(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ウェブサイト上に隔週の水曜日に「NEDO海外レポート」を公開しています。
2月21日は「太陽電池特集」でした。その中に「ブッシュ大統領が提出した2007年10月~2008年9月年度の予算案」を分析している部分があります。
ここで見ることができます。
↓
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/995/
1月の一般教書演説では、「2017年までに年間350億ガロンの『再生可能・代替燃料』を消費する体制を整える」というブッシュ大統領の発言がありました。
おそらくはこのことが影響して、最近の日本での報道では、アメリカでのバイオ燃料に関する動向が頻繁に取り上げられるようになりました。
しかし、このNEDO海外レポートを見ると、バイオ燃料に注目が集まっていること自体は事実ではあっても、バイオ燃料だけが強化対象となっているわけではない、ということが分かります。
私は昨年からそう思っているのですが、アメリカは「石油と天然ガスの減退には、主に石炭、バイオ燃料、原子力で対抗する。風力発電と太陽電池で補完する。バイオ燃料については、長期的にはセルロース系原料からの生産が不可欠で、近い将来実用可能になりそうな選択肢のうちでは現在もっとも研究開発投資の必要なエネルギー源となっている」という認識を固めつつあると思います。
昨年12月17日の#187で、国際エネルギー機関(IEA)の次期事務局長に、日本人の田中伸男さんが当選した、と書きました。
2月19日(月)から23日(金)まで、その田中さんのインタビュー記事が産経新聞に載りました。
なかなか興味深い記事でした。読んだおかげで、以下がわかりました。
(1) IEA事務局長ポストは、英仏独の3カ国がこれまで占めていた。(とはいえ、独占してきた、と言えるほど何度も事務局長が替わってはいない模様 ・・・ by mattmicky)
(2) 現事務局長マンデル氏は、次期(2007年9月~)に続投すると見られていたが、本人が2期目を辞退したため、選挙となった。
(3) 国を挙げて田中氏を推している。
・経済産業大臣からの「必勝指示」が出た。
・政府幹部達が(おそらく複数回)海外出張して、他国に支持を
要請した。
・民間にも協力してもらった(日本経団連会長からシラク大統
領に陳情してもらった)
・安倍首相がブッシュ大統領へ電話して支持を要請した。
(4) IEA事務局長選挙に際して、国によって持っている票の数が異なる。(アメリカが最大の票数を有する、と記事中で田中さんは述べています)
(5) 日本人がIEA事務局長になる機会は過去2回あった。
・1回目はIEA設立当初(74年?)。米国キッシンジャー国務
長官から日本へ打診があった。
・2回目は84年。初代事務局長(西独のランツケ氏)から経済
産業省の官僚だった天谷直弘氏に打診があった。(天谷氏は
辞退した)
(6) 田中さん個人の見解?として:
・世界の安全保障は、軍事では国連(安全保障理事会)、金融
ではIMF、エネルギーではIEA、がそれぞれ担っている。
・就任後の政策としての「石炭のクリーン利用、天然ガス備蓄
制度の創設」などについて、発言あり。
予想した通り、首相官邸が動いてますね。10月24日(火)に田中さんは経済産業事務次官、資源エネルギー庁長官と共に安倍首相に面会していますが、その後のどこかの時点でブッシュ大統領に電話したんでしょうね。
私が更に知りたいことは「なぜ今回『必勝指示』が出たのか?」ということですが、ま、将来どこかの時点ではっきりするでしょう。
もちろん、「経済産業省、特に資源エネルギー庁の人達はピークオイルの危険性を理解しており、エネルギー需給に関するできるだけ正確な情報を(非公開情報も含めて)確保するために、日本人が事務局長の座をとることを目指した」と私は解釈しています。
はっきり申し上げておきます。
みなさん、このニュース、よく覚えておきましょう。私もよく覚えておきますよ。ええ、もちろん。
いずれ、大変なことになりますよ。
大事件を目撃する者として、後世に伝えられる立場の一人として、しっかり観察しておこうと思います。
ロイターニュース(Yahoo! Japan ニュース経由) 2007年3月12日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070312-00000645-reu-int
(Quote)
サウジ、アジア製油業者少なくとも1社に対し4月原油供給量を削減
3月12日10時39分配信 ロイター
[東京 12日 ロイター] サウジアラビアは、アジアの製油業者少なくとも1社に対し、4月の原油供給量を削減する方針を伝えた。業界筋が12日、明らかにした。
4月の供給量は、契約量を約10%下回るという。
同筋によると、アジアの顧客に対する3月の供給量は、契約量を7─8%下回った。 (Unquote)
「金持ち父さん 貧乏父さん」という有名な本の著者、ロバート・キヨサキも、ピークオイルに気付いているようです。
http://biz.yahoo.co.jp/column/company/ead/celebrated/person4/column_person4.html
16番目の段落を見て下さい。
「... さらに問題を悪化させているのは、生産しやすい原油が枯渇する運命にあることだ。抽出される石油はまだ大量に残ってはいるものの、生産コストが上がり、そのため将来、価格が1バレル100ドルにもなることも十分考えられる。そして、そうなればインフレが起こりやすくなる。 ...」
「生産しやすい原油」は実質的に "light sweet crude" と同義です。
もっとも、これだけの記述だと、「エネルギー収支悪化のため、非在来型石油が問題を解決する手段になりそうもないこと」に彼が気付いているかどうかは、まだ分かりませんね。
Financial Times に同紙のエネルギー専門記者 Carola Hoyos が2月18日に書きました。幸い、購読者でなくても読めるページです。
http://www.ft.com/cms/s/11ba213e-bf7e-11db-9ac2-000b5df10621.html
非在来型石油 - 深海底油田、超重質油(タールサンドなど)、極北の油田など - の開発には大量のエネルギー投入が必要だということを書いています。
それこそが最も重要なんですけどね。
「自噴する地上/浅海域の油井で採れる light sweet crude と比べて、エネルギー収支上は圧倒的に不利である」というところが、最も重要です。
なぜなら、それこそが「人間がその資源を地下から掘り出すのをやめるときがいずれやってくる理由」の根幹だからです。地下に資源が量的に大量に残っていても、掘っているうちに割が悪い鉱床が多くなってくる(註)に従い、次第に採るのをやめていくんですよ、人間は。
「他の代替物と比べて、相対的に割が悪くなる状態」が先に来ます。
他の代替物を使い果たしてしまったら、今度は「投入エネルギー量より多くのエネルギーを回収できるかどうか」が問題となります。
深海底油田やタールサンドなどが突きつけている問題は、このことです。まだ深刻な問題だと捉えられていませんが、いずれ「たくさん埋蔵量があるくせに、役に立たない」という声が出てくるときが来ると私は考えています。
そこまで書いてほしかったです。
ま、何はともあれ、主流派メディアが次第に「核心に近づいている」ということは言えると私は思います。
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註: こういう現象を英語では "progressive depletion" と表現します。日本語にはうまく言い当てる表現が今のところ見当たりません。
昨日に続いて Energy Bulletin 経由で到達した記事について述べましょう。
The Oil Drum というブログがあります。これもピークオイルに関心のある人達の間では有名です。
Energy Bulletin と違って、ここには私はブックマークしていません。読むのに疲れるんですよ。いつも議論が濃くて。(^^;)
Energy Bulletin 上に紹介された記事が面白そうだと思ったときだけ、私は読むようにしています。
で、この3月2日と3月8日の投稿は、とても重要です。
↓
http://www.theoildrum.com/node/2325
http://www.theoildrum.com/node/2331
3月2日の投稿#2325によると年率8%(!)で減産です。新規開発油田からの増産を含めて「全体で年率8%の減産」という意味です。新規分を含めなければ、14%程度の減退率です。この減退率は、水平掘りしているところでは、ごく普通の水準だそうです。
これらの投稿の主旨に、私は全面的に賛成します。
3月2日の投稿の2つ目のグラフが、事態を一番わかりやすく表していると思います。
油井掘削用のリグの本数が2年前から激増しています。この本数は Baker Hughes というある特定の会社の本数だけですが、それでも全体の傾向を掴むには十分です。
リグが急増しているのに石油産出量が横這い~減少傾向にある...
これがピーク到来の状況証拠です。
昨年秋から、サウジアラビアが減産していることは日本の新聞でも報道されています。私は「これはいよいよガクッと来たかな?」と思ってみていましたが、いよいよ来ましたね。
Energy Bulletin というサイトがあります。ピークオイルに関心のある人々の間では有名なサイトです。
このブログもブックマークしています。私はほとんど毎日閲覧しています。
その Energy Bulletin 経由で Platts の情報を仕入れることができました。
2月28日付記事 "Congressman says US report points to arrival of peak oil"
http://www.platts.com/Oil/News/6360268.xml
Plattsは会員制エネルギー情報サイトです。有名な出版社、McGraw-Hill の一事業です。Standard & Poor's 事業も所有している、あの McGraw-Hill です。
で、この記事によると、アメリカ連邦政府の会計検査院(Government Accountability Office)が作成した報告書原稿の中に、「専門家達が『在来型石油の生産量ピークはすでに到来した』と考えるようになってきている」という内容のことが書かれているというのです。
静かに動きが進行中のようです。
先月から Wall Street Journal が Energy Roundup というブログを始めました。エネルギー関連ニュースを扱うブログです。このブログからもブックマークしています。
日本の主流派メディアがピークオイルを正面から取り上げる日もそれほど遠くないと、私は思います。
私の予想では、「平成20年の年末までには取り上げ始めるのではないだろうか?」といった感じです。
昨年11月から「化石燃料の減退にどうやって対処するか? その私案」という位置づけで、このブログテーマと「植物の生理とR&D」で、延々と書いてきました。
私は「人間は植物(生物)のすごさをまだ良く分かっていない。もっともっと利用できる。これから掘り出し物がどんどん出てくる」と考えているわけです。
「ぐんぐん育って茎にたっぷり物質をたくわえる作物を工場で処理すると燃料がどんどん採れる」光景や、「海にたくさんの草のような植物が生えてきて、それを刈り取って工場に運んで処理したら、燃料や飼料が出てくる」などといった光景を想像しているわけです。
そうして、バイオ燃料やバイオマテリアル化成品の原料を現状の何倍もの量生産し、肥料投下量の減少・社会全体の省エネ化と相俟って現状よりエネルギー収支を改善できるだろうと考えています。
こういう植物は、現在の基準で言うと「化け物」と称してよい植物です。
こういった存在は、人間が厳しく管理する必要があると私は考えています。
「人間が手をつけていない自然が残っている領域」と「人間が手を徹底的に加える領域」とを厳重に区別しなければならなくなると思います。
もう一つ、私が目を付けている特徴は、「地下から掘り出すものは掘り出すのにエネルギーが大量に要るので、回収効率の良い濃縮度の高い資源から先に人間は使ってしまう。言い換えると、後になればなるほど資源の質が悪化する。これに対して地上で生産する資源は、技術開発が進むにつれて生産効率が上がる傾向が出てくる」ということです。
このことが、「長期的に見て、再生可能エネルギー、特にバイオマス由来エネルギー源が化石燃料を最終的に打ち負かす局面が、いずれ到来するだろう」と私に考えさせている背景にあります。
ただ、再生可能資源は濃縮度が一般に低いので、利用するためには、エネルギーを消費する側での効率向上が要求されると私は考えているわけです。
また、バイオ燃料については、濃縮度が今は低くても、葉緑体の改造によって濃縮度を人工的に上げることが将来可能になるだろう、とも考えているわけです。
論ずるのに3カ月以上もかかりましたが、こういった将来像が、Peak Oil を心配している forever2xxxさんに対する、私の回答です。
参考になりましたでしょうか。
バイオテクノロジーの進歩は、遺伝子工学に大きく負っています。
遺伝子操作は、特に実験室内での操作は、長い間手作業に依存していましたが、ここでも自動化・機械化が進行しつつあります。
日経産業新聞 1月30日(火) 11面
(Quote)
遺伝子、細胞に自動注入
東京農工大など 熟練超える成功率 基本技術を開発
東京農工大学などの研究グループは、針で細胞一個ごとに遺伝子を自動的に入れることが出来る基本技術を開発した。針が細胞膜に刺さると自動的に停止し、刺さりすぎを防ぐ。専門知識が無くても簡単に遺伝子を入れることが可能で、遺伝子の研究が効率的に進む。今後、企業と協力して実用化を目指す。
...(中略)...
新技術は、針で細胞に遺伝子を入れる「マイクロインジェクション」と呼ぶ手法を自動化するための基本技術。 ...(中略)...
遺伝子の代わりに色素を入れ、イネの細胞で導入テストを実施した。うまく入れば色素が細胞の原形質という部分に広がるので分かる。手動でも熟練者でも約五〇%の成功率だが、このシステムを使うと八四%だった。 ...(中略)...
マイクロインジェクションは、顕微鏡下でもよく見えない直径一マイクロメートル以下の針先を細胞に刺すため、調節が難しい。松岡教授らは、ペダルを踏むだけで細胞が一個ずつ顕微鏡の視野の中央に移動するシステムも開発済み。今後、両者を組み合わせて、五年以内に完全な自動システムを目指す考えだ。 (Unquote)
研究がどんどん早くなり、研究データがさらに蓄積されていくでしょう。
植物には、人間がほとんど把握していない能力が、まだまだたくさん隠れている可能性があります。
こういう話を聞いたことがあります。
「沙漠地帯で採れた葡萄(ぶどう)やメロンがとても甘いのは、乾燥しているからだ」
乾燥地帯では植物に水不足によるストレスがかかります。このストレスが果物を甘くしているというのです。
ストレスがかかると植物の側で「甘くなろう、甘くなろう」とするというのです。
最近、同種の話を2月16日(金)の日経産業新聞で読みました。(9面)
(Quote)
植物の生育環境 つつましさが強さ生む
...(前略)...
最近インドネシアで稲作を指導してきた日本の先生がいる。今までの常識から大きく外れ、思いっきり水量を少なくしてコメ作りを試してみた。苗のときだけ水を多めに使い、その後は水量を極端に減らした。その結果、何と収量が一・五倍となった。植物は環境が悪くなると種子を多く作ろうとする。水の量を少なくするというストレスが植物を頑張らせたのだ。
では、自生する植物はどのように水を吸っているのだろうか。アフリカで自生種から選抜されたマメ科の植物で、水が少ない状況でも良く育つもの(耐性)と育つことができないもの(感受性)の水の吸い方を比較したことがある。
耐性植物は水を吸う力が強く、普段からたくさんの水を吸収していると予想していた。しかし、水が少ないというストレスの下で育つよう自然が淘汰して作り上げた耐性植物は、水を与えてもあまり吸収しなかった。
ところが、いったん、乾燥状態において干からびる直前になると、ふだんよりも多量の水を吸い始めた。それに比べて感受性植物は、水を与えるとたくさん吸収し、干からびる前には水をほとんど吸収できなかった。
つまり、自然が作り上げた耐性植物は普段はあまり水を吸わない省エネで過ごし、いざという時には水を大量に吸収する。逆に普段から水をぜいたくにたくさん吸っている植物は、いざという時には吸えなくなっていたのだ。これはぜいたくをせず、つつましい生活を送っている方がいざというときに強いという自然の戒めのようでもある。(東京大学大学院教授 中西友子) (Unquote)
植物のこういう能力を自在にひきだせるように、利用できるように、将来なるのでしょうか。
その可能性は十分あると私は考えています。