※この現実はフィクションです。 -4ページ目

※この現実はフィクションです。

                                                    物語の核心に触れる記述を含むことがありますので、閲覧は自己責任でお願いします。

塩狩峠 (新潮文庫)/三浦 綾子
¥660
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 キリスト教の色が強いと批判されるが、その人は、宗教であろうがこの作品の主人公ほど真剣に生きることについて考えたことがあるのだろうか。キリスト教そのものを信仰せずとも、共感を得た言葉や姿勢だけを取り入れれば良い。主人公である信夫の強さを宗教のせいにして逃げているだけだ。信夫は人よりも学や才能があったわけではない。ただ誰よりも真摯であろうとした人間だったのだ。

 悩み苦しみながらも、自分の道を見つけ、それを信じて突き進んでいくという主人公像に私は弱い。純粋に格好良いと思えるのである。なんと人間的で、潔い態度であろうか。もっと利口に、柔軟に生きたらどうかという声もあるだろう。その生き方とて誰も否定できない。ただこの作品の主人公はそうではなく、そのような主人公を支持する人間もまたいるというだけの話だ。

 結末が自己陶酔的だと批判する人もいるかもしれない。だが、そう感じたならそれも正しいと思う。真摯であろうとするのは、自分自身にだ。共感できなかった人が、真摯であろうとする主人公であったなら、結末は変わっただろう。だがそれもまた、真摯な生き方なのだ。

複眼の映像―私と黒澤明 (文春文庫)/橋本 忍
¥780
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 「羅生門」「七人の侍」など、日本を代表するシナリオライター、橋本忍の自伝。自伝とあるが、内容はそれに留まらず、シナリオライティングの基本や、現場での実体験を踏まえた映画作りにおける教訓など、技術的にも大いに役立つ一冊。

 映画は、ストーリー・人物・環境からなり、どれか一つ蔑ろにするだけでも作品は成立しない。ストーリーはプロット段階から大きく変わることも予想されるが、人物像がぶれてしまっては、それはキャラぶれである、など。

 ノベルゲームシナリオを作成する場合は、キャラのヴィジュアル・文章・メッセージウインドウなど、他の要素も多分に絡んでくる。しかし、人間の葛藤を如何に描き伝えるか、という根底の部分は共通しており、その方法論に関しても、著者の経験を通して丁寧に描かれている。私は本書を大学生時代に読んだのだが、本書を読む以前に生み出した失敗作を振り返ってみると、本書に書かれていた、やってはいけないことに該当していたと気づいた。なので私は余計に、本書に書かれていることの正しさを知っているし、二度と同じ轍は踏まないようにと、心がけることができた。本書を読んでから、ただがむしゃらに暗中模索だった日々が終わり(それはそれで必要であったが)、次の段階に進めた。

エイジ (新潮文庫)/重松 清
¥700
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 この作品が出版されたのは、世間で十代の犯罪の増加が騒がれていた時期だ。私がこの作品を読んだ当時は二十歳ぐらいであったから、主人公の気持ちが痛いほど理解できた。物語に登場する少年Aは、まさしく中学時代の自分だった。

 現代を若者として生きていない著者が、なぜ現代若者の心情をここまで如実に著すことができるのか。「犯罪を起こす若者は特別でも何でもなく、少しばかり周りの人よりも運が悪かっただけだ」という著者の主張にも納得できるし、ゾッとする。

 言葉選びも非常に細かい。ちょっと大人ぶってみたい中学生の心情を反映した、リアルなものになっている。アダルトで難しく悪い言葉を使うことで、自分までその言葉と対等な位置にいるような気分に浸ってみる。私は少し前まで学習塾で中高生相手に授業をしていたので、月日が経とうとも、そういった基本的な傾向が変わっていないことを身をもって実感している。

 若者がよく使う「キレる」は、激高状態になって暴力的な行動に走る、という意味だけでなく、自分が繋がられている様々な物・事との関係を絶つ、という意味でもある。

 これは何も若者に限った話ではないのではないか。若者もそうだが、むしろ、成長して人・物・事との繋がりが増えた、成人にこそいえるのではないか。

 手術後のチューブのように、自分はその数多くの繋がりによって生かされている。でも、一生死ぬまで、それらから解放されることはない。

トーマの心臓 Lost heart for Thoma (ダヴィンチブックス)/森 博嗣
¥1,575
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 著者の作品は、詩的で美しい言い回しの文章が高い評価を得ている。だが、正直なところ、私は著者の作品が苦手だ。詩的で目が覚めるような文章、というのは理解できる。だが少なくとも今作は、文章のために書かれた小説、という印象が強い。文章云々よりも、私は、ストーリーに中身がないことが苦痛なのだ。
 要領を得ない文章で、ふらふらとどこに向かっているのか分からない。話もほとんど展開しない。根強いファンのいる著者であるから、そこに向けて作品を書く、というのも普通は許されるかもしれない。だが今作は原作つきである。原作のファンを巻き込むのはやめて欲しい。
 また、装飾された文章に関しても、この作品は限度を越している。過剰な比喩や言い回しは、情報を伝えるツールとしての文章、その意義を破壊する。情報を読みとるのに多くの労力を必要とし、ストレスを感じる。 この本を読み、ひとつの極論を見せられた気分になった。何事も、やりすぎはよくない。そういう意味では、読んで良かった。やはり、文章は、基本的には、情報を伝えるためのツールである。ただし、要所要所で効果的な言い回しを行うことで、より効果的に、読者に感情を伝えられる。それを再確認した。


パスワードは、ひ・み・つ―パソコン通信探偵団事件ノート〈1〉 (講談社 青い鳥文庫)/松原 秀行
¥609
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 「パスワード探偵団シリーズ」などとも呼ばれている。児童向けのミステリ作品。

 児童向け作品は、何より倫理や常識に気を払わなければならない。作中で倫理に反した行為があっても、それをいけないと頑として主人公たちに否定させることで、子どもたちに教訓を伝えることができる。だがこの作品は、それらが一切無視されている。

 一例として、女性のマラソン選手が怪我をしてしまい、精神的に挫折しかけているところに、選手の彼氏が「RUN」というプラカードをもって大会に乱入し、カメラ越しの彼女を勇気づける、という事件がある。

 作中では、画面の中の男性の意図を巡って推理がなされる。やがて解答に行きつき、美談としてまとめられるが、常識で考えれば、男性の行為は他の参加者には迷惑極まりない。女性がまともな選手ならば、男性を許すことはできないだろう。この傾向が随所に見られる。

 この作品は、ミステリとしての一面に気をとられ、最も大事な部分が蔑ろにされているのではないか。巻数は多いが、それ故に機械的になり、雑になっている。児童に見せられない児童文学に、何の価値があろう。