歌野 晶午
女王様と私

勝手に採点 ☆☆


オタク・引きこもり中年が偶然美少女の小学生と

知り合い、高い食事をおごらされるなど、奴隷の

ようにあしらわれる。


しかし、彼女の友人が次々と殺害され、身に危険

が迫ったことから、彼に対して心を開き、頼りに

するようになるが・・・。


「葉桜」同様、読者をだまし討ちにしてはいけない。


ストーリーの大部分が単なる妄想でした・・・、

チャンチャンではとても納得いくものではない。


確かに、途中で種明かしはされているものの、

妄想でのストーリーが自分勝手であるうえ、ラスト

にかけて納得感ある説明がなされていない。


なんだか、まとまりがなくなってしまって投げ出した

感が否めない。


冒頭部分のチンピラと思わせながら女子小学生、

若いオタクと思いきや中年オヤジだった意外性

が台無し。


もっと正攻法・王道で迫る本格ミステリーを期待したい。

青木 和雄, 吉富 多美
ハッピーバースデー

勝手に採点 ☆☆☆☆☆


母親と兄から言葉の暴力や無視など、精神的

な虐待を受け続け、言葉を失った小学生のあすか。


祖父母の深い愛情と豊かな自然に育まれ、徐々に

本来の自分を取り戻し、強く大きく成長を遂げる。


教師や友人たちまでもが彼女に感化され、信頼

や希望、勇気を与えられ、遂には家族との和解

を果たしていく。


彼女を傷つけていた兄や父母が容易に変説して

いく様に違和感を覚えるものの、それを補って余り

ある爽やかな感動。


子を持つ親として、子供の自尊心、やる気を阻害

していないか身につまされる。


こちらが躾と思って話しかけていることも、彼らの

心の成長に悪影響を及ぼす可能性が否定できない。


それでも、お互いぶつかり合いながら成長していけ

ば、健全な関係が保たれると思う。


あすかと母親の間には押し付ける一方的なルール

しか存在せず、愛情が欠如していた。


この物語のそれぞれのエピソードに秘められた、

実在する子供たちの悲しみ、絶望、悲嘆を考えると

胸が締め付けられる。

大石 圭
1303号室

勝手に採点 ☆☆☆


海の見える風光明媚などこにでもあるマンション。


しかし、その1303号室に入居した若い女性たちが、

次々と投身自殺を図った!


自殺の原因は? その部屋に隠された秘密とは!?


表紙を見てもお分かりのように一言でいうと

「マンション版貞子」


そのビデオを見ると必ず死ぬをぱくって、その部屋に住むと

必ず死んでしまう。


それも呪い殺されるような生易しいものではなく、物理的に

突き落とされる、もしくは引きずりおろされるイメージ。


ここまで来ると、さすがに怨霊がそこまでできるかという

疑問が沸々と湧いてくる。


おまけに遺品のイアリングを通じて、マンション以外の場所

にも出没できるなど、まさに神出鬼没。


母の自殺からたどった悲惨で異常な最後は、目を背けたく

なるほど気持ちの悪い描写のオンパレード。


蛆虫、死体、腐臭などなど。


ただ、理屈は必要ないのがオカルト・ホラーのお約束だろうが、

そこまで深い怨念が残る理由が今ひとつピンとこない。


それと最後までその存在が良く分からないのが、虐待を受けて

いる美少女。彼女は誰?死神?

横山 秀夫
震度0

勝手に採点 ☆☆☆☆☆


数千名の陣容を誇るN県警警察本部。

その幹部である警務課長が突然の失踪・・・。


不祥事が暴露することをおそれ、本部長をはじめ、県警

最高幹部たちがいがみ合い、対立し、不信の度を強め

ていく。


隠された失踪の理由とはいったい何か。


待望の横山氏の警察長編もの。


さすが期待に違わず、圧倒的迫力とリアリティ、複雑な

人間関係に吸い込まれていく。


本部長、警備部長、刑事部長などそれぞれの視点から

テンポ良く描かれ、彼らの苦悩が浮き彫りに。


おなじみのキャリアVSノンキャリアの対立に、彼らの奥様

方の生き様を重ねていくあたりはお見事。


切った張ったの逮捕劇とは無縁の警察を舞台とした人間

ドラマに人生における幸福の意味を改めて考えさせられる。

石田 衣良
東京DOLL

勝手に採点 ☆☆☆


孤高の天才ゲームクリエーターMG。


深夜のコンビニで出会った美少女ヨリに触発され、

新たなゲーム開発に乗り出す。











一方、彼が所属する会社が大手の買収攻勢に

晒され、存亡の危機に陥る。












生身の少女をフィギアのように弄ぶ三流エロ小説と

話題のM&Aを中途半端に絡め、良いとこ取りを狙った

意図がいやらしい。












おまけに頻繁に登場する車や服、時計に家具など、

ブランド品のオンパレード。




そこまで固有名詞を並べる必要がどこに!?












まさか実際に買っちゃったことをいいことに、取材費

という名目で必要経費として落とそうという作者の魂胆か。












それと最も気になるのが知らぬ間に会社の株式が勝手

に売買されている点。












非公開会社なら通常譲渡制限が付けられているはず。

取締役会の承認は一体どうした。











それを社長と主人公の二人の役員が知らないなんて。



とはいえ、とってもうらやましいばかりのアーバンライフ。

一度でいいから、金の価値を確かめるために散財して

みたいもの。

市川 拓司
世界中が雨だったら

勝手に採点 ☆☆☆


いずれも死と密接に絡んだ猟奇的ともいえる中篇集。


美貌の同級生に隠された秘密、いじめられっ子の弟が実行した

復讐劇、気弱な青年が犯した大罪と危険な逃避行。


「いま、会いにいきます」のイメージで入っていくと、とんでもない

ドンデン返しを食らってしまう。


深い絶望の淵に微かな希望の光が射すようなストーリーで、

死体が絡む話題が多いので後味は決して良くない。


「乙一」テイストにかなり似通っている印象。


そんな中でも「琥珀の中に」は、彼女の目的は何だったのか、

また、彼の心境を考えるとなかなか余韻に浸れる作品。


一方、表題にもなっている「世界中が雨だったら」は意外性・斬新

さに乏しく、いじめを苦に自殺する少年の最後を淡々と描いている。


実際にはネクロフィリアっぽい題材で生々しいはずだが、幻想的な

悪夢を見ているようなマイルドさに落ち着いているのが救いか。

松岡 圭祐
ミッキーマウスの憂鬱

勝手に採点 ☆☆☆☆


東京ディズニーランドに準社員として派遣された後藤は、

夢と希望に燃えていた。


「ビソーブ」という聞きなれない部署に配属されるが、やる気が

空回りして、周りから浮いた存在に。


そんなとき、ミッキーが誘拐される!?大事件が勃発する。


やっぱり読まない方が良かったかな。というのが第一印象。

夢は夢のまま現実を知らない方が幸せで楽しめる。


それでも、その現実は一読に値する。


夢と魔法の王国を支える人々の複雑な人間関係やアトラクション

運営の困難さ、会社組織での階級意識など赤裸々に描かれている。


なかでも滑稽なほどに思えてしまうのが「ミッキーマウス」。


ランドでは、れっきとした生き物であるスターとして華やかに扱われる

反面、それを演じる演技者、共演者の間には葛藤や反目も存在する。


かなりシリアスな現実を描き、なるほどと思わせる前半部分に比べ、

後半のミッキー捜索劇は安っぽいドラマ仕立てに。


特に調査部と称する連中を悪玉に仕立て、会社幹部まで巻き込んだ

ラストは、「水戸黄門」か!と突っ込みたくなる。


新米キャスト後藤の成長を人間関係やアトラクション運営と密接に絡

め、落ち着いたストーリーに仕立てた方が、前半部分のリアルさが生

かされるはず。


それでも、ディズニーランドで働くキャストの苦労と彼らの笑顔を作り出

すために転嫁された入場料、商品の価格の高さもなんだか納得。

浅田 次郎
椿山課長の七日間

勝手に採点 ☆☆☆


デパート勤務で婦人服売り場を担当する椿山課長46歳。


遅まきながら出世を果たし、美人の奥さんと一人息子、それに一戸建

てのマイホームを得て、忙しいながらも恵まれた人生だったが・・・。


彼を襲った悲劇は過労死。

あまりに未練を残した彼は、全く別人の肉体を借りて現世にもどるが・・・。


死んでしまった人たちが最後まで不憫でどうもすっきりしない。

もやもやとしたわだかまりが最後まで取れなかった。


あの世からこの世に一時的に戻って、未練を果たすという設定自体は

最近の流行で新鮮味なし。


一緒に戻った子供の生い立ち、気持ちなど、泣かせる浅田節は健在なも

のの、せっかく戻った世界で知ってしまう悲しすぎる現実。


それも大半が前半部分で判明し、最後までひっくり返ることもない。


同じサラリーマン、子を持つ親として同情してしまうし、なんとも物悲しい。

ここにスカッとする仕掛けが欲しいところ。


それともうひとつすっきりしないのが彼のお父さんの最後。

ここまで盛り上げてそれはないだろう。


あまりに可哀想な結末にあっけに取られたほど。

伊坂 幸太郎
死神の精度

勝手に採点 ☆☆☆☆


人間が死に値するのか調査をする音楽好きの死神。


彼が下す「可」か「不可」の判断によって人の命が左右される。

仕事に几帳面な死神が担当になった人間の生活を通して感じ

たものは何か。


まず、設定が面白い。

この死神が介在できる死はいわゆる不慮の事故だけ。


病死や老衰などにはタッチできないらしい。


主人公の死神はお馴染みの不気味なスタイルではなく、ごく

普通の一般人のような外見。


食事も睡眠も必要ないが、怪しまれるので食べたり眠ったりする。


調査もしないで「可」を下す同僚が多い中、彼は職務に忠実にある

ときは注意深く観察し、またあるときは生活をともにして密着する。


短編形式で描かれる物語は、意外性のあるものやミステリーチック

なもの、ハートウォーミングなものまでバラエティ豊か。


伊坂作品の特徴である仙台を舞台にした話も織り込まれ、全く飽き

させることがない。


この独特な雰囲気を醸し出す彼の作風は他人にまねのできない

稀有なもの。


クールなのに人情的、カッコいいのにユーモラス。

この憎めない死神はホントに身の回りにいるかもしれない。

グレイス ペイリー, Grace Paley, 村上 春樹
最後の瞬間のすごく大きな変化

勝手に採点 


40年間でたった三冊の短編小説集の出版で年を追うごとに

文名を上げ、全米に熱狂的ともいえる女性読者を抱える著者

の代表作。訳者はあの村上春樹。


読後の第一印象は「キッツー!!!」


これほどまでに読了に時間を要し、途中で何度も辞めたくなった

小説はない!


その理由は、難解な文章構成。


特に著者をモチーフに家族や起こった出来事を語る「フェイスもの」


いったい誰が何のことを話しているのか分からず、象徴的な比喩

のオンパレードによって混迷の度を深めていく。


著者が長編小説を書かなかったのは良かった!?


しかし、村上春樹のあとがきは一読の価値あり。

これで大いに救われた。


確かにこの原文を日本語訳するのは至難の業のはず。


アメリカの大学で教鞭をとった彼でさえ、彼女の朗読会を聞いて

内容が理解できないとは。


あとがきでは、彼が「不思議な中毒性」があると公言するグレイス

ペイリーの作品を訳したくなった理由がなんとなく伝わってくる。


だが、活字離れの進む日本人が彼女の文章を読みこなすのは

ちょっと不可能。