ここで簡単におさらいしてみます。

 

ジョージ・フリードマンは新刊『静けさの前の嵐』の中でアメリカにおいて80年ごとに革命的な変化を遂げる波があると書いています。

 

彼はその変化をInstitutional Change と書いているのですが、これは直訳すれば制度的変化になりますが、ある理由から私は国体的変化と訳してみました。その理由はまた別の機会に書いてみたいと思います。

 

アメリカが第2次大戦に勝利した1945年を起点として、ちょうど80年前には南北戦争(1861-1865)が終了した年に当たります。そしてそれを遡ることおよそ80年前の1776年にはアメリカがイギリスからの独立を宣言した年になるのです。

 

この80年周期の波はフリードマンが示したもう一つの50年周期の社会経済的変化(Socioeconomic Change)よりも重要度ははるかに高いと私は考えています。

 

なにしろ独立宣言を行う以前のアメリカはイギリスの植民地だったわけですし、南北戦争が終了した後ではアメリカは分裂を免れ、中央集権が急速に進み、それまでの独立度の高かった州の権力が連邦に吸い上げられるようになりました。

 

そして、第2次大戦後のアメリカはそれ以前持っていた孤立主義的な要素を完全に消失させ、冷戦を戦うために日本やドイツに米軍を駐留させるような変貌を遂げることになったのです。

 

1945年から80年後のアメリカはもうすぐです。その時にアメリカはどのようになっているかについてフリードマンの結論はこうです。

 

「成熟(maturity)は帝国の基礎であり、アメリカはそれを獲得する必要がある。」

 

私は彼の結論には全く賛成できません。なぜそのようなことが言えるかといえば、彼の主張する80年周期の波は日本にも適用ができ、日本の将来のあり方から逆にアメリカの進む方向が予測できるからです。

 

日本の場合も1945年が起点になりますが、アメリカの立場と正反対でアメリカに戦争で負けて占領され、明治憲法から平和憲法へ強制的に変えられました。

 

敗戦の80年前の1865年はちょうど明治維新のど真ん中でこの年の2年後の1867年に大政奉還がおこなわれます。

 

つまり日本でも江戸幕府から明治政府に代わる明治維新が行われてから80年後に明治憲法から現在の憲法に変わるという革命的な変化が起きているのです。

 

ただ、アメリカの80年周期の変化と日本のそれを比べた場合に一つだけ全く異なる点があって、日本の変化の場合にはアメリカが多大な影響を及ぼしているということです。

 

続く

冷戦後のアメリカは、少しの期間を除いて継続的に戦争を続けてきましたが、それによって世界が安定してきたとはとても言えません。

 

フリードマンもそのことをしっかり認識しています。だからこそ次のように書いたりしているのです。

 

「成熟した国家戦略は紛争を最小限にとどめるものである、なぜなら150もの国に米軍を駐留させることで終わりのない紛争を抱える可能性があり、戦争はしばしば敵によって始められるからである。」

 

アメリカが終わりの無い戦争をし続けているのは、アメリカが「帝国」を維持し続けようとしているからで、これ以上の戦争を避けるにはアメリカが「帝国」を放棄する必要があるのですが、彼はそのようには書かないのです。

 

私は以前からフリードマンの言論に注目してきました。彼の祖先は東欧に住んでいたユダヤ系で、ヒトラーとスターリンに翻弄された後にようやくアメリカに安息の地を見つけたと彼の以前に書いていた本で読んだ覚えがあります。ある種ネオコンと似たところが存在し、アメリカの軍事力を無条件に善であると考えてしまうところがあるのです。

 

そこで、現在のアメリカの外交がうまくいかなくても、「成熟」したアメリカの外交戦略があれば、アメリカはこれからも日本やその他150の国々に米軍を駐留させても不必要な戦争に巻き込まれることにはならないはずだと信じているのです。

 

私は全くそうは思いません。

 

彼の指摘する80年や50年で巡る周期についてはその分析は素晴らしいと思いますし、おそらくは正しいでしょう。

 

しかし次にアメリカに訪れる、特に80年周期の波は、彼の主張とは正反対にアメリカが帝国を放棄するように動くものと私は予想します。

 

次回からはその理由を書いてみたいと思います。

さてフリードマンが指摘したアメリカを支配する2つの波が交錯する2020年から2030年にかけてどのような新しいアメリカが現れてくるのかを期待を込めて読み進めていったのですが、結論はとてもがっかりするものでした。

 

そのことを説明する前に彼がこの本の後半部分で指摘した現代アメリカが抱えるいくつかの問題について書いておきます。

 

教育の問題ではアメリカの大学の学費が高騰し、ハーバード大学では寮費などを入れれば年間に900万円も必要になるそうです。州立大学でも年間200万円以上かかるので、どうしてもローン返済に追われることになるのです。若者にあれだけサンダースの支持者が多いのかが理解できます。

 

またフリードマンは現代を専門知識を持ったテクノクラートの時代と認識し、こういう人たちが行政を行なうと全体を総合的に見る力を失って、本当に政治の力を必要としている国民の助けにはなっていないと厳しく批判しています。

 

そしていよいよアメリカの外交問題について彼は書いていくのですが、冒頭に私が書いたように彼の結論は全く納得がいきませんでした。彼は次のように書いています。

 

「アメリカの直面する世界的なチャレンジは、われわれが発展させた循環的なプロセスを通して継続的に強められた力、富、革新が存在する国民のもとで、アメリカ帝国を維持し続けることができる政策を作ることである。」

 

あれだけ、50年や80年の波を強調してアメリカの変化をさんざん書いておいて、外交ではこれまで通りやっていくのですと言われてもなかなか納得できるものではありません。

 

次回はなぜフリードマンがこんな納得のいかない答えを出したのかを考えてみます。