感度と特異度は、感染検査に於ける精度を評価するための指標で、値が低い場合には様々な問題を引き起こすために正しく把握することが大切であるし、その意味をよく理解しておく必要がある。ところが、マスコミのコメンテータやMCの発言を見ていると、感度と特異度の定義を曖昧にしか理解していない、或いは間違って理解している様子なども散見されるので、自分なりにまとめておく。
そもそも感度という言葉は、ラジオなどの受信能力などでもよく使われる言葉なのでイメージしやすいが、特異度という言葉は医学用語でもあるので、一般的にはあまり聞かない。すくなくとも、今回の新型コロナウイルス騒動で初めて聞く言葉である人も多いと思う。恐らくコメンテータも同様なのだろう。だから誤解しているきらいがある。
感度とは、「本当に陽性である人を陽性と判断する確率」のことで、100%が望ましい。これを別の言い方で言えば「偽陰性が低い」ことであり、即ち本当の陽性を見逃さないということだ。偽陰性というのは、本当は陽性であるにも拘らず陰性と判定することである。感度が低いことによる弊害は、感染者をすべて判定し切れず、感染者の保護や隔離の弊害が生じることである。
感度が高い: 偽陰性が低く、陽性者を正しく陽性と判定できる。
感度が低い: 偽陰性が高く、本当は陽性にも拘らず陰性と判定され、
陽性者が隔離できない。
特異度は、本当の陰性の人を陰性と判断する確率のことで、100%が望ましい。これを別の言い方で言えば偽陽性が低いこと。偽陽性というのは、本当は陰性であるにも拘らず陽性と判定することである。特異度が低いことによる弊害は、陽性ではない陰性者まで隔離させてしまったり、それによって医療崩壊を引き起こす可能性があるということだ。
特異度が高い: 偽陽性が低く、陰性者を正しく陰性と判定できる。
特異度が低い: 偽陽性が高く、本当は陰性にも拘らず陽性と判定され、
無駄な隔離が行われる。
ここで、具体的に感度と特異度による精度を求めてみる。
例(1):
母数: 10万人
感染率: 0.1%
感度: 99%
特異度: 97%
この検査を受けて陽性と出た場合、本当に感染しているという確率を求める。
真陽性: 100,000x0.001x0.99=99(人)
偽陽性: (100,000-100,000x0.001)x(1-0.97)=2,997(人)
従って、
真陽性/(真陽性+偽陽性)=99/(99+2,997)=0.0319(=3.2%)
結果、感染率0.1%という数字が、陽性判定を受けた後の感染確率は3.2%へと上昇していることが分かる。この感染率を事前確率、陽性判定を受けた後の感染確率を事後確率と呼ぶ。この例の様に、ある情報が得られると確率が変わることに注意が必要だ。
念の為、もう一つ例を挙げる。
例(2):
母数: 100 万人
感染率: 0.01%
感度: 98%
特異度: 80%
この検査を受けて陽性と出た場合、本当に感染している確率を求める。
真陽性: 1,000,000x0.0001x0.98=98(人)
偽陽性: (1,000,000-1,000,000x0.0001)x(1-0.8)=199,980(人)
従って、
真陽性/(真陽性+偽陽性)=98/(98+199,980)=0.00048(=0.05%)
結果、感染率0.01%という数字が、陽性判定を受けた後の感染確率は0.05%へと上昇。
これらを一般化してみると次のようになる。
母数: a
感染率: b
感度: c
特異度: d
陽性判定後の陽性率=abc/(abc+(a-ab)(1-d))
先の例(1)で見ると、
a: 100,000
b: 0.001
c: 0.99
d: 0.97
abc=100,000x0.001x0.99=99
ab=1,000,000x0.0001=100
これから、
陽性率=99/(99+(100,000-100)x(1-0.97)= 99/(99+(99,900x0.03)=0.032 (=3.2%)
先の例(2)で見ると、
a: 1,000,000
b: 0.0001
c: 0.98
d: 0.80
abc=1,000,000x0.0001x0.98=98
ab=1,000,000x0.0001=100
これから、
陽性率=98/(98+(1,000,000-100)x(1-0.80)= 98/(98+(999,900x0.2)=0.00049 (=0.05%)
これをさらに一般化すると、abc/(abc+(a-ab)(1-d))=bc/(bc+(1-b)(1-d))
となる。このようにすれば、母数に依存しない次の様な式となり、計算が簡素化できる。
または、
(感染率 x 感度)/((感染率 x 感度)+(非感染率 x (1-特異度)))
この計算式で用いる数字はすべて%の値なので、そのまま代入できる。
先の例(1)では感染率0.1%、感度99%、そして特異度97%としたので、これ等を代入すると、
(0.1x99)/((0.1x99)+(100‐0.1)x(100‐97))であるから、検査後の陽性感染率0.0319(3.2%)が得られ、最初に計算した値と同じ値となる。
また、感染率0.01%、感度98%、そして特異度80%の例(2)では
(0.01x98)/((0.01x98)+(100‐0.01)x(100‐80))であるから0.000489となり、例(2)で示す値と同じとなる。
これは単純計算で求まるので、エクセルを用いて自動計算出来る様にした。ブログにアクティブなエクセルの表を貼り付けることが出来ないのが残念だが、こんな感じのものだ。
これを用いて感度や特異度などを変えてみると、陽性判定された後の陽性確率が感度、特異度などで大きく変わることが理解できる。
従って闇雲に検査を増やしても、検査自体の精度を高めないと感染者を市中に開放してしまったり、或いは逆に不必要な隔離によって病床が満杯になる危険性があることを理解しておくべきだろう。もちろん感染率が変わっても陽性確率が変わり、次の様になる(すべて%の値)。この表に示されるように、感染率が高いほど、また感度や特異度が高いほど陽性判定を受けた時の陽性確率は高い値となるのだが、感度よりも特異度の方が陽性確率に与える影響は大きいことが興味深い。
感染率
0.1
1.0
1.0
1.0
感度
99
99
90
99
特異度
98
98
98
90
陽性確率
4.72
33.33
31.25
9.09
この結果は、日本臨床検査医学会による資料にあるグラフと一致する。
出典:https://www.jslm.org/books/guideline/2018/04.pdf
素人考え的には、感度の高い検査で陽性と出たのだから、陽性なんだろうと考えても不思議ではないのだが、よく考えてみれば、特異度が低いということは、即ち偽陽性が大きい、つまり陽性判定者の中には陰性の人が多く含まれるということになるから、確かに検査の信憑性には疑問が大きい。
この様に感度や特異度以外に正確な感染率を把握することも必要となるのだが、それを知るためには検査を増やす必要があるという矛盾も、頭が痛い点ではあると思われる。