本社 千代田区)
2010  日本芸術センター 第2回彫刻コンクール  金賞
2011  日本芸術センター 第3回彫刻コンクール  金賞

 

◇パブリックコレクション◇
 
南砂町駅(東京都江東区)
徳島県文化の森(徳島県)
加美平公園(東京都福生市)
美ヶ原高原美術館(長野県武石村)
親水公園(東京都江東区)
多々良木芸術公園(栃木県)
フェニックス通り(福井県福井市)
西那須野運動公園(栃木県)
岩淵水門(東京都北区)
阿漕ヶ浦公園(茨城県東海村)
いわき市石炭・化石館(福島県)
小名浜市生協病院(福島県)
館林市文化会館(群馬県)
ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川県)
槙の木学園(千葉県長生郡)
長泉院付属現代彫刻美術館(東京都目黒区)
吉野川市葬祭場(徳島県吉野川市)
岡崎市美術博物館(愛知県岡崎市)