もっと物理学的な方法論でセルロースを糖化しようと考えている人たちもいます。今回と次回とに分けて投稿します。
日経産業新聞 1月22日(月) 1面
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サトウキビ搾りカス マイクロ波使い資源化
京大が新技術 エタノール生産へ糖抽出
京都大学の佐々木千鶴研究員らは、バイオエタノール生産などに役立つ糖をサトウキビの搾りカスなどから取り出す新技術を開発した。利用するのは電子レンジでも使うマイクロ波で、従来のように硫酸などの化学薬品を使わないので環境負担を小さくできるとみている。
サトウキビの搾りカスや木材の切れ端材などの未利用植物資源に含まれるセルロースは、糖に分解すればバイオエタノール生産などに役立つ。ただ、セルロースを取り巻く植物特有の「リグニン」と呼ぶ固い物質を取り除く必要がある。
研究グループは、電子レンジと同じ二・四五ギガ(ギガは十億)ヘルツや、五・八ギガヘルツのマイクロ波を当てて内部から暖めてリグニンをほぐす手法を開発。水に浸したサトウキビの搾りカスに数分照射、この後に酵素を加えたところセルロースの約七割を糖に分解できた。
従来のように硫酸や水酸化ナトリウムなどの化学薬品を使うと、別の薬品で中和する後処理が必要。セルロースを水で洗浄する操作もあり環境への負担になりやすかった。
...(後略)... (Unquote)
セルロースを加水分解するにはセルラーゼという酵素が有効なわけですが、そのセルラーゼをどうやって得るかが一つの問題なわけです。
自然界では、主に2種類の場所でセルラーゼが見つかっています。
・草食動物の腸内
・シロアリの体内
以下は後者の研究についてです。
日経産業新聞 1月26日(金) 10面
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シロアリの分解酵素 大腸菌で量産
バイオ燃料製造に応用 農業生物資源研
農業生物資源研究所のグループは、植物繊維を分解するシロアリの酵素を大腸菌に組み込んで量産する技術を開発した。廃木材などバイオマスからエタノールを生産する動きが活発になっているが、高い製造コストが普及の壁になっている。酵素利用は分解効率が高く、コスト低減につながる。バイオ燃料製造の有望手段になると期待している。
農業生物資源研の渡辺裕文博士らが開発した技術は、日本全域に広く生息するヤマトシロアリの遺伝子を使う。このシロアリは、植物の繊維質であるセルロースを分解するセルラーゼという酵素を唾液(だえき)腺から分泌する。
この酵素をつくる遺伝子をそのまま大腸菌に導入しても、生物の種類が異なり、うまく酵素を作り出せない。そこで酵素を構成する四百三十二種類のアミノ酸のうち、二種類だけを違うアミノ酸に換えたシロアリ遺伝子を人工的に作り、培養液に空気を送り込みながら培養すると、十時間で培養液一リットル当たり九十一ミリグラムのセルラーゼを取り出せるようになった。
...(後略)... (Unquote)
人工的に改変されたシロアリ遺伝子を大腸菌に組み込んで、その大腸菌を培養するとセルラーゼを得られる、ということですね。
ポリ乳酸なんかそうです。現状では澱粉から作ってるわけです。
澱粉から製造するということは、将来的にセルロースを原料にできる可能性もあるわけです。
しかし、プラスティックを製造するのに、何も糖を原料とする必要はありません。他の物質からでも製造は可能です。
石油からプラスティックを製造していることを考えると、油脂からプラスティックを製造することは自然に連想できることです。
日経産業新聞 2006年12月8日 12面
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プラスチック柔軟性高く 富士通など ひまし油を原料に
富士通と富士通研究所は七日、トウゴマの種子から抽出されるひまし油が原料の植物由来プラスチックを開発したと発表した。二〇〇八年までに自社製品の部品への採用を目指す。既に実用化しているトウモロコシ原料のプラスチックよりも柔軟性が高いのが特徴だ。
トウゴマの種子からとれるひまし油を原料とする樹脂「ポリアミド11」を使った。銅樹脂を商品化しているフランスの化学大手アルケマの協力を得た。
施策したノートパソコンのコネクト部カバー部品=写真=は構成成分の六〇-八〇%が植物原料。繰り返し曲げても白化しない柔軟性があり、開閉三千回、屈曲一万回の試験に合格したという。繰り返し開閉するノートパソコンや携帯電話の部品への二〇〇八年までの採用を目指す。 (Unquote)
現在の化学工業では、プラスティックを製造するにあたって、石油を精製して得たナフサなどからエチレンやプロピレンなどの中間原料を製造します。
この中間原料をバイオマテリアルから製造できれば、化石燃料を原料とせずにプラスティックなどの化成品を製造できることになります。
もちろん、製造過程で投入するエネルギーを化石燃料に依存しないことが必要ですが。
日本経済新聞朝刊 2月9日(金) 15面
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プラスチック原料 エタノールから合成
東工大 温暖化対策へ応用
東京工業大学の研究グループは、エタノールから汎用プラスチックの原料を高効率で合成する技術を開発した。独自の触媒で実現した。ガソリンの代替燃料として植物から作る「バイオエタノール」を使い、プラスチック原料を製造できる可能性があり、地球温暖化対策技術として注目される。化学メーカーなどと共同で実用化を目指す。
...(中略)...
食品包装材などに利用されるポリエチレンの原料「エチレン」や、車のバンパーなどに利用されるポリプロピレンの原料「プロピレン」をエタノールから作った。エタノールの九十九%以上をエチレン、プロピレンなどに買えることができる。
ナノ(ナノは十億分の一)メートルサイズの穴があいたセラミック微粒子にニッケルをくっつけた触媒を開発した。この触媒を詰めた容器にエタノールを入れると、エチレン、プロピレン、ブタンが同時に合成できた。それぞれの制裁割合は温度などの条件を変えれば調節できる。また触媒を繰り返し利用しても劣化しにくいことを確認した。
現在のエチレン、プロピレンは主に、原油からとれるナフサを原料に生産されている。今回の手法は、製造コストもナフサを使った場合より安く抑えられるという。エタノールから作る技術は従来もあったが、反応効率が悪い、触媒の寿命が短いなどの問題があり、工業化は難しいとされていた。 (Unquote)
ポリ乳酸は100℃程度まで耐えられるようになってきていますが、もっと高い温度に耐えられるよう要望もあるわけです。
日本経済新聞朝刊 2006年11月27日(月) 21面
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セ氏169度に耐える生分解プラ 阪大
大阪大学などは、植物の葉の成分からセ氏百六十九度の熱にも耐える生分解プラスチックを開発した。自動車部品などに使う高機能樹脂並みの耐熱性を実現した。強度にも優れており土に埋めた時の分解性能も二-三倍になったという。 ...(中略)...
...(中略)... 植物の葉や茎の細胞壁に含まれる「桂皮(けいひ)酸類」と呼ぶ成分に着目。この成分一〇〇%の試薬から交代熱性プラスチックを作った。
...(後略)... (Unquote)
早くもリサイクリングを考えている人達もいるんですね。「省エネルギー化」が研究者達の念頭にあるようです。
日本経済新聞朝刊 2006年11月24日(金) 13面
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帝人と豊橋技科大 ポリ乳酸、再生技術を開発
帝人と豊橋技術科学大学は、植物性プラスチックのポリ乳酸をリサイクルする技術を共同開発した。再生品の性能は新品と同等で、新品を製造するより消費エネルギーを三分の一減らせるという。将来、量産するようになれば製造コストが新品と同じくらいにできるとみている。
リサイクル手法は、まずポリ乳酸を一センチメートル角に砕いて水と一緒に反応器に入れる。反応器の温度をセ氏百八十度、圧力を十気圧にすると、約一時間で水の分子がポリ乳酸分子の結合を切断し、原料の乳酸ができる。乳酸の回収率はほぼ一〇〇%という。
...(中略)... 強度や透明性などが、トウモロコシなどのでんぷんを発酵させて作った乳酸を原料にする新品のポリ乳酸と遜色(そんしょく)ないことを確かめた。
...(後略)... (Unquote)
予算案を見ていると、前提条件を痛感させられます。
(1) 原子力産業は、発電能力の規模に関しては、アメリカでも大きな産業だが、発電関連設備の製造に関しては必ずしもアメリカ国内で大きな産業とはいえない。特に、「ものづくり」面では外部(特に日本企業)に依存するようになりつつある。従って、アメリカ人としては、「他国にウラン濃縮能力を出来るだけ渡さないようにすること」が二重の意味で良い選択となり、そこに主要な関心がある。
(2) 上述の「二重の意味」とは、a)原子力関連産業では既存技術による発電能力の増強を中心に考えればよく、製造業の研究開発を支援する必要はない、b)核燃料サイクルのうち、ウラン濃縮を(核拡散防止を口実に)アメリカ国内だけでできるようにさせることができれば、産業技術の向上なしに燃料サイクル上で寡占を実現できる上に、アメリカに不都合な核拡散を防止することも自在にできるようになる、の2点。
(3) 上述の(2)は既存技術で実現できる。従って、これから新技術を開発する研究開発の重点は、セルロース系バイオ燃料と石炭利用のうちの発電分野での熱効率向上、の2点に置けばよい。(石炭液化は技術的にはすでに可能になっている)
(4) 自分達が強くない分野では頑張らない。むしろ、それが得意な外部勢力を積極的に誘致する。
やっぱり、軍事目的を優先して考えていますね。もちろん、覇権国家としては当然の行動です。
そして、2番目に「効率」を考えています。最も効率の良い分野で頑張るわけです。
アメリカは製造業 - ものづくり - では、他国にあまり勝てなくなってきています。
(1)で上述した原子力分野なんかそうです。こういう分野では積極的に他国の企業を自分達の領域に入り込むことを容認しようとしているように、私には見えます。
東芝に Westinghouse が売却されても問題視されなかった理由の一つがこれだろうと私は考えています。もちろん、東芝が同盟国の企業だということも大きく作用していると思います。CNOOC に Unocal が売却されそうになったときは問題視されましたからね。
医療分野を中心に、ライフサイエンス分野ではアメリカは世界のリーダーです。勝てそうな分野で将来需要の増大が有望視されると、このように一生懸命になるわけですね。
火力発電については、まだ世界のリーダーたる企業が残っています(General Electric)。ここはまだまだ頑張る。
そもそも石炭が国内に大量に埋蔵されていますしね。一国では世界最大の埋蔵量です。国内エネルギー産業への支援になります。
こういうことを一つ一つ観察していくと、「あぁ、アメリカって、『ペンタゴンとウォール街』に手足が付いているような国家だなぁ」と、考え込まされます。
石炭も有限な資源ですから、バイオ燃料を民間の自動車用にまわし、軍隊、民間航空業界では全面的に石炭液化燃料を使おうというのではないか、と私は推定しています。(石炭液化燃料の一部は民間の自動車用に供されると思います)
また、天然ガスの北米での生産が既に減少し始めていますから、天然ガスによる火力発電を原子力発電と石炭ガス化コンバインドサイクル火力発電(熱効率が50%超と高い)に転換していこうと思っているんでしょうね。
もちろん、利用できる地域では、風力発電や太陽電池も利用するわけですが、主要なエネルギー源となる、というところまでは想定していないんでしょう。
連載した「遠い将来」の中で述べたような「省エネ化効果を折り込んだ将来像」を想定しているわけではないわけです。
NEDOレポートの中では、ブッシュ大統領が一般教書演説で言及した「再生可能・代替燃料」は「石炭液化燃料」であるとアメリカでは解釈されていることが書かれています。
アメリカでは石炭は豊富なので、石炭液化は十分現実的です。エネルギー安全保障という観点からもアメリカにとっては優れています。
これはNASAも言い出していることですが、航空燃料としては、体積エネルギー密度の低さから、今のところバイオ燃料は非現実的と考えられており、航空業界では石炭液化燃料に注目が集まっています。
米海軍内の研究所が「石油減退による将来の燃料転換に伴って、石炭液化燃料の利用を推進すること」を提唱していることは以前#59で述べたとおりです。
昨年6月と9月には、石炭液化と同様の製造方法で天然ガスを原料に製造した液体燃料がB-52爆撃機でのテストに供されました。テストは成功しています。
こういう会社もあります。この会社は上述のB-52によるテストに燃料を提供した会社です。
↓
http://www.syntroleum.com/
NEDO海外レポート NO. 995 の59ページから70ページに「ブッシュ大統領の2008年度予算:概要(その1)」が載っています。
目に付いたところをまとめてみましょう。
(1) 「自由裁量予算(discretionary budget)」 - 社会保障などの「義務的支出」以外の部分 - は大幅増額(6.5%増)。「義務的支出」は横這い。「自由裁量予算」の増加分のほとんどは防衛費の増加。
(2) バイオ燃料に関する研究開発予算は大幅増額
(3) 石炭のクリーン利用技術 - 予算上は主に「石炭ガス化発電」について書かれている - も大幅増額
(4) 原子力も大幅増額。ただし、主にGNEP(Global Nuclear Energy Partnership)に関するもので、原子力技術開発ではなく「国際的な濃縮ウラン管理体制の整備」に重点が置かれている。研究開発では核融合に関するものがそこそこ重点が置かれている。
(5) 太陽電池の研究開発も増額
(6) 他は風力発電も含めて研究開発には特に重点なし。予算は大幅減額あるいは減額傾向。
簡単に言うと、
・予算全体として軍事優先
・石炭利用を推進
・セルロース系バイオ燃料の研究開発を推進
・原子力発電については特に研究開発は不要(利用推進それ自体は行うものと思われる)
・核物質を他国にできるだけ渡さないため、ウラン濃縮プロセスをアメリカが押さえる体制をつくる。原子力関連の予算は主にこの体制作りにあてる
・長期的目標として核融合開発を継続
こんな感じです。
要は、軍事優先ってことです。特に、原子力と石炭に対する態度に、それがよく表れています。