政府暗号通貨「松田プラン」第7回~アフターコロナ経済危機対応に不可欠な政府発行デジタル円~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

[財政と金融の究極の一手、政府暗号通貨「松田プラン」MMP第7回]

 

 今回の新型コロナに伴う危機のような絶望的な経済危機は、これまでの資本主義の歴史でも初めてなのではないか。経済停滞の原因である感染症の正体や、その広がりが未だに読めないだけでなく、このままでは、経済回復へのストーリーも財政金融対策で肥大化したバランスシート処理の道筋も、そして人々の精神や社会心理の行方も見通せないまま、ひたすら、いつ訪れるか分からない出口への曙光を手探りで待ち続けるしかない。

本稿では、最近、主要国の中央銀行が研究を本格化させているデジタル通貨(CBDC)を、少なくとも日本の場合、中央銀行の日銀ではなく、政府が発行する「松田プラン」の形で用意しなければ、アフターコロナの経済破綻は不可避であることを述べてみたい。

今回の危機はデジタルトランスフォーメーションの必要性で日本を覚醒させることになった。これを法定通貨や政府が管理するビッグデータの分野にも徹底し、財政運営の再構築へと結びつけることで、「新常態」への円滑な着地と新しい経済社会の持続的な発展が実現するものと考える。

 

●1,300兆円とされる経済損失

 IMFが今年の6月に改訂した世界経済見通しによれば、世界の経済損失は2020、21年の2年間で12.5兆ドル(約1300兆円)にのぼる。2018年の世界のGDP85兆ドル(約9100兆円)と比較しても、その大きさが分かる。日本のGDP(536兆円)の2.4倍だ。

2020年の先進国の実質経済成長率は▲8.0%。前年の+6.1%から1.0%へと減速する中国以外の主要国は軒並み▲10%前後のマイナス成長に陥り、中国を含めた新興国・途上国は全体で▲3.0%と、統計がある80年以降で初めてのマイナス成長になる。日本は▲5.8%で、米国は▲8.0%と1946年の▲11.6%以来の74年ぶりの大幅マイナス、英国は▲10.2%と大寒波の1709年(▲13.4%)以来の311年ぶりのマイナス幅だそうだ。

世界経済全体では20年の▲4.9%から、21年は+5.4%へと一応回復する姿にはなっているが、コロナの第二波、第三波が来れば、これらは大きく引き下げられることになる。

ただ、下図は多くの識者が指摘していることをまとめたものだが、こうした今回の経済危機の性格に鑑みれば、回復への道はより厳しいものと予想せざるを得ない。

 

●今回の経済ショックの性格

まず、リーマンショックを上回るとされる今回のコロナショックの前に、既に昨年から、世界経済は後退に向かっていた。当時から世界経済のリスクとされていたのは、米中貿易摩擦やサプライチェーンの分断、債券バブルとも称される過剰債務の問題であった。

これら要因はいずれも、コロナで一層、深刻化している。たとえワクチンの開発で人為的な集団免疫状態が早期に達成されたとしても、アフターコロナの時点での自律的回復力が経済にあるのかは大きな疑問である。

「次の危機はまた別の顔で来る」と言われてきたが、今回の経済危機はこれまで全くなかった顔の危機といえよう。経済のマクロバランスの崩壊や、リーマンのような世界的につながるマーケットが起こした金融危機とは異なり、「周りの人が感染し、自分も…」という一人一人の心理がもたらす社会心理的な要因によって、マクロより安定的だったミクロの個人消費が打撃を受けた危機である。国民経済の大半が個人消費であり、ここが直撃された。過去の対策は通用しない。ソーシャルセンチメントがどうなるかが経済を左右する。

しかも、今回は経済を止めるという初めての事態であり、ここで最も影響を被るのが、低賃金部門であるサービス産業だ。ここのエコノミクスが「新常態」では成立しないことの社会的な影響は極めて大きい。下図は米国における本年5月時点での産業別でみた失業率の前年との比較であるが、レジャー及び接客業の失業率の上昇が著しい。これに次ぐのが、その他のサービス業、そして卸小売業だ。

顧客との直接の接触によって付加価値を創出する事業分野にソーシャル・ディスタンスを持ち込まれれば、例えばレストランの客が半分に制限されるようなことが起こり、売上高はいとも簡単に損益分岐点を下回ることになる。私の知人が経営してきた小売チェーン事業が、早速、破産を決めた。持続化給付金等の財政支援は、店舗を多く有する中堅にとっては焼け石に水。これから倒産が相次ぐだろうとのこと。そうなれば、日本経済はコロナの「第二波」がなくても二番底になる。

リモート化が進めば「デジタルデバイド」の問題も先鋭化する。逆にGAFAのような部門はコロナで成長することになる。低賃金のサービス部門の低迷と相まって、全体として格差拡大の問題が深刻化することになる。

しかも、感染症の危機は「全員にとって終わらないと誰にとっても終わらない危機」でもある。どこかの部門が回復へと頭をもたげても、どこかの部門が足を引っ張り続ける。当面、活動再開で経済指標が前期比ベースではブラスになっても、そのレベルはものすごく低く、回復に入ってもゆるやかで、年末から年明けにかけては二番底との予想もある。元の水準に戻るには数年はかかるとされている。リーマンのときも6年以上を要した。

加えて、デジタル化だけでなく、人口構成の変動や気候変動など、先送りされてきた構造的なチャレンジがより一層、迫られるようになった。人々の行動様式が変わり、戻った状態は風景の違う世界になる。新しい潮流に乗れる者と乗れない者が当然、現われる。

 

●絶望的な経済政策

今回は世界でリーマン時の5倍もの1,000兆円を超える財政金融政策が打たれたと計算されている。そのお金はどこに行ったかといえば、とりあえずは株式市場だが、これは続かない。こうしたマネーを利用できる人たちと利用できない人たちの間でもソーシャルデバイドが拡大し、社会の分断がさらに進む可能性がある。

今は各国当局とも目前の資金供給に明け暮れているが、いずれ、サステナビリティ(持続可能性)の限界に直面することが強く意識されてくるであろう。とりわけ、過去にない規模の財政出動の負担が、来年以降、反動リスクとなって顕在化する可能性が指摘される。

今回の問題は、企業の売上げも消費者の所得も瞬間蒸発し、そこに対応したのが財政と金融政策だったことである。その行き着く先は、国有化(事業が潰れないよう政府が資金注入)と公務員化(企業に代わって政府が現金を給付)であり、これらは付加価値生産を伴わないがゆえに、どこかで限界になる。

しかも、ばら撒かれたマネーは現状の「維持」だけで、景気をよくする「改善」ではない。いつやめるか、やめられるのかの問題であり、そのときの倒産と生活破綻に、見て見ぬ振りができるのか?という問題になる。将来を見通せないのに、当面の措置でもたせながら改善を期待している状態だ。政策と、その結果としての「改善」との間に、リンケージがない。この点が、公共事業費でインフラができたり、政策融資で設備投資が起こったりする従来の経済対策とは異なる点である。

そうでなくても、日本はアントレプレナーシップ(企業家精神)に欠けた絶望的なまでの「白色矮星」経済…。今般、7,500億ユーロの巨額のコロナ復興基金を構築するEUが掲げているのは、地球と調和する社会への「グリーンリカバリー」である。経済回復を大きな構想の中に入れ込む発想が日本にも必要であろう。日本は世界ダントツ一位の対外純資産国である。考えようによっては、できることはたくさんあるはずだ。

ここで閉塞感を打破し、若者も投票に向かうような魅力的で現実的な構想を提示できる真の政治家が誕生できるかどうかが、日本には問われているのだろう。

いずれにしても、今回の経済危機が自然体で出口に向かうのは難しく、政治的な決断が最終的に必要になる。次世代に対する持続性への政治的チェンジが問われ、そこにパラダイムシフトが起こらねばならない。

 

●やがてつじつまが合わなくなるバランスシート

その一環として考えるべき問題として、今般、日本政府が二回の補正予算で100兆円も増発することになった国債の問題がある。国債発行額が増えても、日銀の無制限の国債購入方針で、増発された分の国債は日銀が購入することで日銀のバランスシートの中に閉じ込められ、市場への影響は中立化されることになろう。

ただ、将来、これが経済を破綻へと導くことを論じる人はあまりいないようだ。

「松田プラン」(MMP)で説明しているように、政府と日銀のバランスシートを連結させた「統合政府」でみれば、日銀保有国債(2020年3月末で残高は486兆円)は、政府と日銀との間の債権債務として相殺され、負債としては「日銀当座預金」(同395兆円)という民間に対する返済義務のない債務に転換されている。民間に対して返済が必要な債務という意味では、国債発行残高の半分が消えていることになる。

この状態は、日銀保有国債が満期を迎える度に、その償還のために市中で借換債が発行されることで元に戻っていくため、日銀保有国債及びそれに見合う日銀当座預金を「財源」としてデジタル円の発行を想定するMMPでは、満期を迎えた日銀保有国債を、永久国債に乗り換え、日銀がその保有を続けることが想定されている。

ただ、今回の100兆円もの国債増発や、2%のインフレ目標達成までは日銀による国債購入が続くことを考えれば、日銀のバランスシートは国債と日銀当座預金の両建てで膨らみ続けることになるので、永久国債のことまで考える必要は、当面はないかもしれない。

問題は、国債購入で肥大化する日銀のバランスシートは、日銀当座預金という、銀行に対する莫大な無利子負債の存在を意味することにある。これは銀行からみれば、超低金利資産が莫大に積みあがっている状態だ。日本がめざしているインフレ率2%目標が達成されたとき、確実に起こるのが金利の上昇である。このとき、日銀当座預金の金利をどうするのかが重大問題になる。

上図にインフレ率と名目経済成長率と名目金利との関係を記したが、インフレ目標2%の達成とは、すなわち、公債等/GDP比率が自動的に低下していくという、異次元の金融緩和がもたらしている現在の異常な状態が終了することを意味する。財政のプライマリーバランス(基礎的財政収支)が相当程度の黒字になるまで財政再建が進んでいなければ、経済の正常化によって起こる、名目長期金利が名目経済成長率を上回る事態によって、公債等/GDP比率が再び、上昇していくことになる。

現在の異常な低金利が永続化するが如き「正常性バイアス」に陥って、この点を見誤っているのがMMT(現代貨幣理論)といえよう。

いずれにしても、経済正常化によって市中金利が上昇すれば、預金金利も上がらないわけにはいかないと考えるのが普通であろう。そうならなければ、日本経済の正常化は広く、なにがしかの預金者の犠牲の上に成り立つ姿になってしまう。

そのときには何が起こるであろうか。

現状では、銀行からみれば、実質無利子の日銀当座預金を多額に資産として抱えていても、普通預金金利は0.001%に過ぎない。しかし、例えばインフレ率が2%で名目経済成長率が3%で長期金利が4%ぐらいになれば、普通預金金利が1%程度まで上昇することが考えられなくもない。そうなれば、銀行にとって、実質無利子の日銀当座預金を巨額に抱えている状態は逆ザヤ状態となり、バランスシートのつじつまが合わなくなる。

もちろん、銀行としては、金利の高い運用を増やし、普通預金から、より金利の高い定期預金へと、預金のシフトを預金者に対して促すことができれば、ある程度は解決できる問題かもしれない。しかし、全体として何百兆円もの資産が日銀当座預金に張り付いたままでは、それが重石となって銀行経営を圧迫し、それが銀行の融資対応力を低下させる懸念なしとしない。それは明らかに景気の足を引っ張る。

そこで、日銀当座預金を減らそうとしても、現状でそれが可能な唯一の方法は国債の売却だ。もちろん、異次元の量的緩和の出口において日銀が保有国債を売却することは想定の範囲内にはなるが、金利の急激な上昇をもたらすリスクがあるため、かなり慎重な対応を要する選択肢であり、そこにも限界がある。

では、日銀当座預金に付利をする(金利をつけて引き上げる)という選択肢はどうか。今度は、日銀のバランスシートにおいて、過去に超低金利局面(国債はほとんどゼロ金利状態)で購入した巨額の国債を抱える日銀資産との間で、金利のつじつまが合わなくなる。

 

●危機回避のためにどうしても必要になるのが「松田プラン」(MMP)

つまり、日本がめざしているインフレ率2%目標が達成されて経済が正常化した時点から、保有資産の大半が超低利の国債の日銀か、資産の多くが日銀当座預金である市中銀行か、いずれかでバランスシートのつじつまが合わなくなり、破綻が起こるリスクが高まっているのである。

また、日銀がこれから大量に購入する国債も、いずれ満期が来て大量の借換債が発行されることになる。そのときに経済が正常化していれば、急激な金利上昇が起こって、かつての欧州債務危機を上回る経済破綻が生じかねない。その時点でも依然として現在のような異常な国債大量購入と超低金利が続いていたとすれば、それはそれで大問題である。

いつまでもインフレ目標が達成されないという超悲観的な想定をすれば、破綻は起きないかもしれないが、そもそも現状の異次元緩和は永続できるものではない。いずれ確実に訪れるのがバブルであり、バブルは必ず崩壊する。日本経済はそれによって失われた何十年…を経験した。

 出口を描かない政策は必ず行き詰まるし、出口が見えないままでは、現時点の危機においても大胆な財政政策は制約を受けてしまう。日本経済がインフレ率目標の悲願を達成したときに破綻が起こるようでは、出口が描かれているとはいえない。

こうした様々な二律背反をアウフヘーベンできるのは、日銀保有国債を市中からの需要に応じて便利な政府発行「デジタル円」に変換、流通させて、肥大化したバランスシートを自然に縮小させる「松田プラン」しかないのである。

国債がデジタル円という法定通貨に姿を変えることで、日銀のバランスシートは国債と日銀当座預金という資産負債の両建てで縮小するが、これ自体は通貨の総量を増やすものではないため、インフレ高進の懸念はない。通貨の総量は、インフレ目標達成まで日銀が購入し続ける国債の発行(=政府の財政支出)によって増えるのであり、それを決めるのは日銀の金融政策である。デジタル円は、通貨の総量の中で、ユーザーが銀行窓口で預金通貨や現金をデジタル円と両替することによって新規に発行される。通貨の構成が変わるだけで、通貨の総量を変えるのはあくまで国債発行と金融政策である。

この点では「松田プラン」(MMP)はMMTと考え方が共通しているが、異なるのは、MMPのもとでは国債がデジタル円へと姿を変えて消滅することにより、前述の金利の問題が解決されることである。MMP(Matsuda Manabu Plan)という紛らわしい名称がついたのも、これがMMTの欠陥を補い、それを超える理論という意味があるからだ。

 

●日銀発行のCBDCではなく、政府発行のデジタル円を

上記のようなMMPの効果が成り立つためには、デジタル円が中央銀行発行ではなく、政府発行である必要がある。日銀が発行する日銀コインなるCBDCであっては、それは日銀の負債であり、それをいくら発行しても日銀のバランスシートを膨らませるだけのことになる。国債のように日銀の資産に計上されるものでなければ、財政にとっても経済政策にとっても、また、日銀の出口戦略にとっても、全く意味がないことになる。

また、政府発行であれば、「デジタル円」はマイナンバーで管理されている個人のビッグデータや政府の様々な行政サービスと、ブロックチェーン特有のスマートコントラクトで結びつくことにより、これまでにない利便性の高い通貨をあえて生み出す意味があることになる。これは日銀発行ではできないことだ。

中国の「デジタル人民元」やフェイスブックの「リブラ」の動きで、各国の中央銀行がデジタル通貨(CBDC:中央銀行デジタル通貨)の検討を本格化させ、日銀も研究を重ねているようだ。日銀の研究会に参加している私の知人の学者の話によれば、日銀は、日銀当座預金、すなわち銀行間の決済通貨だけでなく、市中での法定通貨としてもCBDCのあり方を検討しているそうである。

まだ発行計画はないようだが、もし、本当にCBDC(日銀コイン)の発行という事態になってしまうと、日本は貴重なチャンスを失ってしまう。

日本は中央銀行のバランスシートの対GDP比が世界で最も高い水準の国である。これは異次元の金融緩和を推進するアベノミクスの成果であり、日本は他国に先駆けて、中央銀行ではない政府発行による、デジタル時代にふさわしい便利なデジタル法定通貨を発行すべき位置にある。

加えて、私たち世代が消費税増税を先送りすることで、先進国最悪の財政状態をもたらし、赤字国債という次世代への巨大な負の遺産を残してしまったことへの贖罪という意味でも、この際、財政や通貨の仕組みを思い切って再構築し、国債をマネーに転換させて将来の税負担を大きく減らすMMPを採ることには、十分な大義名分があるといえよう。

このチャンスを決して逃さないよう、アフターコロナの新しい世の中も見据えながら、ぜひとも、MMPの採用を実現したいものである。

 

 本稿のご参考まで、松田学が語る動画2本と、この「松田プラン」シリーズのバックナンバー記事を、以下、掲載する。

 

【松田学】具体的な出口戦略を、アフターコロナのMMP(チャンネル桜「ビデオレター 20年7月7日配信)

 

●【松田学のニュースを斬る!】「コロナ禍による世界経済の損失」(松田政策研究所 20年7月12日配信)

 

●【政府暗号通貨「松田プラン」シリーズ…バックナンバー】

第6回 そもそも国債とは何なのか…赤字国債を退治するMMPの意味

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12608953969.html

 

第5回 「マイナンバーが諸外国並みになれば、こんなに便利な世の中に」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12607168836.html

 

第4回 「マイナンバーと結びつくデジタル円で経済対策も大きく変わる」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12600751401.html

 

第3回 「デジタル円はなぜ政府発行でなければならないのか」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12587220244.html

 

第2回 「国の借金をお金に変える政府暗号通貨「松田プラン」の概要」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12583865760.html

 

第1回 「日銀保有国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12580608352.html