福岡「オペラ座の怪人」千秋楽の
余韻がまだ残る中ですが
SNSで見かけて興味を持った
映画を観てきました。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は
なんだかこういうの久しぶりな
アメリカ産のSF映画です。
主人公はライアン・ゴスリング演じるグレース。
優秀な科学者だったけど、
トラブルで業界を追われ
今は中学校の教師として働いています。
が、突如太陽エネルギーを食べてしまう
謎の生命体「アストロファージ」が出現。
グレースの専門分野が近かったため
政府の呼び出しを受けて
この人類の危機に、たった一人で
挑むことになる…というお話です。
タイトルの
「ヘイル・メアリー」は
アベ・マリアの英語読みで
もう他に打つ手が無くて
奇跡を願う最後の策みたいな
意味合いらしいです。
日本語だと神頼みとか
一か八か、って感じでしょうか。
原作は人気小説だそうで、
私は前知識がないままに行ったので
途中から
「こういう方向性の映画だったのかー」と
ちょっとビックリ。
※このあとネタバレありの感想です。
目的地が遠いため、昏睡状態で乗船した
グレースですが、目覚めると
自分以外の乗員は原因不明のまま死亡。
もちろんショックを受けるけど
彼は科学者としての知識を
生かして考え、行動していきます。
と同時に、一時的に失われていた
乗船までの記憶が
少しずつ戻ってくるので
映画では現在と過去が変わりばんこに
登場して、観客もだんだんと
事実を知るという展開が面白い。
グレースたちの宇宙船は
片道分しか燃料を積んでおらず
人類を救う「なにか」を見つけて
小型のカプセルで地球に送ったら
自分で安楽死を選ぶことに。
もし方法が見つからなくても
そのまま宇宙で孤独な死を迎える
運命しかないんです。
この種の映画としては珍しく
グレースには地球で待つ
家族や恋人はいません。
30代ぐらいの設定みたいだから
親兄弟はいるかもしれないけど
映画としては友人も含めて
そのへん完全に無視。
じゃあ、そういう心残りがなければ
人類のために、成功率が極めて低そうな
作戦に自分の命をささげられるのか?
英雄好きなアメリカ映画らしく
普通なら志高く勇敢な主人公、と
なるところでしょうが
グレースは自分のことを
何度も
「自分は臆病だ」と言います。
徐々に過去の記憶が戻る中で
一人でウオッカを飲み、
一人で人形と踊って
「誰のために死ぬのか」と
ホワイトボードに書いて
孤独と恐怖、絶望に
苦悩というか苦悶するグレース。
それでも持ち前の知的好奇心が
徐々に彼の運命を変えていきます。
で、その切り札として
登場するのが
なんと
未知の生命体。
グレースと同じく
自分の故郷を救うために
宇宙船でやってきた存在が
いたというわけ。
このエイリアンというか
岩石でできた蜘蛛みたいな
五本足の生命体が
グレースの相棒として
一緒にアストロファージの
謎に挑むことになります。
この映画って
ファーストコンタクトもの
だったのかー!!
というのが、冒頭に書いた
私の驚き。
グレースが生命体に
「ロッキー」という
名前をつけ、PCを通じて会話して
互いを知り、やがて友情を抱く。
途中でロッキーに
「自分は地球に帰れない。
使命を果たしたら死ぬことになるけど
それに納得してる」と話すとき
ロッキーから
そういうのは君たちの言葉で
なんというのか?と聞かれて
「勇敢(brave)」と言わずに
「まぬけ」みたいな返事をする場面が
ありました。
その後、ロッキーとの仲が深まり
地球に帰れるよう燃料を
分けてあげると言われた後
ホントは死ぬことを納得なんてしてない、
自分は勇敢なんかじゃないと
涙を流して本音で話すんだけど、
ここがこれまでの
自己犠牲を美化しがちな
ヒーローものとは違うし
大事なテーマなんじゃないかな。
結局、最後に取り戻した地球の記憶でも
グレースが乗船したのは
無理やり注射で眠らされた
結果だったのがわかってきます。
(グレースを犠牲にするのが最初から
計画されてたわけではなく、
志願していた乗員の事故死が発端ですが)
志願して乗船する人はともかく
人類のためにと言われても
自分は宇宙飛行士じゃないし
臆病だから無理、ノーと言ってるのに
無理やり宇宙船に乗せられるって
一種の死刑宣告なわけで
そりゃつらいよね。
グレースが独身だからいいとか
そんな問題じゃない。
でも、専門家のグレースを宇宙に送る以外
地球を救える可能性がないのだから、と
政府のえらいさん達は
考えたってことです。
グレースも究極の状況下で
仕方ないと思いつつ、やっぱり
怒りとか悲しみ、絶望を抱えてる。
だから自分と同じく宇宙船で
唯一生き残ってしまい
それでも孤独にこつこつと
研究しているロッキーに
心を寄せるのは当然。
(ただロッキーは自分の星に
帰れる予定だけどね)
でも、なによりも
グレースのことを
「きみは死なないで。生きて。」と
願ってくれる
ロッキーの気持ちが
一番嬉しかったんだよね。
そんなこんなで
グレースとロッキーは
技術者と科学者としての
コンビになり
アストロファージの天敵を見つけて
苦労しながら採取します。
このへんの映像が
幻想的ですごく綺麗。
思わずその色の美しさに
グレースが見とれてしまうのも
納得。
ロッキーは視覚のない生命体で
コウモリみたいに
反響でものを把握するから
ここでキョトンとするのが
細かい描写だなー。
さて
人類を救う希望は見い出したし
グレースはロッキーから
地球までの燃料を分けてもらえて
穏やかにさよならを言って
双方ハッピーエンド…と思ったら
そうはいかないところが
この作品の面白いところでした。
普通ならもう一波乱あっても
主人公は地球に帰るんだろうけど
ロッキーの命が危ないことを
知ったグレースは
地球に帰ることをあきらめ
ロッキーのもとへ戻ります。
戻る前に、採取した
「マクロファージの天敵」を
ビートルズのポールとかリンゴとか
名前をつけた4機のカプセルで
地球へ送るのが
いかにもアメリカ映画っぽい。
劇中でもビートルズの曲が流れたり
有名な映画「未知との遭遇」「ロッキー」
などのオマージュが出てくるのが
映画好きにはくすっと笑えるポイントです。
ロッキーはCGではなく実際に
パペットを作って動かし、声も
人形操演者さんが当てているんだそう。
SFというよりファンタジーっぽい雰囲気が出ると
シリアス味には欠けるけど、この映画は
なんとかそのぎりぎり境目を
攻めたんじゃないでしょうか。
登場人物が少ない上に、宇宙パートでは
ヒトはライアン・ゴスリングだけだけど
グレースとしての表情の繊細さや
軽妙で柔軟な人柄が
すごく魅力的。
ラストシーン、数年後のグレースが
ロッキーの星で
子供たちの教師になっているという結末も
原作小説の通りだそうで
明るくてホッとするムードが良かった。
地球は彼らの送った「天敵」のおかげで
太陽の光を取り戻しつつあるし
グレースは地球に帰ることも
できそうだけど、
どういう未来を彼が
選ぶのか、それはきっと
「幸せ」をどう考えるかによるんだよね。
IMAXとか大スクリーンを
前提にした作品なので
映像もすごく綺麗だったけど
ただ正直言って3時間近い上映時間は
ちょっと長いなあ。
舞台と違って休憩がないなら
せめてもう20分くらい短くしてほしい。
その点を除けば
予想を裏切る展開で
なかなか面白い作品でした。








