アイアン・メイデンの14作目「ア・マター・オブ・ライフ・アンド・デス~戦記」です。勝手な邦題はアーティストにとって迷惑だと批判を浴びることもありますから、こうして原題に並記する形で邦題をつけるのは一つのアイデアですね。本作品では各楽曲の邦題も同じ形です。

 本作品はメイデン史上最もプログレッシブ・ロック寄りだと言われています。実際、スティーヴ・ハリスもこの作品は従来の自分たちよりも重くてかつプログレッシブだと述べています。そのプログレも1970年代のプログレ全盛期のそれだとのことです。

 プログレは一般名詞ですから、さまざまな場面で使われますけれども、ロックにおいてはやはり70年代の英国プログレを指して使いたい。本作品はその私にも分かりやすくプログレです。ただ、どのタイプのプログレかといえば難しい。かろうじてイエスのラインですかね。

 ヘヴィメタルとプログレの共通点はパンク勢と対比すると分かりやすいですが、とにかく楽器が上手なことです。したがって、その親和性は高いです。それにそもそもジャンルの切り取り方の視点が異なりますから、ヘヴィメタであってプログレも全然ありですしね。

 本作品はジャケットとタイトルからして戦争をテーマにしたコンセプト・アルバムのように思われますが、いつものメイデンらしく、アルバムとしてのコンセプトがあるわけではありません。各楽曲にはそれぞれストーリーがあり、そこから聴く者がめいめいコンセプトを紡ぎだす形です。

 3年ぶりに発表された70分を越える大作ですから、そのストーリーにも気合が入っています。前作発表後のワールド・ツアーを大成功させ、一時休養をとって満を持して臨んでいることがよく分かります。プロデューサーはお馴染みのケヴィン・シャーリーです。

 シャーリーによれば、本作品はあえてマスタリングをしていないのだそうです。ほぼほぼファースト・テイクが採用されているそうで、そのバンドの勢いをマスタリングすることで削ぐことがないようにしたということです。それでこれだけ重いサウンドなのですから凄いです。

 アルバムは70分強ありますが、全部でわずかに10曲です。長尺の曲が多いとされるのですが、10分を越える曲はありませんから、70年代プログレを聴いてきた人間にすれば長尺などではありません。複雑な曲展開をするには短いくらいの長さです。

 冒頭にはメイデンのアルバムの恒例として、耳をつかむ短めのキャッチーな曲「ディファレント・ワールド」が置かれています。しかし、この後の2曲目「軍旗の下に」から最後の曲「ザ・レガシー」まで、重めのリズムの本格派プログレメタル・サウンドが続いていきます。

 これを指して、メリハリがないととる人も多いようで、とっつきにくいアルバムだとされることがあります。しかし、オールド・プログレ・ファンにとっては、プログレの現在形を超重量サウンドで示した作品として、大そう気持ちよく聴くことができます。充実の作品です。

 本作品は世界各国でチャートの上位に昇り、米国でも初めてトップ10入りを果たしました。英国でも4位、日本は11位、ヨーロッパ諸国もさることながら、私が注目したいのはインドで2位という記録です。ヘヴィメタルに国境がないことがよく分かります。

A Matter of Life and Death / Iron Maiden (2006 EMI)



Tracks:
01. Different World
02. These Colours Don't Run 軍旗の下に
03. Brighter Than A Thousand Suns 黄色い太陽
04. The Pilgrim 巡礼者達
05. The Longest Day
06. Out Of The Shadows
07. The Reincarnation Of Benjamin Breeg 輪廻
08. For The Greater Good Of God 御名に捧ぐ
09. Lord Of Light 光の主へ
10. The Legacy

Personnel:
Steve Harris : bass, keyboards
Bruce Dickinson : vocal
Dave Murray : guitar
Janick Gers : guitar
Adrian Smith : guitar, guitar synthesizer
Nicko McBrain : drums