いくらオバマ大統領がイランとの交渉で合意に至っても、後にアメリカ議会がひっくり返す可能性があるのではないかという懸念を前回のブログで紹介しました。

ちょうど『ナショナル・インタレスト』誌のサイトにこの問題についての記事が出ていたので紹介したいと思います。

オバマ大統領は合衆国憲法を専門とする弁護士であり、当然イランとの合意がうまくいっても後に議会に反古にされる可能性を知らないわけがありません。

そこで彼はなるべくアメリカ議会に関与させない方法をとっているのです。

具体的にいえば、現在イランとの交渉はアメリカ単独で行っておらず、安全保障理事国とドイツ(P5+1)という枠組みで交渉しています。

つまりイランとの合意は国連の常任理事国のマターになり、国連の決議としてイランとの合意が遂行されるわけです。

では国連の決議だけでイランに対する経済制裁を解除させることができるかといえば、この記事によれば無理みたいです。

私が最も重要だと思われる部分を意訳してみます。

Moreover, if the purpose of using the Security Council is truly to tie the hands of a future president and Congress who may view the Iranian regime and its geo-political ambitions differently, it will not work. However binding Security Council resolutions may be on the international level, they are not “treaties” and the UN Charter – which is – is not self-executing. Thus, although the U.S. might be in violation of its international obligations, as a matter of domestic law, the president must still obtain congressional assent before he can lawfully lift statutory sanctions against Iran.

http://nationalinterest.org/feature/obamas-security-council-gambit-12421?page=2

「もしも安全保障理事会を用いることでイランに対する見解が異なる未来の大統領と議会を拘束できるものと考えているなら、そのようには働かないだろう。いかに国連決議が国際社会のレベルで拘束力があるとしても国連決議は条約ではないから議会の承認は必要ないが、国連憲章自体が条約であるために議会の承認が必要であるという意味で国連決議が自動的に執行されるわけではない。だからアメリカは国際的な義務を破るかもしれないが、国内法として大統領はイランに対する経済制裁を解除するためにはやはり議会の同意を得なければならない。」
(この翻訳はわかりにくいので、一応英文も載せときます。)

やはり経済制裁を解除するためには議会の承認は必要みたいです。

ただここで深刻な問題が発生します。

イランと安全保障常任理事国との間で合意ができイランがそれに従ったと仮定してみます。

そこで、イランに対してある程度の経済制裁を解除することが国連で許されることになります。

しかしこの記事が示すように国連での合意はそのまま執行されるのではなくアメリカ議会の決議が必要なわけです。

そんな時にアメリカ議会が否決してしまったらどうするのでしょうか。英文でalthough the U.S. might be in violation of its international obligationsと書いてある部分です。つまりアメリカが最初に国連で決議されたイランとの合意を破ってしまうということです。

そうなればイランは合意違反と主張して核開発を再開させ、アメリカが爆撃を始めるというシナリオがありえます。

ここでの問題は、イランとアメリカのどちらかが悪いというのではなく、国連の決議をアメリカの国内事情でひっくり返して戦争が始まったことで、国連の権威が地に堕ちるこになるということです。

オバマ大統領はなるべく議会の関与を少なくするために、安全保障常任理事国を利用することにしたのですが、その結果国連の権威を台無しにする可能性があるのです。

ブッシュ大統領のイラク戦争は国連の決議を経ないで行われたことで批判を浴びましたが、イランとの戦争はアメリカが国連の決議に違反して始まるおそれがあります。

率直に言って、今のアメリカは本当にそれをしそうで私は不安な気持ちを拭いきれません
イスラエルのネタニヤフ首相やアメリカの共和党議員の主張は、イランに対して一切の核の濃縮は認められず、それを達成するためにさらなる経済制裁を強いるというものです。

この議論が生まれる背景には国際社会のイランに対する経済制裁がイランを話し合いの席につかせることができたという信念があるようです。

ただ、イランが経済制裁を受けている間に核開発が著しく進歩した点について一様に沈黙を守っていることは気にかかるところです。

さて、イランをさらなる経済制裁で屈服させるという命題は正しいのでしょうか。

実は戦前の日本に対してこれと同じことを主張していたアメリカ人がいました。

それはスタンリー・ホーンベックというアメリカの東アジア政策に多大な影響力のある国務省の役人で日本に対して経済制裁で屈服させることができると考えていました。

一方このホーンベックのやり方に反対なのが駐日大使のジョセフ・グルーでした。彼は「日本は『腹切り国家』として辱めを受けるより国家的自殺を選ぶだろう」と経済制裁で屈服するという予測を否定してどうにか日米の交渉で問題の解決を目指しました。

特に近衛文麿首相がルーズベルト大統領と直接交渉を望んだ時に誰よりも努力したのがグルーだったのです。ただ残念ながらグルーの努力はルーズベルト大統領によって黙殺されてしまいます。

つまり現在のイランの核問題について、交渉で解決しようというグルーの立場をオバマ大統領がとっているのに対してホーンベックのやり方を踏襲しているのが共和党議員やネタニヤフ首相なのです。

どちらのやり方に希望があるかは自明でしょう。

ただいくらオバマ大統領がグルー駐日大使と同じ立場であっても、後で議会がひっくり返す可能性があるというミードの論考は正しいと思われるので、私自身も全然楽観的になれないのです。
今日は『アメリカン・インタレスト』のサイトに載っていたウォルター・ラッセル・ミードの論考について書いてみたいと思います。

以前のこのブログで共和党の上院議員47人がイランに対して公開書簡を発表したことを書きました。

ミードはこのことについては批判的なものの、イランとの交渉に共和党議員を入れないのは不合理だと主張します。なぜなら合意の結果を履行するにはどうしても議会の力は必要だからです。

そして彼は次のような例を示しています。

「ウィルソン大統領がヴェルサイユ条約を交渉する時に共和党上院議員の代表を排除したことが大統領の歴史的な失敗につながった」

ウィルソン大統領は第一次世界大戦の後に国際連盟を構想したのですが、反対多数でアメリカは自分が作ったものに参加できないという大失態を演じたのです。

だからミードは共和党の上院議員を排除することは将来せっかく作った合意を議会にひっくり返される可能性があるので共和党の議員の意見を取り入れなければいけないというのです。

実は私もオバマ大統領の外交路線に楽観視できないのもミードが指摘するように議会がひっくり返す可能性があるからです。

ちなみにウッドロー・ウィルソン大統領もオバマ大統領と同じで民主党出身の大統領でした。

ミードはこの論考の中で、現在イランと交渉を行っている国連の常任理事国とドイツ以外にイスラエル、サウジアラビアと米国議会を加えろと主張しています。

しかしながらイスラエル、サウジアラビア、アメリカ議会を加えると問題がややこしくなることは避けられません。

彼らを交渉に加えるとイランに対して軍事用、民生用にかかわらず一切の核の濃縮は禁止されるべきであり、イランがそれに従うまで経済制裁を強化するというものになる可能性が大です。

イランはそのような提案に応じる可能性があるのでしょうか。甚だ疑問です。

この章続く。