「ライフ・オブ・パイ」ナショナル・シアター・ライブ | きみcomブログ

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猫とミュージカルと英国が大好き。

5月26日から映画館での上映が始まった

ナショナルシアターライブの

「ライフ・オブ・パイ」を観てきました。

 

 

10年ぐらい前に映画になったので

タイトルだけは知っていたのですが

原作小説も未体験。

まったくの初見でした。

 

 

この作品は1970年代を舞台に

インド人の少年・パイが

家族とともにカナダに渡ろうとした

日本船籍の船が沈没。

 

たった一人の生存者として

ベンガルトラとともに

200日以上を生き抜いた体験を

語るお話です。

 

 

当初の予想とは全く違う物語でしたが

結果、すごく良かった!

 

 

映画ではCGをしっかり使用した

トラの映像が印象的ですが

この舞台では動物は大きなパペットが使われています。

 

 

冒頭はパイの父親が経営する動物園の場面なので

トラはもちろんのこと、

シマウマ、オランウータン、ハイエナ、ヤギなど

数人がかりで動かすパペットで一杯。

 

 

パペット好き、動物好きとしては

これだけでも興味深いのですが

作品のテーマが伝わるにつれて

さらにぐいぐい引き込まれました。

 

 

序盤はパイの両親、姉や周辺の人間関係が

紹介される中、ヒンズー教、イスラム教、

キリスト教の指導者がパイを取り合う場面が

全体のテーマを表していて面白い。

 

 

どの宗教を選ぶか、ということは

何を信じるかを選ぶということ。

 

 

大きな海難事故の生存者として

調査員(日本人運輸省の役人という設定で

ちょっとウケる)に語るパイの物語に

つながっていきます。

 

 

それに舞台が動物園になり、

病室になり、漂流する海の上になる

映像と音の演出が素晴らしい!

 

 

映画独自の良さももちろんあるけど

想像力をかきたてる演劇のマジックに

ひたる幸せを存分に味わえました。

 

 

この先、ネタバレあります。

ご注意。

 

 

 

 

 

 

 

映画の予告編でもそうですが

この作品は

漂流するボートに

少年とトラが乗っているシーンが

印象的ですよね。

 

 

パイの体験談では

シマウマやオランウータン、ハイエナも

ボートに乗ってきます。

 

 

これらは

パイが語る言葉を表した場面ではありますが

それが真実だったのかどうかはまた別。

 

 

やがて人を食べる島やトラとの会話なんかも出てきて

飢えによる幻覚だけとは言い切れないほど

意外な展開に。

 

 

なので2幕後半、調査員がパイに

「あなたの話は全くありえなくて調査にならない。

ちゃんと真実を語ってください!」

と迫ります。

 

 

しばし無言ののち

それにこたえて

パイが語りだす

もうひとつの物語は

動物がまったく出てきません。

 

 

それどころか

ボートに乗り合わせた人たちが

殺し合いをするショッキングな内容。

 

 

ケガがもとで

死んだ船員はフランス人コックに料理され、

やがてパイの母がコックに殺され、

パイがコックを殺す。

 

 

10代のパイが味わった体験の重さと

生き残った「ベンガルトラ」は彼自身なのだと

腑に落ちるあたりから

本当のテーマが見えてきます。

 

 

人にはなぜ

宗教、神、信じるものが必要なのか。

 

 

なぜ、神話や物語が必要なのか。

 

 

ラスト近く、

パイが調査員に尋ねます。

 

「どちらのストーリーがいい?

 

動物が出てくる方と

出てこない方。」

 

 

 

信じたいものを

人は

信じる。

 

 

 

ラストシーンで

調査員の報告書が

タイプライターの音とともに

舞台に現れます。

 

 

四角四面のように見えた

調査員の彼の人間味が

「ベンガルトラと一緒にいた」の文字に

滲みでてよかったなあ。

 

 

つまり、

パイのストーリーから

「動物がいる方」を選んだんですね。

 

 

 

それはあまりにも辛く凄惨で

過酷な日々を生き

家も家族もなにもかも失った

パイの願いだったから。

 

 

 

 

休憩時間に

演出家さんらのミニトークがあって

 

なにを観客に持って帰ってもらいたいですか?

という問いに

 

「良い夜だったと思ってもらえると嬉しい。

笑ったり泣いたり感じたり」

 

と仰っていました。

 

 

まさにそんな感じです。

 

正しいとか正しくないとか

面白い、面白くないとか

ひとことでは表せない。

 

 

テーマは重いけれど

パペットや演技の妙で

ショッキングなシーンだけにとらわれず

本質だけが

浮き上がる演出がすごい。

 

 

上映は1週間で短いので

ぜひぜひ早く、とオススメします。

 

 

英国オリヴィエ賞受賞も

大納得の作品でした。