「創造的人生の持ち時間は10年だ。芸術家も設計家も同じだ。君の10年を、力を尽して生きなさい。」

…これは私の大好きな映画、宮崎駿監督の「風立ちぬ」(2013年公開)の中の台詞です。主人公の堀越二郎(零戦の設計士)の夢の中に現れるイタリア人飛行機設計士のカプローニ氏がこういって堀越二郎を励まします。私はもやし生産者でありますが、この言葉がとても強く残っています。

 

 2008年、もやし生産者としてなんの希望もみえず、売り上げも落ち、取引先がどんどん減っていく中、最後の手段として実行した自ら店頭に立ってのもやしの販売。そこでわずかに見えた希望を信じて、お金はかけられないけど、2009年からありとあらゆる手段を使ってもやしの価値を伝える活動を行ってきました。HP、ブログは言うに及ばず、絵本を作ったり、生の栽培しているもやしを売り場にもちこんで、そこから抜いてお客さんに食べさせたり、もやしの出汁を試食に出したり、絵本の原画展をゲリラ開催したり…2009年は私にとって創造的人生の始まりの年であったと思います。

 

 あれから7年が過ぎました。倒産を覚悟したもやし屋は今もまだ続いています。昔からの安いもやしを扱ってきた取引先は去っていきましたが、日本一高いとか、10倍以上で売られているとか、そういう取引で私のもやしは扱われています。運転資金の融資を受けてもあっという間になくなってしまったのが、ギリギリですが新たな融資も受けずになんとかやっています。

伊勢丹、高島屋…まだまだ店舗単位ですが昔なら夢のような百貨店の売り場にもならんでいます。地元の大きな食品スーパーではもやし専用の大きな冷蔵ケースを使わせてもらい、高い私のもやしが毎日売り切れてしまっています。これまで何度もテレビ、新聞、雑誌で紹介され、今年はテレビに3回出させてもらいました。そしてとうとう大手出版社の講談社から私が著した本まで出版されてしまいました。7年前にはまるで想像できなかったことが起きています。

 

 カプローニ氏が説く「創造的人生の持ち時間が10年」としたら、私はあと3年です。

10年と決まっているわけではないでしょうが、「もたもたしていると時間はあっという間に過ぎてしまうよ」というのを監督の宮崎駿氏は伝えたかったのでしょう。

 

 最近、私の周りでも創造的人生にスタートを切った若い人たちが増えてきました。それぞれが試行錯誤を繰り返して、大きな夢の実現に歩んでいます。私の持ち時間である3年、まだまだやりたい創造的活動はあります。今三つありまして、そのうちの二つはもやしに関わることで来年実現するつもりです。

 

 もう一つは…「創造的人生に生きている人たちを支える」ということです。

 

「闘うもやし」を読んだ横浜市在住 M Fさん(33)からのメッセージです。

かつては熊谷市仕事をしておられて大変お世話になった方です。

お友達というよりも仕事を通した共感者という意味で、あえてこちらで紹介します。

 

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 人間こうして信念を貫き、闘えるのだということを いつも私に教えてくれる人、 飯塚さんの著書「闘うもやし」を読んだ。

 

 飯塚さんは不屈のもやし農家で、 熊谷支局勤務時にとてもお世話になった。 深谷・熊谷のおいしくて志ある飲食店にあちこち 連れて行っていただきながら、 消費者不在の大手スーパー、強いられた理不尽な力関係、 食と経済に関する社会のありかたについて、 そして何より正しい食について、 ずいぶん学ばせていただき、 笑い飛ばしながらの苦労話もいろいろ伺ってはいたけれど、 本を読むと改めて、その苦闘ぶりに驚く。 世の中には理不尽なことがあふれている。 

 

 その中で、どっち向いて仕事するか。 現実と、信念と、生活と、志と。 会社と家族とを背負っている飯塚さんの重圧は 想像しきれないけれど、 それでも諦めず、闘い続ける姿に胸打たれ、 良い仕事をしなくては、と思わされる。 創業者であるお父様の話も強烈で、 二代にわたる物語としても興味深かった。 そしてところどころに登場する、奥様の肝の据わった言動が 素晴らしく、やっぱり奥様あっての飯塚さんだと 思いました。

 

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 この方がおられたのは、5年前。情報を伝える仕事に従事されていて、互いの仕事についてよく語りあいました。当時私はこの方にえらそうに言ったことがあります。

 

「(あなたの仕事は)悪事を暴くのも大事だけれど、良いことを広げるのも大切なことじゃないか」

 

 私は伝えるもやし屋として8年間活動しています。何が良いか悪いかはそれぞれの価値観に基づくもの。緑豆太もやしだってある一面から見れば正しいものだと思います。ただ私は50年以上一緒に暮らしているもやしをみて「もやしが本来持っている強い生命力は正しい」と信じて、そのように仕事をしてきました。ならばありとあらゆる手段を講じてその正しさを広げんとするのは当然なことだと思うのです。

 11月30日に出版された自著「闘うもやし」ですが、2週間が過ぎました。初版は4000部ですが、編集者氏によるとこの部数は都市圏の書店を優先するようで、なかなか地方の書店まで行きわたらない、とのこと。それを地元深谷市の仲間たち(食の生産者、飲食店主)に話すと、皆さん積極的に地元の書店で注文してくださり、今では深谷市ではアリオ深谷店の中にある「ブックマルシェ」さん、

 

深谷市との境にある「蔦屋書店熊谷店」

に平積みにされています。なんとしても地元深谷の書店に並べてもらいたいと思っていたので、本にも書いてありますが、ここでも仲間たちが私の望みをかなえてくれました。

 

 さて、この本は読みだすと一気に読んでしまうようで、さっそく感想をいただいてます。それも非常に熱のこもった感想を。これからそのいくつかを紹介していきます。

 

まずは地元深谷市在住のHさん(49歳 男性)。

 

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 ノンフィクションではあるけれど、もうこれは物語というしかない。それぐらいドラマティックなストーリーが展開されていて、一気に読んでしまう。 


 個人的にぐぐっときたのは、どん底の中、もやしを育てるムロの中で辿り着いた決意のシーン(あえてシーンと呼ばせてもらおう)。そして、野菜ソムリエとの出会いで得られた気付きと、そこから力強い覚悟が、同じくムロの中で、生まれたシーン。
とてつもない大きな力であるグローバルな世の中の流れに、ともすれば乗ったつもりが流され、そしていつしか波に飲まれてしまう。あるいはまともに闘って、力尽きて倒れてしまう。そんな死屍累々な同業者達。その中で、自身の揺るぎない信念を胸に、大きな波に立ち向かい、奮闘している筆者の姿に心打たれます。


 振り返って自身の業界やその置かれた環境を見てみると、一つ一つ状況を置き換えてみれば共通する点が多々あり、筆者の闘い方から何かヒントが得られそうな、そんな気がしました。
 米国に端を発するグローバルな流れは、トランプ氏がTPPに反対しているように、その米国自身をも翻弄するうねりとなって、世界中を包み込もうとしているがごとくの状況と感じています。そんな大きな流れの中で、自分も自身を見失わず、信念をもって闘っていきたい、この物語を読み終えて、そんな想いが沸々と湧いてきました。

 

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非常に考えさせられる感想でした。

 

1980年代後半から押し寄せたグローバル化の流れ、Hさんがおっしゃるように

 

「ともすれば乗ったつもりが流され波に飲まれてしまう」

 

というのはこの時代を生きた人ならだれでも思い当たるのではないでしょうか。もやし業界に限って言えば、当時のそういった風潮が「バラ色の世界」に映って、資本力のある会社からどんどんグローバル対応もやしに切り替えていったのだと思います。そしてその先にあったのは…行き過ぎた低価格販売であり、熾烈なシェア争いでありました。結果として打開策もなく、体力のないもやし生産者からバタバタと廃業、倒産を余儀なくされています。消費者は多様なもやしの価値を知る機会を奪われてしまい、様々な誤解も起きています。

 

 私はグローバルを完全否定しません。ただ多様な価値観を奪うという性質があることは否めません。もやしでこれですから多くの分野で同じようなことが起きているのでしょう。食は多様であるべきと思います。それを強引に奪おうという動きがあるのならばこれからも闘わなければならないのでしょう。

講談社より自著『闘うもやし』が出版されました。

講談社編集者のA様から話をいただいてから出版にこぎ着けるまで5年は要しました。

 

講談社側の会議では、書籍化にするにあたって

 

「だってこの人、もやし生産者として成功していないじゃないか」

 

といった反対意見が多かったようです。

まったくそのとおりでもやし製造・販売業の経営者としては、自分が就いてから14年間、一度たりとも黒字になっていません。常に経営破たん寸前なのが実状です。誰がそんな人間の書いた本など読むでしょうか。

 

ただ、食の生産・提供を生業とする一人の人間として考えたとき、私はどん底からもやしを伝えてきたこの8年間…多くの感動と幸せ、勇気と可能性をいろんな方々からいただきました。それは数字的に経営が順調だった20年前にはなかったことです。

 

なので「今が幸せかどうか?」と聞かれたら、どんなに経営的に苦しくても「幸せだ」と言えます。

 

「本当の成功とは何か?」を問い詰めたとき、私のこれまでの活動に共感した編集者の訴えが出版社に認められたのでしょう。…冒険ではあると思いますが。

 

先日、本の取材を受けたとき記者さんから

 

「タイトルは『闘うもやし』ですが、それでは何に闘っていたのですか?」

 

と質問されました。

 

バブルの頃、「これからはこういうもやしだよ」と飯塚商店のもやしが否定されたとき、先代社長である父も私も「そんなはずはない」と怒り、逆らいました。転落のきっかけになった判断でしたが、たとえ倒産の憂き目にあって、今でもあの判断に間違いはなかったと信じています。最初は生産者が良いと信じているものが通用しない理不尽さに対して、闘っていて、途中から本当の敵は誰だ?もしかしたらみな気づかずに利用されているのではないかと思うようになりました。そしてその本当の敵に対して闘い続けてきたのだと思います。

 

大手のもやし会社が多数集中している関東圏において、彼らの緑豆太もやしが1袋19~29円で売られ市場を席捲しているなか、今でも細くて根っこが長くて豆がついているブラックマッペもやしがその倍以上の価格で売られて存在している…それにはどれほどの闘いがあっただろうかと想像してもらいたいのです。ボロボロに傷つきましたがその先にある大きな幸せは得ました。

 

このたびの『闘うもやし』出版に際して、地元の飲食店が自発的に集って「深谷もやしWeek」なる深谷もやしの応援イベントを立ち上げてくれました。闘ってきた細いもやしで起きた幸せな出来事のひとつです。

 

守ってきたもやしを信じて、闘い続けたもやし屋一家の軌跡 、そこで私が得たものは…そんなことを感じ取っていただけると幸いです。

 

昨日(11月3日)TBSの番組

 

『櫻井・有吉THE夜会』

 

という番組で私どもの「深谷もやしの天ぷら」が紹介されました。

 

女優の杏さんが、とても美味しそうに食べてくださったのが印象に残っています。

さらにもやしの根っこの部分にも言及されたので、以前からもやしの根っこの価値を謳っていた私としては嬉しいコメントでした。

 

 

 

 

さて、今回の「深谷もやしの天ぷら」ですが私の仲間である市内のうどん屋さん

 

『うどん茶屋 三男坊』

 

がすでにお店で出しているレシピを使いました。

 

杏さん、櫻井さん、有吉さんが絶賛した「三男坊による深谷もやしの天ぷらレシピ」をこちらで紹介します。

 

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【櫻井有吉のTHE夜会で紹介された深谷もやしの天ぷら:レシピ】

 

1.天ぷら粉を作る。薄力粉(市販の天ぷら粉)に水を溶き、少々のマヨネーズを混ぜる。

2.もやしを水洗いし、ペーパーで水分を取る。

3.鍋に多めの油を入れ、180度の強火で一気に揚げる。カラリと揚げる。

 

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そのままでも、醤油や塩、またはカレー塩(是非、作ってみてください。

是非、お試しください。