国際関係アナリストの北野さんが『ダイヤモンド・オンライン』で日本がペルシャ湾の防衛に参加することが必要かどうかの議論において、第一次世界大戦の日本の態度について書かれておられるのでそれについて批判してみたいと思います。

https://diamond.jp/articles/-/209301

 

北野さんは『日本がイギリスの陸軍派遣要請を断り、日英同盟破棄の原因をつくった』と書いておられます。

 

これは元をたどれば外務官僚だった故・岡崎久彦氏が言い出したことで日本が第一次世界大戦で地上軍を送っていればイギリスが日英同盟を破棄することはなかっただろうという仮説を提示したものだったのですが、私はこの考えに否定的です。

 

なぜなら、イギリスが日英同盟を破棄した最大の理由はアメリカが日英同盟に強固に反対していたからでした。

 

第一次世界対戦はイギリスがその帝国の存続をアメリカの協力によって切り抜けようと考えた結果でした。

 

後にイギリスの首相になるチャーチルも「日英同盟に対するアメリカの強い反発を忘れるべきではないと忠告し、同盟継続に反対した」とアントニー・ベストは『大英帝国の親日派』という本に書いています。

 

だから日本の陸軍が第一次大戦で陸軍を派遣し、その過酷な塹壕戦で多大な犠牲者を出しても、アメリカが日英同盟に反対している以上、イギリスは日英同盟を破棄したでしょう。

 

それとも日本が第一次世界大戦に陸軍を派遣して多大な犠牲を払ったならば、アメリカの反対を押し切ってイギリスが日英同盟を存続して、後のspecial relationshipを破壊したでしょうか?

 

そもそも故・岡崎久彦氏がなぜ第一次世界大戦で地上軍を送ればよかったなどと言い出したのは、北野さんと同じような動機で、日本が集団的自衛権を行使しなければアメリカが日米安保を破棄するのではないかという懸念からでした。

 

北野さんも日本がペルシャ湾での防衛に協力しなければ、アメリカが日米安保を破棄するかもしれないと思っているのかもしれません。

 

私は日本がペルシャ湾でアメリカに協力しようかどうかに関わらず、アメリカは日米安保が重荷になったら破棄すると思っているので、日本はペルシャ湾の自衛隊の派遣は純粋に日本の国益に照らして考えれば良いと思っています。

 

ちなみに現在のペルシャ湾元での緊張はトランプ大統領が一方的にイランとの核合意を破ったことに背景があるので、アメリカが有志連合を語るのは筋が違っています。

先日ケネス・ポラックがイランにおいて、強硬派と穏健派が存在し、アメリカの立場はイランの穏健派の立場を強めるものでなければならないという意見を書きましたが、今回はそれに真っ向から反対しているエリ・レイクというブルーンバーグのコラムニストの意見を紹介しようと思います。

 

彼は、はっきりとは書きませんが、内心ではすぐにでもイランを爆撃したいのではないかと思われるような文章を多量に書いています。その彼が、イランにおいて強硬派と穏健派を分けることに意味はほとんどなく、みんな強硬派と目的は一致しているのだと強調しています。

 

https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-07-09/iran-s-reform-movement-died-20-years-ago-this-week?srnd=opinion

 

「あなたはしばしば、イランにおいて『穏健派』や『改革派』の意味は西側での使い方とはかなり異なるという警告を受けたことがあるだろう。それにもかかわらず、その言葉はワシントンの外交エスタブリッシュメントの夢の追求の基本となっているものだ。『あなたがイランの体制を尊重して扱ったら、それは改革派を支持することになるのだ』と。」

 

果たしてイランの中で、穏健派と強硬派の対立は本当に存在するのでしょうか?

 

70年前の日本に関する議論もこれとほとんど同じことが行われていました。

 

前回のイギリスのクレーギー駐日大使が日本の穏健派の立場を強めなければならないと主張したことを紹介しましたが、これはアメリカの駐日大使、ジョセフ・グルーの立場と同じものでした。

 

これに真っ向から対立するものが、駐日大使館員のジョージ・サンソムでした。

 

「サンソムは日本での長い経験から穏健派なるものが存在していたとしても、急進派とはその手段を異にするだけで目的は同じであるとし、しかも穏健派なるものは規模も小さく政策的な影響力もないとした。この見解は、イギリス外務省の極東部にもアメリカ国務省の極東担当顧問のスタンレー・ホーンベックにも共有されている考えであった。」

『大英帝国の親日派』アントニー・ベスト77ページ

 

つまりイランに対するケネス・ポラックとエリ・レイクの対立は戦前の日本に対するイギリスでのロバート・クレーギーとジョージ・サンソムやアメリカでのジョセフ・グルーとスタンレー・ホーンベックの意見の対立とほとんど同じものだったのです。

 

これはどちらかが正しかったかは明らかで、戦後アメリカが日本を占領している時代に首相に選んだのは幣原喜重郎や吉田茂といった戦前に穏健派の代表と呼ばれる人達でした。

 

だから戦前の日本と同じような構造を持つ現代のイランが強硬派と穏健派に分かれて激しく対立していても不思議ではないのです。

 

オバマ大統領はイランと核合意を結ぶという戦前の対日政策で言えばジョセフ・グルー路線を追求したのですが、トランプ政権は核合意から離脱し、穏健派のザリフ外相に制裁をかけるというクソも味噌も一緒くたにしたスタンレー・ホーンベック路線に戻ってしまったのです。

 

これで本当にイランの問題が平和的に解決するとは私には思えません。

トランプ大統領がイランとの合意を一方的に破棄した結果、イランの指導者であるハネメイ師の権威が低下して、革命防衛隊の跳ね上がりがタンカーに爆弾を仕掛けたりしているのではないかと推測しましたが、あながち間違っていなかったようです。

 

NHKニュースから引用します。

 

米機撃墜「イラン指導部は了承せずの情報で報復攻撃中止」

2019年7月9日17時31分

先月、アメリカの無人偵察機がイランに撃墜された事件をめぐって、撃墜はイラン指導部の了承をえずに行われたとの情報をアメリカ政府が把握し、これが報復攻撃を中止した決定の背景にあったとアメリカ軍の元高官が明らかにしました。

トランプ大統領は、先月アメリカの無人偵察機を撃墜したイランへの報復攻撃を一度は決めたものの、多くの犠牲者が出ることから直前に中止したことを明らかにしています。

 

これについてアメリカ軍の元高官で、トランプ大統領から二度にわたり国防長官のポストを打診されるなど、今も安全保障問題などについて大統領から相談を受けているというジャック・キーン氏が、NHKの取材に応じ、撃墜はイラン指導部が意図したものではなかったという機密情報が、当日、大統領に伝えられていたと明らかにしました。

 

この中でキーン氏は「イランの最高指導者のハメネイ師もロウハニ大統領も指導部は撃墜を了承していなかった。それどころか撃墜を知って、指導部は動揺した。犠牲者の数と合わせたこの2つの情報によって、トランプ氏は決定を翻した」と述べました。

 

このときの無人偵察機の撃墜をめぐっては、アメリカの報復攻撃が回避された形ですが、キーン氏は今後の双方の出方次第では攻撃の応酬となり、本格的な軍事衝突のリスクが高まりかねないと指摘しています。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190709/k10011987731000.html

 

ケンブリッジ大学のドミニク・リーベン教授はビスマルク憲法の弊害として、中心が空になってしまうことを危惧していましたが、イランの革命防衛隊が日本の帝国陸軍のようになってしまっているようです。