小野寺典子(青山学院大学文学部英米文学科・教授)

日時:2021年10月21日(木)16:30-18:00
場所:Zoom開催
演題:『「発話のはじめと終わり:語用論的調節のなされる場所」(2017)より』

 10月21日に、青山学院大学文学部英米文学科にご所属の小野寺典子先生がZoomでご講演をしてくださいました。
 今回のご講演では、語用論的調節・文法化の具体例と、語用論の談話分析のアプローチの周辺部研究について拝聴させていただきました。
 ご講演の前半では、名詞「こと」が実質的名詞から、文法化を経て形式名詞となり、機能語の役割を担い、さらに主観化と間主観化を経て最終的に間接的命令を表す終助詞に変えたという具体例から、語用論的調節・文法化のプロセスについて伺いました。
 ご講演の後半では、周辺部、および周辺部に多くあらわれる談話標識についてご説明くださいました。周辺部は順番、発話、節のはじめと終わりを指します。中心的メッセージの前後に様々な言語形式が談話標識として、注意喚起、呼びかけおよび間主観的働きかけなどの機能を果たしています。東アジアの言語の周辺部の言語形式の使用についてまだ十分分析されていなく、談話研究に残る課題が多いとご指摘をされました。最後に、談話標識の文法化と伝統的な文法化との比較を伺いました。
 質疑応答の時間でご講演の内容についてお答えくださったほかに、修士論文執筆についても貴重なアドバイスをお聞かせくださいました。
 コロナ禍の今、オンライン講演のご要望に応じていただき、参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

≪主な御著書≫
『歴史語用論入門―過去のコミュニケーションを復元する』大修館書店、2011年
『発話のはじめと終わり—語用論的調節のなされる場所』ひつじ書房、2017年
 『歴史語用論の方法』ひつじ書房、2018年

添付:当日のポスター、講演中の写真1枚

 

清水崇文先生(上智大学言語教育研究センター/大学院言語科学研究科・教授)

日時:2021年07月25日(日)13:00-14:30

場所:Zoom開催

演題:「学習者のコミュニケーション能力を伸ばす「語用論的指導」」

 

 7月25日に、上智大学言語教育研究センター/上智大学大学院言語科学研究科にご所属の清水崇文先生がZoomでご講演してくださいました。

今回のご講演では、日本語教育におけるコミュニケーション能力、語用論的指導を中心に大変興味深い知見を拝聴することができました。

 ご講演の前半では、日本語教育の目標(学習者が日本語で「コミュニケーション言語活動」ができるようになること)から、コミュニケーションに必要となる構造と運用(語用論)の知識について伺いました。また、従来の日本語教育には構造重視という問題点があり、運用重視へ転移すべきとご説明いただきました。日常のコミュニケーションでは、「情報のやりとり」だけではなく、「対人関係の調整」も必要となってくるということから、「対人関係の調整」を果たせるようになることを目標にした授業(および語用論的指導)の重要性を伺いました。

 ご講演の後半では、指導の5つのポイント(①意図の伝達と相手への配慮のバランスを意識させる、②形式と機能と社会的・状況的文脈の関係に対する気づきの機会を与える、③教師の説明などによりメタ語用論的情報を提供する、④具体的な社会的・状況的文脈の中でコミュニカティブな運用練習を行う、⑤発話の適切さに対するフィードバック(否定証拠)を与える)についてご説明くださいました。具体的な会話例及び語用論的失敗のエピソードも紹介してくださいました。最後は、語用論的選択は学習者のアイデンティティに関わるとのことの大切さを伺いました。今後の実践授業などで取り入れていきたいと思います。

 コロナ禍の今、オンライン講演の要望に応じていただき、また参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

 

 

≪主な御著書≫

『日本語教師のための日常会話力がグーンとアップする雑談指導のススメ』西郷英樹・清水崇文、凡人社、2018年

『コミュニケーション能力を伸ばす授業づくり 日本語教師のための語用論的指導の手引き』スリーエーネットワーク、2018年

『中間言語語用論概論 : 第二言語学習者の語用論的能力の使用・習得・教育 』スリーエーネットワーク、2009年

 

 

添付:当日のポスター、講演中の写真1枚

 

 

石黒圭先生(国立国語研究所教授、一橋大学大学院言語社会研究科教授)

日時:2021年07月15日(木)15:00-16:30

場所:Zoom開催

演題:「中国人日本語学習者の文章理解における意味推測のストラテジー—指導の改善方法を考える—」

 

  7月15日に、国立国語研究所・一橋大学大学院言語社会研究科にご所属の石黒圭先生がZoomでご講演くださいました。

今回のご講演では、多義語における固有名詞のお話から始まり、読解力における推測能力、語彙理解における4種の手がかり、語義推測の指導法について大変興味深い知見を拝聴することができました。

ご講演では、「日本語非母語話者の読解コーパス」を紹介してくださり、読む活動における中国人学習者と日本人の視線を可視化することによって、それぞれの読み方の異なりが一目瞭然になる研究の手法およびその成果について伺いました。また、語義推測について、当該の語自体から得られる語彙的手がかり(①派生的手がかり②語構成的手がかり③表意的手がかり④表音的手がかり)、当該の語の前後の文脈から考える構造的手がかり(⑤連語的手がかり⑥統語的手がかり⑦共起的手がかり⑧関係的手がかり)について詳しくご説明してくださいました。

学習者の読解力に必要な語彙力は、語彙の量だけではなく、語義を推測する能力であると分かり、日本語教育指導上の要点として知っておくべきだと勉強になりました。

 コロナ禍の今、オンライン講演の要望に応じていただき、また参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

 

 

≪主な御著書≫

『リモートワークの日本語 : 最新オンライン仕事術』小学館、2020年

『段落論 : 日本語の「わかりやすさ」の決め手 』光文社、2020年

『語彙力を鍛える 量と質を高めるトレーニング』光文社、2016年

『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』日本実業出版社、2012年

 

 

 

添付:当日のポスター、講演中の写真1枚

 

 

高梨克也先生(滋賀県立大学人間文化学部・教授)

日時:2021年01月21日(木)16:30-18:00

場所:Zoom開催

使用する書籍:高梨克也(2016)『基礎から分かる会話コミュニケーションの分析法』ナカニシヤ出版

 

 1月21日に、滋賀県立大学の高梨克也先生がZoomでご講演くださいました。

 今回のゲストセッションは、高梨先生のご著書を中心にディスカッションする形式で行うことを、小林先生と高梨先生からご提案いただきました。そこで、書籍を事前に講読できる学生のみで、高梨先生のセッションは開催することになりました。参加者全員は今回使用する書籍を事前に読み、第4章(マルチモダリティ:発話と非言語行動の共起)・第5章(多人数会話と参与構造)・第6章(成員カテゴリー:参与者の会話内での社会的属性)を中心に質問を考えました。全員が考えた質問と主な関心を高梨先生に事前に送りし、当日はこの3つの章および参加者の質問に基づきご講義と質疑応答が展開されました。

 

【高梨先生にお伝えした主な関心】(番号は添付pdf「ゼミ生の関心・質問」を参照)

●マルチモーダル研究と「視線」の関係について

●実際の文字化作業・分析について

 (例:言語行動と共起する非言語行動の正確なタイミングの記述、意図的に規則から外れた会話(⑥)、隣接ペアの「質問―回答」「依頼―承諾」の付与の仕方など)

●具体的なキーワードそのものについて

 (「side-participant」と「bystander」について、「強境界」「絶対境界」「弱境界」の違いについて)

●オンラインと対面でのコミュニケーションの違いについて

 (例:オーバーラップ(⑤)など)

●成員カテゴリーと「性格」の関連性について

●第5章「二者間バイアスからの脱出が実際に起こっている事例」について

●他言語での共通性について

 (例:発話交替におけるストラテジーや視線の向け方など)

 

 質疑応答では、参加者たちの疑問に対して、私たちにも分かりやすい具体的なエピソードを踏まえながらご丁寧にご説明いただき、且つ、終了時間を過ぎてまでお時間をいただき、非常に多くのことを学ばせていただきました。会話分析では「規則から外れた時どう修復するのか」に着目する姿勢が大事というお話や、特に発話交替では「話し手の肩の上に乗っているような視点で」分析を行うことが必要であるといったお話など、頂いた貴重なお話を録画と共に振り返りながら、実際に会話分析を行っていく際に心掛けていきたく存じます。

 コロナの影響で対面授業、講演などが行えない中、オンライン講演の要望に応じていただき、本当にありがとうございました。

 

≪主な御著書≫

『多職種チームで展示をつくる―日本科学未来館「アナグラのうた」ができるまで』

編著,ひつじ書房,2018年

『基礎から分かる会話コミュニケーションの分析法』ナカニシヤ出版,2016年

『多人数インタラクションの分析手法』坊農真弓・高梨克也共編,オーム社,2009年

 

添付:講演中の写真1枚、参加者の集合写真、「ゼミ生の関心・質問」

 

 

 

小柳かおる先生(上智大学言語教育研究センター/大学院言語科学研究科・教授)

日時:2021年01月21日(木)14:45-16:15

場所:Zoom開催

演題:「言語習得における記憶の役割―学習条件・個人差との相互作用」

 

 1月21日に、上智大学言語教育研究センター/大学院言語科学研究科ご所属の小柳かおる先生がZoomでご講演くださいました。

 今回のご講演では、「認知的アプローチによる第二言語習得(SLA)研究」のお話から始まり、記憶のプロセス、記憶の働きと個人差、言語適性の生得性について、大変興味深い知見を拝聴することができました。

 ご講演の前半では、記憶の分類、インプット処理と記憶の面から、認知的アプローチによる第二言語習得研究は教室指導との関係性について伺いました。明示的学習と暗示的学習を中心にご説明いただきました。また、記憶の分類における作動記憶(WM:working memory)の役割(未知情報と既知情報を結びつける言語学習の作業場)について伺いました。

 ご講演の後半では、記憶と言語学習メカニズム、および言語適性の構成要素についてお話しくださいました。その中で、音韻的短期記憶(Phonological Short-Term Memory: PSTM)について私たちにとって特に勉強になり、言語学習における音韻処理能力の重要性に気付くことができました。その後、心理学分野で開発された音韻処理のテスト(Comprehensive Test of Phonological Processing:CTOPP)のサンプルも拝聴することができました。最後は、年齢、第一言語能力、訓練可能性という3つの方面から言語適性についてご説明いただきました。

 コロナ禍の今、オンライン講演の要望に応じていただき、また我々院生に大きな学びを与えてくださり、非常に感激しました。

 

 

≪主な御著書≫

『第二言語習得について日本語教師が知っておくべきこと』くろしお出版,2020年

『第二言語習得の普遍性と個別性:学習メカニズム・個人差から教授法へ』小柳かおる・向山陽子,くろしお出版,2018年

『認知的アプローチから見た第二言語習得:日本語の文法習得と教室指導の効果』小柳かおる・峯布由紀,くろしお出版,2016年

 

 

添付:当日のポスター、講演中の写真1枚、参加者の集合写真