※※本稿は前回の続きです。なお最終回に「ご注意」(これからケーナを買う人へ)が入る予定です※※
前回に引き続き、私が所有はしているものの、そして各個体が高いポテンシャルを有してはいるものの、現状は実態として、あまり出番が無いケーナたちに光を当てて、それぞれの①概要・特徴と、②なぜこれまで吹く機会が少なかったのか、③久しぶりに吹いてみたらどうだったか(※)、④今後の活用の見通し――を、反省と懺悔と頭の整理とを兼ねて、一本ずつ、書き留めていく。
※別記事「3オクターブのシが出ない!問題」の時と揃えて、私が今一番苦手としている課題曲「カルナバル・グランデ」を各個体で通して吹いてみた(G管のみ)。
さて、今回ご紹介するのは、
1.J. C. ママニ J.C. Mamani のG管黒檀ケーナ ←前回紹介済み
2.アンヘル・サンペドロ・デル・リオ Angel Sanpedro del Rio のG管寄木歌口ケーナ
3.アチャ Achá のG管リグナムバイタケーナ
4.イバン・アランドレス Iván Alandres のG管バンブーケーナ
5.ワラータ工房 Walata のG管極太バンブーケーナ ←次回予定
6.ヤマハのG管カエデケーナ「QEN」 ←次回予定
7.ホルヘ・"アハユ"・ロドリゲス Jorge "Ajayu" Rodriguez のF管バンブーケーナ ←次回予定
8.レイナルド・ベガ Reynald Vega のD管バンブーケーナ ←次回予定
――である。
それでは、さっそく本題へ移ろう。
2.アンヘル・サンペドロ・デル・リオ Angel Sanpedro del Rio のG管寄木歌口ケーナ
(外径23.5、内径19、指穴最大9.5、歌口幅10、歌口穴深さ8、全長392mm)
①概要・特徴
アンヘル・サンペドロ・デル・リオは、アルゼンチンのケーナ製作者。
日本では執筆時現在で「マチュピチュ」さんが取り扱っている(執筆時現在は、スタンダードタイプのみ在庫有り)。
ボディはバンブーで、スタンダード品は普通の細身のアルゼンチンらしい外形をしたケーナだが、この作者のケーナの外観的特徴は、少しランクの高いものに顕著に現れる。
すなわち、歌口付近だけ、木製(モノによっては石製)なのだ。いわば、箱根名物の寄木細工のケーナ版である。
機能的には、バンブーボディの軽さと、木製歌口の安定感のいいとこどりを狙っているように思われる。
しかしそれ以上にデザイン的に素晴らしい。
歌口は黒檀を始めとして、数種の異なる木材をレイヤー状に重ねた、シンプルにして凝りに凝ったケーナである。
実用品というよりも、工芸品というか、もはや美術品の域にも達するかのような美しいケーナ。
こちらの動画が寄木歌口のケーナの作品例。
ケーナのほかに、モセーニョ、木製サックス、そして尺八も手掛けている。
作者のアンヘル・サンペドロ・デル・リオは、2007年にアルゼンチンの日本庭園製作者協会(…ってそんなのがあるんだ!?)にて「笛製作家における日本の影響」なる講演をしている動画もあるので、尺八には相当思い入れがあるようだ。
工房紹介のオシャレな動画も。
公式サイト「Un Mundo de Bambu(竹の世界)」はこちら(スペイン語)。
②なぜこれまで吹く機会が少なかったのか
管尻が開放(※)なためか、音が軽い(ボリビアのケーナの音色に慣れた自分からすると、少しスカスカしている印象がある)
※この個体の属するシリーズには管尻開放のものが多いようだが、スタンダード品や尺八は、竹の節の部分を管尻にしていて穴がすぼまり、音が内部で共鳴する構造になっている。
この個体には音程調整用の金属リングがあるが、そのデメリットで、頭の方が重くて、ややバランスが悪い気がする。
またこの調整管のジョイントがやや緩くて、首が抜けやすい。
なお、運指は(アルゼンチン運指ではなく)ボリビア運指のようなので、指使いに違和感は無い。
③久しぶりに吹いてみたらどうだったか
「カルナバル・グランデ」を吹いたが、やはり3オクターブのシがでなかった。嗚呼、お前もか!?
その後しばらく試行錯誤したが、やっぱり3オクターブが不安定。音が出ない確率が高い。
もちろん吹き手側の問題である可能性が大で、しばらく吹き続けたら、こなれてくるのだろうけれど。
④今後の活用の見通し
正直な感想を言えば、すくなくとも本個体は、吹くよりも見て愛でて愉しむモノのような気がする。
「音も出せる美術工芸品」と捉えておくのが、正解のような気がする。
とはいえ、この先、アルゼンチンの曲を吹くときがあれば、使ってみようかなあ。
3.アチャ Achá のG管リグナムバイタケーナ
(外径26.5、内径20.5、指穴最大12、歌口幅10、歌口穴深さ8、全長382mm)
①概要・特徴
アチャ Juan Achá Campos は、高級チャランゴの工房としてフォルクローレ界の誰もが知る超有名ブランドだが、昔からケーナも製作している。
ただ、なぜか日本にアチャのケーナの正規の取扱店は、私が知る限り、過去も今も存在していない(チャランゴは昔からファンタシアさんが正規代理店のはず。ケーナは大昔に、アンデスさん(別記事の後記参照)が不定期にごく少量取り扱っていたが、おそらくあれは個人輸入レベルだったのではなかろうか)。
よって、日本ではアチャのケーナは、ボリビア旅行した人が現地で購入して持ち帰ったものが、ごく稀にフリマサイトに出るくらいだと思う(私自身、直近4~5年で一度しか見かけたことがない)。なので、超有名ブランドなのに、ケーナは意外とレア物だ――と、ここまで書いて、もしや…と思って念のためボリビア物産品直輸入ECサイト「ボリビア・モール」を覗いたら、アチャのケーナ、ココで買えますやん。すんませんm(__)m (ただ昨今の円安の影響がドモロに出ていて、アチャのケーナに限らず、大方のお品が、昔に比べてかなりとんでもないお値段してます。そして本体価格にボリビアからの送料が別途おっかぶさります。このサイトを眺めていると、いかに日本のアンデス楽器店が辛抱強く、良心的な経営を続けておられるのかが、良~~く分かります)。
素材はリグナムバイタ(ワヤカン)材。
黒檀と同じくらいに比重が重くて硬いが、黒檀より安価なので、ケーナ好適材として良く用いられる。
切り立て・削り立てだと緑がかった色合いをしているのも特徴。それが年を経ると段々と飴色っぽくなってくるのも、趣き深い。
ちなみにどうでもいいことだが、「アチャ Achá」は、アクセントが後ろにあり、「あちゃー💦、やってもーたわー😢」と叫ぶときのように、アチャー↗と発音する。
本ブログでは、スペイン語入力に切り替えるのがいつも面倒で(特有のキー配列も覚えていないので)、ついアクセント記号や「エニェ Ñ」のニョロニョロを省略してしまいがちだが、今後なるべく肝心なところでは、スペイン語正書法に準拠した表記を心がけたい。
②なぜこれまで吹く機会が少なかったのか
いまよく吹いているケーナたちとの比較で、僅かに吹きづらさを感じたから。
全体的に丁寧な造りをしており、ぱっと見た感じは非常に良い。実際、決して悪くないケーナではあるのだが…。
具体的には、本個体は私にとって、3オクターブのミを出す時に、少しクセがあり、息を当てる角度を変える必要があった。
それから、歌口側が少しだけ肉薄すぎる(外径が細い割に内径が広い)気がして、何となく違和感が残った。
いかに天下のアチャとは言えども、やはりチャランゴと比べると、ケーナにおいては圧倒的な優位性は無い、ということだろう。
③久しぶりに吹いてみたらどうだったか
「カルナバル・グランデ」、問題なく吹けた。
さらに色々吹いてみたが、上で言っている3オクターブのミも特に問題なくキレイに出せた。あっれえ!? ←そこは「あちゃ~!😵」言うとこやろがーww
特に文句を付けるべき点が無い。ピッチも非常に正確(なお今回、全個体を3オクターブまでチューナーで図ってみたが、誰も音痴はいなかった)。
つまり総合的に優秀。
④今後の活用の見通し
木製ケーナを吹きたいときには、十分選択肢に入ってくる。
ただこの個体でないと出せない味わい、というのが現時点では特に思い浮かばない。
もし将来、自分がアチャのチャランゴを弾けるようになった暁には、ケーナもアチャで合わせてみたいかな。
でも現状、私はチャランゴのコードを3つしか押さえられません(^^;) だいぶ先の話になるでしょうね。
4.イバン・アランドレス Iván Alandres のG管バンブーケーナ
(外径26、内径18.5、指穴最大12.5、歌口幅10、歌口穴深さ10、全長384mm)
①概要・特徴
イバン・アランドレスは、演奏家(人気デュオ、トゥパイ Tupayのサポートメンバー??、ごめんなさい分かりません。たぶんコチャバンバ系のグループで演奏している/いた人)で、ボリビア第三の都市にして「音楽の都」とも称されるコチャバンバに店を構える楽器製作者。
昔、東京・大阪の楽器店の「コチャバンバ」さんが比較的長期間にわたり取り扱っていたと記憶しているが、今は扱っていない模様。
このケーナ以外に、サンポーニャ(2列9×10管のバンブー製マルタ)が現在私の手元にあるが、いずれも、いかにもボリビアの楽器らしい武骨さが感じられる。
②なぜこれまで吹く機会が少なかったのか
私にとっては、かなりキョーレツなツンデレ仕様だから。
パッと見は、ボリビアのケーナとしては標準的な感じで、クセが無さそうだったのと、付属のアワイヨ古布のケースが立派だったので、半分それ目当てで入手(その古布ケースは別記事「ケーナケース博覧会」に出展中である)。
しかし、私の眼は節穴でした。_| ̄|○ 届いて口にしてみたら、めっちゃクセ強な個体だった。
ストライクゾーンが狭く、たまに当たれば(デレれば)とても良い音色を出すが、大方ハズレで、そうなるとウンともスンとも言ってくれずツンツンであるw
別記事で大木岩夫さんのケーナを紹介した際、少し引き合いに出したが、歌口裏側の掘り込みが幅広のU字型なのと、歌口穴が深いため、スイートスポットに息が当たりにくいのではなかろうか(「当たり」判定がかなりシビアである)。
③久しぶりに吹いてみたらどうだったか
やっぱりツンデレww 「カルナバル・グランデ」吹くとかいう以前に、そもそも音さえ思うように出せない。
なんで急にご機嫌ナナメに(音が出なく)なんねんな~❢ ワイ、何か気に障ることしたかー!?
全然わからへん~。
……が、ずーっと格闘していて、まったく手ごたえがなく、半ば諦めて、ヤケのやんパチで、まるで初めてケーナを吹こうとして音が出せない人のように(失礼)、唇の形を丸めてほっぺたを膨らませて、上アゴを出し気味、下アゴひっこめ気味で、ぷぅ~っ、と息を吹き込んでみたら、なんと立て続けに綺麗な音が出たので、ビックリ。
ええええええええーーーーーー!!!! こんなんで(が)エエのォ~~????????
ケーナと言うよりはサンポーニャを吹くときの口の構え方に近い。「トゥッ、トゥッー」ではなく、「トー、トー」、もっと言えばフクロウみたいに「ホー、ホー」。これで音が出る(これでないと音が出ない)摩訶不思議仕様。
まさかそれはないだろう!?と思って、何度も試したが、どうもこの個体はそれで(それが)良いらしい。
逆に昔の古典的なケーナ入門書に書いてあるように、唇の両端を引っ張って唇を薄くして吹こうとするとテキメンに音が出ない。
私の所属する同好会を指導して下さっている、プロのビエントス奏者の菅沼ユタカ先生によれば(先生の教えに対する私の理解が間違っていなければ)、昔の入門書の吹き方では薄くて張り詰めた音色になってしまいがちで、あまりよろしくない、という。
むしろ無理に唇を左右に引っ張らず、口腔内の空間を広く、縦に丸く確保するイメージを持ちながら「トゥッ、トゥッー」と吹くのが、現代の(そして日本人の顔や頭蓋骨の形状にフィットした)ケーナの音の出し方なのだそうだ。
その話を思い出だしたが、この個体の場合はさらに極端に「ホー、ホー」でも(あるいはそれが)良いらしい。
そして、それ以外は基本受け付けない。一体、なんなん、それw
サンポーニャ奏者が自分の吹きやすいように作ったケーナ、ってことなのかなあ?? 分からん。。
単なる(激しめの)個体差なのか、それともアランドレスのケーナ全般の特徴なのか、もしこの先、アランドレスのケーナを愛用している人と出会うことがあったら、ぜひ確かめたい。
で、やっと「カルナバル・グランデ」が吹けるには吹けたのだが、やっぱり吹くときの口の形の整え方が他のケーナと違い過ぎて、当方の戸惑いが大きい。
この個体専用の口の作り方をしないと、コンスタントに音が出ないようだ。
このケーナにしてみれば「アタシのことだけを見てくれなきゃ、イヤっ!!」ってことなんだろうか。
④今後の活用の見通し
ようやくこの個体の攻略の糸口を掴めた気がする。しかし、まだ端緒に過ぎない。
相性もあるのだろうが、上述のように、基本的に非常にクセが強い個体(口の構え方ホーホー原理主義者)のようだ。
ただ、上に記したように、教えられることが多いのも事実だ。いやーーーー、なんだかとてもいい勉強になりました。
まずは、ときどき口に当ててみて、デレてくれる率を測って、その上昇でもって自分の上達具合を確かめる感じだろうか。
音色は良いので、このコがいつか完全にデレてくれる日が、今から待ち遠しい←キモっw
■■20240710追記■■
上のアランドレスの個体に関して、今日、先生による同好会の指導日だったので、先生に本器を試して頂いたら、「ホーホー」でもなく、先生がいつもおっしゃっている現代ケーナを吹く口の形で、何ら問題なくボリビアケーナらしい音色を奏でた。
でも、私がその口の形を意識して吹いても、やはり上手く鳴ってくれない。。_| ̄|○
やはり、音が鳴らないのは、ケーナのせいではなくて吹き手の技量の問題だった。
まだまだ修行が足りないなあ。。
――と、長くなったので、今回はいったんここまで。
次回が最終回(残り4本の紹介と、注意書き)の予定です。
どうぞ、よろしくお付き合いくださいませm(__)m■