春から夏にかけてヒラヒラと舞う、アカボシゴマダラという大型の蝶がいる。この蝶、白と黒のくっきりとしたストライブ模様の下に赤い点を打つという、相当におしゃれなデザインの翅の蝶であるが、この蝶はだれかが国内に放蝶して住み着いてしまったという、日本に居てはいけない蝶なのだ。このことに就いては2012年のブログに記載した。
https://ameblo.jp/millimeter-wave/entry-11399616079.html
上の写真は埼玉県北本自然公園内の近くで撮影したアカボシゴマダラなのだが、皮肉なことに同公園でこの蝶に対する警戒が表示されている。
自然学習センターにある掲示板によると、国内で本蝶が発見されたのは1995年、埼玉県浦和市の秋ヶ瀬公園とのことなので、まだ20年少し程度なのだが、繁殖は著しい様だ。実際、2012年に小生がこのブログに投稿した当時はまだそれほど見かけなかったのだが、この数年はいつでもどこでもに見かけるようになっている。別に、それだけのことであったら、大きな問題ではないのだが、最大の問題は、この蝶が国内の蝶をどんどん駆逐しつつあるということなのだ。
では、どのような蝶が駆逐されているのか。それはなんと我が国の国蝶であるオオムラサキだという。幼虫の食草であるクヌギの取り合いによるらしいのだが、その他、ゴマダラチョウやテングチョウなども駆逐されつつあるというから事態は深刻である。
同様に外来種に駆逐されるケースとして、昔からよく騒がれているブラックバスの台頭などが挙げらえるが、水の中を離れることはない魚類に対し、蝶は空中を舞う(漂う)ので、その拡散の速度は甚だしく早い。実際、2012年に投稿したころよりも、現在の方が圧倒的に目撃する機会が多くなっている。かつては河川敷でみられる程度だったのだが、最近は民家が密集しているところでも普遍的に見られるようにもなっており、その繁殖力には驚くばかりだ。逆に云えば、確かにゴマダラチョウなど全く見ることはなくなっている。
さて、実は先日、拙宅の近くの道端でうずくまっているこのアカボシゴマダラがいた。見るとどうやら羽化に失敗したらしく、まともに飛ぶことができず力尽きて地面に落ちてしまった様だった。小生、以前別の投稿にも書いたことなのだが、こういう瀕死状態の昆虫を見ると、子供の頃の悪行を悔いたせいで、そのまま通り過ぎ来ることが出来ない。
https://ameblo.jp/millimeter-wave/entry-12067894853.html
なので取り急ぎ拾い上げ、そのまま自宅へと連れてきてリンゴジュースを呑ませた。そうして数日が過ぎてだいぶ元気になり、翅もはっきりしてきて、ほぼ飛ぶことが出来る様にはなってきたのだが、なにせ先に書いたような立場にある蝶なので、元気になったからと言って自然に戻すことは出来ないのだ。
この子には何の罪もない。しかし、「日本にいてはいけない」この蝶を、再び自然の中へと解き放すことは許されないのである。
次に示すのは環境省による特定外来生物一覧(平成30年4月1日更新)の表で、この昆虫項目の筆頭に書かれているのが、まさにこのアカボシゴマダラだ。
ここに書いてあるQ&Aの注釈から一部を抜粋する。
Q8 : 特定外来生物を見つけたら?
見つけた特定外来生物を生きたまま許可無く運搬することはできないことから、不用意に捕まえず、まずはその場所の管理者や行政機関に相談することをお勧めします。ただし、特定外来生物を捕まえてしまった場合でも、その場ですぐ放すのであれば問題ありません。見つけた特定外来生物を駆除したい場合は、Q10をご参照下さい。
Q10: 特定外来生物の駆除を行いたい
特定外来生物の駆除については、鳥獣保護法で捕獲が規制されている哺乳類と鳥類を除いて、だれもが自由に行うことが出来ます。ただし、特定外来生物を生きたまま他の場所に運んでしまうことは規制されています。
これをアカボシゴマダラに当てはめると、そのままにしておくか、捕らえた後にその場で放すか駆除しても良いが、駆除せずに他の場所へと移動することは規制されるということになる。これを拡大解釈すれば、「捉えて看取るまで外に出さないということであればお咎めなし」ということになるわけだ。
つまり、捕らえた以上、たとえ元気になって自然に帰れる様になっても、シャバへ出ることは許されないということにもなる。何度も言うが、この子に罪はない。放蝶したやつが悪い。
そんな悲劇的な運命を背負ったこの子だが、そうして朝夕、ジュースを与えているうちに、もう一か月が経ち、家の中での生活に慣れたのか諦めたのか、もうこんな具合に手乗りになっている。
https://www.youtube.com/watch?v=Aee12UxlTn8&feature=youtu.be
これまでこれほど近接して観察する機会がなかったので、口吻でアップルジュースとかグレープジュース、野菜ジュース、皿にはスポーツドリンクなどを呑んでいる姿を拡大鏡でみていると、色々なことが分かってくる。
蝶類の成虫の寿命はせいぜい数か月が限度だから、それまではこうやって面倒みておいてあげるつもりである。