ウクライナ紛争後の日本医療PEST分析と戦略 | 宮沢たかひと Powered by Ameba

2月から始まったウクライナ紛争の中、第三次世界大戦が起こるか否かの瀬戸際で様々なことが頭に浮かんでいますので、整理してみたいと思います。私が過去に掲載したブログ記事URLも併記します。

 

実は私は、中学生時代、皆が中学生らしい文章を文集に載せているのに、なぜか第三次世界大戦を心配し、各国のリーダーに広い心をもって対応するよう懇願する文章を載せていました。戦中派の母(今、97歳!)から「絶対に戦争してはダメ!」と幼少期から繰り返し聞かされていた影響でしょう。変な中学生です。

https://ameblo.jp/miyazawa007/entry-11581657136.html?fbclid=IwAR1G88rBnr45Zj7unR7qIV38uon20MeE8Wsr6_M04AWd5XRl2toewyOv-T0

 

また、1989年に研究留学先のドイツでベルリンの壁崩壊を体験したこともあり、第三次世界大戦を防ぐことが国会議員になった目的の一つでもありました。ですので、21世紀になっても今回のような第二次世界大戦以来の大規模な戦争が起こっていることに困惑し、ショックを受けています。

https://ameblo.jp/miyazawa007/entry-12543852754.html

 

さて、過酷な脳神経外科医の現役を退いてから入学した経営大学院でPEST分析というものを教わりました。P: politics 政治、E: economy 経済、S: society 社会、T: technology 科学技術、それぞれについて、各時代で分析し、考察し、経営方針と戦略を決めていくことの重要性を示したものです。

 

ウクライナ紛争が始まり、世界と日本の安全保障環境が激変し日本国への侵略が現実になるかもしれない今、Politics を含むPEST分析は医療関係者にとっても極めて重要な分析手法であると思います。そこで、PEST分析に沿って今医療関係者が置かれている現状を分析し、今後の方向性と戦略を考えてみたいと思います。

 

■医療従事者にとっての P: politics 政治

 

ロシアのミサイルで破壊される街から避難する数百万人の避難民を見ると、戦争が庶民の生活と人生を簡単に破壊することが改めてわかり、虚無感を感じます。第二次世界大戦において、日本の医師は政府からの命令により当然のように戦地に送られました。

 

戦後、地震や洪水等の自然災害時に日本の医師は活躍していますが、この度のウクライナ紛争までは自国にミサイルが飛んでくる可能性を念頭に置きながら診療している医師はいなかったであろうと思います。しかし、今後の数年間、あるいは数十年間は日本国が戦地となる可能性を念頭に置きながら診療し、各地域の日常診療体制と有事体制を整えなければいけません。また、「国防としての医療」を念頭に置いた医療従事者教育システムを新たに構築すべきと思います。そうなると、各大学医療系学部のリーダー、および各地域の医師会長の戦略と行動が極めて重要になってきます。

https://ameblo.jp/miyazawa007/entry-12649578101.html

 

従来の医療政策は厚生労働省、医療従事者教育は文部科学省が主に担ってきましたが、この省庁間の壁が日本の医療政策の障害となっていた面もあります。私が勤務していた防衛医科大学校の立ち位置も微妙なものでした。上記の「国防としての医療」を実現しようとすると、当然医療政策の中身も推進スピードも改善すべきであり、医療政策を統括した「国防医療省」が必要というのが私の持論です。

 

現在のコロナ禍による補助金の増加、そして今後の防衛費増額を考えると、医療費をめぐり医療従事者と政治家・官僚との関係性も激変することと思います。かつて、大学を中心とする学術系医療従事者は補助金を提供する文部科学省官僚と、開業医を中心とする日本医師会は政治家・厚労省官僚を通じて、その時の政府と接点を持ちロビー活動をしていました。が、私が国会議員を2年間務めた印象では、各自治体や企業が陳情しているように、これからは各医療団体や各医療系大学から政治家への陳情を含めた強力な直接的働きかけが必要な時代になると思います。

 

そのような中、各医療系組織のリーダーが備えるべきは、普段からの各省庁官僚(財務省、厚労省、文科省、経産省、法務省等)とのネットワーク構築と維持です。ただ、官僚は2~3年で変わりますので、個々の人物との関係というより、各省庁のポスト(局長、課長等)と常時関係性を維持することが重要で、それには官僚に影響力を持つ政治家(与党野党問わない)との接点と関係性が重要となります。

 

■医療従事者にとっての E: economy 経済

 

最近話題となっているリフィル処方箋を例に話を進めてみたいと思います。

https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00010/012000080/?P=1

リフィル処方箋の導入は唐突でしたが、財務省からの強いプッシュにより厚労省と日本医師会が押しやられた結果だと私は理解しています。国民医療費が増加する一方なので、財務省は隙あらば唯一の聖域である医療界をターゲットにしており、今後もこのような医療関係者にとって厳しい医療政策が唐突に打ち出されることは増えてくることでしょう。

 

従来は国民皆保険制度により日本の医療制度は維持され、医療関係者の生活は保障されていましたが、労働人口減少による税収減少、高齢化による国民医療費増加、コロナ禍による補助金の増額、防衛費増額等の結果、今後診療報酬が上がることはないと考えていいでしょう。現状を維持し日本の医療を守るために、日本医師会が単独で政府と医療政策に関わる時代は終わりにして、日本病院会、大学医療界、看護業界、薬剤師会等を統括し、医療業界全体による精緻で活発なロビー活動が必要です。

 

■医療従事者にとっての S: society 社会

 

格差社会反省に伴う新しい資本主義(実態は不明)、少子化、コロナ禍、東アジア安全保障環境の悪化、防衛費増額による医療費への圧迫、AI導入によるデジタル社会の進化と失業率の増加等、多くの不確定要素が山積している世相です。最後の聖域と言われる医療界もこの世相の影響を受けることは避けられません。

 

一国民として、また医療従事者としてできることは、常に最悪の事態を念頭に準備し、可能な範囲で対応できるようにしておくことだと思います。病院等の組織では、自然災害と人的災害(ミサイル!)双方に対しての心の準備と体制準備は必須です。

 

■医療従事者にとっての T: technology 科学技術

 

8年前の国会議員時代、国家として統一された医療デジタルネットワークを構築し、医療を効率化し、総医療費削減を夢見て、既に完成された医療デジタルネットワークを持つオーストラリアを視察しましたが、その完成度に驚き、日本医療界のデジタル技術の遅れを認識しました。そして、コロナ禍でその実態は国民の知るところとなりました。今後、医療デジタルネットワークの改善が医療費削減に結びつくことが明らかとなれば、財務省から強いプッシュがあり、厚労省も日本医師会も同調せざるを得ない事態になることは時間の問題です。また、その変化に適応できるか否かで各医療機関と各医療従事者が生き残れるか否かが決まってくることでしょう。

 

以上、普段頭の中で考えていたことを、整理し、一気に書き出してみました。

 

最近、人類の歴史を左右してきた哲学への興味が再燃し、とりあえず書籍とyou-tube で勉強を再開しました。1990年代までのポストモダン思想以降、IT, SNS, AIが出現した現代に即した新たな哲学は2000年以降生まれていないことを知り、人類がまだまだ未熟で、混迷の中にあることを実感しました。医療界云々以前に、我々の子供たちや孫たちのために今何をすべきか、悶々と考える日々が続いています。