『ロストケア』(2023)
原作は葉真中顕(はまなかあき)の小説。
監督 前田哲(『こんな夜更けにバナナかよ』『老後の資金がありません!』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』『水は海に向かって流れる』他)
脚本 龍居由佳里(『四月は君の嘘』他)
音楽 原摩利彦(『流浪の月』『国宝』他)
主題歌 森山直太朗「さもありなん」
松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、柄本明、藤田弓子、井上肇、梶原善、綾戸智恵、岩谷健司、やす、他。
ケアセンター八賀の介護士斯波宗典(松山ケンイチ)は献身的なその仕事ぶりに新人の足立由紀(加藤菜津)からは憧れられ目標とされてるうえ、他スタッフや利用者の信頼も厚く評判も良い。だが、まだそんな歳でもないのに白髪頭の斯波には、何やら苦労があったのだろうという噂もある…。
ある日、利用者宅でその娘の梅田美絵(戸田菜穂)が、センター長の団元晴(井上肇)が亡くなっているのを発見する。同時に利用者である梅田美絵の父親も亡くなっていた。注射器が見つかり、他殺が考えられた。検事の大友秀美(長澤まさみ)とその部下椎名幸太(鈴鹿央士)はさっそく動き出し、団が窃盗を繰り返していたのは容易に判明した。そして斯波が現場にいたこともつきとめる。
取り調べと家宅捜索、また斯波自身の自白により、42人もの介護殺人が明らかになる。斯波はそれを救済、「ロストケア」だと言う。悪いこととは思っていない。大友と斯波の見解がぶつかりながら、利用者の遺族の思い、一般市民の正義、実は大友も認知症の母親(藤田弓子)をホームに預けていること、20年会っていなかった父親のこと、斯波の最初の介護殺人が実の父親(柄本明)であったこと、社会の片隅にもがき苦しみ必死になって生きる人々の生活や思いが綴られる…。
テーマが深く重いってのに、さらに、斯波に憧れる足立の闇堕ちはきつかった。どうにか介護職でまともに社会生活を送ろうと思っていたのかもしれないのに。若い子の理想は夢はちょっとしたことで打ち砕かれる。足立はまた浮上することは出来るのだろうか。
綾戸智恵演ずる川内タエが刑務所に入った方が生活しやすいという話をしていた。老後の金がないのは生き方の問題だろうが、人生の終盤、もう少しで終わるのに自分で終えられないから犯罪に頼る。なんという孤独か。
斯波の言葉がけっこう突き刺さる。それはおそらく誰もが思ったことがあるんじゃないか、だけど口にはできない、したことがない、だから突き刺さるのだと思う。
安全地帯にいる人間には家族の絆ときれいなことを言うが、家族のために地獄を生きてる人間にはその絆は呪縛であること、そして見えるものと見えないものがあるんじゃなくて見たいものと見たくないものがあるだけであり、見たくないものが目に止まってしまったら、罪悪感が生まれる。その罪悪感を捨ててでも人を殺すべき時がある、と言う。最後には「どうぞ僕を殺してください。どうか僕を救ってください。」と言う。呪縛に呼吸もままならない人間には死しか救いがないなんて、生きることの過酷さの現れだ。
そして、認知症の父親に苦労し時間を割かれボロボロになってたはずの梅田美絵が、法廷で斯波に向かって「人殺し!お父さんを返して!」と泣き叫ぶ。それに対してなんとも言えない表情をする斯波。 これは殺していいのは血のつながりのある者だけ、ということなのかもしれない。し、自分を正当化するために出た行動なのかもしれない。のが、悲しい。
同じく斯波に手をかけられた親を持つ洋子(坂井真紀)は辛さを受け止めているもよう。再婚が決まった年上の男性春山(やす)はその年齢差を卑下する。と、洋子は自分のことを「そんなに立派な人間じゃありません」と言う。「迷惑かけてもいいんですよ。私も迷惑かけます。きっと誰にも迷惑かけずにいれる人なんていません。」。これが親の介護に疲れた洋子の答えなのだろう。
人それぞれで正解がない。あるのは加害者と被害者遺族がいるという事実だけ。
また、大友は20年会ってなかった父の孤独死の現場に立つ。連絡が何度かあったのに無視をしたことは、斯波と自分とどう違うのか、一人で抱えるにはつらかったのか、斯波に面会に行ってそのことを話す。その一方で、認知症が進んだ母親に「私が娘で幸せだった? 」と聞く。それに「よしよし」と頭を撫でて応える母親。色んな思いが構築されては瓦解するの繰り返しで、生きていく上で大なり小なりの罪(といえるもの)は抱えているものなんだなと、これまた気落ちした。
また、斯波の父の最期の言葉が「どちらさまですか」だった。「父さん」と呼び泣きながら抱きしめニコチン注射をする斯波。そして父親の枕の下から折り鶴を発見する。半身不随だから折り紙なんて無理だと言っていたのに、赤い折り紙で折った鶴を開けば遺書がしたためてある「おまえがいてくれて幸せだった」「おれの子に生まれてくれてありがとう」。いったい親とはなんだろう、無条件で子供を愛せるのだなぁ、それは子供が親を愛する以上のものだと思った。
ラストは父親を殺った時を思い出しての斯波の表情。やはりわだかまりはあって、虚勢を張って自身の正義を保っていたのかもしれない。それが大友によって解かれ力が抜けたのかも。欲したのも手にしたのも赦しだったのかもしれない。そしてなお、この先も構築と瓦解なのだ。
かようにあれこれ考えることの多い作品だった。
松山ケンイチならではの役。役者にはその人にしかできないキャラクターというのがあるのかもしれない。 柄本明も坂井真紀も戸田菜穂も素晴らしかった。ケアセンター八賀のスタッフ猪口役峯村リエも淡々としたキャラクター、本当にうまい。
★★★★★
制作 日活、ドラゴンフライエンタテインメント
配給 東京テアトル、日活
私も両親を送った。正確には母だけ。色々思うことはあるけど、これは墓まで持っていく。ほとんどの人がそういう思いを抱えて生きていると思う。










